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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
怪異探偵とタクシー怪談
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怪異探偵とタクシー怪談 ④

「そこそこ、道らしい道になりましたね」

「ヤッちん、なんで俺がこんな事をしなきゃならないんだよ」

切り込み隊長として、先頭で私達(私)の為に道を作ってくれている凪さんが嘆く様に言う。

わぁーい、人間ブルトーザーだ。草木がみるみるなぎ倒されて行く。

むしろ刈り込み隊長ち言うべきかーー。

私はクールな顔をしながら、心の中で思う。


廃道は入り口こそ草木に覆われていたが、草木を描き分け(凪さんが)10mも行くと割とマシな道になった。とは言え、あくまで人が歩けるレベルと言う意味でですが。

入り口は日光が当たっているが、道の奥は両脇の木々の枝が伸びてトンネル状態になり、日が陰り、草が生える事が出来なかったから道が遺されたんだろう。

たかが10mだが、草木が生い茂る中を、掻き分け進むのは容易な事ではなかった(凪さんが)。今日やっと凪さんが役に立った。多分、今日の凪さんの見せ場のピークが此処だろう。ありがとう凪さんと、顔には出さずに心でお礼を言う。


さらに20分ほど薄暗い道を進むと、そこには確かに廃墟が在った。


ーーその事に、まず驚いたが。

それ以上にーー。


それは圧巻と言える光景だった。

暗い木々のトンネルを抜けると、ぽっかり空間が空いていて、天から照明のように光が射していた。

そこに白い洋風のお城が在った。

それは、神秘的というか、おとぎ話の一節みたいな光景だった。


「本当に在りましたね!でも、なんでこんな所にお城が?」

予想していない光景に、胸が高鳴る。

「いや、これは城じゃねーよ。よく出来てるけど所謂ラブホって奴だ。多分、バブルの時に物好きが金掛けて作ったんだろう。そこに、壁から落ちた看板が有る」

と、凪さんが指さした場所に『ラブホテル ベルサイユ』と書かれた看板が落ちていた。

凪さんは続ける。

「経営が行き詰まって、潰れちまったが解体費用が捻出出来ずに放置されたんだろう。場所も場所だしな。重機も入り辛え。もしくは、新しい所有者を探している間に朽ちたか」

ああ、なぁーんだと少し残念なような微妙な気分になる。

廃墟のラブホテルと聞き、ファンタジーな気分から、またオカルト気分に戻った。

「入り口の状態から、警察は此処には来てないみたいだな。警察は、木村の身辺や、タクシーに残った指紋なんかを調べただけかもな。もし来てても、ここへは目視で確認しに来たくらいだろう。鑑識が入るような捜査はしてなさそうだ。幽霊達も此処に遺体が有るとも、何か自分達へ繋がる手掛かりが有るとも直接は言ってねえし、誰かからそんな情報提供があった訳でもない。じゃなきゃ、警察が想像だけで必要以上の踏み込んだ捜査もしないだろうしな。よぽどの物好き刑事じゃなきゃな。いくつか付いてる新しい足跡も、スニーカーの物だ。新聞を見て肝試しに来たもの好きだろう。それにしても、この肝試しの奴らはどこから来たんだ?俺達が来た道には人の入った形跡なんて無かったぞ」


「何やってんですか? 凪さん。こんな所でーー」


と、突然の背後からの声。


声に、凪さんが驚き

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」と

〆られた鶏のような叫び声を上げて、私にしがみつく。これはセクハラですよ。

此処まで来てもまだ幽霊が怖いか。


凪さんはアホのように驚いているが、どこかで聞いた事のある声だ?

その声は続ける。


「いやぁ、見覚えのある後ろ姿だと思ったら、凪さんとヤッちんじゃ無いですか。驚きましたよ」

しがみ付く凪さんを引き剥がし、振り返ると、声の主は節丸さんでした。

「節丸、なんでテメー此処にいるんだよ! いきなり湧いて出て来るんじゃねーよ!! 驚くだろうがっ!!」

さっきまであんなに怯えて居たのに、凪さんは節丸さんだと分かった途端、急に強気になる。マジだっさぃです。

でも、確かに何で節丸さんが此処に? しかも、スーツではなくトレッキングウェア。

この木村さんの件は警察に届けて無いから、やはり行方不明の女の子の件かな?


