表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
鬼女の宅急便 事件
11/56

鬼女の宅急便 事件 ⑥ 《完》

「大丈夫だと思います。保護されて直ぐ病院で検査されてますが、虐待の痕は見られないです」

節丸さんが言った。

節丸さんも私達と同じ事を疑っていた。

被害者の共通点は、虐待を受けていた事では無いかという事だ。でも、違ったらしい。友美ちゃんは虐待を受けては居なかった。

「そうか。ならいい」

そうは言ったが、やはり気になり凪さんは節丸さんを連れて友美ちゃんの家に向かった。もちろん私も一緒だ。


友美ちゃんの家は地区こそ違えど、あの空き地の目と鼻の先にあった。

二階建てのアパートに母親と2人で住んでいた。父親は居るが離婚をしていた。

途中の車内で

「原因は? 」と凪さんが聞くと

節丸さんは「父親の不倫です」と答え「DVなんかは無かったようです」と捕捉した。

節丸さんの話では、父娘の仲は良かったようで、現に今も母娘には充分な養育費が支払われているそうだ。


「すいませんこの度はーー」


リビングに通されて、お茶が出される。

「友美ちゃん、この人覚えてる? 君を助けたおじさんだ」

と節丸さんが、凪さんの紹介をする。

「うん」

「おじさんじゃねぇーよ!」


「いえ、捜査協力をしてくれた草薙さんが、様子が見たいというもので」

「ああ、これ。お見舞いです」と凪さんは途中で買ったケーキの箱詰めを渡した。

母親は丁寧に頭を下げて、お礼を言った。

友美ちゃんはソファに一緒に座る母親の腰に手を回し、ベッタリくっ付いて甘えている。

「もう、帰って来てからこの子ずっとこんななんです。赤ちゃんに戻ったみたいね。でも、最近夫と離婚したり再就職したりとかまってやれなかったからね」

この様子なら、母親とも上手く言ってるようだ。

「ネコは? 子猫」

母親の陰から、友美ちゃんが母親に言う。

「え? 猫?」

「ああ、ウチに居ますよ。空き地の黒い子猫でしょ?元気よ。 連れて来る?」

と私が言うと

「ダメよ。このマンションペット禁止なんだから」と母親は友美ちゃんに言って、

私に「すいませんね」と申し訳なさそうに言った。

友美ちゃんはそう言われ、悲しそうな顔をした。子猫の行く末を心配しているのだろう。

「ウチで飼いましょうか?」私は気付くとそう発していた。

「え? ウチで」と凪さんが嫌な顔をするが、

「友美が見に行っても良い?」と友美ちゃん言うと、凪さんの顔色が変わった。

「良いとも! いつでも来なさい」

「本当に!」

「ああ」

変質者に口実を与えてしまいました。神様ごめんなさい。私は複雑な気持ちになりました。

「じゃあ、これあげるね。友美の宝物」

そう言って、凪さんにビー玉みたいな透明な玉を手渡した。

「いや、それは貰えないよ。宝物なんだろ?」

「いいの。助けてくれたし」

その時「それ、遺留品の?」と節丸さんが言って続けた「それ君が発見された時に持ってたやつだよね?」

「え?」

「発見時にポケットに入ってて、友美ちゃんの物じゃ無いっていうから一応鑑定にだしたんですけど、特に何も無かったんで返されたんです」

「へぇー」

つまり、それはあの屋敷から持って来た物ーー。


「ヤッちんにこれあげようか? ビー玉かな?」

帰って来た凪さんは、あの玉を掲げて電気の光に透かし見ながら言う。

結局、玉を貰って来てしまった。節丸さんは仕事に戻った。

「なんか、変わってます? それあの屋敷に有った物ですよね?」

私は飼う事になった子猫と戯れながら答える。

「うーん。ガラス玉にしては重いかな? 水晶とかかな? 水晶がガラスより重いかは知らんけど」

そう言って、私に「あげる」と玉を手渡した。

確かに大きさにしては重い。不思議な玉だ。

「凪さんが持ってたらどうですか? 凪さんにくれたんだし」

「要らないよ。きっと俺は失くしちまう」

「知ってます? マヨイガってーー」

「あの遠野物語の? 」

「そうです。私今、ふと思ったんです。あの家ってマヨイガみたいじゃないですか? 時間を彷徨う。もしマヨイガなら、そこから持って来た物を持ってると幸せに成れるらしいですよ」

