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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
怪異探偵とタクシー怪談
19/56

怪異探偵とタクシー怪談 ⑦

翌朝、早く青空タクシーに向かう。


着くと丁度、ミホさんが社長と共に来た所だった。

今日は2人とも、いつもより早く来てくれた。


操作さえ出来れば、録画動画は直ぐに見れるらしい。

ミホさんはパソコンを起動して、セキュリティ会社のサイトにアクセスすると、パスワードを打ち込み、当日の防犯カメラの動画を呼び出す。


4分割された別々の動画が映し出される。各カメラの映した映像だ。

その中の1つにパソコンが映っている。

今、操作さしている。パソコンだ。

その動画を、選び、画面いっぱいに映す。


その中に映っていたのはーー。


「ーー中島だ」


社長が言った。


中島は、白髪の小さな小男だった。

社長の話では、陽気な男で、青空タクシーが企業した直後から勤めていた。

木村が初深夜営業の時に、からかっていた中の1人だった。

その見た目からは、女子校生を3人も誘拐するようには見えない。

性格的にも、体力的にもーー。


「その中島は?」

凪さんが訊く。

「それが……。数日前から、持病のヘルニアが悪化したとかで有給貰っています」

「……。」


社長に聞き、中島のアパートに向かう。


アパートに着くと鍵が掛かっていた。

「鍵が掛かってますね? 大家に連絡しますか?」

という波久礼さんの問いに

「いや」と凪さんは言った。

そして、

「……この臭い」

と呟く。

さっきから、僅かに漂っているこの不快な臭いはーー。


凪さんは、ドアノブを捻る。


ーーガシャッ!


力で中のロックされた鍵を捩じ切った。


ドアを開けると、不快な臭いがさらに強くなった。

鼻を突くその酷い臭いは、確かに肉の腐った臭いだった。


部屋に入ると直ぐに目に入る。

部屋の真ん中に、白いビニール袋を被って、人が横たわっていた。

側には、錠剤の入っていた中身の無い包装シートが数枚。


直ぐに、警察を呼んだ。


中島の家を訪ねた経緯などを聞かれたが、


警察の調べでは、遺書は無い物の、中島は自殺だった。

睡眠薬を飲み、ビニール袋を自分で被り、袋の口をガムテープで留めた。

死因は窒息死だった。他に外傷は無い。

中島は以前から、精神的な不調を抱えて、精神科に通い睡眠導入剤を処方して貰っていたらしい。


そういう訳で、簡単な事情聴取だけが行われた。


私達は一旦、事務所に帰った。

「さて、また振り出しに戻りましたね? 今日に明日じゃ、中島の部屋の中を調べる事も出来ないですね。警察が入ってるでしょうし。事情聴取で1日無駄にしましたね」

「そうでもない」

凪さんが言った。

そして、ポケットから1枚の封筒を出した。

「それは何ですか?」

「固定資産税の督促状だ。中島の郵便受けからこそねて来た。税金が払えなくなって、差し押さえ寸前だ。場所は、千葉県のk市だ。実家から祖父の家って所だろう。多分、此処だろう木村はーー」


私達は直ぐに、K市に向った。


K市に着く頃には、もう日を跨ごうとしていた。

住所の場所は、K市の中のNという地区で、直ぐ後ろに山の迫った小さな漁村だった。

空き家は、その漁村のさらに奥まった場所に一軒だけあった。


ライトを照らし表札を見ると『中島次郎 サキ』とある。

中島の両親か祖父母か分からないが、血縁者の誰かの家だろう。


部屋に入る為に、雨戸を開ける。

そして、玄関の引き戸を開けて中へ。


ーーその時に


「ーーうおおっ!!?」


毎度よろしく、凪さんが叫び声を上げる。


今度は何ですかっ!?