「すいません、驚かせたみたいで」

「 お前、この件の捜査に首突っ込んでるのかっ!?」

「この件て、タクシー幽霊のですか?」

「そうだ」

「いや、非番で趣味を兼ねて、個人的にです」

「此処に居たよ、物好きな刑事が。相変わらず、いい趣味してねえな。犯罪ヲタクがーー」

「いやぁ」と節丸さんは照れたように頭を掻く。

「褒めてねえよ! で、警察はこの件どう扱ってんだよ? 直接捜査に加わって無くともなんか知ってんだろ? お前の悪趣味な趣味としてーー」

「まったく。機密漏洩じゃないですか。此処だけの話にしてくださいよぉ~。」と言いながら、節丸さんは嬉しそうに話し出す。刑事でも、ヲタはヲタ。自分の好きな分野の話がしたくてしょうがないカスです。

「今の所は形式的な捜査のみって感じです。被害者の遺留品が出て来て、一部の当時からの捜査員は色めき立っているみたいですけど。ただタクシー運転手が行方不明って匿名の情報提供があったみたいで、また運転手の木村に焦点を当てて捜査が行われるようです。まあ、犯人は木村ではないでしょう。何の為に誰が生徒手帳を? と考えると、やはり真犯人が事件が風化するのを防ぐ為って可能性が、高いと思います。異常犯罪者独特の自己顕示欲ですよ。自分の犯した罪こそが、彼らのアイデンティティなんですよ」

「どうして、木村が犯人じゃないと思うんだ?」


「年齢的には当時木村は19歳なんで、車を使った犯行も行えるし、都内の大学に通う大学生で時間もあった。まあ、あり得ない犯行ではないのですが。あえて手掛かりを晒したりする様なタイプの犯罪者は、大体が所謂シリアルキラー、連続殺人鬼です。もし10年前が1番新しい事件なら、その前の事件は木村が19歳以下の時になりますし、もしその後にも犯行が行われてるなら、何らかの新たな犯行の手掛かりが木村の身辺から出て来るでしょう。そういうのは無いみたいですし。10年次の犯行を我慢してて、今敢えて注目されるような事をする必要も無いと思います。もしシリアルキラーでなく、何らかの理由で短絡的に殺したとして、罪の意識から告白としてだとしても、それなら自ら自首するか、自分への手掛かりを残して別の場所に置くでしょう。自分のタクシーに置いて、幽霊に話をでっち上げてーーだと、事件を知る第三者が木村で、殺人とは別に木村がなんらかの目的でやっていると見る方が自然だと思います。まあ、犯罪者の心理は想像を超えて来ますけど」

「なんで、お前連続殺人だと思うんだよ? ただ、今言った憶測からだけって訳じゃねえんだろ? 生徒手帳が有ったのは1つだろ?」

「実は今回出て来る心霊スポットと幽霊達が言った残り2箇所の周辺10キロ圏内で、同じ年頃の少女の行方不明事件が、此処20数年余りの間に2件起きているんです。普通なら家出少女の扱いで終わるんですが、家出する理由が一切無い。まあ、年頃の少女には誰にも知らない秘密が有ってもおかしく無いですが」

「その2人についての資料、俺の所にメールに添付して送ってくれ」

「喜んで。ただ僕にも、この件に一枚噛ませて下さいね」


私達は節丸さんを加え、お城の中へ進んだ。

中に入ると、外見とは違いそれなりに洋風に作っているが、安っぽさが目立った。近くで見ている、というのもあるのだろう。電気が無く、特殊な目的の建物である為に窓も無い、中は昼間なのに真っ暗だ。節丸さんの持って来た、軍用の強力ライトが役にたった。

やはり、凪さんの言うようにラブホテルなんだなと実感する。

外から見た不思議な存在感が失われ残念です。

そんな感じだから、なんだかテーマパークのおばけ屋敷に来たみたいになった。

その上、本物の廃墟だから、湿っぽくてカビ臭い。足元も床が腐ってふかふかしてて、気持ちが悪い。


「どもども、警視庁捜査一課の節丸九郎と言います。一応、警部補になります。趣味は犯罪学の探求」

歩きながら、節丸さんの簡単な自己紹介が始まる。波久礼さんに向けてだ。

「刑事さん?」

波久礼さんは、多少驚いたように聞き返す。

見た目からの意外性に対してなのか、刑事という職業に対してなのか。

節丸さんは警部補なのか、知らなかった。銭形のとっつぁんの1つ下くらいの階級だろうか?