「そうか、じゃあ俺が持とう」

そう言って、凪さんは私の掌から玉を摘み取ると自分の胸ポケットに入れた。

「現金ですね」

私がふざけて言うと、

凪さんは真面目な顔をして、私に顔を寄せ

「俺の幸せが何か分かるかい?」と訊いた。

「美少女に囲まれる事でしょう?」

「違うよ。ヤッちんが幸せでいる事だよ」

とメチャ自分に酔った顔で、仮面の大佐みたいな笑いを浮かべ言った。

「なななな、何ですかそれっ?」

からかわれているのは分かっているが、いきなりの不意打ちに変にキョドッてしまった。くそっ。

それが言いたかっただけですか! と私は心の中で突っ込むが、

ーーでも、悪い気はしないので、まあこれ許してあげましょう。


翌日正午少し前に、事務所のチャイムがなった。

出ると初老の優しそうな男性が立っていた。頭は白いが背筋はピンと伸び、高そうなスーツを着ている。身なりから、随分と裕福な感じがする。

探偵の依頼なら、報酬が期待出来そうです。

「ご依頼ですか?」

と、最高の笑顔でおもてなし。

「いや」

「違うんですか?」

見れば、男性は片手に菓子折りの入ったデパートの紙袋を持っている。

「あの、すいません。新沢友美の父です」

そう言って、男性は頭を深く下げた。そして

「娘がお世話になりました。せめてものお礼がしたくて」

と続けた。


友美ちゃんのお父さんを事務所の応接間に招き、コーヒーを出す。

ソファーに座った父親は、持って来た菓子折りをつまらないのですがと

差し出した。

「お持たせで失礼ですが」とお茶受けとして、貰った菓子折りを皿に分けて出す。

1つずつ包み分けられたマカロンだった。

「君の分は?」

「いえ、私アレルギーが色々ありますんで。お気になさらずに」

お父さんは改めて

「今回は本当にありがとうございます」と深く頭を下げた。

「いや、俺達は見付けただけですし」

凪さんが言った。

「失ってみて気付きます。家族の大切さに。欲しい物は何でも手に入れて来たつもりでした。そして、今回も手に入れ、自らの傲慢さで失った。それを再び手に入れるには、今までみたいな努力ではダメです。どうしたら良いか分からない。でも、精一杯やるしか無い。無いんです」

お父さんは今の気持ちを一通り吐き出すと「すいません。今仕事の途中でして」と帰って行った。

「また元の家族に戻れると良いですね」

「そうだな。大変だろうけど、でもきっとあの人なら、元に戻れるさ」


友美ちゃんが保護されてから、1週間が過ぎた。

当然犯人は未逮捕のままであったが、芸能人の不倫問題が浮上したり、新たな事件に押され、桐箱事件への世間の注目も薄れ初めていた。

ちなみに子猫の名前は、雄の黒いモフモフなので

ノワールとかジ○とか ブラック○ラえもんとか、

色々考えた末、一周回ってクロになった。

まだ小さいので、呼び名は通称ちびクロ君である。


「ヤッちん、今晩は魚が食べたいな」

「魚は面倒臭さいから嫌です。カレーです」

「カレー? カレーは嫌いじゃ無いけどさぁ」

私達はいつもの商店街を歩いている。平穏な日常っす。

と、思ったんですがーー

「ちょっと待って下さい」

「え? 何?」

と凪さんが言った瞬間。バタバタと羽音をさせて青に赤いラインのヘリコプターが頭上を通り過ぎた。

「警察だ」

凪さんがつぶやくように言う。

「たぶんアレですよ」

私は家電量販店のテレビを指差す。

そこには、友美ちゃんのマンションが映っていた。男が友美ちゃんを抱えベランダで何か叫んでいる。手には大きなサバイバルナイフを持っている。まさか、と思った。あのお父さんーー。カメラがクローズアップする。いや、違う。見たことが無い男だ。