「スマホが震えたっ!? ビビったぁー、誰だよ? ん、節丸じゃねーか! あいつ殺す!!ーーん? 添付画像」


凪さんは画像を開くなり、固まる。


そこには、波久礼さんがあげた写真が。


でも、そこにはーー。


あの手の手首から先が写っていた。


それは……。



木村さん自身であった。


メッセージには


『さっき見たら、画像が浮き出ていました(^∇^)』


と、嬉しそうなメッセージが……。


節丸さんは、浮き出たこの人が、木村さんだと分かっているのか?

これが木村さんなら、


……もう既に


「やっぱりか……」

凪さんが呟くように言った。

凪さんは、節丸さんに自分の予想を話さなかった。

たぶん、最悪の結果を推理していたのだ。最悪を口に出したくなかったんだろう。

凪さんの言った可能性の1つと一致したとは、あの廃屋で木村さんが殺されている。という事だったのだろう。


……そうなると、木村さんは自分の居場所を教えていたのか。


ーーパシャンッ!!


突然、今入って来た引き戸が閉まる。


波久礼さんが引き戸を開こうとするが、

「……ビクともしない」

波久礼さんは言った。


すると、


背後に人の気配を感じ、振り返るとーー。


ボウっと、灯るあかりが見える。


それは、蝋燭だった。


あかりは次々に、家の奥に向かい灯って行く。

あかりの正体は、廊下の隅に一定間隔で置かれた蝋燭だった。

ーーそれは、まるで私達を奥へ誘っている、ように見えた。


木村さんか?

……それとも。


私達は奥へと、進んだ。


蝋燭の光を辿り、部屋の奥に進むと、間も無くしてある部屋に辿り着いた。


多分、客間だろう。

仏壇と壁には遺影が有る。

そこの畳が剥がされていた。中を覗くと床下に深く穴が掘られていた。

覗いただけでは、暗さも有り、底まで見えない程だ。

凪さんが中を照らす。そこには体を窮屈そうにくの字に曲げて、横たわる人の姿があった。


「もう死んでる」

凪さんが言った。


顔には、中島のように白いビニールが被されていた。

多分、木村さんだ。

木村さんの周りで小さく蠢めく物がーー、

山際と言っても、海が近い所為か、木村さんには沢山の蟹やフナムシが群がっていた……。

この暗闇の中で、遺体を少しずつ千切り食べていたのだ。

彼らは海の掃除屋だ。ーーいや、葬儀屋と言うべきか。

下から立ち昇ってくる腐敗臭が酷い。


嫌な予想は的中した。


それにしても、この蟹やフナムシの量は不自然過ぎや……。


そう思った時、


ーースパンッ!!


何かが空を切り、壁に突き刺さった。

見ると、錆びた包丁が壁に深く突き刺さっている。


「此処まで来るとは、しつこいね」


そう声が何処からか聞こえ……。

辺りを見回すと


声の主が姿を現した。


穴の上に、人の姿が浮かんでいる。


ーー中島だ。


勿論、中島は既に死んでいる。

霊体だ。


「此処までよく来たな」

この口ぶりからも、悪霊なのが分かる。

頭は良さそうには感じない。

「姿を現したか、この変態野郎。木村は口封じの為に殺したのか?」

「ああ、あいつが色々嗅ぎ回り、どういう訳か俺まで辿り着きやがった。それで俺に自首を勧めて来たが、勿論俺はそんなの証拠も無いと突っぱねた。だが、あいつはそれでも喰い下って来た。それで、事件の真相を教えると、俺のタクシーであの廃ホテルに連れ出したんだよ。直ぐには殺さずに、あの冷蔵庫の中に監禁してから、場所を此処に移して殺した。騒ぎになった所為で、肝試しの奴らが出入りするようになったからな。あそこじゃじきにバレる恐れがあった。それにしても、あんな手帳どこから……。遺留品は全て始末した筈なのに」

「誘拐した女の子達はーー?」

「殺した。あのニュースで出た場所でな。拷問して、楽しむだけ楽しんだよ。何回か、乗せた事のあるガキ共で、夜遅いからサービスで家まで乗っけてやるって言ったら、不信がる事も無く喜んで乗って来たよ。乗せた後、睡眠薬の入ったジュース飲ませてな。俺が医者に定期的に貰ってたやつだ。勿論、誘拐に使う為にな。ほら、俺はこんな如何にも、人の良さそうなジジイだろ? だから誰も警戒しねえ」

