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ロリコン探偵と恋する人魚姫  作者: 0(ナイ)
ロリコン探偵と恋する人魚姫  【凪編】
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ロリコン探偵と恋する人魚姫

私は今、凪さんと某ファミレスに来ている。人を待っている。

そして、それとなく彼の横顔を観察する様にアイスコーヒーを飲みながら見ている。何時間見ても見飽き無い横顔だ。


草薙凪、彼は探偵である。

身長180cm体重71kg年齢不詳(10数年前の写真から姿変わらず)。実年齢は三十代位なのだろうが、俳優? とすれ違いざまに婦女子が振り返る、超スーパー、と同じ意味を日本語と英語で2回続ける程の超スーパーイケメンである。趣味はクラシックカメラ集め。最近のお気に入りは、手に入れたばかりのハッセルブラッドSWCだ。趣味もイケメンだ。


ーーだが彼はロリコンであった。


しかも、半端なロリコンでは無いそうだ。

彼の言う所によれば、本物のロリコンとは決して少女を傷つけ無いのだそうだ。

真のロリコンは少女を守る為の存在であり、触れる事すら許され無いのだ。

だから、少女を性欲の対象にする奴は本物のロリコンでは無いという。

彼の望むロリコンの最高の幸せとは、美少女を護り打ち死ぬ事である。

ちなみに彼の好きな映画は、ルパン三世カリオストロの城とレオンである。


そんな私はと言うと、彼の唯一無二の助手でヤッちんと呼ばれている。

これまた、泣く子も黙る1300年に1人の超絶美少女だ。

最初はヤオイちゃんと凪さんに呼ばれていたが、別の事も意味している事が分かり実力行使で止めさせ、何となくヤッちんに収まった。


彼は少女からの依頼(もしくは少女絡みの依頼)しか受けない。美少女だとなお良い。

そんな彼がどう収入を得ているか? 当然、依頼主である少女からは貰わない。


それを今から実戦を交えて、説明する。


ほらやって来た。

青い顔をして今入って来た男が今回のターゲット上田保(27歳)。

都内で小学校教師をしながら、他校の女子小学生にストーキングしているクズだ。親は近県で同じく小学校の校長をしている。

彼の前に、凪さんは今まで集めた写真などのストーキングの証拠の品々を並べて見せる。

「これ分かりますよね?」

優しく微笑み、1枚の紙を出し言い続ける。

「もう彼女に近付かないという約束、示談金100万の支払いの承諾、が、これに書かれています。署名願えますか? 脅迫ではないですよ。これから警察に行っても結構」

「100万ッ!? そんな金払えるか!」


「じゃあ、警察に行きますか? それ程の重い罪には問われませんが、失う物は少なくないですよ。お父さんだって当然無事では済みませんね。マスコミのいいネタですね」

「あなただって、可愛いお嬢さんを連れてるじゃないか。まだ未成年だろう?15? いや、もっと若いだろう。こんな子を連れ回すのは犯罪じゃないんですか? 義務教育期間でしょう? あんたもどうせ同じ穴のムジナなんだろ? あんなガキの依頼を受けるなんて。 臭いで分かるんだよ!」

私は随分若く見えるらしい。可愛いと言われるのは悪い気がしないが、出来れば綺麗なお嬢さんとか美しいお嬢さんと言われたいものだ。


凪さんはそんな私の無言の訴えなど無視し、微笑みテーブルの上の上田の手をそっと握る。

「ちょっ、ちょっと!!? えっなに......!! ぐあっ! うっうぅーー!!!!!!!!!? あああああああぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!」

上田は苦悶と恐怖の顔で凪さんを見る。

ミシッ……。上田の手の骨の軋む音が聞こえる。

凪さんは相手を威圧するように低く重い声で言う

「お前みたいなモンと俺を一緒にすんじゃねえよ。 大人の女に相手にされねえからと、思い通りになるだろうと高を括り少女を狙う奴とな。お前らはまがい物なんだよ。俺は、下は物心付いたばかりの幼女から、上はもはや死の間際の100歳過ぎの老婆まで、オールマイティでモテるんだよ。ブサキモのゴミのお前とは、遺伝子レベルで違うんだよ。書名するのか? しないのか?こっちが大人しくしてる内に決めてくれよ。それとも此処じゃ何か? もっと静かな、誰もい無い場所の方が良いか?」

