箱男事件 ①
にゃはー。
皆さん知っていますか?
おうどんを茹でて、水でしめた後に絹ごし豆腐を丸ごと1個乗せて、その上に揚げ玉、鰹節、小口切りにした長ネギ、を乗せて。
麺つゆを掛けた後、それを程よく混ぜて食べるとクッソ美味しい(そう)です。
勿論、私は食べれませんがーー、凪さんには好評でした。
ーーああ、あと七味も掛けると良いらしです。
さて、本編ですがーー。
ああ、此処までの下りは、これからの本編にまったく関係無いです。
ただ、最近私が開発した新メニューの紹介です。
あまりに好評だったので、載せました。
ただの自慢ですが、ーーなにか?
今回は、正統派の依頼?
いや、ただ依頼主が女子中学生の美少女なだけなんですが……。
まあ一応、ロリコン探偵とーー、なんでえーー。
ところで、皆さんは箱男という都市伝説を知っていますか?
それは、こんなお話ーー。
ある日、突然
見知らぬ男が、家に訪ねて来ます。
男はお祝いだと、箱を1つ持ってきます。
なんのお祝いかも分かりません。
で、
その箱を貰ってしまうと……。
貰った箱を開けると箱の中身は何も無く、
目を離すと箱もいつの間にか消えています。
そして、そんな事があったのも忘れた頃に、忽然とその家の子供が消えてしまいます。
男や箱との関連性は分かりませんが、こういう一連の出来事が起きた後に、必ず子供が消えてしまうそうです。
ちなみに、消えるのは7歳以下の子供だけとかーー。
そう言う話です。
箱、子供というキーワードから、有名な都市伝説コトリ箱から派生した話なのでは? と一部では言われています。ーーが、その詳細は定かではありません。
という事でーー、
今回は、箱男から箱を受け取ってしまった美少女の話です。
「どーせ、変態愉快犯の類だろう。ネットの都市伝説を模倣して、女の子が怯えるのを楽しんでるんだよ。きっと、女児のパンツを盗んで、クンカクンカ嗅いでるようなキモ豚野郎だろう。はははっーー」
愛車510ブルーバードのハンドを握りながら、 凪さんがヘラヘラと言う。
後半は、お前の深層心理下にある欲望なんじゃねぇーのかッ!?
と、顔に出さずに、私は心の中で一喝する。
ちゃんと怒った方が良いのだろうけど、どーせ聞かないので放置します。
こうやって人は、人から見捨てられて孤立して行くんでしょうね。
しかも、まだ何も分かってないのに変な先入観を持つのは良くないdeathっ!
私達が今向かっているのは、T県T市の新興住宅街。
そこに依頼人は住んでいた。
似たような南欧風の作りの家が、同じくらいの広さの土地の中に並ぶ。
「みんな同じような家ですね?」
「建売なんだろ。住宅販売業者が、土地を安く仕入れて、同じ建築業者に同じタイプの家を大量注文する。だから、販売価格が安くなる」
「そうなんですか」
ベージュや白の温かみのある色の壁に、暖色系の瓦、パッと見は日本じゃないようだ。
リゾート地のようにも見える。
歓楽街のような華やかさは街に無いが、新しく作られた街独特のくすみの無い明るさや清潔感を感じる。
ーーが、言い方を変えれば、長年人が住まれる事で培われる人の温かみのようなものはあまり感じ無い。
まあ、そういうモノは、これから培われて行くのだろうけど。
でもこんな、街でオカルト怪異なんて起きそうもないですね。
