第十八話:魔王、カエル転生者と会話する
いつもの通り、私が『異世界街道』を巡回していると、ピョンと小さい生き物が草むらから飛び出てきて、私に話しかけてきた。
緑色の体。
アマガエルだ。
「おい、そこの可愛いネーチャン、ここは異世界か? ゲコゲコ」
どうやら、アマガエルに転生したらしい。
「そうですが、何でアマガエルに転生したんですか」
「知らんよ、神が勝手に決めちゃったんでい。ゲコゲコ」
「私は元に戻す力がありますよ」
「無理だよ。トラックに飛び込んで元の世界の体はグチャグチャ。ゲコゲコ」
「そのまま、天国に行けば良かったんじゃないですか」
「てやんでい! それじゃあ、つまんねーんだよ! おいらは冒険したいんでい。ゲコゲコ」
「アマガエルが冒険ですか」
「あたぼうよ! いつかは勇者になって、魔王を倒して英雄になって、ウハウハでい。ゲコゲコ」
「はあ」
「ネーチャン可愛いから、おいらのハーレムに入れてやってもいいぜ。ゲコゲコ」
またハーレムか。
やれやれ。
「えーと、ご遠慮いたします」
「そうかい、あんたていらずかい。残念だな。けど、まあ、いずれはこの世界を支配してやるでい。ゲコゲコ」
「アマガエルがですか?」
「あたぼうよ! ゲコゲコ」
「失礼ですが、何て言いますか、弱いんじゃないですか」
「べらんめーよ! 今はただのアマガエルだが、おいらはこれからがんばるんでい! 根性、根性、ど根性! 平面ガエルに負けてられないぜい! ゲコゲコ」
平面ガエルとは何だろうと私が考えていると、
「神様から凄いスキルを貰ったんだぜ。ゲコゲコ」と転生アマガエルが自慢気に言いだした。
「どんな技能ですか」
「今は体長二センチでちっこいが、明日には倍の四センチになるんだ。ゲコゲコ」
「それがどうかしたんですか」
「わかってねーなあ、ネーチャン。明後日には、また倍の八センチ、これが連続三十日続くんだ。神様の特別サービスだぜい。最終日には体長約一万キロメートルの超超超超超巨大アマガエルになるんでい。俺に敵うものはいないぞ。ゲコゲコ」
確かに世界の四分の一は占拠しそうだけど、所詮、アマガエルじゃないかと私は思った。
「まあ、途中で死ぬかもしれんがな。けど、その時は『わが生涯、一片の悔い無し!』と豪語してやるでい! ゲコゲコ」と胸を張るアマガエル転生者。
とりあえずアマガエルだから放っておくかとあたしが考えていたら、草むらから、蛇が現れて、街道を横切ろうとしている。
この蛇は転生したわけではなく、元からこっちの世界にいる蛇だ。
アオダイショウというおとなしい種類の蛇のようだな。
「おっと、蛇が現れたか! ゲコゲコ」とアオダイショウに向かって行くアマガエル転生者。
「あの、やめたほうがいいんじゃないですか」と私が止めようとしたのだが、
「てやんでい! 異世界では何でも俺の望む通りに出来るんでい! おいらのサクセスストーリーの偉大な第一歩だぜい! 手助けはすんなよ、ネーチャン。ゲコゲコ」
大丈夫だろうか?
自分はすでに巨大化したと勘違いしているのだろうか。
アオダイショウは気づいていないようだが、わざわざその前にピョンと飛んで行くアマガエル転生者。
「かかって来やがれ! この蛇ヤロー! ゲコゲコ」
しかし、アマガエル転生者は、あっという間にアオダイショウに飲み込まれる。
「ギャー! 助けてー! 暗いよー! 怖いよー! 苦しいよー! 死にたくないよー! べらんめーよ! ゲコゲコ!」とアマガエル転生者が蛇の胴体の中で叫んでいる。
どうしようかな。
手助けすんなって言われたけど。
助けようかな。
けど、アオダイショウさんも生きていかなきゃならないし、うーん。
悩んでいたら、声が聞こえなくなった。
窒息死したらしい。
今日転生して、その日には苦しんで死ぬ意味がわからない。
神は、なぜアマガエルに転生させたのか。
神は何を考えているのだろうか?