全然大人しくしてないですがーー。私はそう心の中で凪さんにツッコミ、騒ぎを聞いてやって来たウェイトレスに謝り大丈夫ですと追い返す。


上田はその後大人しく震える手で署名し、明日中には示談金を指定された口座に振り込むと約束した。まあ当然だろう。凪さんの馬鹿力で手を握られればーー。巨大な万力で挟まれたような恐怖を感じたに違いない。実際、本気を出せば凪さんは人間の頭くらいなら、卵を握り潰すように素手で潰せるだろう。


示談金は依頼者の保護者に話を付けてあるので、報酬として満額こちらに入る。示談が成立してしまえば法的に問題は無い(凪さん談)。保護者自体からも料金を取れば何かとトラブルも起きる可能性も有るが、保護者からは全く料金を取らないので保護者側から問題になる事もまず無い。親からすれば慈善事業のような物である。

こうやって収入を得ているが、中にはまったく収入の無い仕事もあった。

それは極たまに有る特別な仕事だ。


「ヤッちんお金が入るから、今日は鍋かすき焼き食べたいね。作れる?」

「ネットで調べれば出来るでしょう」

「凄いね、ヤッちんなんでも出来るね。このまま、スーパー寄って帰ろう」


帰りの車の中で今夜の夕飯の話をしていると、凪さんのスマホが鳴った。

「ん? なんだよ。せっかく夕飯の話をしてんのに」

運転しながら電話を受ける凪さんの顔色が変わる。

どうやら報酬の無い特別な仕事の依頼のようだ。

電話を切ると凪さんが言う

「ヤッちんゴメン。また面倒くさい仕事だわ。すき焼きも鍋もお預けだよ」

やはり、特別な仕事の依頼のようだ。

「高城さんからの依頼ですか?」

「さすが勘がいいね」

「だって凪さんが面倒臭い仕事って言う時は、いつだって高城さんからの仕事じゃないですか。まあ私はそれで食事にありつけるんだから良いですけど」


事務所に着くと、コートを着て震えながら高城さんが玄関の前で座っていた。

このビルは凪さん持ちビルで、凪さんの事務所しか無い。事務所の看板も無い。従業員も私しか居無い。無い無い尽くしだ。

外から見れば、地上6階建ての古い小さな空きビルのようにしか見えない。

だからは、依頼はもっぱらネット経由である事が多い。


「ちょっと、玄関開けといてよ! 真冬の寒い中、10分も待っちゃったじゃない!」

高城さんは立ち上がるとすごい剣幕で凪さんに詰め寄った。

「鍵開けといたら不用心じゃねーか。10分くらいなんだよ。分厚い皮下脂肪が有るだろう」

「ならヤッちんに留守番して貰えば良いでしょ!」

「こんな物騒な世の中、ヤッちんみたいな美少女を1人留守番させて置けるか。お前みたいなババアじゃねーんだから」

「アタシはまだ20代です! ああ、ロリコンには圏外ですもんねえ」

「良いから入れよ。事務所の前で営業妨害かよまったく」


高城さんは大人の女性として、見た目も中身も十分魅力があると思う。でも凪さんにとっては、嘗ての美少女の成れの果てくらいでしかない。


事務所に入り、凍える高城さんにコーヒーを出す。

高城さんは、ありがとね。と言うと、出された熱いコーヒーを啜り

生き返る! と言って1枚の写真をテーブルに置く。

「コイツは?」

「青田一樹。少し前に3年の刑期を終えて社会復帰した元犯罪者。現在21歳。この写真も最近のよ。出所した日に隠し撮りされた物」

高城さんの仕事は刑事さんだ。どういう立場なのかは詳しくは知らない。

そもそも、隠し撮りされた物って誰が何の目的で、刑期を終えている犯罪者の写真を隠し撮りするんだろう? その説明も無いし、凪さんも訊かない。2人は私が凪さん出会うよりずっと前から知り合いだ。2人に対して私には分からない事も多い。