先入観は良くないけど、やはり凪さんの言うように、変態愉快犯のキモ豚野郎の仕業なんでしょうかーー。
「凪さん此処ですよ」
私達が探していた住所の家に着いた。
此処が依頼人、戸川緋奈ちゃんの家だ。
他の家のように南欧風の真新しい家だ。
早速、車を停めて家のチャイムを押す。
ーーと、すぐにドアを開けて出迎えてくれたのが緋奈ちゃんだった。
事前にメールで到着時間を伝えたから待っていてくれたのだろう。
髪の長い、私程ではですがーー、美少女です。
直ぐにリビングに通されて、説明を受けた。
箱を受け取ったのは、緋奈ちゃん自身で、箱男の都市伝説を知ったのは後になって友達かららしい。
箱男に箱を届けられ、消えるのは7歳以下の子共だが、緋奈ちゃんは12歳。
ーーなのだが、先週弟が生まれて、来週には母子ともに来週には帰って来るそうだ。
それで、緋奈ちゃんは心配になり依頼して来たらしい。
多分、親は依頼に了承していないし、イジメや何か犯罪絡みかの立証も難しい。
このパターンだと、タダ働きになりそうです。
もし変質者の仕業なら、まだ一縷の望みはあるか……。
捕まえた変質者をゆするれば……。ああ、いけない。凪さんの所為で当たり前にクズな事を考えてしまう。私は心の中で首を横に振る。
でもきっと、凪さんは無償でも引き受けるだろうな。
ただの正義感なら良いけど、動機が不純なんですよね。
これが大人や男の子なら、引き受けないクズだし。
「ーー私の所為で、弟が消えちゃったらどうしよう……。」
と今にも泣き出しそうに言う緋奈ちゃん
うーん。まあ、仕方が無いか。
「具体的な、その時の状況を教えてください」
ーー私達は緋奈ちゃんに付いて玄関に向かう。
「此処で箱を受け取りました。顔は覚えてないけど、おじいちゃんだったような……。しっかり顔を見た筈なのに、口から上は思い出せなくて。口は笑っていました」
「箱はどんなだったんですか?」
「綺麗な箱だった。大きくて黒くて、キラキラした飾りが付いてた」
「宝箱みたいな?」
「ううん。違う、キラキラする絵みたいなのが付いていた」
うーん。どんなでしょう……?
「で、いつ消えたんですか?」
「パパが帰って来時には無かった。此処に置いておいたんだけど」
緋奈ちゃんは玄関の隅を指差す。
そして、続ける。
「綺麗な箱だったけど、中身が無かったから、箱がプレゼントなのかと思った。なんか、昔話に出てきそうな箱?です」
昔話か……。
さっぱり分からないな。
「何か被害はあったのか?」
凪さんが訊く。
「まだ無いです」
箱を貰ったのが先週の水曜日だから、今日でちょうど1週間かーー。
「どこか、置いた場所を間違えて覚えてるとかは?」
凪さんが訊く。
「それはないです。もしも間違えてても、こんな大きな箱だからーー」
緋奈ちゃんは両手で抱えるように箱の大きさを示す。両手で作った輪の先が切れている。つまり抱え切れていないという事だ。それからも、かなり大きいのが分かる。
置き場を間違えてて記憶しても、どこに置こうが直ぐに目立ちそうだ。
難しいな。
何も起きていないし、これだけで現実と照らし合せて考えたら、導き出される答えは緋奈ちゃんの嘘という事にされるだろう。
勿論、私は信じているし、凪さんが疑いを抱いてさえいないというか、多分嘘でもあいてが少女(で、なおかつ美少女なら)本当でも嘘でもどうでも良い。
チャリィィーン……!?
