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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
怪異探偵とタクシー怪談
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怪異探偵とタクシー怪談 ⑤

私達が、着いた場所はーー。


都内某所の、工場? 廃屋?

そんな感じの古びた建物の大きなシャッターを開けて、そこに波久礼さんはバイクを入れる。そして、空いてるスペースに凪さんの車も停めろと言う。

中には錆びた古い工作機械が何台かあり、鉄屑がそこらに散乱している。どうやら元々は小さな町工場だったらしい。


部屋の隅の階段を上がり二階へーー。


中へ入ると、そこは、秘密基地? 研究所? 暗室?よく分からない。

下の重機系の機械と変わり、今度は、沢山の薬品やビーカー、フラスコ、なんかの実験器具? が所狭しと有り。その中に写真用品も乱雑に置かれている。


波久礼さんは、テーブルの上のそれらの物を退かし黒い袋を出す。

変わった形の袋だ。形としては長袖の服の首の所だけ、閉じられているような感じ。

体の入る部分には、二重のジッパーが付いている。

その中に、ニコマートと茶筒みたいな金属の筒を入れる。

二重のジッパーを閉じ、袋の腕にあたる部分から手を入れる。

自分で現像液をしたくて調べてて、ネットで見た事がある。袋はダークバックだ。あの円筒形の物は現像タンク。


ダークバックは名前の通り、フィルムが感光していまわぬように光を遮断する作りになっている。

その中でフィルムをリールに巻き、現像タンクに入れる為に使う物だ。


波久礼さんはダークバックの中で両手を動かしている。

フィルムをリールに巻いているのだ。

「これなんだ?」

凪さんが訊いた。

見ると、フィルムがロールケースから出されて、吊るされているのだが透明だ。

未現像なら黒い感光剤が塗られているし、現像後なら何か画なりなんなりが写っている筈だと思う。

「フィルムを作っているんですよ。パトローネ(フィルムケース)から出して感光剤を剥がして、ベースだけにしてあります。そこに、俺が作った新しい感光剤を塗るんです」

「なんの為にだ?」

「普通のフィルムでも霊は写せるけど、そのフィルムは特別なんです」

「特別?」


「ええ、霊を捕らえる事が出来る」


波久礼さんは、また興味深い事を言った。


「本当かよ? 何で出来てるんだ」

「素材は変わりません。凪さんはカメラに詳しいようだからから、知っているでしょう。写真はフィルムに塗られた銀化合物が、光に化学反応する事で写る。霊に銀も反応するんです。光が反応するのとは、また別の理屈でしょうが。その辺の事は、俺は化学者じゃないので分かりません。デジカメでも写せるのかも知れませんが、原理は全然違うでしょう。俺は、これ(ニコマート)1本なので、よく分かりません」

「化学者にはもっと分からねえんじゃねーのか。理屈で測れる事ともおもえねえがーー。で、素材は変わらないって事は?」

「使う銀化合物を作る銀の出処が問題なんですよ」

「出処?」

「火葬場です」

「火葬場だぁ?」

「ええ。銀歯です。知ってますか? 火葬場で出る遺灰の残りカスなんかは、市や町が管理し処理を業者に委託するんですが、遺灰の中の銀歯は暗黙の了解で処理業者の物なるんです。まあ、銀歯って言っても、出て来た時は溶けて丸くなってるんですけど。しかも燃えて無くなってしまう事も少なくない。貴重です」

「それを、横流しして貰ってんのか? お前もなかなか叩けば埃が出るな」

「前に心霊事件を解決してあげた人が、好意で分けてくれてるんですよ」


そんな、話をしている内にフィルムを巻く作業が終わったらしく、

波久礼さんはダークバックから、現像タンクを取り出した。

現像タンクには、フィルムの巻かれたリールが入っている。


それから、現像タンクを持ち近くの流し台に波久礼さんは移った。


タンクの上の蓋も光が入らないように二重になっていて、丁度ペットボトルのように上の小さな蓋だけ外れる。そこから、現像液を注ぐ。そして、撹拌する為にゆっくりとタンクを揺する。

「そのフィルムもそうか?」

「これは、普通のフィルムです。ただのフィルムはリトマス紙みたいな物で、霊に反応して像を結ぶだけです。でも、面白もので、切られた枝葉が花瓶に挿して置くと成長する事があるように、フィルムに焼き付けられた霊の一部が銀を栄養に成長する事があるので、注意が必要です。サワリを起こす場合が有ります。ちなみに普通のフィルムでも、容易に霊を写せるのは、やはりこのニコマートの力が大きいです。普通のカメラでは、まさに偶然の産物です。感光剤の問題だけじゃなく、まず何処に霊が居るかも分かりませんからね」