「で、コイツは何をしたんだ?」


「少女達に対する性暴行と、その被害者の内1名の殺害。車で全国を放浪しながら仲間と犯行を行っていたから、各警察署の管轄が違う為に摘発が大きく遅れたの。その所為で被害者の数は大きく増えたわ。警察の大失態よ。裏が取れてるだけで13名、取れてないのを含めると20人を超すわ」

「そんな奴が、どうしてたった3年なんだよ? 」

「1つは未成年だった事、もう1つが親が権力者だった事。父親が青田重工の社長で、祖父は会長。一樹は青田家の末っ子だけど、上2人の兄とは違い学校では落ちこぼれ、家では両親からも出来損ない扱いで愛情を受けられず、で段々とドロップアウトして行き今回の結果。後、レイプ被害者達との示談が成立してるから、レイプの罪は問われず。唯一殺害された被害者も、殺意は無く傷害致死とされた。冬の山中に捨てられて凍死したんだけど、青田らは自分で逃げて探したけど見つからなかったって証言してるから殺意は証明出来ず。それで傷害致死の最低刑期のみ。しかも刑務所には行かずに、少年院送致。まあ弁護士の入れ知恵だろうけどね。遺体発見がマスコミに取り上げられてから逮捕まで時間があったからね。それなりに親は社会的なバッシングを受けたけど、圧力を受けほとんどマスコミも取り扱わなかったわ。示談も、示談って言っても、親の務める会社に圧力を掛けたり、暴力団まがいの人間に娘の将来を盾に脅させたりね。そのクズガキが出て来た訳。元々素行が悪く地元の半グレ集団のリーダーやってたし。犯行のメンバーもその仲間。ヤクザともズブズブ。今は保護司の所からも姿をくらましてる。きっと、また同じような事をするわ。親は見放したも同然だけど、自分達の地位を守る為にまた助けるでしょう。いつもみたいに頼むわ」

「OK! やってやるよ。少女の敵は世界の敵だ」

と凪さんは軽く言う。

「依頼料は凪君の商売を見過ごす事ね。やってる事、完全に黒に近いグレーだから。また今日もやったでしょ? 小学校教諭相手に?」

凪さんは大丈夫と言ってたけど、やはりダメらしい。

凪さんは少し考え

「まあ、いいだろう」と了承する。

少女の敵、それだけで凪さんには、仕事を受ける十分すぎる理由になる。変態ゆえの価値観である。


「あとこれ」と高城さんはさらに3枚の写真を出し続ける。

「当時の犯行メンバー。これも現在の姿よ。青田以外は、もうだいぶ前に少年院を出てるわ。大人しくしてたけど、青田の出所でまた何かしでかす可能性がある。最近、接触しているという情報も入っているわ。彼らにとって青田の存在は絶大だからね。今回以外でも、色々と青田の親が権力と金でもみ消してたみたいだし」

「つまり、コイツらもやれば良いんだな?」

「まあ、何かつるんでまた悪い事やってればだけど、それよりこの中の2名は、まだ10代の少年なのよ。当時は、まだ中学生と高校生だった。現在18と19だから、まあ少年か? ってのもあるけど。それでも、受ける?」

「変態じゃ無いんだ、俺は少年に興味は無いね。少女以外は何の問題無い」

「アンタ自分が変態の自覚無いのね。マジ引くわ。やってくれるなら、ありがたいけど」

「俺はただのロマンチストだ。まあ、中二病とか言われてしまうのは仕方ないかも知れないがな。そういう所がある自覚はある」

「全国の中二に謝って欲しいわ」


と言う事で、高城さんからお金になら無い特別な仕事を受ける事になった。

ただ、別に高城さんからの依頼が特別な仕事と言うわけじゃない。


「君、こんな時間にどうしたの?1人なの? 高校生? ん、中学生?」

車の窓を開け、そう聞いて来たのは写真で見た青田だった。

4組目でやっと引っ掛かった。

高城さんの情報によると、彼らは毎週末この近くの公道で良くカーレースをしているという。凪さんの話に寄ると走り屋とか言うらしい。私の今いる所は、そういう人達のナンパ待ちの子達が集まる所だそうだ。

「終電逃しちゃいまして」

私は事前に教わったようにそう答える。

「家どこ?」

「神奈川の〇〇です」

「なら、僕らが送ってあげるよ」


車に乗り込む。

運転してるのは、青田。助手席に友人の男。

後部座席に私を真ん中に2人。男は計4人だ。

青田以外も当時の犯行メンバーだろうか?

