怪異探偵とタクシー怪談 ③
ミホさんと別れて、社長さんに貰った資料の中の地図を見ながら、私達は木村さんが少女達を乗せ巡った心霊スポットへ向かった。
木村さんのノートパソコンも、何か手掛かりが残されてる可能性があるので借りて来た。
今見ている地図は、あの少女達が赤丸を記した、木村さんの地図だ。地図は警察に提出後、返って来たが、生徒手帳の方は、返って来なかったそうだ。
赤い丸の場所を車中でスマホを使いネットで調べたが、木村さんが思った通りそこは心霊スポットであるなどという噂はない。……つまり。
「あのRZ、ニーゴーの割に早えな? マフラーはクロスチャンバーに替えてあるみてだけど、他も弄ってんな。きっと」
私が必死に考えてるのに、
凪さんは、のんきに先導する波久礼さんのバイクを見てなんか言っている……。
「凪さん、少女の幽霊達が記した場所は、心霊スポットなんかじゃないみたいですよ」
「だろうな。本当に木村が見た幽霊達が居たとして、幽霊が団体で心霊スポットを回るなんて聞いたことがねえ。そういうのは、大体……」
凪さんも、同じ事を考えているようだ。
ちっ、このロリコン野郎何も考えて無い振りしやがってーー。
「はい。彼女達が伝えたかった事。それは、そこに彼女達の遺体が有るって事じゃあ……」
「ああ、そう考えるのが普通だろう。もしくは、殺された場所か」
「そして、彼女達の関係ですがーー」
「制服も年齢も違うとなれば、後は関連性を考えると、同一犯により殺されたか......。そうなると、これは連続殺人事件て事になる。彼女達は幽霊になってんだからな。ただ、実在する行方不明の少女の生徒手帳が見つかったんだから、警察も幽霊が教えたとはしないにしても、多少は地図の記しの場所を調べてる筈だ。なんらかの行方不明の真相を知る者の仕業だと考えてな。異常な性癖を持ったシリアルキラーなんかは、被害者の遺留品や殺害に関わる品を、記念品や戦利品として持って置く習性がある奴がいる。犯行時の興奮を再び味わうネタにする為にだ。それと同じように、犯行現場や遺体を遺棄した場所を、記録して居たって可能性もあるだろう。また警察を挑発する為に、犯人が挑戦状を送るなんて事も良くある。自己顕示欲からだ。その類の事を、真犯人がしたとも警察は推測したろうが、それをしたのが少女3人となるとーー。おかしくなるな。やはり警察は木村を疑うか……。ーー警察は木村への疑いを完全に解いたのか?」
凪さんは1人呟くように考え込む。
その辺は、調べないと分からないだろう。……管轄は違うだろうが、高城さんに訊けば何かしらの情報が得られるかも知れないな。
「ーーでも警察からは、印の場所から何かみつかったなんて発表は無かったようですよ。今、話を聞きながら検索して見ましたが、確かに地図の場所の捜査はされたみたいですけど、そこで何か発見されたって話は無いです」
「まあでも、警察が見落としたって事も十分に有り得る。かなり古い事件だし。あ幽霊事件発端んで、そこまで、徹底した調査が行われたとも思えねえしな」
「そうですね」
「今回の幽霊無賃乗車事件については、常識に照らし合わせれば、行方不明者の所持品を持った生きた人間がタクシーに乗って、なんらかの理由があって置いて行ったと普通は考えるだろう。そして、遺体のある場所をわざわざ借りた地図に記した。これが1番しっくり来る筋書きだ。ただ、それやったのが女子高生風の少女が3人てのは、まったくしっくり来ねえ。本物の女子高生に見えるのなんて、20代前半位までだろう。夜間だし、化粧で見た目の若作りは出来るかも知れないが、幼さは作り出せない。喋れば、仕草や会話の内容で、何かおかしいと気付くだろう。生徒手帳の少女が行方不明になったのが10年位前だろ? 年齢的にタクシーに乗った3人と事件との関係性が見出せねえ。さっぱりだ。ーーもしあの波久礼って野郎が、本当に幽霊を見たり写せるなら、これから行く場所で何か手掛かりが見つかるかもな」
そうこうしている内に、私達は最初に彼女達が立ち寄った、藪の中の廃墟に着いた。
車とバイクを道の端に寄せ停めた。
「お前のRZ、ニーゴー(250cc)の割に速ええな?」
バイクを停め降りて来た波久礼さんに、凪さんが訊く。
それより、今考えてた事件の話をしろよ!
「一応エンジンはサンゴー(350cc)にスワップしてありますからね。足回りもTZのスポークの奴に変えてるし。草薙さんのダットサン510も年代の割になかなか」
「おお、ちょっとエンジンをなーー」
波久礼さんも嬉しそうに話に乗らないでーー!!
私は車の事なんかより、幽霊が見たいdeath!
「車の話なんて、どうでも良いから早く行きますよ! まだ全然手掛かりらしい手掛かりは、何も見つかって無いんですからね!」
「はいはい。ヤッちんは仕事熱心だなぁ。でも、本当に此処なのか? 見えんの藪だけだぞ?」
確かに、藪の中の廃墟とは言う物の、背丈以上の藪が生い茂り、廃墟らしき物はまるで見えない?
