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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
ロリコン探偵と恋する人魚姫  【凪編】
2/56

だから、美味しいすき焼きを作らねばならんのです。

今日の夕飯は、この前作り損ねたすき焼きである。

今から、材料を買いに近所のスーパーに向かう。

誰かの為に料理をまた作る日が来ようとは、思いもしなかった。

最近、前向きに生きれるようになってから、不思議と昔を思い出すようになった。


不死の私は死を求めて彷徨っていた。人を喰らうのを止めた。でも、死ぬことは無く今まで得た能力を少しずつ失っただけだった。そして、いつしか不老不死以外の特別な力は無くなった。

そうなってからも放浪を続けた。


凪さんは私の食事を心配しているけど、実は1年に1人しか喰らわなくても本当は問題無い。人間の時間を生きてい無い私は、人間の食サイクルとはまるで違うのだ。それを凪さんには言ってない。人を喰らうことで凪さんの役に立てるなら、いくらでも喰らう。きっと、凪さんがこの事を知れば、人喰いなど私が必要な時以外やらせなくなるだろう。

だが逆に毎日喰らっても問題無い。昨日に丸々1人人を喰らっても、不思議と次の日にはまた丸々1人人を喰らえる。もしかしたら私のお腹は地獄に通じているのでは無いか? と思う事さえある。その所為で、凪さんに私が生きるのに大量の人肉を必要だと思われている。


人の食べ物はほとんど食べれない。食べても吐いてしまう。飲み物はまあ大体飲むには飲める。実は人間は美味しく無い。もし人の食べ物を食べる事が出来たら、多少は長生きしてても楽しかったかもしれない。私が今口に出来る人の食べ物は、ブラックサンダーというチョコバーだけだ。とは言え日に1本くらいだが。それ以上食べればやはり戻してしまう。


生まれて100年程度は、人など喰らいたいなどという欲求は無かった。ある時から、突然食人の欲求が芽生え、それと共に食生活ががらりと変わった。もしかすると、凪さんもいずれ食人願望が出て来るのかも知れない。


人間の話す私の話(八百比丘尼の話)と、本当の私の話はちょっと違う。

私は人魚など食べていない。浜辺に打ち上げられた赤ん坊を、ある漁師夫婦が育てた。その赤ん坊が私だった。私は遠い海から来たのだ。詳しい記憶は無いし、足が尾ひれだった記憶も無い。まあ、赤ん坊だった記憶が有るのもおかしいから、自分でそう思い込んでいるだけかもしれない。でも人魚の肉を食べた記憶はない。

なぜ、人魚の肉を食べたなんて話になったのかと言うと、それは血に治癒作用があり、15の時から歳も取らない私から世間の目をそらす為に、人間の養父がついた嘘からだった。人々は、私が人魚を食べて不老不死になったと思い、幻の人魚を追い求めた。


だが、中には私の秘密に気付く人間も居た。

この時代にも当然居た。そんな奴らに私は捕まった。

まあ別にもう死んでも良かったし、煮ようが焼こうがどうにでもしてくれという感じだった。


そんな私を損得感情無しに助けに来たのが、凪さんだった。

たまたま出会い、つかの間他愛も無い話をしただけだったのにーー。


そして、私を護る為に死に掛けた凪さんに私は自分の血を与えた。

その所為で、凪さんはもう少しで叶えられそうだった美少女を助けて討ち死にという夢を叶えられなくなり、これからも多分永遠に近い時間叶えられる事はなくなった。

悪い事をしたかな?