「謙遜すんな。ニコマートだけじゃなく、お前の眼の力もあんだろ。ふーん、心霊写真も意外に奥が深いな」

「結構、ちゃんと関心するんですね? 普通、信じないですよ」

「世の中には、確かに科学じゃ割り切れねえ事もあるんだよ。それくらいは、知ってらあ。でも、確かに信じ難い部分はある。幽霊を捕らえられるんてスゲーよマジで」

「弱点もありますよ」

「弱点?」

「まあ、フィルムを作れる数が少ないというのもですけど。被写体、つまり霊体までの距離が約3m以内まで迫らないと捕らえられません」

「3mねえ? 短いようだけど、結構遠いだろ? 楽勝じゃねえのか?」

「いや、それが中々ーー」

「ふーん」


ーー定着液を捨てて、フィルムを暫く水に浸けて現像作業が一段落して、小一時間乾かす。


その間に、小休止を挟む。

波久礼さんが、お茶を出してくれました。

ペチャクチャおしゃべりし。


ーー小一時間経過。


「さて、じゃあ乾いたのを見るか?」

凪さんが乾いたフィルムを取ろうとすると

「ちょっと待ってください」

と波久礼さんが言い、机の上のパソコンを起動する。


ブーンと音を立てて、パソコンのモニターが点く。

そして、波久礼さんはフィルムをいくつかに切り、ガイドに入れて、スキャナーに掛け、パソコンに取り込む。


ファイルを開き、取り込まれた画像を選択する。モニターに拡大されたフィルムの画像が表示された。


「この方が、見易いでしょう? 拡大や、光量が足りず潰れた場所も、持ち上げる事が出来る」

「オカルトの癖に、意外と科学的だな?」

「いつだって、オカルトを解明するのは科学ですよ? 逆を言うなら、いつだってオカルトを本当に理解しようとするのが科学です」

波久礼さんは力強く言った。

「……。なんかちょっとムカつくから、殴っていい?」

「いいわけ無い無いじゃないですか? バカんですか?」


ーー馬鹿なんですよ。


「そうか? じゃあ、仕方ないから早く見ようぜ?」

そう言われ、波久礼さんはふに落ちない顔で画像を送って行く。


「ああ、これ。あのラブホに入る前に撮ったヤツです。良く分かるでしょう?」

「どれどれ?」

「ああ、本当ですね! 凄いっ!!」

私は思わず感嘆の声を上げる。


モノクロの写真に、制服の女の子が写っている。

藪の奥を見ている。やはり、自分の遺体の場所を教えているのか?

実際の色は分からないけど、白に近いからーー

「木村さんの会ったキャメル色の制服の子ですかね?」

「だと思うよ」と言って「これ」と波久礼さんはモニターの画像を換える。

そこには、さっき見ていたキャメルの制服の子が

「森村菜々、16歳、高1。タクシーに忘れられた生徒手帳の持ち主。10年前に行方不明になった子だよ」

「本当に幽霊っているんですね」

「他の写真はどうなんだ?」

凪さんは、怖がると思ったが、なんだかやる気に少し火が点いたのかな?

顔が真面目だ。

「木村さんの部屋の写真を見てみますか。一応、ニコマートは反応したけど、俺の左目に何も見えなかった。気になる所ではありますね。そういう場合でも、現像すると何かが写ってる事もありますからーー」

パソコンに取り込んだ木村さんの部屋の写真を送って行く。

「凪さん、幽霊も写真だと怖く無いんですか?」

私はあえて訊く。

「こうやって被害者かも知れない子を実際に見ちまったら、そんな事も言ってらんねえだろ?」

こういう所は、以外に真面目というか、やはりロリコンゆえか?


「ーーうーん。何も無いですねぇ?」

画像をチェックしていた波久礼さんが言う。

やはり、木村さんの部屋の写真には何も写っていなかったようです。


「写って無くとも、何か見て感じねえのかよ? こう、霊気とか?鬼太郎みたいにーー」


鬼太郎は妖気ですよ。ーー私は顔に出さず、心の中でツッコミを入れる。


「感じませんよ。僕にそういう普通の霊能者みたいな能力は無いです。でも、さっき言ったように、後から写真に変化が現れる事もあるので、木村さんの部屋の写真は経過を観察してみましょう」

そう言って、波久礼さんは木村さんのフィルムをA4サイズにプリントアウトして、壁に貼り付けた。

「どうして、一々プリントアウトすんだ?」

「大きい方が見易いでしょ?あとーー」


あとーー?