「いや、そんなに身構えないでください」

「そうだ、そいつに変な気を使う必要はねえ」

「凪さん、酷い言いようだなぁ。まあ、信用されていると、受け取って置きますよ」

「俺は波久礼舜て言います。一応職業的には、ライターになるのかな?」

波久礼さんは名刺を、節丸さんに差し出す。

「--怪異探偵。波久礼ってどっかで聞いた事があるなと思った。字を見て思い出しました。『幽霊の足跡』の!」

「何だお前、コイツの事知ってるのか? 幽霊の足跡って何だ?」

「幽霊の足跡、波久礼さんの著書ですよ。心霊現象の背後にある、現実の犯罪の影を記事にした本です。何回か警察に捜査協力して頂いて、感謝状も貰ってますよね?」

「いや、直接協力した訳ではーー。たまたま取材していた心霊現象の記事が、捜査に役に立ったというだけで。幽霊の足跡もWEBマガに連載してた記事を、まとめただけだだし」

「またまた、ご謙遜を。警察内部でもアメリカとかみたいに、霊能者に捜査協力をしたらって言ってる人も居ますよ」

「警察が霊能者に頼んなよ。テレビドラマじゃねぇんだから。それこそ、税金の無駄遣いじゃねーか」


「いやいや、確かに眉唾な霊能者も居ますけど、実際に捜査に有益な情報をもたらす霊能者も居ますよ。日本国内でも、そういう霊能者の言葉が、事件解決後に裏付けられた事もあります。有名なのは1990年の大蛇脱走事件。当時、青森県むつ市のマエダ百貨店で開かれた『世界のヘビ・大爬虫類展』でニシキヘビが脱走したんです。体長5メートル、胴回り30センチの大蛇です。捜索は難航を極め、そんな中地元住民の白羽の矢が立ったのが、地元の霊能者木村藤子です。そして、木村藤子の助言通りにニシキヘビは発見され、警察からも感謝状が送られてます」

「節丸、お前、意外だな。オカルトとかにも精通してんだな。犯罪ヲタのオカヲタかよ。はははーきっしょー。マジきもー」

自分の変態ロリコン趣味は棚に上げて、良く節丸さんををけなせます。クズです。

「別にオカルトに興味が有るんじゃありませんよ。事件解決に霊能者が関わった事実がある。そういう観点から、犯罪捜索の一端として注目しているのです!」

節丸さんはそう熱く語る。

そんな2人を横目に見ながら、波久礼さんが申し訳なさそうに言った。

「あの、盛り上がってる所すいませんが、俺は霊能者じゃないですよ」

「お前、幽霊が見えんだろ? 霊能者じゃねーか?」

「俺だけじゃ見れません。ニコマートを通さないと。しかも見れるのは左目だけ」

「でもニコマートを通しても、お前じゃ無きゃ見れないんだろ? それはお前の能力だろ?」

波久礼さんは真面目な顔をして考えて言う。

「……たしかに、言われてみれば。そうか俺は、霊能者だったのか……。あまり、そういう自覚を持って無かった」

波久礼さんは、少し天然なのかも知れません。とはいえ、アイテムを用いないと発動しない霊能力というのも面白いです。しかも、水晶とかお札なんかじゃなく、壊れたカメラとは。なかなかのオリジナリティ。