その時、玄関に付けられたベルが鳴りドアが開く。
「あんた達は誰だっ!? 何してるんだ?」
入って来るなり、スーパーの袋を両手に持った男の人がそう言った。
感じからして、緋奈ちゃんの父親であろう。
「パパ! 違うの私が頼んだの。探偵さんだよ。ーー箱男に付いて調べて貰おうと思って」
やはり緋奈ちゃんの父親だ。
「なんだ。ーーまた箱男とかって都市伝説の話か。夢でも見てたんだろう?」
と緋奈ちゃんのお父さんは言ってから、私達に向かい
「あんた達も、子供の話を間に受けたのか? 誰がその費用を払うんだ? 俺は払わないぞ! そもそも、箱男ってーー。少し考えなくとも子供の嘘だって分かるだろう!」
緋奈ちゃんのお父さんは呆れたように言う。
「そんな、頭ごなしに緋奈ちゃんを否定しなくともいいでしょう! 相談は無料だし。費用だって、勿論頂けるなら頂きますが、場合によっちゃあ頂きませんよ!! 」
「無料でやるのか? なんでだ? それこそ、怪しいだろ! シロアリ駆除、耐震検査、そんなのを無料でやりますって、怪しい業者が良く来るよ。無料で調べて適当な事を良い。施工で大金をふんだくる、そういう類だろうあんたらも」
私達は言い返せなかった。
凪さんがロリコンだからなんて、口が裂けても言えない。
一歩間違えば、このまま警察を呼ばれてしまう……。
「いや、でもこれは都市伝説を装った変質者の仕業って可能性もある!」
良し、凪さん上手く話をすり替えた。
ーーが、
「それなら、警察に頼む!! 」
ごもっともで……。
「緋奈、頼むから今面倒を起こさないでくれよ。来週にはママが弟を連れて帰って来る。分かってるだろ? ママあまり今調子が良く無い事。俺も育児休暇を貰って、こうやって今は、不慣れな家事もやってるんだ。まさか、お前は弟が出来たのが嫌なのか? 」
「ーーそんな事ないっ! 違うよっ!!」
緋奈ちゃんは首を強く横に振る。
このままでは、どんどん緋奈ちゃんの立場が悪くなってしまう。
……仕方ない。
私達は緋奈ちゃんに謝り、戸川宅を後にせざる得なかった。
……だが、翌日。
緋奈ちゃんのお父さんから連絡があった。
非礼を詫び、正式に依頼したいから、出来れば直ぐにでも来て欲しいというので、もう一度緋奈ちゃんの家に向かった。
「昨日は、すいませんでした。……ところで」
「はい?」
と凪さん。
何やら、緋奈ちゃんのお父さんの様子がおかしい。
緋緋奈ちゃんのお父さんは続ける。
「幽霊とかは大丈夫でしょうか? 探偵業とは掛け離れますよね?」
「……え゛」
と、青ざめる凪さん。
言うまでも無く凪さんは幽霊が苦手です。
が、
「……お化けはダメですか?」
という緋奈ちゃんの泣きそうな顔を前に
「ええ、勿論依頼は何でも受けます!」
と即了承。
ロリコンは苦手を克服させます。
死ねばいいのに。
ーーなるほど。とにかく、あの後何やらあったらしい。
それは、警察には相談出来ない類のものなのだろう。
だから、私達は再び呼ばれたのか。
それは、2人の言葉と態度が示すように霊障の類……。
なんだか、面白くなって来たじゃあないか。ふふふ。
私は顔に出さず、心でほくそ笑むのだった。
私達はリビングに通されて、正式に依頼を受け、詳しい話を緋奈ちゃんのお父さんから訊く。
緋奈ちゃんのお父さんの名前は、戸川春之37歳。
WEB関係の会社の社員をしているが、今は育児休暇を貰い、緋奈ちゃんを面倒見ながら家事をしている。奥さんの産後の肥立ちが悪く、退院が1週間伸びたそうだ。
それで少しピリピリしていたのだろう。
「失礼ですが、戸川さんやご家族が恨まれるような事は?」
私は本題に入る前に、形式的な質問する。
「え?」
「愉快犯も考えられるが、経験上、それよりは怨恨の可能性の方が高い」
凪さんが補足する様に言い、また私が続ける。
「もし、誰かの悪戯だった場合ーー」
「……それはない」
「心当たりはないと? でも、良く思い出して下さーー」
と、途中まで言い掛けた私の言葉を遮るように春之さんが
「ーー違うっ!」
と、取り乱して言った。
私の言葉に怒ったというより、まるで何かに怯えているようだ……。
「何が、違うんですか?」
「あれは、人間の仕業じゃないです! もし、人間だとしても……。今日、泊まっていけますか? 口で説明するより早い」
やはり、何か恐ろしい事が起きたようだ。
結局、その夜一晩、戸川さんの家にお泊りする事になりました。
「お夕飯は?」
春之さんが訊く。
「結構です。私達はその辺で食べて来ます。直ぐ帰りますが、何かあればご連絡らく下さい」
今は特に何も無さそうなので、一旦戸川家を出る。
別に食べなくとも良いが(どーせ私はブラックサンダーだけだし)、変に気を遣わせるのは悪いので、夕食が終わるまでの間暫く時間を開ける。
私達は適当にフェミレスに入った。
ラーメン屋とかも在ったが、私が飲み物しか注文出来ないので、少し探してファミレスに入った。
目玉焼きハンバーグのセットとラザニアとーー、凪さんは子供みたいなメニューを数点注文した。良く食べる。私はドリンクバー、一点買いで!