「いや、見易いけどーー。そうじゃなくてーー!! フィルムじゃなくて良いのかよ!?」

「理屈で説明出来ないけど、繋がってるんです。フィルムとプリントも、ーー霊からの影響を受けます。なんで、フィルムとプリントの変化は、まんま同じとは言いませんがシンクロします。だから、プリントでも変化を観察できます」

私はふと気になり、波久礼さんに聞く。

「それって、もしフィルムに呪いとかあったら、プリントからも影響しますか?」

「ああ、サワリを起こすよ。心霊写真はプリントした物だろう?」

という、波久礼さんの話を聞き、

凪さんが慌てたように言う

「お前、止めろよ! 呪われてたら、呪いの拡散じゃねーか!! リングの呪いのビデオテープ、さらっとダビングしてるようなもんじゃねーか!!」


「それは、大丈夫ですよ。プリント1枚の呪いで、人の命を奪う程のサワリを起こすなんて稀です。まあ、ちゃんと拡散防止はしますけど。ちなみにフィルムから直に、印画紙に焼いた物より、デジタルデータをプリントした物の方がサワリが起きてもそこまで強くは起きません。これは予想ですが、印画紙の銀の影響かと。も一つ、ちなみに。プリントからのコピー(複製)では、基本的にサワリは起きません。起きてたら雑誌の心霊写真コーナーとか大変ですからね」

と言って、波久礼さんはオリジナルのフィルムをライターで焼く。

「あっ!? お前、それーー」

「デジタルデータも消去すれば、これでもうこのプリント以外、サワリを起こす恐れのある物は無いです。なので、拡散は無いです」

さっき、言った。あとーーの意味はこれか。

なるほど、プリントアウトするのは、サワリがあった場合の拡散防止の為でもあるのか。


「何やってんの? 銀太。仕事?」


突然背後から、女性の声がする。

声の方を振り返ると、若い綺麗な女性が1人立っていた。


ーー新手の幽霊?


ドカッ!!?


と、大きな音がした方を振り返ると


あっ


凪さんが壁に背を付け、へばりついていました。

やっぱり幽霊は苦手みたいですね。


「なんだ合歓子(ねむこ)か。いつ来たんだよ?」

波久礼さんが言った。

どうやら、知り合いらしい。


「今よ。見れば分かるでしょう?」


「お友達ですか?」

と波久礼さんに、私が訊くが

「此処の大家よ」

と、合歓子さんが答える。

「厳密には大家の娘だよ」

波久礼さんが言った。

「なんだよ。生きた人間かよ!」

凪さんは、生きた人間にはとことん強気です。

「管理は私が任されてるから、私が大家よ」

合歓子さんが言う。

それに対し

「それは、管理人では?」

という、私の正論を

「何この子? ーーと、オッさん」

と合歓子さんは無視して一蹴。

「……オッさん。」

そんな中、意外にショックを受けている凪さん。


「ーーオッさん。」

と凪さんに、ダメ押しする容赦無い合歓子さん。


「おいおい、君はいくつだい?」

「21よ」

「君だって、オバサンじゃないか。女はね、18過ぎたらもうオバサンなんだよ? オバサンじゃ無いのは、ギリギリ女子高生までだね」

変なライバル心を燃やし、変態をついついカミングアウトしてしまう、お茶目な凪オジサンに、

合歓子さんは、

ーーハッ!? と口を押さえ

「まさか、この人!」と、溜め「 ーーロリコンだわッ!?」と核心を突く。

「ロリコンの何が問題なんだ? 熟女マニアとかの方がよっぽど問題だろ? 頭がおかしい。異常者だ。忌むべき人類の敵だよ。ストップ少子化」

凪さんは平然とそう言った。

「あなた、本気で言ってるの?」

「ああ」

「動かないでね。今、お巡りさん呼ぶから。逮捕して貰うわ」

スマホを出して言う。

「なんの罪でだ?」

「ロリコン罪よ。 ロリコンはねえ、存在が知れただけで極刑よ。火炙りよ。そっちの小さい子もどうせ、力に物を言わせ未成年者略取したに違い無いわ。忌むべき人類の敵、ストップロリコン」

「完全に魔女狩りじゃねぇか。お前、憶測でモノを言うなよ。ヤッちんと俺は合意の上だ」


ーー合意の上ッ!!?


合歓子さんは「ーーはッ!?」っと、息を小さく吸うように驚きの声を上げ、口を押さると、凪さんをゴキブリでも見るような蔑んだ目で見ました。

当然です。ゴキブリ以下です。ゴキブリさんに謝れ。


すると


「なんだ??」


と、急に凪さんは、私を見て言いました。


そうです。


私も、ゴキブリを見るような目で凪さんを見ていました。


ごめんなさいゴキブリさん。


「ーーで、お前は何しに来たんだよ?」

波久礼さんが合歓子さんに言う。

「どうせろくなもん食べてないんでしょうから、お弁当作って来たのよ」


「おおおおおおおおおおおおお弁当だぁ? あははは。意外にやる事はやってるねぇ銀太くぅん」


と、今日一番嬉しそうな凪オジサンに

「そんなんじゃ無いですよ!」

と少しキレ気味に答える波久礼さん。

「いやいや、銀太くん隅に置けないねぇ。あはははは」

ウザさ全開です。


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