「自信持てよ怪々探偵波久礼くん」

凪さんは、波久礼さんの肩を叩き馬鹿にしたように言う。

「怪物くんのOPみたいに言うのやめて下さい。怪異探偵です。別に落ち込んではいませんよ」


それから私達は各部屋を見て回った。


最近知れた場所なので、肝試しの侵入者で荒らされた所なんかはまだ無く、廃墟にしては綺麗ではある。時間によって朽ちたままの姿を保っている。

確かに不気味では有るが、それだけとも言えた。

廃墟の中なんて、大体どこもこんなもんだろう。少し冷めたように、そんな感じがした。


特に変わった所も無いように思われたが、ある部屋で凪さんが「ん? なんだこりゃ?」と声を上げる。

それは、1階の南に位置するある部屋だった。

「何か有りましたか?」

私は訊く。

「この棚ーー」

と言って凪さんは壁に積まれた椅子の山の隙間に、スマホのライトを向けている。

「なんですか?」

「この奥に扉ある。隙間から見える」

凪さんは何かを感じだのか、椅子を退け出した。


ーーすると、その奥からドアが現れた。


ドアを開けると、強い光が差し込んだ。

そこは調理室だった。


10畳有るか無いかくらいの、ラブホテルにしては割と大きいんじゃないだろうか?と思わせる調理室。

このラブホテルがそういう行為以外にも、レクリエーション施設的な一面も強かったのが分かる。


「ほら見てみな?」

凪さんが言う方向を見ると、巨大な業務用冷蔵庫が倒れていた。

「冷蔵庫ですか?」

「いや、そっちじゃ無くて冷蔵庫が元あった壁」

私は壁を見る。壁にはくっきり冷蔵庫が有った場所だけ、汚れが無く綺麗に長方形の跡が付いている。壁が日に焼けていない。つまりーー

「最近倒れたんですかね?」

「こんなもの、よっぽどの大地震じゃなきゃ倒れねえよ。そんな地震、起きてねえ。誰かが故意に倒したんだろ?」

「でも、足跡も私達の物以外無いですよ? 入り口がアレでしたし」

椅子が積まれていて、人は入る事は出来ない。


「此処を歩いたんでしょう。この上も、おかしいくらい綺麗だ。昨日今日拭いたように埃が無い」

波久礼さんが調理用の長テーブルの上を指先で撫でながら言う。

長テーブルは、冷蔵庫の前を越えさらに奥まで伸びて居る。

「確かにその上を通れば、床に足跡は付かないな。つーと、その窓から入って来たのか? それで、テーブルの上から冷蔵庫の天辺に手を掛けて、体重を掛けて倒した。デカイが、デカイからこそ、少し傾ければ自分の重さで倒れる」

その窓というのは、長テーブルの先に有る小さな小窓だ。テーブルと通路を隔てて有る。

凪さんはその窓を開け下を見た。

「ビンゴ。足跡だぜ。それも、最近付いた物だ。窓枠の足跡は拭き取ったみたいだけど、地面の足跡は消せなかったようだ。しかも、一種類。1人だ」

その足跡は、どこから来てるんだろ? 此処は私達が入って来た場所の真裏に当たるけど、ホテルの周りは木が迫っている。外から回れるのかな? 

私の疑問を代弁するように凪さんが訊いた。

「俺達が来た道以外で、此処に来る道があるのか?」

「有りますよ?」

そう答えたのは節丸さんだった。


「あっ? どこだよ?」

「凪さん達が来たのは、北側の道です。それとは別に南側にも道が在ります。僕はそっちから来ました。南側の道は北側と違い、荒れてはいますが北側よりずっとマシです。さすがに乗用車じゃ無理ですが、徒歩なら普通に歩けますから」

「なんだよ!俺達の後ろから来たんじゃねーのか、お前。ちゃんとした道あんなら、早く言えよ!! 俺は人間ブルトーザーみたいな真似をさせられたんだぞ!」

「早く言えよって、めちゃくちゃな。凪さん達と出会ったのは、ホテルに着いてからじゃないですか」

「まあいいや。とにかく誰かが南側から来て、窓から侵入しこの冷蔵庫を故意に倒したって訳だ。そして、此処にこの部屋が有る事を知ってた人物って事か。あの積まれた椅子に積もってた埃の量からして、ここ最近に積まれた物じゃねえだろ」

凪さんは節丸さんからライトを取り上げて、椅子の積まれていた部屋を覗き、照らし続ける。

「床の足跡を見る限り、俺達以外の足跡もあるから、椅子の積まれた部屋まで入ってる奴はいるようだが、この部屋(調理室)に足跡はねえ。誰も入ってねえって事だ。つまり、もし最近此処に誰か入ったなら、この部屋の存在を知ってる者。つまり、椅子をドアの前に積み上げた奴だろうな。まあそんな奴なら、冷蔵庫に指紋なんて残すような奴じゃないだろうけど、わざわざ倒すってんだから、何か中に見られたくない物でもあんだろうな。ーーとにかくこいつを起こしてみようぜ」

そういうと、凪さんは冷蔵庫に手を掛けた。

「俺も手伝います」

波久礼さんが言った。

「いい。いい。1人の方がやり易い。邪魔だ」

「でもーー」

「だから、いいって」

そういうと、凪さんは倒した椅子でも直すみたいに、業務用冷蔵庫をひょいと持ち上げた。


置き上がった冷蔵庫を皆で囲み睨む。

そして、皆そろって ゴクリッ と息を飲む。

何が入ってるかドキドキですが、きっとみんな同じ事を想像してます。


そう、中に有るのは少女の遺体ーー。


「誰が開けますか?」

私は訊く。

「誰でも良いよ。開けたいなら、ヤッちん開けたら?」

1人だけ、そんな事どーでも良い人が居ます。

「凪さんは、軽いですねぇっ!? ドキドキしないんですか?」

「え?だって MAX最悪でもJKの白骨だろ?」

ああ、さらっと核心をーー。それは、もっと溜めてから言えよ!