「何が起きるんですかね?」
私はジンジャーエールを飲みながら訊く。
「さあ、分からんが、よっぽどの事が起きたんだろ。あの父親が自分から依頼してくるだからな」
凪さんは目玉焼きハンバーグを頬張りながら言った。
幽霊は怖くないんだろうか?
「幽霊だったら、どうするんですか?」
私は訊いてみた。
「ああ。その時は、俺の部下って事にして、銀太に回せば良いよ。無料だし、あいつも良い記事になるだろうしWINWINだ。幽霊相手じゃ、さすがの俺もどうしようも無いよ」
ーーTHE 他力本願!!
まあでも、それが良さそうです。緋奈ちゃんの為にも。
もし人間の仕業なら、私達で解決すれば良い。
頃合いを見ながら、再び戸川邸に帰る。
玄関の前まで来るとーー
「ん?」
誰かが、家の中を覗いている。
暗くて顔は良く分からないが、私達の車に気付くと、その場から逃げるように私達の車と反対方向に駆け出した。
「おい待てっ!」
と、すぐに車から降りた凪さんが追うがーー
その人物は、家のすぐ前の角を曲がり、
そして、停めてあったのであろう、バイクに跨りまた同じ角から出て来て、走り去って行った。ヘルメットを被っているので顔は見えない。
「 何かあったんですか? 今、草薙さんの声がしましたがーー」
と春之さんが家から出て来て訊いた。
「いや、家の中を覗いてた奴が居たんです。追ったんですが、相手がバイクに乗ったものでーー」
「えっ!ーー家の中をっ!?」
「どうしたのパパ?」
緋奈ちゃんも出て来て、春之さんに訊いた。
「緋奈は危ないから、中に入ってなさい!」
「……でもぉ」
「……何なんだ急に! 今まで平和に暮らして来たのに……」
春之さんの言葉には、平穏な日常を乱された事への悔しさと怒りがにじむ。
当然、その言葉は緋奈ちゃんに向けられた訳ではないが、自分が箱を受け取った所為だと思っているのだろう。緋奈ちゃんの顔が曇る。
「まあでも、今回の件と関係あるかは分かりません。まだ19:00回った所ですし、何かのくだらない訪問販売って事もあり得る。とにかく、中へ入りましょう」
凪さんは言った。
私達は居間で何かが起きるのを待った。
特に春之さんは言わなかったけど、何かが起きたのは間違い無さそうだ。
私達の正面に座る春之さんは、様子がおかしい。
口数が少なくなった。何かを思い詰めているようだが、違う。僅かに春之さんの指先が震えている。
明らかに何かに怯えている。
その怯えて方は、徐々に目に見える形になって現れてきている。
「何があったんだですか? 昨夜」
凪さんが訊いた。
「……えっ?」
「素性の良くわからない俺達に、縋らなきゃならない様な事が、あったんでしょう?」
「それは……」と春之さんは考えてから
「正直、口に出したくも無い。もし、何かの勘違いで、あなた達に無駄な料金を払う事になっても、そうあって欲しい。何事も無く、このまま終わってくれた方がーー。そう思うくらいの頭のおかしくなるような事です。現実とは思えない。……ただ、緋奈も体験している」
何なんだろう。口に出したくも無いような事とはーー。
普通は、信じられない事を体験した時は、その事実を立証したいと思うものだけど、むしろその逆ーー。自分でも信じたく無いような事。
よほど怖い目にあったのだろう。
確か、春之さんは幽霊がどうにとかと言っていた……。
「とは言え、調査して貰うのに、言わない訳にもいかないですね。……声が、声が聞こえたんです」
春之さんは言う。
「……声?」
と凪さんが聞き返した時ーー。
「……パパ」
お風呂に入っていた緋奈ちゃんが出て来たのだ。
居間の入り口に、緋奈ちゃんがパジャマで立っている。
「ああ、緋奈出たのか」
と春之さんは緋奈ちゃんに言ってから、
私達に
「悪いけど、私達はもう寝ます。何も起きない事を祈ってます」
と言って立ち上がり、緋奈ちゃんと手を繋ぐと2階に上がって行った。
「……ヤ、ヤッちん!まさか、あの2人一緒に寝る気じゃっ!!」
凪さんは、目を剥き言う。
「別に良いじゃないですから、親子なんですから。昨日、なんかあったからでしょう」
この男は、バカなのか?