「クソ野郎が。で、木村に罪まで被せようとしたのか?」

「それは無い。なぜなら、あの3箇所から遺体なんて出ねえからな。何故だと思う? それはな、白骨化してから回収して、砕いて海に蒔いたからさ。直ぐそこの海からな。此処は元々祖父母の家だ。俺が管理で来てても、何もおかしくないだろ? ガキの時分から、良く海水浴なんかに来てたから、俺の顔を知っててる奴も此処にはいくらか居るしな。だが、しくじった事に、木村の遺体を隠したのは良いが、税金が滞納されてた。1年前までは俺の母親が、所有者として税金を納めていたが死んじまってな。俺が相続したのは良いが、税金なんて払い切れねえ。それで無視してりゃ良いと思った。持ち主不明の空き家なんてその辺にいくらでもあるだろう?そしたら差し押さえの通知が来た」

「最近は空き家対策で、取り締まりが厳しくなったらしからな。所有者無しなら、没収で取り壊しだろう」

「役所は電話までして来やがる。払えそうも無いし、木村は此処まで自分の足で歩かせて殺したから、俺1人じゃ他の場所への移動も出来ない。自慢じゃないが体力に自信は無いでね。それで、追い詰められて自殺さ」

「なら邪魔せず、成仏しろよ。うぜーから」

「お前は分かって無い。犯罪は誰にも知られず、まさかこの人がって奴がやるから良いんだ。つまり、俺のした事を知られたく無いんだ。話が前後して悪いが、女子校生誘拐殺人の罪を木村に被せる気は無いがーー。木村を殺す前に念の為遺書を書かせている。俺に金を借りて返せずに、自殺に見せかけて俺を殺して、たまたま知った俺の祖父母の家で自殺した事にしてある。俺を殺したのと同じ方法でな。もしもの為の工作が役に立ったよ。そして、お前らが消えれば、それは達成される。俺が殺したガキどもまでは、誰も辿り着かない。俺が犯した犯罪は未来永劫誰にも知れる事は無い」

「なんだそりゃ? 下らねえ、犯罪美学か? そんなの死亡時刻でバレるだろう! 木村が死んで大分経ってから、お前は死んでるんだから」

「なるほど、美学か。そんな事を考えなかった。そうかも知れないな。だから、俺はこんなにこだわりを持って、殺人を重ねてきたのか。あははは。そうか。死亡時刻なら多分平気だろう。白骨化してしまえば、死亡時刻は分からないらしいじゃないか。白骨化を早める為に、わざわざ蟹だのフナムシだのをごまんとその中に放り込んである。餌の無いこの場所で、飢えた蟹やフナムシは木村を嫌でも喰うしかねえ。そして、お前らが死んでしまえば、俺のした事は完全にバレねえ。お前らが此処で俺にどんな殺され方をしても、真相は誰にも分からねえ。だって、犯人である俺は既に死んでいるんだからな。お前らは変死扱いか? 見当違いの捜査をして余計泥沼にハマるだけだろう。真相は藪の中だ。ははははーー」


