23話 理性的な野生児
遅くなりましたー!すみません!
ゲーム内で面倒事が目前に差し迫っているころ、もう一方の蛍は────────
新人ナントカカントカ大会予選を終えて準決勝。またもや1試合目から出番だ。準決勝に上がってくる人達の試合は見たが、どれも完勝、というか楽勝といった感じでなんの分析も行えなかった。そもそも俺に分析ができるのかは未だ謎ではあるが。
しかし、予選で当たったアイツも。予選で落ちた人たちも。準決勝に上がってきた人たちも。ステータスの数値的にはみんな平均的でそれほど差は無いらしい。
もちろん、勇者関連の人以外に限った話ではあるが··········。
スキルには表示されない体の身のこなしだとか、身につけたスキルだとかが勝敗を決する大半の要因になるらしい。
環境とか武器の状態とかも影響することは稀にあるらしいが、結局はそこなんだとか。
────────そんな身につけた技術なんてものがただのゲームの技の再現でしかない俺が、十数年培ってきた技術に勝てるのかというと·························。
··········まあ、ね?
どう考えたって無理だ。みんなクソ強いんだもの。俺が勝てたのはこの身体のおかげだし、この肉体のパワーだけでゴリ押せるような人達じゃ無さそうだし。
「ということでグラエムさん、アドバイスとかあります?」
試合が始まるまでになにか対策でもあればと助けを乞う。
「無い。··········私が助言してしまっては、フェアじゃないだろう?」
サラリと正論で一蹴されてしまった。確かに名が売れてそうな雰囲気あるもんな。さっきなんて"あの"グラエム・バレル少佐なんて呼ばれてたし。1度そう考えると壁にもたれかかって腕を組むその姿には言葉にできない頼もしさや優しさがあるように感じられる。
予選の時とは違って大きい格子状の門が閉じられているせいで薄暗かったが、それでも存在感のあるこの男はやはり只者ではないのかもしれない。
フッと彼は軽く笑ってこちらを向き
「────さ、試合もそろそろだろう」
と言った直後、ぽあぁ!!!とラッパと似たり寄ったりな不思議な音が鳴り響き、快活なアナウンスが場を盛り上げる。
「ッさぁ!お・待・た・せ・し・ま・し・たぁ!伝統と格式の新人冒険者武闘大会、準決勝にコマを進めた4組のルーキー達。
戦うだけが冒険者ではない···············とは言うものの今日は武闘大会!存分に暴れ回って頂きましょう!」
米粒程の司会者が俺の向かいの門を指すとゲートがゴゴゴ、と重厚感のある音を立ててゆっくりと開ききった。
「西門!12歳にして単独で熊を撃沈した稀代の野生児!ササニゥジ・ナラ!」
熊を!?単独で!?
『!?』『!?』『!?』『オワタw』『は?』『!?』『オワタ\(^o^)/』『俺TUEEEE系きた?』
いやどんなバケモンだよ。なんかすごい魔法とかで一撃とかか?俺TUEEEE系か?
なんせ異世界だ。どうしたってそういうことを考えてしまう。
「勝てるかなぁ···············」
『無理ゲーで草』『そらもうボッコボコにされて終わりよ』『勝てるわけなくて草』
真っ暗な影から現れたのはローブを被った魔法使い的な風体の少年という俺の俺TUEEEE系主人公のイメージとは真逆で、杖はおろか武器さえ持っていない。どこが野生でどこが児なのか分からないほど鍛え上げられた肉体と鋭い眼光だった。
「──────え?」
予想とは全くの真逆だった。魔法やらなんやらを全く感じさせない肉体とイケメンとまではいかないが野生児とは一体なんなのかを考えさせられる整った容姿。190cm以上はあろうかという程の身長と露出した上半身から主張する分厚い筋肉。ワンチャン刀が弾かれそうだと思うほど。
そして全身のどこを見ても武器らしきものは見当たらない。
『もしかして拳で熊を・・・?』『ヒエッ・・・』『いやごっつwww』『まさかの肉体派www』『拳で熊とか鬼かw』『終わったわw』
草生やしてる場合か!
魔法が───いやあと聖法とかもある世界じゃん!熊とかなら魔法とかで倒したものだと思うじゃん!普通!ゴリゴリの肉体派だと思わないじゃん!
「はぁ··········勝てるかなぁ」
『流石に無理w』『ッスーーーーーーー解散!』
異世界でもやはりあの量の筋肉の圧は凄まじい。予選の時に当たった棍棒の人も良い筋肉してたが、その比ではない。ましてや俺などもはやもやし以下だ。
おお!と完成がどよめく中、司会者がこちらを指さし、東門!と叫ぶ。すると、すん、と今までの喧騒が嘘だったかのように静まり返った。長い長い一瞬の間をおいて司会者は再び奇声じみた叫び声をあげた。
「あのバレル少佐が連れてきた謎の美少女!ベールに包まれた彼女の真の実力やいかに!ホタル・ヒイラギ!」
『少女www』『美少女www』『www』『草』『少女で草』
「男だわ!」
そうツッコむも聞こえるはずもなく、予想外の強敵にビビる俺を余所にガコッ!と門が上へと昇り始めた。目の前の格子がゆっくりと上げられる。
するとグラエムは俺の右後ろにたって、
「そう焦るな、少年。君なら勝てるさ」
背中をポン、と叩かれた。
「アレにですか?」
と冗談交じりに言う。
「ハハ。彼をよく観察すればわかるさ」
すると凄く爽やかに軽々とそう言ってのけた。
「観察?それh──」
被せるようにガシャン!と格子が昇り切った。
「さあ、試合だ。答えは試合中に見つけるといい」
より一層強い力で背中を叩かれ、その勢いで2・3歩飛び出してそのまま対戦相手の前へと進んだ。
近づけば近づくほど彼の威圧感は次第に大きくなり、額から汗が滴り落ちた。
5歩、6歩近づく度にあのドラゴンを思い出す。死体になってさえ他を圧倒する生き物。その圧倒的な生物の頂点に君臨する威圧感と似たこの圧力は皮膚を刺すかのようだった。
あのドラゴンは死体だと判ったから近づけた。
··········油断できた。だが、この男は戦いに惹かれているように見える。それが現実の戦闘に関しては素人の俺にさえ、それがわかってしまう。
それでも、仮想空間でのバトルは何百回もやってきたつもりだ。それに狼、ゴブリン、予選のあの男。割とすんなり倒せた。どうにかなると自分に言い聞かせるように深呼吸をする。
「さあ!さあ!!さあ!!!2人が出揃いました!」
気にせず深く空気を吸い込む。
すると男は突っ立ったまま両手を俺に向かって突き出した。何だ?やる気か?