ーーいや、ロリコンか。……はあ。
「なら、パパより! 最強鬼強の俺が添い寝した方が、いいんでないかなぁ!! パジャマで、おっじゃっまぁー♪ つって!」
「そんな事をしたら、何か起きる前に、凪さんが警察に突き出されますよ」
「え? じゃっ、じゃあ、つまりだねぇ。ヤッちんが今日は代わりに、俺と此処で添い寝してくれるという事かいっ!? ハアハア……」
「はあ?」
意味が分からない。
何を鼻息を荒くして言っているんだろう。死ねば良いのに
「凪さん」
「なんだい?」
「いえ、死ねばいいのにと思って。すぐ死んで下さい」
夜も深まりウトウトし掛けた時……。
何やら異臭が鼻を突く。
……この臭いは、
「ヤっちん。オナラした?」
してねえよっ!
私はキッ! と凪さんを睨む。
「冗談だって。ーーこの臭いってよぉ……」
凪さんも、私と同じ事を感じたようだ。
そうだ、この臭いはーー
「死臭ですね」
これは、腐敗した屍肉の臭いだ。
「でも、どこから臭うのでしょうか?」
出所を突き止めようとするが、分からない。これだけ強い臭いを放っているんだ。分からない筈が無いのに。
それにしても酷い、並みの人間なら戻しそうだ。いくら生肉の臭いには慣れている私でも、腐った物はキツイ。
「オエー!!」
「……。」
横で凪さんがゲロ吐きやがった。最悪だ……。
どうしよう。明日、春之さんに怒られる。弁償させられるかも知れない……。
私が苦悩していると、今度はどこからか……。
……オ…ギャア………
…オギャ……オギャア……
…オ……ャア…
「……赤ちゃんの泣き声?」
………オギャア、オギャア
オギャア、オギャア、オギャア
声は、段々と大きなり、増えていくーー!!?
1人じゃない! 沢山の赤ん坊の声だ!!
オギャア、オギャア、オギャア、オギャア
オギャア、オギャアオギャアオギャアオギャアオギャアーー
声はどんどん増える。
オギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャアオギャア
泣き声が共鳴し、部屋が震えている。
「……なんだこりゃ? どっから、声がしやがるっ!!」
どこからって、部屋中からとしか……。
ーーんっ!!?
「ーー凪さんっ!? 壁ッ!!?」
私は思わず叫んだ。
ウネウネともがく様に、肉を喰い破る蛆虫の如く、
壁から何かが這い出て来る。
それは、この声の主だった。
……そして、この臭いの正体でもあった。
部屋の壁という壁から、オギャアオギャアと腐乱した赤ん坊が次々と這い出て来る。
「なんだ、ヤッちん。こいつらッ!?」
「分からないですけど、ゆ……」
と、言い掛けて、私は言葉を飲み込む。
幽霊だと、また凪さんが怯えると面倒臭い。
「痛ってえーッ!!」
凪さんが叫ぶ。
そして、続ける。
「こいつら、噛み付いて来やがるッ!! つか、肉を喰い千切られたぜっ!! ヤッちんは、上の2人を連れて逃げろ!」
「凪さんは、どうするんですかっ?」
「えっ!? ちょっと、今忙しい!」
凪さんは赤ん坊達に群がられている。
「纏わりつくな! キモイんだよっ!! えいッ!」
ーーグシャッ!!
