第十五話:魔王、魔法使いを退治する
どうも気になる。
魔法使いのことだ。
かなり強力な魔力があると思う。
私に相当な恨みがありそうだ。
まあ、だいぶ異世界転移者及び転生者を退治したからね。
こっちとしては、酷い奴だけ退治したのだが。
恨まれるのも魔王の仕事か。
ダンジョンに移動した。
迷宮巡りって、勇者たちがやるもんじゃないのか。
一番分かりにくい奥に、ラスボスの魔王がいたりとか。
私は、超目立つでっかい城に住んでいるけど。
まあ、どうでもいいか。
迷宮と言っても、瞬間移動したので、すぐ近くにいるだろう。
目の前に扉がある。
開けると、大広間だ。
大きな椅子にローブを着た女が座っていた。
「よく来たわね、魔王」
女が立ち上がる。
うーん、普通の感じの女性だけど。
「あなたが結界を張ったの?」
「息子を殺した復讐のためよ」
「息子って誰よ」
「佐藤一郎」
以前、異世界街道で瞬殺した転移者か。
確かに、極悪人と言うほどでもなかった。
もう少し説得すればよかったかな。
しかし、魔王に襲いかかって来たのだから仕方が無い。
「あなたの息子さんは天国に行ったと思う」
「うるさい!」と佐藤の母親は、魔法攻撃をしかけてきた。
私は吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられる。
「死ね、魔王!」と突進してきたところ、私は剣を投げる。
魔法使いの胸を貫通し、あっさりと倒れた。
魔法使いの女に近づいて、私は言った。
「あなたが天国へ行くよう、悪行は魂の記録から削除してあげる」
しかし、女は、
「天国なんてない……」と笑って息を引き取った。
城に戻っても、あまり気分が良くない。
私は、息子とその母親を殺したことになった。
憂鬱。
それにしても、不思議な点がある。
なぜ息子が異世界転移したのがわかったのか?
あの強力な魔力はどうやって習得したのか?
神に頼んだのだろうか。
それにしては、あっけなく倒すことが出来た。
弱すぎる。
シャワー室へ行って、シャワーを浴びる。
このシャワーというものは、異世界から来たものでは、私は珍しく気に入っている。
さっぱりして、体にバスタオルを巻いて、洗面台の前で髪をふいていると、誰かが入ってきた。
誰だ、瞬殺! と思ったら、アンナちゃんだった。
「もうアンナちゃん、ドアをノックしてよ」
「あ、ごめんなさい。忘れてた」
「どうしたの、マオちゃん、憂鬱そうな顔して」
「うん、ちょっと落ち込んで」
「どういう事か知らないけど、マオちゃんは悪くないよ」
アンナちゃんが頭をいいこ、いいこしてくれる。
魔王がそんなことされるのは、ちと恥ずかしい。
しかし、なんだか癒される。
あと、まだ気になっていることがある。
異世界街道の洞窟で私を襲った連中は「あの野郎」って言ってた。
女性に「あの野郎」と言うだろうか?
それとも別人だろうか?
魔王の間で考えていると、イフリートがやってきた。
「どうやら、何者かに魔王様は狙われていると思います。魔王特別警護隊を創設しましょう。隊長はカルロスというものがいいと思います。なかなか勇敢な男です」
「うーん、正直、うざいなあ」
「万が一って事があります」
「まあ作ってもいいけど、一つ下の階で勤務するようにして」
「わかりました」
実は、私は男性恐怖症気味なところがあるのだが、恥ずかしいので、言ってない。
イフリートは出て行ったが、そう言えば、異世界転移者及び転生者対策秘密警察の件はどうなっているのだろう。