「あれじゃ、SATも配置出来ないな。マスコミの所為で、マンション全体が丸見えじゃねえか」

凪さんはスマホを取り出し、電話を掛ける。

「節丸、テレビのアレはどうなってるんだ? 取り込み中? 分かってるよ。友美ちゃんを拉致してる男は誰だ? あ、え? そんな奴知らねーぞ」凪さんはしばらく黙って電話を聞いて「ああ、分かった」と切った。

「あれ誰なんですか?」

「母親の勤め先の元上司だそうだ。一時、母親と恋愛関係にあったが、別れた後もしつこく付きまとい、結局エスカレートしストーカー化して、訴えられて裁判所から接見禁止命令が出てる。仕事もクビ。父親と同じように、最初に今回の容疑者にも上がっていたが、父親と同じにアリバイ有りで外されてる。完全ノーマークだ」

「お母さんは、どうしたんですか?」

「重症を負っているが、命に別条は無いみたいだ。通報をしたのは母親のようだ。玄関前で帰宅した母親を刺して、そのまま立て籠もったらしい」


「とにかく急ぎましょう」

此処からなら、事務所に帰って車で急げば15分程度だ。


急ぎ、友美ちゃんのマンションへ車を走らせる。

「どちらへ?」

凪さんがカーナビの指示と違う方向に進んでいる事に気付く。

「今の時間帯は道が混んでるし、俺が乗り込んでどうこうする訳にもいかないだろ」

凪さんは、雑居ビルの駐車場に車を停める。此処から友美ちゃんのマンションまで歩くにしても、まだだいぶ遠い。

凪さんは車を降りて、走り出す。私も急いで後を追う。信じるしか無い。

凪さんはビルの非常階段を登る。最上階ま出来た。


はぁはぁ! 息がきれる。

「凪さん、何してるんですか?」

「此処から、友美ちゃんと犯人の様子が見える」

「え?」

確かに、絶妙なビルの合間から友美ちゃんのマンションは見えるが、友美ちゃんと犯人らしき物が確認出来るだけで、断言は出来ない。此処からマンションまで直線距離で500mは裕にあるだろう。

「見えるんですか!?」

「ああ」

凪さんは、どんな目をしてるんだろう? 確かに水晶体を筋肉が動かして物を見るが、筋肉で視力がこんなにも向上する物なのだろうか?

「で、どうするんですか?」

「これだ」

そう言って、凪さんがスーツの胸ポケットから出したのはあの不思議な玉だった。

入れたまま、忘れていたのだろう。

「それを?」

「ヤッちん耳塞いで」

「え?」

「早く!」

「あっハイ!」

「ヨシ! じゃあ行くぞ!!」そう言って

凪さんが手を振りかぶり、

「これを、こうだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」

とマンションへ向かい投げる。


ビュンッ!


玉は風を切り裂き飛んで行く。


凪さんは額に掌を当てて、陽の光を遮り玉の行方を見た。

「よしっ!」

ガッツポーズを小さくして言う。

「当たったんですか?」

「ああ、帰ろう」


何事も無かったように帰宅し、夕飯の支度をする。

結局、今日は魚にした。

帰ってもう一度買い出しに行くと、魚屋さんがカツオの叩きが旬だからとオマケしてくれたからだ。

結局、友美ちゃんは無事助けられたようだ。結果だけネットで確認した。

めでたしめでたしかな?


カツオの叩き、他、のオカズとご飯とお味噌汁を出して、私にはブラックサンダー1袋の食卓を囲みテレビを点ける。

「ああ、さっきのですね」

友美ちゃんのニュースがやっていた。

「あの玉無くなっちゃいましたね。まあ、幸福は逃しましたけど、友美ちゃんが助かったなら。あれ?」

犯人の顔に途中から、突然モザイクが掛かる。

ニュースに変な演出だな。未成年でも無いし、そもそも今まで丸見えだったし?