「いや、場所は此処で間違いないよ……。」
波久礼さんが意味深な声で言う。
「本当かよ?」
凪さんにそう訊かれた波久礼さんは、ニコマートのファインダーを覗いていた。
「何か見えているんですか?」
「ああ、女の子だ。10年前に行方不明になった子だと思う。事前に調べた資料で見た子と似ている」
「私にも見せて貰えますか?」
「良いけど何も見えないと思うよ」
私は波久礼さんに渡されたニコマートのファインダーを覗く。
「うーーーーーーーーーん?」
何も見えない。壁のようにそそり立つ藪だけだ。
「見えないだろ? ニコマートは霊に反応してミラーが下りるけど、ファインダーを通して見れるのは俺の左目だけなんだ。俺でも右目じゃ見れない」
「何だよそれ。お前にしか見えないとか、なんかインチキ臭えなぁ。それじゃ、何とでも言えるじゃねーか」
「ーーちょっと、凪さんっ!」
「ああ良いよ。インチキじゃ無いのは、後で証明書するから。それよりーー」
波久礼さんが、私から返されたニコマートのファインダーを覗くと、神妙な顔になる。そして続ける。
「……ファインダーの中の子が、藪の奥をゆびさしてる。取り合えず俺に着いて来て下さい」
何やら、藪の奥にあるようである!
「ええー!この藪の中を行くのか?」
凪さんはあからさまに嫌がる。
……今回はとことん邪魔である。
心霊スポットで無駄にキャーキャー言うだけの女くらいウザいです。
「彼女が手招きしてます。呼んでます」
そう言うと、波久礼さんはファインダーを覗いたまま道に沿って歩き出した。
波久礼さんはお仕事モードに入ったようで、グズる凪さんは眼中に無いようです。
私はその後を追った。
しばらく進み振り返ると、後方で立ち尽くしている凪さんが見える。
「もう凪さん、行きますよ! 」
「……マジ行くの? 汚れちゃうよ?」
「今回ホント役に立ちませんね!!」
凪さんは私にそう言われ、渋々後を着いてきた。
マジで今回使えねえ。
私達は波久礼さんの後に着いて、藪に沿って道路を進む。
暫く行くと波久礼さんが止まり、藪の方を向く。
「こりゃ林道の跡だな。廃道って奴だ」
後ろから覗くようにして、追い付いた凪さんが言う。
草木が生えてしまっているが、確かに道の有った形跡がある。
他より藪の密度が薄く、奥に行けなくは無い。
「この奥なんですか?」
「分からないけど、彼女はこの奥を指を指してる」
私の問いに、波久礼さんはそう答える。
「そのJK幽霊ちゃんに訊いてみろよ? 何があんのか。そうだよ! 訊きゃ良いんだよ。ズババッ! と確信をさ。俺、頭良いなぁ」
「俺はニコマートのファインダーを通し霊体を見れるけど、声は聞けないんです。だから、彼女はジェスチャーで教えてくれているんです。ただそれは、曖昧だったり、伝わり辛い。文字なんかで訴えかけて来ても、殆ど単語です。文章なんてまず無い。多分、彼らは論理的な思考というより、思いで動いているからだとは思います。この世に残した未練てヤツですーー」
「何だよそれ? 不完全な特殊能力だな。つか幽霊ジェスチャー使うの? やっぱ、そういう所はJKなんだな。なんか、ちょっと萌える(死語?)。萌ぇ~萌ぇ~。ひゃひゃひゃっ」
凪さんは怖いと言いつつ、いつも通り緊張感がないです。
この先にもしかすると、行方不明の女の子の遺体が有るかも知れないのに!!
私と波久礼さんの緊張感は、なんでこの人には伝わらないんだろうか?
ただ遺体を見つけるんじゃない。幽霊が教えた場所から、現実的に遺体が見つかるなんて、超絶オカルトファンタジーが実現しようとしているのに!!
なんで、それが分からないのか!!
「どうしたの? やす子ちゃん。緊張感してるの? 怖いならここで待つかい?」
と、別ベクトルで緊張感している私を心配して波久礼さんが訊いた。
やす子ちゃん? ああそうだ。私、今日から薬師丸やす子だった……。
なんかテンション下がるなぁ……。
……ああ、めちゃ緊張感をぶち壊す私の新しい名前。涙がちょちょ切れるぅーー!
絶対、後で凪さんをブチ殺そう!! 私は静かに心にそう決めた!
「どうしたの? やす子ちゃん、急に戦闘モードみたいな顔して、握りしめた拳を見つめて?」
「いいえ、大丈夫です。行きましょう! 私の事はヤッちんで! ヤッちんで、絶対にお願いします!!ーーヤッちんで!!」
「……う、うん。わかったよ。ーーヤ、ヤッちん、本当に平気かい? なら良いけど、藪の中は足場も悪いから、残ってて貰っても全然構わないよ。女の子が行くにはちょっときついかも知れないよ?」
「いえいえ、本当に平気です!」
1番面白い所を見逃す訳には行かない! 来るなと言われても絶対行きます!!
そんな中、またアホの子の凪さんがーー
「じゃあ、俺はお言葉に甘えてーー。革靴で来ちゃったし」
「却下です! 凪さんも行くんですよ!! 私だって今日はお気に入りのドクターマーチンのブーツなんですからね!」
何かあった時に、凪さんが居ないと困るでしょっ! 大木倒れてたりとか、大きな岩が道を塞いでたりとか! まったく!!
「早く行きますよ!」
私はぐずる子供の様な凪さんの腕を引いた。
まあ、私達はとにかく、その廃道を行く事にした。
つづく