「中島! 残念だが、お前はもう終わりだ!」


波久礼さんがフィルムを替え、ニコマートを構える。

波久礼さんのニコマートには、霊を捕らえる力がある。


「お前は、俺に此処で消滅させられる!」

「なんだそりゃ? 古臭いカメラなんか構えやがって」

「あははは。そうだ! コイツのカメラには幽霊を捕らえる力があるんだ! お前はもう終わりだぜ!中島!!」

「何言ってんだ? 漫画の見過ぎか?ーーとは言え、俺という霊体が存在して居る以上、そういうファンタジーまがいの戯言も警戒しない訳にもいかないな」


飛び交う刃物やホークやスプーン、飛んで来る室内のあらゆる物を必死に避ける。

中島はニコマートを向けさせない為に、サイコキネシスのような力で、有らゆる物を投げつけて来る。

刃物などは、私達はともかく、波久礼さんは当たれば無事では済まないだろう。


「取り敢えず2人とも俺の後ろに隠れろ!」

凪さんは、飛んで来た2つの鍋蓋を捕まえて、飛んで来る物をその2つで打ち落す。

「なんで、手の内を言うんですかっ!」

私は、流石に凪さんを怒る。

「ーーいや、だって!?」

と凪さんが弁解しようとした時。


「凪さん、腹にィィィィッーーーーー!!?」


波久礼さんが、一際大きい声を上げ叫ぶ。


見ると、凪さんのお腹に大きな出刃庖丁が刺さっている……。


「大丈夫だ! こんな事も有ろうかと、腹に少年ジャンプを入れて来た!! 少年の夢と希望の詰まったこの少年ジャンプは悪霊の力でも貫けないぜ!!」

と、凪さんはお腹に入れた少年ジャンプを出すが

「凪さんっ!? 貫通してますよ! 大丈夫なんですかっ!!?」

少年ジャンプを見事に出刃庖丁が10cmほど貫通。


「……。」

バカだ。不死がバレる。


「大丈夫だ。ギリギリ急所は外れている!!」

「……そ、そうなんですか? 」


そんな、訳無いじゃないですか……。

がっつり刺さってますよ。


別に凪さんが居れば、飛び交う刃物の直接攻撃は受けないもののーー。


凪さんは、床に置かれた剥がされた畳を軽く蹴り上げて


「お前らはこの裏に隠れてろ!!」

凪さんは、そう言うと壁際まで私達を避難させ、中島に向かう。

凪さんは飛んで来る刃物を叩き落としながら、中島の側まで一瞬で詰め寄る。


「ーー何んだとっ!? 貴様ーー!!?」


中島は面喰らったように顔を歪ませて、驚きの色を隠せない。

凪さんは大きく、右手を振り被り、中島の顔面に拳を振り下ろすがーー。


スカッ!


中島の顔をすり抜ける。

やはり、霊体には物理的攻撃は効かないようだ。


ドスンッ!


「ギャッ!!」


凪さんはそのまま、木村さんの遺体の有る穴に落ちる……。


「驚かせやがって、確かに防衛力は認めるが、俺を触れないんじゃ意味ねえな」

中島は嘲笑って言った。


さて、凪さんは穴の中に落ちてしまった。


トントンッ!

トントントントンッ!!


畳に小気味良い音を立て刃物が突き刺さる。


ーーさて、ピンチだ。

……どうしよう?

この畳も長くは持ちそうにないな。

鉄砲の弾と違い、何度落ちても中島の力でまた飛んで来る刃物は尽きる事がない。厄介だ。


そう思う私の気持ちに追い打ちを掛けるように、海を泳ぐ魚の群れのよな刃物の群れが、こちらに向かいまた飛んで来る。


ーーと、その時


カンカンッ!!


キンッ!


甲高い金属音が室内に響くーー!!?

闇の中で何かが当たり、飛んで来る刃物が空中で弾かれる。

それが、トントントンッ! と床や壁や天井に突き刺さった。


ーー何ッ!?


そう思って、畳の脇から前を覗き込んだ時に


それは、闇の中から姿を表すーー!!?


小さな子供? ……いや違う。


大きさは2、3歳の子供くらいで、頭と体と手足が有るものの、

それらはまるで鋭利な刄で組まれた人形ーー?

