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ブランチオブ・ポテンシャル  作者: αラッブ
25/26

25話 魔法の拳

「あ、ごめん。つい」

 落ちてきた俺を受け止めるでも避けるでもなく、盾で防ぐなんていうとんでもない暴挙を目の当たりして、つい手を上げてしまった。

『キレた!!』『キレるなってw』

 キ、キレてないし。全く。

「酷いなぁ、一体僕が何をしたっていうんだ··········」

 と意味のわからないことを抜かすこの男、··········正気か?

 心当たりがないのか、ただ惚けているだけなのか···············まあ、この白々しさは十中八九後者だろう。こういう奴は大体嘘つきなんだ(俺調べ)

「!··········やだなぁ、惚けただけじゃないか。だからその拳、下ろしてくれないかい?」

 と突然意味のわからないことを言い出すこの男の前に、どういう意味か分からず首を傾げていると、

「ほ、ほら、右手。ね?」

「右手?··········おお」

 この男の指した先にあったのはグッと握られた拳。··········俺の。俺の!?

「うわっ!」

 びっくりしたー、俺はいつの間に拳なんか。また殴ろうとしてたのかよ俺。俺ってこんなにキレやすくないと思うんだけどなぁ。

 とりあえずコイツの名前を聞いておこう。

「名前はなんt··········『試合!試合!』?

 ··········あっ!忘れるとこだった!どいてどいて!」

 野次馬のように集まった人達の間を縫って観客席を飛び降り、ササニゥジの前に飛び降りる。

「ごめんごめん、待たせた」

「いや、なんてことはない。

 ··········今日は邪魔のよく入る日だな」

 と若干呆れ気味な声色のササニゥジ。

 そんなに邪魔なんかしたか?と思いつつこの試合の進みが遅いことの原因の一端は俺にあることは確かだ。あと半分はお前な。

「あ、ごめん」

「いや、すまん。こっちの話だ」

 予想外の反応。そういう反応をされると逆にこっちが申し訳なくなってくる。

「いや、俺も時間を無駄にした。ごめん。

 さ、さっさと続けようか」

「なんてことはないと言っている。せっかちめ」




「あの(少年)··········なんだ?死んだと思ったら生きてる··········?」

 とある国の、高度な魔術的製法で加工した素材で建てられた堅牢な城。そのせいなのか、城全体が薄く青紫に妖しく輝いている。

 そんな城の屋根の1番高い所に立つ少女の姿があった。

 城の周囲にはアリの巣のように人で溢れかえっている。漂う香ばしい香りは人々に腹の音を鳴らさせ、ごった返す人々は十人十色だ。

 時々騒ぎが起きるが警備は優秀で、すぐに鎮圧する。

 だが彼女に気づく者は誰1人としていない。そして彼女もまた、人々に気が付かない。単純に興味が無いのか、特殊な事情があるのか、それは本人にしか分からない。

 バサバサと国旗がはためく強風の中でなびく短い髪を抑えつつ、しかめっ面でとある方角を凝視していた。

「あの魂の感じ··········憑依契約術者(ソウルテイマー)っぽい感じけど··········明らかに自然じゃないなぁ」

 ブツブツと呟きながら、うーん?と唸ったり

「でもなぁ··········」

 目を細めてさらに唸ったりする中で、少女はある答えを出した。

「よし、コチューアルにいくかぁ!」

 一時的な思考の放棄である。

 そして睨んでいた方向に向けて消えていった。





 "彼をよく観察すればわかるさ──"

 というグラエムの言葉をふと思い出す。

「観察ってったって··········そんな暇あるか?」

『うーん、ない』『諦めんなよ!!』

 いやいや!無理だって!無駄に死ぬだけだって!精神論じゃただ疲れるだけだって!

 と自分の並行思考達に心の中で反論しているうちにも拳が頬を掠める。

「あっぶねー!」

 少し距離を取るため、背後に大きく跳ぶ。ササニゥジから10メートルくらい離れた。

「動きは素人だが、これでも当たらないか。単純に動体視力が良いのか·····」

 逆に俺を試したかのように言うササニゥジ。

 あれを避けたのか··········俺。正直アイツの攻撃を見てなかったから避けた事すら気付かなかった。

 刀を正眼に構えアイツの出方を探りつつ観察し、弱点や動きのクセを探る。出来るかどうかは置いといて。

 アイツも構え直してさっきの蛇っぽい構えをする。蛇の構えといえばなんかこう、搦手というか·····直線的では無いイメージがどうしてもあるが、これは俺の勝手なイメージであって··········

「でもコイツ、パワータイプ·····だよな?」

 あんなパワーで殴っててもただの脳筋って訳じゃなさそうなんだよなぁ。なんかよく分からんけど色々考えてそうな感じはするし。しかし観察って言ったってどこどう見れば··········、

「俺はそんな達人みたいな事は出来ないぞ·····」

 とグラエムに文句を言うように呟くと、

「当たり前だ。ここは新人冒険者武闘大会だ。達人のようにいかないのは当然のことだ」

 ゆったりとした構えで、力んでいないのが素人目にも分かる。暇な時間にスマホで武術系の動画を見たりするが、出で立ちがコイツと似通っている部分もあるように思える。

「ま、だからといって変わる訳じゃな──!」

 一瞬、奴の足が微弱ながら光ったように見えた。同時に、と言っても差し支えのないタイミングでアイツの姿が掠れたように消え、すぐに目で追う。

 だが次に目にした時には俺の左の方の壁を蹴る瞬間のアイツが見えた。

「速ッ──!」

 と驚く瞬間には言葉通り拳が眼前に迫っていた。両手で力強く握っていた刀から右手を離した。咄嗟に抜刀の時と同じような身体の動きを使い、アイツに刀を振った。

 キィン!

