7話 初戦
おまたせしました。
「で、俺はどっちが使えるんだ?」
あっちの世界で言う魔法とこっちの世界で言う魔法は違う事はわかった。
そこで気になるのが俺がどっちを使えるか、だ。
『魔じゃね?』『聖だろ』『どっちもだろ』『←それいいな』
「えーっと、お前は・・・どっちもだな。でも、お前が今使い易いのは魔だ。
ちなみに俺も両方で使い易いのは聖だ」
俺が魔でこいつが聖か・・・昔こいつと厨二病やってた時みたいな立ち回りだな。
「昔も斉藤が勇者で俺が魔王の遊びしてたよな」
『それなwww』『それはwww』
あの時が懐かしい。あの時はまだ引き篭って無くて、まだコミュ力が多少あった時期だ。
「あー、そういえばそうか。なんて懐かしい話を」
二人で昔の話に華を咲かせていると、空から巨大な鳥の影が現れた。
「ん?なんか暗くね?」
突然暗くなり、驚く斉藤。
上から空気を叩く声がする。
「ん?そうか?・・・って、おい!!上見ろよ!上!」
前の世界じゃ見ることの出来ない、空想上の生物とされていたドラゴンが、今自分の頭上に居た。
「ドラゴン・・・」
『ワイさん初めてみた』『それな』『かっけぇ』
その巨大な風の圧に吹き飛ばされないようにぐっと堪える。戦車の如き重厚感が凄い速度で頭上を飛行する。
まともに戦闘した事の無い二人にとってこれは死をも覚悟する程の圧力だった。
すぐ隣にいる俺の唯一の友人の斉藤は勇者らしいので対抗出来るだけの力はあるはずだが、圧倒的な力の前に動けなくなっていた。
その圧倒的なそれは2人の前に着地した。
心臓が揺さぶられる様な音の地響きが鳴る。
しかし、そのドラゴンは一向に動かない。微動だにしない。
その空飛ぶ戦車の力無き姿を見て2人はそれが既に死んでいることに気づいた。
「ドラ・・・ゴン?死んでる?」
突然の事態に驚きを隠せなかったが、例え落ち着いてもこの状況をどうにか出来るとは思えなかった。
試しにそのドラゴンに鑑定をかけてみると、[状態:死亡]となっていて、さっき斉藤に鑑定をかけた時には無かったドロップと言う項目が現れた。
『ドロップ?』『これがドロップ品?』
「おい、さいとーさんよォ」
「ん?なんだ?」
「ドロップって項目が現れたんだが?」
斉藤が目を見開かせた。ドロップ品ってそんなに珍しいのだろうか。
因みにそのドロップ品は[無銘刀(純鉱)・正純刀(純鉱)]と言うらしい。因みに無銘刀が寒色系で
せいじゅんとう?正純刀は暖色系の色使いの刀だ。
「なんて確率だ・・・。」
そんなにドロップ品って珍しいのだろうか。
「そんなに珍しいのか?」
「ああ、高位の魔獣・聖獣から、しかも低確率でドロップするらしい。ちなみにドロップ品では同じものが1つとしてないらしい。」
その確率は・・・ヤバいな。
その特注武器はこちらが使うとして、よく分からないのが(純鉱)と言う奴だ。
「おい、純鉱ってなんだ?両方に書いてあるんだが?」
またもや驚いた顔をして、答えた。
「おいおい。なんつー偶然だ?」
驚いた様な嬉しいような顔で鑑定画面を覗き込む斉藤。
「取り敢えずその純鉱の武器とやらを出してくれ。
俺はドロップ品の取り方は知らんからな。」
1メートル位の刀が、2本現れた。
「で、どっちがいい?」
「はあ!?俺は刀なんてゲームでしか使えないし、動物だって殺せない心優しい性格の男だぞ?」
日本にいる時は刀を振るう機会も、刀に触れる機会もゲーム以外では無い。