凪さんは踏み潰すと、赤ん坊が潰れた。
「あっ、こいつら、倒せるぜ!」
凪さんは、ゴキブリでも退治する様に
群がる赤ん坊を掴んでは、床に叩き付け、踏み潰す。
バンッ! グシャッ!
バンッ!グシャッ!
その光景はまさに地獄絵図であるがーー
どういう事だろう?
幽霊なら、物理的な攻撃は効かないんじゃないのか?
……分からない。
分からないけど、とにかく緋奈ちゃん達の無事を確認しに行かなきゃ?
「凪さん、此処は任せました!」
私は凪さんに赤ん坊達の相手は任せて、2階に向かう。
2階に上がると直ぐに、
きゃああああーーーーーーーーっ!!!??
という、緋奈ちゃんの悲鳴が聞こえる。
1番奥の部屋だ。
その部屋のドアを開け、電気を点ける。
可愛いピンクの壁紙に、ベットと机、此処は緋奈ちゃんの部屋のようだ。
部屋の隅に、緋奈ちゃんを抱き、うずくまる春之さんを発見する。
その周りには、リビングと同じように腐乱した赤ん坊達が囲む。
さすがに、腐乱しているとはいえ、凪さんみたいに赤ちゃんを踏み潰すのは気が引けるので
「えいッ!」
と、蹴っ飛ばし
「ーーオギャッ!!」
(大きな芋虫蹴ったみたいに、グニャっとした。うっ、気持ち悪い!?)
2人に歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「はっ、はい!」
「 逃げましょう」
赤ん坊蹴っ飛ばしながら、2人を部屋の外へ連れ出す。
そのまま階段を降りて、リビングを覗くと
凪さんは、赤ん坊まみれになっている。
あの後も、ずっと壁から赤ん坊達は湧いて出て来ているようだ。
まだ戦っている凪さんに
「凪さん、2人は助け出したので、一旦逃げましょう。次から次に湧いて来て、らちがあきません」
「お、おうっ!」
そう言うと、リビングから駆け出て来た凪さんは
「とりゃっ! 」と、私達3人を担ぎ上げて、玄関を飛び出した。
私達は、一先ず凪さんの事務所に2人を連れて戻った。
原因が究明解決されるまでは、あの家に2人を置いておく訳には行かない。
「昨晩もあんなでしたか? よく無事でーー」
まだ青い顔をして放心状態の春之さんに凪さんが訊く。
「いえ、昨晩は泣き声だけでした。しかも、もっと声も少なく小さかったです。夢か現実か分からないくらい……。でも、今日はーー」
「……なるほど。さらにこれから、酷くなる可能性もあるか。今夜は事務所で寝て、少し掃除をしなきゃ行けないけど、他の階で空いてる部屋があるから暫くそこで暮らしてください。トイレもキッチンも一応あるのでーー」
春之さんには事務所のソファーで布団を掛けて寝て貰い、緋奈ちゃんは私と寝た。
緋奈ちゃんは余程精神的に疲れたのか、私の横で良く眠っている。
それにしても、アレは何なんだ?
ーーあの赤ん坊達。
幽霊? に、しても数が尋常ではない。まるで無限に増殖していく様だった。
それはつまり、それだけ大量の赤ん坊の霊が居るという事になるから、それだけ沢山の赤ん坊がまとまって死んでいるという事か?
やはり緋奈ちゃんが受け取った箱が原因なのか?
だとすると、箱男とは何者なんだろう?
そして、なぜ緋奈ちゃんに箱を渡したのだろう?
今のところ、謎しかないな。
……ふあぁ
と、あくびが出る。
いま何時だろう? だいぶ遅いな。
私も今日は疲れたので、あとは明日考えよう。