もしくはロボットの様だ。

人型をしているが、人の姿とは程遠い。


「……アレは何っ!?」


「ーー俺の守護霊、涙牙(ルゥガ)だ」


波久礼さんはそう言って、畳の前に出た。


「ん? ウゴウゴ?」

と、穴から這い出て来た凪さんがアホな事を言っている内に

「1分経って俺が、アイツ(中島)を捕らえられなかったら、2人は此処から逃げて下さいっ!! 凪さんの力なら、後ろの戸を打ち破れるでしょう」

という波久礼さんの言葉を合図とするように、涙牙と呼ばれる守護霊は五体分離し変形して、鋭利な刄と化し中島に向かう。


それを、飛び交う刃物で中島は迎え撃つ。


涙牙は目にも止まらぬ早さで飛んで来る刃物の群れを、正確に確実に打ち落す。

その動きは機械的な正確さと、生物的な柔軟さを見せる。


「おっ、なかなかやるじゃねーか」

と背を向けた凪さんの、背中には沢山の刃物が刺さっている……。

不死身なのバレんだろぉーーーーがっ!!!


私は力任せに、凪さんの背中の刃物を引っこ抜く!

「ーーぎゃっ!!!」


一方、波久礼さんはーー。


中島と涙牙の攻防の合間を縫うように、前に出てニコマートのファインダーを覗くがーー。

もう距離は3m内の筈だ!?

なのに、シャッターを切らない!??


「何やってんだよっ! 銀太早く写せよ!!」

凪さんが叫ぶ。

「ダメなんです! ピントを合わせ写さないと、捕らえられない!! 」


中島は自分の飛ばした刃物の合間から、加えられる涙牙の攻撃を素早く交わしている。

その上、波久礼さんも弾かれ落ちてくる刃物を避けなければ行けない。

落ち着いてピントを合わせる事など出来そうもない!!?


「……うっ!?」


立ち眩みでもしたように、波久礼さんは突然よろめき、顔に手を当てる。


「どうしたんだよっ? ーー あいつ。仕方ねえな」

凪さんはそう言うと、波久礼さんを助けに向かう。

涙牙の動きも何だか、鈍っている気がする。


涙牙が撃ち墜とし損じた刃物を、凪さんが再び鍋蓋で払い落とす。

「……すいません凪さん」

「大丈夫かよ? 行けそうか? ダメなら一旦撤退だ」

「もう一回だけ、挑戦します! 次刃物が飛ぶのが止んだ瞬間、退いて下さい。その時、写します!!」

「ーー分かった!」


カンカンカンッ!! と凪さんが刃物を撃ち落とす。

そしてーー、


「今だっ! 行けっ! ーー銀太ッ!!」

凪さんは体を横に素早く逸らす。


波久礼さんはニコマートを構える!!



中島はその波久礼さん目掛けて、また刃物を飛ばそうと、


凪さんに撃ち落とされた刃物を回収しようとするがーー!!?



一旦中に浮いた刃物が、糸を切られたようにパタンパタンと床に次々と落ちる?



「ーーなんだ! なんなんだ、これはッ!!?」


と、


中島が不思議な叫び声を上げた。


見ると、中島の体を誰かが抑えている。


1人じゃ無い。


それは、

ーー殺された3人の女子高生と、木村さんだった。


4人は波久礼さんの方を振り返り、一緒にやってくれというように頷く。


「ダメだ。捕らえた後に消滅させる時に、一緒に消滅させてしまう!! 消滅したらその後は、俺にも分からない。ーー出来ない!!」


波久礼さんはシャッターを切らない。

……いや、切れないのか。


「オイ! 銀太悩んでる余裕はねえぞ! 4人が持ちそうにねえっ!」


確かに4人は、今にも中島に振り払われそうだ。

悪霊と化した中島は、4対1なのになんて強いんだろう。


「うわっ!? ヤバイ!!ーー 中島が解き放たれんぞっ!!」


凪さんが叫ぶ!!

とうとう耐え切れなくなった4人が弾き飛ばされた。その時の衝撃波に、私は思わず目を瞑る。


ーー万事休すか!!?