「おっと!なんでしょう!ササニゥジ・ナラがホタル・ヒイラギに両手を突き出しています!先走る闘争心の現れでしょうか!」
盛り上げる司会とは裏腹に彼はえんぴつで対象物を測る美術部のデッサンのように、何かを測っているように見えた。俺を測ってるのか?品定めか?不合格だと殺されるのか?一応すぐ刀を抜けるように柄に手を置く。
「い、一体何をやって··········」
その強烈な威圧感
彼は少し神妙な面持ちを見せた。マジでなにを考えて··········
「ホントに綺麗だな、お前」
こいつはまるで当たり前であるかのようにしれっと言ってのけた。『草』『ヤバw』『草』
「はぁ!?俺は男だって··········!」
文句を言おうとするも時間が足りず、アナウンスが始まってしまった。
「新人冒険者武闘大会、準決勝1試合目のゴングが鳴り響く!それではカウントが始まります!」
今までに行った数多くの試合で観客席も出場者も盛り上がっていたが、ドッと興奮と歓喜の入り交じった爆発音が会場を揺らした。
カウントが進むにつれ観客席の興奮度は高まっていく。
「「──1! 開始!」」
先程の熱気とは打って変わって、試合が開始されると観客は凍ったように静まり返った。
しかし同じように彼も俺をじっと見つめたまま動こうとしない。
手を下ろしたと思えば
「やっぱり綺麗だな、お前」
「だから俺は女じゃね··········!」
『草』『草』『草』
戦闘そっちのけで反応してしまう。自分の姿に興味が無い俺だが、この世界に来て間もないものの何十回も女だ女だと言われれば無意識的に反応するようになるというもの。
だがコイツは今までのヤツとは180度違う反応をした。
「そういう事じゃない」
「は?」
驚きの顔ではない、確実に。呆れなのか怒りなのかわかりにくい表情をしている。体育会系の顔をしているがコイツ────
コミュ障か?
いや、初対面のヤツに面と向かって綺麗だなんて言える奴なんてコミュ障じゃないか。
ただ、そんな"気配"は感じる。なんてな。
そんな彼は未だに俺を測る手を止めない。そろそろやめとかないと観客からなんか飛んでくるぞ。
「人間に限らず、生き物には必ずその個体特有の癖がある」
「なんだいきなり」
なんか怖いので俺はいつでも刀を抜けるように構える手に全神経を集中させた。
だがそんなことは目にも入らないのか、我関せずといった感じで1mmも表情を動かさずに話を続ける。
明らかに体育会系な見た目とは相反して理屈っぽく
「その染み付いた"癖"によって体のバランスが少しづつだが変わっていく。
だがお前は綺麗なのだ」
そう言うと、俺を測り終えたのか手を止めた。俺達が一向に戦闘を始めないため、観客席からはついにブーイングが巻き起こった。だがコイツは動かない。
───こいつ、周りを見ないタイプか?
「だから何なんだよ一体··········」
「それも不自然な程に」
話の先がまるで見えない。
「赤子でも眺めているようなのだ。産まれたばかりのね」
「は?」
何を言ってるんだコイツは。俺が産まれたばかりの赤ちゃんみたい?···············まあ、実際この世界で新しい身体をもらったばかりって意味ではそうなのかもしれないが、言い方がムカつくなあ。
そんなことより、そろそろ始めないと流石にヤバそうだ。
ブーイングの声が少しずつ大きくなっている。観客席の方に目をやると、今にも攻撃を仕掛けてきそうな程に興奮していた。
──マズい。試合が開始されて何秒経ったかは定かではないが、観客の興奮度的に相当な時間がたっているように思う。
「そんなことよりさ、そろそろ始めないと··········」
と視線を戻すと、既にコイツは地面を蹴っていた。凄まじいスピードで飛んで··········跳んでくるコイツの巨体が、更に巨大化したように錯覚した。
速いッ··········!
咄嗟にゲームで何百回と使った居合切りを放つ。
直後、腹と背にドンと重い衝撃が走り、背からは土煙が立っていた。
遅かったか··········!?
(肉体の死亡を確認。魔力・聖力を使用し修復します。)
腹を殴られて壁に叩きつけられたのか!?なんてパワー、熊を殺したってのも納得だ。
そんなことより、アイツにかすり傷のひとつでもついてるといいんだが··········。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
良ければコメントおねがいします。
次回もお楽しみに!