「まあ持っとけって。そいつはそこら辺の刃物は愚か、魔杖・聖杖より優秀なんだぜ?いざって時に物理攻撃以外も出来るんだぜ?」
この刀、そんなに凄い物なのか…。
『無銘刀にしようぜ!』『名前的に断然無銘だろ!?』
「分かった。じゃあ無銘刀を貰おう。」
ずっしりと手にのし掛かる刀の重み。
俺にはこいつを振るう覚悟はあるだろうか・・・。
そして、それを腰に差した。
「蛍!森に入るぞ。」
森の中は昼間だと言うのに薄暗く、草が生えまくって歩きずらいったらありゃしない。
この先に何が有るのだろうか。
「行先は知らんが、本当にここで合ってるのか?」
『なんか見られてね?』『お前からして右後ろ』『群れ?』
「なんやて!?」
突然の右後ろに何かがいる宣言に声をを出して驚く。
「どうした?頭でも打ったか?道は確かにここだぞ。」
いきなり出したエセ関西弁の様な奇声に驚く訳でもなく煽って来る。
「は?貴様を細切れにしてやろうか?・・・っとその前に、俺の右後ろに何かが群れでいるらしいぞ。」
俺の華麗なノリツッコミはともかく、問題は右後ろの奴らが敵なのかの判断は比較的俺よりこの世界に長く居るこの斉藤に任そう。
「お前は・・・闘える訳ないか。」
「当たり前だ。」
戦い方を教えて貰ったことの無いので当然である。
「じゃあ何とかして自分の身くらいは守れ!!」
斉藤は群れへと突っ込んで行った。
数秒後、斉藤が殺した動物の死体を見て吐きそうになる。映画やゲームとは比べ物にならないリアルなグロさだった。
「すまん蛍、そっち行った!!5匹だ!!。」
「くっそ、吐きそうだってのに。」
5匹の狼がこちらへと向かって来る。
刀を抜いた。
後ずさりしながら必死に刀を振るう。刀で弧を描く様に。
なんとか1匹を殺した。刃から伝わって来る感触が生々しくて今にも吐きそうだ。
「クソッ。クソッ。」
間髪入れず襲い掛って来るのを必死になって自分を守る。
更に2匹。もう吐きそうだ。
「うっ。」
吐き気が止まらない。
更に3匹が襲いかかる。
やけくそになって横に一薙ぎすると、奇跡的に3匹を倒すことが出来た。
それと同時に耐え切れずに吐く。
吐いた事で少し気が収まった気がするが更に7匹が向かって来る。
「すまん!!また行った!!耐えてくれ!!」
斉藤も斉藤でかなりの数を相手にしている。
さっきあいつが言っていた魔法を使ってみる。
魔法についてはよくわからないのであるでファイアーボールを使ってみる。
イメージ的には普通の火の球だった。
「頼む出てくれ、ファイアーボール!!」
『ファイアーボール!!』『ファイアーボール!!』『ファイアーボール!!』『ファイアーボール!!』
この刀は魔杖としての能力もあるとらしいので刀を構える。
すると、刀が濃い紅に発光し出した。
ファイアーボールらしきものは出てこない。
「クソッ。無理か。」
焦って刀を振る。
刀を振った瞬間、紅かった刀身が更に紅く光ったと思うと濃い紅炎の球が5発発射される。
その火球が3発狼に当たるとそこそこ大きい爆発が起きた。
それに巻き込まれて後ろに吹き飛んで後ろの木に激突する。
あいつも全部やった様だ。
(スキル・厨二病、解放率100%を確認しました。
スキル・厨二病は完全作動します。)
今にも吐きそうな程悪かった気分が、少しづつ良くなっていった。
それと同時に眠気が襲ってきた。
「斉藤・・・眠・・・い。か・・・ら寝る。」
「はぁ?ああ、分かった。」
おやすみ、と一言言うと、深い眠りについた。
今回もありがとうございました。