次の瞬間。モザイクの裏で犯人の頭が、大きく後ろに弾かれて、そのまま倒れ込んだ。

そこから編集されて、次にリポーターがマンションの前に立ち

「ただいま犯人の死亡が確認されました! 額を撃ち抜かれ即死だそうです! 警察の狙撃部隊でしょうか!? まだその辺の確認は、取れてません。 拉致されていた少女は無事です!! 無事ですっ!」

とマイクに向かって絶叫するように言った。

「殺しちゃったんですか?」

「え? うん」

「狙って?」

「ああ」

「友美ちゃんの目の前ですよ! トラウマになったらどうするんですか!?」

凪さんはカツオの叩きを食べながら言う。

「大丈夫さ。どうせ、母親の命に別状が無いし、あの男は僅かな期間で出て来る。その方が、あの親子にとっては精神的な負担が大きい。また来るんじゃないかと、これで恐れて生きて行かずに済む」

「もう」

まあ、でも確かに一理ある。

ちなみに、あの距離で男の頭を撃ち抜いた事からも、凪さんの投げた玉は、弾丸をライフルで撃ち出したのと同等かそれ以上の威力でしょう。銃から発射される弾丸の速度は、音速を超えるという。世界最速のピッチャーでも約時速170kmですから、完全に化け物ですね。ひええ……。

「ヤッちん。あの屋敷は、この事を予知出来てたのかな?」

「え?」

「だって、友美ちゃんは今日の事件まで虐待もされてないし。命の危機を予測させるような事もない」

「あー、うーん。あらかじめ知っていたのかも? 予知ではなく」

「それ、どういう事?」


「何が起きるかが、全部分かってるって事です。つまり過去から来て、虐待を受けている子を見付けてたんじゃなく。未来から来たんじゃないかって事です。だとすれば、屋敷が来た未来までの事は分かる。私、色々考えたんですけど、例えば遠い未来で人口が危機的に減ってしまい。それを補う為に超法規的処置として、過去で死ぬ筈だった人を連れに来たのでは? 確かに、未来は変わるけど、別の人類の滅びない時間軸の世界が新たに出来るとも考えられる。みんな、死んでる人間だから、それまでの過去が変わる事も無い。子供を産ませる為っていうのは、屋敷がではなく、未来で、では無いんでしょうか? 屋敷が言った、私達の不幸に繋がる事になるっていうのは、つまり人類が滅亡してしまうという事なのでは?」

「女の子だけや、身に付けている物を家族に贈るのは?」

「例えば、時間を跳躍するのに、性別や体の体積なんかが関係するのでは? 服もある素材の物しかダメとか? 親に贈るのは戒めの為なのでは?」

「友美ちゃんだけ、虐待じゃなかったのは?」

「歴史が多少変わったんじゃないですか? 屋敷の世界の歴史では、あの男が母親と再婚して虐待死させたのかも? 確かめる手立ては無いですけど」

「あの屋敷は一体なんだったんだ? 本当にマヨイガだったのか?」

「 遠野物語に出て来るマヨイガでは無いでしょう。誰か屋敷を陰で操っている人がいると言うより、屋敷自体に意思が有ったみたいに見えました。未来の、AI搭載のタイムマシンだったとかーー。どうでしょう?」

「凄いねぇ。ヤッちんSF作家とかなれば?」

「バカにしてます? なっても、B級止まりですよ」

あまり凪さんは、あの屋敷の正体には興味が無いらしい。

「でも、だとすると俺らの所為で人類が滅亡するかもって事だね? 遠い未来だけど」

と凪さんは言ってカツオの叩きをもう一枚口に含む。

確かにそうなる。でも、もし遠い未来では無かったら。日本の出生率は年々減っている。例えば百年後位なら……。


まあ、それはともかくとしてーー。


今回の事件で、世界は元の時間軸の世界に戻ったのか。それとも、元の時間軸世界こそ、あの屋敷の思惑通りに進んだ世界で、別の時間軸の世界を私達が新たに作ってしまったのか。また全然違い。時間は1本道で、ただ今見ている世界に過去と未来が繋がるだけなのか。その真実は神のみぞ知るところなんでしょうね。


でも1人の人間の生き死にでは、世界は変わらないように思えても、長い時間の上ではどんな人間の生き死にも大きく影響してくるのは、なんか面白いですね。



その後、ふとPEN太郎で華子を写していたのを思い出し、凪さんに頼み現像に出してみた。

そこには、ちゃんと私が出会った華子が写っていた。




おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