ちなみに私の血を飲んだだけでは、不死身の力は得られない。


「今日は、デカイボディガード付きじゃないの?」

商店街の八百屋のおじさんが笑って語りかけて来た。

スーパーまで行くには、この商店街を通り抜けなくてはいけない。

「凪さんの事ですか?」

「凪さんての? あのお兄さん」

「はい、凪さんは今取り込み中でして」

「仕事? 儲かってんの? 今日、夕飯何?」

「すき焼きです」

「じゃあ、野菜はうちで買っててっよ。スーパーなんかよりずっと新鮮だしオマケするよ!」

という事で、野菜は八百屋さんで買ってしまった。

こちらで、頼まなくてもすき焼きならと、必要な野菜を入れてくれた。オマケもしてくれたし、値段も負けてくれた。確かに、スーパーよりずっといい。

「いや、いつもデッカイお兄さん一緒だから、話しかけ辛くて。お嬢ちゃんみたいな可愛い子ならおじさんいくらでもオマケしちゃうから、また来てね」

「はい。ありがとうございます」

確かに、凪さんは私といる時、私に対しては変わらないが、周りに対しては少しピリピリしているかも知れない。


他の物も商店街で買ってしまった。皆口を揃えて、今日は凪さんと一緒じゃないのか? と訊く。そうじゃないと言うと、急に親しげに話し掛けてくれる。

凪さんといると、人に避けられるんだなと思う反面。

私に気付かないように、周りから凪さんが守っていてくれている事に気付く。

最近はこうやって1人で買い物にも行かせてくれる様になったが、一時は本当に常に一緒だった。

別に死ぬ事の無い私には危険などないのにと、少し笑みが漏れる。


事務所に帰ると凪さんはまだ取り込み中だった。

「ヤッちん見なよ。このSWCの輝き。biogon38mmF4.5、まさに名玉だよ」

凪さんは最近手に入れたハッセルブラッドSWCというクラシックカメラにぞっこんだ。

少し妬ける程である。

「ほら、ヤッちんも撮ってやるよ」

凪さんは私にカメラを向ける。

「やめてください。魂を抜かれるじゃないですか」

「魂って、君は何時の時代の人なんだよ」

「奈良時代ぐらいから、現代ですが」

「そうだね。ヤッちんは見た目は子供、中身は1300歳、その名は八百比丘尼だもんね」

「八百比丘尼は名前では無いです。800年生きた尼という意味です」

「なら今は1300比丘尼だね。ヤッちん本名は?」

「覚えてません。忘れちゃいました」

「そうなんだ。ねえ?」

「なんでしょうか?」

「例えば、俺とヤッちんがHしたとする」

「えっ! なんですか、突然!!?」

「いや、真面目な話だって。したとしても、年齢的にはOKじゃん。もし、将来某探偵漫画みたいいに、大人が子供になれるような薬が出来たとして、成人女性が幼女になって成人男性とHしてもOKだよね。でも、そのなんちゃって幼女がアダルトビデオに出るのはどうだろうか? 例えばエロ漫画、エロアニメ、エロゲーでも、未成年の少女と分かるキャラクターは社会的に非難を受ける。でも彼らは設定があれど、別に実在しているわけではない。そうと見えるからダメってだけだ。だとすると、なんちゃって幼女のAV出演はNGという事になる訳だがーー」

「……あの、私すき焼き作っても良いでしょうか?」

「君は俺が大事な話をしてるのに、すき焼きの方が大事なのかい!」

「あの?」

「なんだい?」

「それ一般的に何て言うか知ってます?」

「え?」

「世の中では、セクハラって言うらしいですよ。じゃあ、私すき焼き作りますんで」

「セ、セクハラ……。ヤッちんが大人の女みたいな事を!ヤッちんが大人の女になってしまう!!!!!」

台所に向かおうとする私の横目に、そう叫ぶ凪さんの手から滑り落ちるハッセルブラッドSWCが見えた。

そして、ガチャン! という音と共に凪さんの悲鳴が聞こえる。


私はタブレットPCを立て掛け、YouTubeですき焼き作りの動画を見ながら、初めてのすき焼きを作る。便利な世に中になった物だ。


割り下を作り、すき焼き鍋を火に掛け牛脂を溶かしネギを焼き次に牛肉を焼く、奮発したA5ランクの黒毛和牛だ。それから残りの具と割り下を入れて煮るだけだ。

簡単である。


さっき、八百屋のおじさんの所為で中断した話に戻るが

私の血を飲み、不老不死になるには、

契約のような物を結ぶ必要があるのだ。私と共に生きて、私を護る存在となる者。

それは主従関係のような物ではなく。

つまり、それは私に見初められた者。婚姻し永遠の時間を一緒に添い遂げる相手である。その事を凪さんには言っていない。拒絶されたら嫌だから……。

見た目こそ14、5だが、実年齢は1300歳を超える。

私の実年齢を知ったのは、凪さんが不死となった後だ。私は凪さんにとって恋愛対象なのだろうか? ただ、私の境遇への同情や命を救われた礼として優しくしてるのではないか? そんな、不安がいつもあるが、それについて聞く事は無理だ。勇気が無い。


今の私の夢は、いつか凪さんの口から愛していると愛の告白をしてもらう事だ。

だから、美味しいすき焼きを作らねばならんのです。


すき焼きは出来たが、私には1つ不安がある。

実は味見をしても、味が良く分からないのだ。

人肉が新鮮か鮮度が悪いか位が私の味の判断基準であり、複雑な味は分からない。

感じないと言った方が良いかも知れない。


まあ、レシピ通り分量もピッタリ同じに作ったのだから

多分平気だろう……。



不安を隠し、テーブルにすき焼きを運び

まだ凹んでいる凪さんを呼ぶ。

「私がせっかくすき焼きを作ったんだから、元気出して下さい」

「そうだね。ヤッちんの初すき焼きだもんな」


テーブルには1人前のすき焼きと、ブラックサンダーが1袋、向かい合うように並ぶ。

テーブルに着き、2人でいただきますを言う。

私はすき焼きを食べようとする凪さんをさりげなく見ながら、

ブラックサンダーを口に運ぶ。

肉を解いた生卵に絡め、凪さんは口へ運ぶ。口に含んだ瞬間動きが止まる。

「すいません。不味かったですか?」

「いや、美味しいよ!初めて作ったとは思えない!!」

「そうですか! 良かった」

凪さんは綺麗に平らげてくれた。どうやら初すき焼きは成功したらしい。


夕食が終わり、片付けをしていて気付く。砂糖と塩を入れ間違えたのに。

私は定番過ぎる凡ミスに、ショックで頭を抱える。

砂糖と塩は同じガラス容器に入っているが、ネームプレートが張り分けられている。そして、いつもは右に砂糖、左に塩が置かれている。そのつもりで、右から取ったのだが、どうやら私の知らぬ間に凪さんが使って逆に置いたらしい。

別に無理して食べなくても良かったのにと、少し可哀想なような、おかしいような気持ちになる。


あの分量の塩で、どう味が変わったのか私には分からないが

凪さんの優しさはよく分かった。

彼にとって私がどういう存在か分からないが、少なくとも大事にされているのだろう。



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