薄暗い車内や、この位置からでは顔が良く分からない。写真と似てると言えば似てる。


しばらく、走ると

「青田さん、まだ出て来たばかりじゃないですか?」

「ほんとこの人狂ってる」

「でも、またこのメンバーが揃うとはね。あの時は想像も付かなかったな。栄光のフルメンバーじゃん」

大音量の音楽の中で薄笑いを浮かべながら小声で喋る男達の声が聞こえる。

でも、聞こえないフリをする。高城さんの言ってた通り、懲りもせず犯行時のメンバーでまだつるんでるらしい。こっちとしては、好都合ではあるけど。


しばらく、無言の時間が続き

車が神奈川方面ではなく別の方向に向かっているのに気付く。


「あの道が違う様ですけど?」

「ゴメン、君今日帰れないよ。大人しくしてれば朝にはどっか近くの駅で降ろしてあげるけどね」

青田が今度はハッキリと聞こえるようにそう言った。

車は、その後どんどん人気の無い寂しい山道に入っていった。

街路灯も無い。此処は何処だろう?

「僕ら人殺してるから、変な事を考えちゃダメよ」

私の左横の男が言った。

「言っちゃって良いんですか?」

右横の男が言う。

「平気だろ? 俺らはもう刑を終えてるし。多分」

「人を殺したんですか?」と私はしれっと訊く。

「まあ、殺したっつぅーか。死ぬかな? と思ったんだけど、暴れるから山ん中に捨てたら凍死しちゃった。ちょうど今頃かな?」

「きっとその人寒かったでしょうね。きっと暗くて怖かったでしょうね」

「そうだね。君も寒いの嫌だろ? 暗くて怖いのも嫌だろう?」

「そうですね。でも、あなた達も怖くて痛いのは嫌じゃ無いですか?」

「え? 何コイツ? 肝座ってんね君。君みたいなのイジメながらレイプすんのマジ俺ら好きなんだよね。青田さんの出所祝いに君みたいな子に出会えるなんてマジ俺らチョーラッキーじゃん!」

「じゃあ今日は特別女体盛りでもやっとくか?」

青田はそう言うと山道を抜けた直線で一気にアクセルを踏み込む。

スピードメーターはグングンと止まる事なく上がって行く。


ーーと、突然ヘッドライトに人影が浮かび上がる。

それに気付いた青田の驚いた顔がルームミラー越しに見えたが、もう遅い。


ドンッ!!!という激しい衝突音を上げて、

避ける間も無く、一回転して飛び上がる。


当然、青田の運転する車がーー。


バンッ!と音を立てて車は道路に叩き付けられて

ガァァァァァーーーーーーーと数10メートル火花を上げて滑り止まった。


「大丈夫?」

そう言って、横転した車から凪さんが私を引きずり出してくれた。

車の前面中央がくの字に大きく凹んでいる。凪さんが蹴り込んだ後だ。

「ヤッちん怪我無い? 服血がついてるけど? ゴメンね危ない役をやらせて」

「彼らの血です。私が怪我なんてしない事は承知でしょう。しても、小さい物なら一瞬で治ってしまう」

「そうだけどさ」

「私よりも、凪さんそれ?」

私は凪さんの右脇腹を指差す。

そこには車の部品であろう大きな金属片が貫通している。

「ああ、これくらい平気だよ」

と凪さんは言うと、それを何事も無いように引き抜き、森の中遠くへと投げ捨てた。

開いていた傷はあっという間に閉じて、滲んでいた血も蒸発するように消えた。

「計画はこれで成功ですか?」

「ああ、君を襲う為にまんまと人気の無い山道に入ってくれたから目撃者も無いしね。これは、ただの自爆事故だよ。神奈川方面に向かい、途中から人気の無い道に入るなら、この道だと思っていた。そして、この直線できっとスピードを出すという事もね。車の位置も君に持たせた発信機から、確認出来ていたし。すべて完璧だったよ。これで彼らは無謀運転の末、不慮の事故死という事になる。誰かを轢いた跡があったとしても、それは被害者不明の不思議な事故という事になる。深くを追求する者も居ないだろう」