JKでも、白骨には流石の凪さんも興味が無いようです!

「幽霊はあんなに怖がる癖に、白骨は平気なんですね?」

「ああ。だって、もう骨だろ? 骨は何もしないよ」

「……そうですね。」

頭の構造がよく分からない。幽霊怖い癖に、超合理的思考。……サイコパスだ。

まあ確かに、普段死体触ってるしなぁ。

気を取り直して、私は両開きの大きな扉に手を掛ける。


「じゃあ、まあ、開けますよっ!」

と気合を入れて言って、


……そして、ゆっくりと扉を開く。


……ゴクリッ


「え?」

中を見て、思わず皆んな拍子抜けした声を上げる。


ーー中は綺麗さっぱり何も無い。


「何も無いですね?」

「下は?」


下段の扉も開くがーー。


「下も何も無いですね。綺麗さっぱりです。ハズレですね。それとも冷蔵庫も中身を出して、綺麗に中を清掃したんでしょうか?」

「うーん。この冷蔵庫を閉めた時に掃除されたままの状態なのか、後から何かを出して清掃したのか、見ただけでは分からないな」

と節丸さんが言った。


「ん? 待て」

そう言ったのは、凪さんだった。

冷蔵庫の中では無く、倒れてた場所を凪さんは見ている。

そこには、千切れた布切れが落ちている。

凪さんはそれを拾いあげる。紺の、たぶんポリエステルか綿ぽい布だ。

「布ですね?」

「ああ、割と新しい物だ。きっと、倒した時に引っ掛かって切れた物だろ。節丸、鑑識ーー」

「マジで勘弁して下さいよ。警察組織を私物化すんの」

「じゃあ、良いよ。捨てるわコレ」

「ちょ、ちょちょちょっちょっと! もう、しょうがないな。なんとかしますよ。しかも素手だし。後で、凪さんのDNAのサンプルも下さいよ。コレからも出るだろうから」

節丸さんはしょうがないなという言い方をしながらも、嬉しさが顔ににじみ出ている。

この犯罪ヲタめ。

ーーと、私はこっそり心の中で蔑むのだった。


節丸さんは自分のハンカチを開き、直接触れぬように布切れを持参したピンセットで挟んで、持参したジップ付きのビニール袋に入れる。バリバリやる気じゃないですか。


「あと、この冷蔵庫の中も一応、調べられたら調べてみろ。目で見えない物も、調べりゃ出てくるかも知れん。そーいや、目に見えないと言えば、波久礼 幽霊ちゃんはどうした? 何かうったえ掛けてこねえのか?」

「全然です。もうニコマートが反応しない」

「肝心な時に、ダメな幽霊ちゃんだな」



その後、節丸さんの来た道を皆で見に行った。

道路というより、ホテルへの抜け道に近い。


車が一台やっと通れるかくらいの未舗装の道を50メートル程進み、人1人通れるかくらいの脇道に入るとすぐに、舗装された私達が来た道とは別の道路に出た。

ただ、山を越える為の昔の山道の為に、車通りは全くない。車線も一車線。地元の人が使う生活道路だ。道の脇が車のすれ違いように、広くなっている場所があり、節丸さんはそこに車を止めていた。この道は、私達の来た道にも通じていた。


ホテルを調べに来た警察も、地元の人に聞きこの道を使ったらしい。


もし遺体を隠すのにあのホテルに侵入するなら、こちらの道の方が利便性は良い。


それから、節丸さんの車で私達の停めてある車の場所まで送って貰い、皆んなして地図に記された残り二箇所へ向かったがーー。


二つ目の、ガードレールの下には、何の装備も無しではとても下りられず。

トンネルも上に行くのには、トンネルに繋がる別の山から登らねばならず。

その日は諦めた。


その後、節丸さんは見つけた端切れを鑑定して貰う為に別れて、私と凪さんだけ波久礼さんの家に向かった。さっき撮った幽霊の写真を現像する為にだ。ワクワクする。


担当事件外の鑑定をして貰うのに、色々裏で手回しが必要らしい。節丸さんも大変だ(まあ、半分以上自分の趣味だけど)。

節丸さんは、DNAサンプルとして、凪さんの髪の毛を1本引っこ抜いて、新しく出したジッパー付のビニール袋に入れて持って行った。

まあ、そのサンプルは無意味と終わるだろうし、端切れからは凪さんのDNAは出ないと思いますけど。



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