 生の肉体を切りつけたとは思えない、金属音のような音が響いた。

『!?』『!?』『!?』

「鉄かよ!」

 ドォン!

 言い終わる前に右肩に最初と同等かそれ以上の衝撃が響いた。

(状態異常、損傷を複数確認。傷の治療を開始します。)

 迫る鉄の巨体の勢いは刀1本なんかで止まる訳はなく、勢いを相殺しきれず壁まで吹き飛ばされたようだ。

『鉄の音????』『こわぁ·····』『は?』『人から鉄の音がした·····(恐怖)』

 立ち上る土煙に紛れた太い腕が顔めがけて放たれる。間一髪なんとかかわしつつ、床を強く蹴って出来る限りアイツとの距離を取る。

 消えてゆく土煙の中からヤツの姿が現れる。

「これでも反応するか」

 どこまでも飄々とした奴だ。あのスピードがありながら追撃しないのか?なにか狙いがあるのか?

 この大会の名前を忘れそうになるほど歴戦の戦士のようにしか思えないのだが··········。

「なあ、お前出る大会間違ってないか?」

 再度構え直しながら言うと、

「お互いにな。お陰で今にも回復術(ヒール)班が飛び出して来そうだぞ?」

 と、親指をクイッとして言った。

 指された先を見てみると、見るからにヒーラーな教会っぽい格好の男数名と大きい盾を持った全身鎧(フルプレート)の大男数名で構成された一団が心から心配そうな眼差しで俺たちを··········というか俺を見ている。

「うわっ、マj──だッ!」

 狙って言ったのか否か、呆気なくアイツの親指の先に居た男達に気を取られてまんまと隙を晒した。身に覚えのある妙な感覚と、今までとは比にならない激痛がほぼ同時に俺を襲う。骨折どころか頭が吹きとんだと錯覚するほどの激痛。

 ───また土煙が舞った。

(肉体の死亡を確認。魔力・聖力を使用し修復します。)

 ギャグみたいな頭の歪み方をしたであろうこの頭も、既に治っている。

「それより··········」

 そんな事より気になるのは、以前に感じたことのあるものと似た、なんとも言い難いあの感覚。あえて言葉にするとすれば嫌悪感の歪み(ひずみ)としか表しようのないようなあの感覚。

「ゴブリン討伐の時の··········」

 何も分からない俺にでさえ知覚できたあの魔力の残滓。さっきの妙な感覚と少し似ている。

「これが魔法··········なのか··········?」

 晴れた土煙の向こうにはササニゥジと、こちら目掛けて走ってくる例の全身鎧(フルプレート)それにヒーラーっぽい人が見える。

「「あれ!?生きてる!?」」

 ササニゥジ以外のヤツらが口をあんぐり開け、目を見開き口を揃えてそう叫んでいた。

 そんな事は分かり切っていたいたのか、相変わらず毅然とした態度だった。それでも少しは驚いたのか、毅然とした表情の中に驚きも見えたような気がした。

「ああ、ルールには抵触しない程度のな」

 と全身に溜めていたらしい魔力を何処へやら消しつつ駆けつけた男たちの相手をし始めた。

「ほんとか?」

「まさかこれでも生きているとは·····」

 冗談を言ってみるが、ものの見事に無視された。

「殺すつもりだったのかよ··········」

 と引き気味に言うと、

「なに、普通じゃそうなるだけの話だ」

『こっわ』『えぇ·····』

「こっわ」



 二度目の轟音が響く。一瞬のざわつく雰囲気をぶった切って叫ぶ司会。

「またも吹き飛ばされたぁーーッ!!(ガタッ)」

 興奮してガタッと立ち上がる音が乗る。

 直後鳴った三度目の轟音。同時にヒイラギも土煙の中から飛び出してくる。

「次は躱したぁーーッ!!」

 二度目の拳よりは音が小さいものの、たしかに殺人級であることは間違いない。観客も司会も興奮が抑えきれず立ち上がって叫んでいる。

 だが歓声に会場が揺れる中、会場中が強い魔力の気配を感じ取った。同時に今日1番の轟音が轟いた。

 ササニゥジは最初から身体防護系の術式を使ってはいたが、ここにきてデカい術式を使ってきたな。

「だ、大丈夫かぁ!?ヒイラギ!!熊をも殴り殺す男の拳を受けても無事だったが、彼女は次も耐えてくれるのかぁ!?」

 その衝撃と轟音は、司会も一瞬言葉を忘れかけたほどだった。司会に続くように観客もそれぞれ応援や野次などを2人に叫び始めた。

 轟音に続くように脇で待機していた回復術(ヒール)班が2人に駆け寄る。

「おっーーと!回復術(ヒール)班が飛び出しました!試合を中断致します!結果は少しお待ちください!」

 ササニゥジの方には戦士やタンクの男たちがかけより、ヒイラギの方には回復士(ヒーラー)が駆け出していった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!次回もお楽しみに!

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