だが、次に目を開けた時ーー、


壁に貼り付けられた中島の姿があった。

両肩には涙牙の刄が刺さっていた。


波久礼さんは、4人が弾かれ離れた瞬間に、涙牙の刄を中島に放ったのだ。


「グハァッ!!? ーー死んでんのに、痛え!! すげえ、痛え! 死にそうだよっ!!抜いてくれよっ! ーー俺をどうするつもりだぁっ!!?」

中島が言う。


「消滅させる」


ニコマートを構えた波久礼さんが言った。


「辞めろ! やめてくれ、もう大人しくする。もう死んでるんだ。何も出来ねえよ。本当は、もう殺しなんて、やめる気だったんだよぉ……。本当だ」

「ダメだ。信用出来ない。それに、お前は人殺しだ。死んだって、罪は消えるわけじゃ無い」

そう言うと、波久礼さんは冷淡にシャッターを切る。


ーーカシャン!!


という音と共に、ニコマートの中に中島は吸い込まれた。


ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!


……闇の中に、中島の断末魔の悲鳴が響く。


悲鳴が消えると共に、静寂と闇に辺りが包まれる。


その中に、ぼうっと輝くように被害者の4人が居た。

そして、彼らは安心したように微笑むと、一瞬輝き闇の中に消えた。


彼らの消えた下にある穴の底では、木村さんの遺体だけが横たわっていた。


凪さんが戸を打ち破り、私達は外に出た。

まだ波久礼さんが、フラついているので、縁側に座らせ休ませた。

その間に、凪さんが節丸さんに連絡し事情を話す。

今後の後始末を頼む為だ。

その後、凪さんはもう一度室内に戻って、何かを確認しているのか調べているのかしていた。


外は静かで、満月が出ていた。

暗闇に慣れた目には、凄く明るく感じた。


「あの涙牙ってのは?」

帰って来た凪さんが、波久礼さんに訊いた。

「前に、地下鉄工事を邪魔する悪霊の調査を頼まれました。なかなか強い悪霊だったんですが、知り合いの(ちょっと、嫌な顔をし)霊能者と何とか、捕らえる事が出来ました。捕らえた場所には、地下なのに祠が有りました。その祠の中の石碑に描かれていたのが涙牙の文字でした。読み方は分からないから、最初はルイガと呼んでいましたが言い辛いので、いつの間にかルゥガと呼ぶようになってました。消滅させようとした時に、涙牙が俺の心に語り掛けて来たんです。今までそんな事が出来た霊は居ません。目覚めたばかりで、全開では無かった為に捕らえられましたが、元々はよっぽど強い霊だったんでしょう。言葉と言うより、気持ちが伝わって来ました。怒り憎しみ悲しみ、無念な思い。涙牙は俺に条件を出したんです。消滅させ無い代わりに俺を守るとーー」


「ーー涙牙の正体はなんなんだ? 祠の中に記されていただろう?」


「涙牙は悪霊では無かった。荒神ですよ。祠の正体は、将門塚です」

「将門? 平将門か?」

「ええ。大手町の首塚が有名ですが、京都から飛んで来る途中に、体の一部が色々な場所に落ちたそうです。落ちた場所で災いを起こし、それを鎮める為に、人々は塚を作り丁重に祀り、荒神を護り神へとしました。どうして、地下に在ったか分かりませんが、そう言うものの1つです。人間が静かに眠って居た護り神を、工事で起こして荒神に変えてしまった。明確に記されて居ませんでしたが、名前から察するにーー(波久礼さんは言葉を濁す)。歴史的には、将門は朝廷に楯突き、新天皇を名乗った大悪人とされていますが、場所によりその扱われ方は変わります。中には、弱き民を助ける英雄と呼ぶ人も居る。朝廷に楯突いたのだって濡れ衣だったという話もあります。現に現在も、毎日のように誰かが必ず大手町の首塚には参拝に来ている」


涙牙という名前ーー。涙の牙だ。

その名前から察する事が出来るのは、塚に祀られていたのは平将門の涙でしょう。


波久礼さんは続ける。

「涙牙に、人のような意思疎通出来る人格は無いです。何を考えているか分からない。ただ思いのみで存在している。その思いも具体的になんなのかは分からない」


どういう涙だったかは分からないけど、その思いが波久礼さんの心に刺さったのだ。





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