報酬の無い特別な仕事とは、つまり揺する相手が死んでしまう殺し前提の仕事の事だ。


「うっ、うう……」


と、車中から声がする。


凪さんが引きずり出すと青田だった。青田は怪我を負っていたが命には別状無い様だった。

「医者を呼べよ! 親父に言うぞ! どうなっても知らないからなぁ!!」

青田は声を上げる。

「お前、馬鹿だな。死んどけば、余計な恐怖を負わずにすんだのにな。まあ、俺らは選ぶ手間が省けて良かったけど。お前が1番活きがイイ」

凪さんはそう言って他の全員の死を確認すると、青田を隠して置いた自分の車のトランクに詰めた。


都内に戻り、事務所の在るビルの地下1階へ。

ビルには地下が有り、半分は駐車場になっている。もう半分は部屋になっている。

地下1階は、地下駐車場と繋がっていて車から出てそのまま入れる。


何も無い部屋。その壁6面は防水処理がされいる。

床は排水し易いように斜行が付き、排水溝もある。

そして、シャワーや水道などの設備もあり、それはまるで大きなユニットバスのようだ。実は目に見えないが、壁には防音処理もされている。そして、別室には牛丸々数頭吊るせるような巨大冷凍庫もある。

これを作らせたのはもちろん凪さんで、私の為に作ってくれた。


凪さんは、まだ暴れる青田を殴り倒し大人しくさせると

ボディシャンプーとスポンジを渡し、服を脱ぎ、全身をよく洗えと命令する。

そして、洗い終えた青田にT字のカミソリを渡し、全身の毛を剃れと言う。


「俺も片ずけのを手伝おうか?」

凪さんは気遣うように私に言う。

「凪さんは人を喰らう必要は無いでしょう」

「でも、君はーー」

「大丈夫ですから。部屋から出ていて貰えますか。あなたに人を喰らう所を見られたくは無い」

「……そうか。」

そう言うと凪さんは、もう抵抗もしなくなり力無く項垂れている青田の腕を掴んだ。

青田は狼狽えて言う

「ちょっと! 今度は何するんですかっ!? あっへっ!!!?ーーやめてぇ!」

ボキッ!

「ギャァぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

セロリでも折るように、凪さんは青田の腕を折った。

それから、同じようにして青田の四肢をへし折った。逃げたり抵抗出来ないように。

出来るだけ私が食べ易いように。

今回は多数で事故に見せけられそうだったからああいうやり方をしたけど、普段は1人なら此処で私の餌となる。複数の場合なら、食べ切れない分は冷凍庫に保存される。

死体が無ければ、殺人事件にはならない。行方不明として片付けられる。

高城さんも、ある程度は気付いてるんだろうけど深くは聞かない。ただ法の限界を超える犯罪者を、世の中から消してくれれば良いと思っているだけだ。


私は嘗て八百比丘尼と呼ばれていた。人間だった頃の名前は忘れた。もう1300年以上生きている。私が彼に不死と人間離れした怪力を与えた。だが、彼には私にある人を喰らう欲求は無い。


私は優しさから、人を喰らうのを止めた訳ではない。

前の世だって、喰らっていたのは生きる価値の無いクズの様な人間だ。


私が人を喰らうのを止めたのは、そうしていれば、いつか死ねる日が来ると思ったからだ。

飽きたのだ。永遠と続く孤独にーー


家族、愛する人、友人、何人も看取った。同じ思い出を語れる人が居なくなり、世界から自分を知る人が居なくなっても生き続けた。それが辛かったからだ。

私はいつか去ってしまう恐怖を恐れて、人との関わりを止めた。


だが今は、凪さんという私を知り受け入れてくれる存在を得て、生きようと思っている。彼と共に何十年何百年、下手したら何千年も変わらずに生きるかも知れない。

何も語る事も無くなってもずっと一緒だ。私は今、幸せに胸踊っている。


凪さんは、最後に青田の両目を潰した。

それは、青田への気遣いではない。私は服を汚さぬように、これから裸になる。

私に恥ずかしい思いをさせ無いようにという、凪さんの紳士的なレディへの気遣いからだ。

もしかすると私の裸を見られたく無いというヤキモチからかも知れない。

そうだったら嬉しく思う。



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