22話 事実上の牢獄
めっちゃ遅くなりました。
ここまでくると見る人はいるのでしょうか?
俺はログアウト時に発生する眩い光に包まれ、そっと目を開いた。
··········が、
「「あれ?」」
声が重なった。··········ログアウトしていない?でもいくらいじくっても何も反応がない。
よく見てみると、視界の端にあるHPバーやらメニューボタンやらのUIは消えてる··········いや、一応"俺"はログアウトはできている。確かに"俺"は、ベッドで起き上がっている。
「なんだ、一体··········」
流石に戸惑いを隠せない。異世界の"俺"とこっちの"俺"··········全部で"俺"が3人いる。さっき試合中に異世界の俺みたいな"アレ"になっていたのは確かだ。
いやいや。意味がわからない。異世界の"俺"とゲーム内の俺の共通点といえば姿とか···············その位だぞ。共通点を探したって何にもならないことは言うまでもないが··········。
女神(?)が送り出した異世界の"俺"。
何故か生き返ったこっちの世界の"俺"。
··········そして。
「···············俺がゲーム内で3人目になった··········のか?」
「は?」
「あ··········ひ、独り言だから気にしないで」
口に出していたようだ。
なんやかんや考えたものの、理屈に関してはいまいち自分でもよく分かっていない。だって魔法··········はたまた聖法なんてのもある世界だ。科学で育った我々(?)には分からない事だってもちろんある。
その最たるものとしてゲームみたいにステータスやらスキルやらが、現実のものとして組み込まれている。しかも、体感的にシステムがいい加減な感じがあるように思えた。
特にあのでかいスライムに食われた時だ。体は溶かされても戻った癖にHPは戻らなかった。っていうかそもそもHPが減るのを感じるってのはどういう事だ?あれは確かに痛みではなかった。
俺達の感覚からすれば感じ得ないものだったのは確かだ。まるで··········まるで···································
「どうしたんですか?」
と心配そうに顔を覗き込んでくる声があった
「あ、いや。いい例えが思いつかなくて··········」
「例え?」
と、そう言ったのはゴッド・サクラだった。
「え?あ、ああ··········独り言だから気にしないで」
「そ、そうですか··········そうですよね!すみません··········」
あっぶな··········口が軽いな、俺!っていうかいつの間にか話がズレてるし!
「あ、いや··········そ、そうしてくれると助かる」
何とか強引に誤魔化せた··········か?でもちょっと心苦しい気もする··········まあいいか。
落ち着いたところで2人を見ると、
「なあ、運営に連絡するか?」
「そ、そうです!それがいいです!」
そう言いながら2人して非常時に運営に報告をする為のGMコールをしようとしている。2人して、だ。今にもGMコールのボタンを押そうとしている。
「いやいや!2人でやらんくても良いじゃん!」
自分でも驚くほど普通にツッコむと、2人はお互いを見合わせて
「「え?」」
という間抜けな声を出した。2人のビジュアルの厳つさも相まって可笑しさのあまりにぷっ、と笑いが漏れた。笑う俺を見てインスタントは両手で顔を覆った。
しかし顔を覆ってはいるものの、その上のモニターに表情が映っているので丸見えだ。
「覆うとこ違うぞ、お前」
相変わらずメカメカしく温かみのない顔だが、少しからかうと映った表情がみるみるうちに赤くなっていった。あれ?こんな奴だっけか?
普段とは何か違うインスタントを見ていると、笑いが込み上げて止まらなかった。
「アハハハハハハハハハハ!··········はぁ··········腹痛てぇ。き、気づいてなかったのか··········」
「わ、笑うなよ··········わざとじゃないんだから··········」
やっぱりなんか違う気がする。
彼は赤い画面を隠したまま自身のUIを操作してログアウトボタンを表示し、
「お、覚えてろよ!」
と小悪党じみたセリフを言って彼(もしくは彼女)はログアウトして、世界から消えていった。···············ほんとにこんな奴だったか?
「おっつー」
と言いはしたが聞こえてないだろう。
···············さて、これからが気まずいぞ。どうしようか。ゲーム内なのに妙に冷や汗をかいた気分だ。このバーのような見た目の空間もログアウトできない今となっては牢獄にでもいるように感じる··········気がする。
異世界に行ってから会話をすることになぜか躊躇や羞恥心が無くなったとはいえ、元々の会話スキル(技術)が無い··········。どういう風に話そうか···············と悩んでいると、
「あ、あの!」
サクラさんは羞恥混じりに続けた。
「わ、私がしましょうか?GMコール」
「だ、大丈夫だから··········俺がやるから」
う、動けよ!俺の表情筋!そしてもっと優しい言葉を捻りだせよ!俺の頭!
「そ、そうですよね··········すみません」
残念な事にお互いコミュ障らしい。俺が話を進めなければ··········
「あ、アイツ··········いや、インスタントさんと話してたけど仲良いの?」
こ、これだぁ··········天才的な機転だぁ。と心の中でガッツポーズをした。ここまでのものは俺の中では今後出てくるか来ないか位の発想だ。
··········そしてサクラはというと、気まずそうに言った。
「アハハ、実は··········さっき会ったばかりなんです」
ここで会話は終わった。な、なんと··········
しかもアイツとは話せるらしい。俺は嫌われているのか?俺にしてはすごい天才的な話し始めだと思ったが逆に傷ついただけだったようだ···············なぜだ··········がくり。
と、これまで会話をしてこなかったせいで生じたある意味桁違いのコミュ力は転生したからといって一朝一夕で治るものではなかったようだ。
「あ、あのー」
でもあっちの世界でも斉藤の家でも普通に話せたよなぁ?環境によるのか?
癖というか性というか。長考してしまっていた。すると何やらサクラがなにか言いたげにチラチラこちらをチラ見しているのに気がついた。な、なんだろう··········と思いながらも試しに
「ご、ごめん。何か言いたそうにしてるけど気づかなかった。何か用?」
お前なんか見てないわボケェ!とか言われないか心配ではあったが、サクラの顔を見る限りそういう感じではないようだ。··········多分。変なもの(異世界転生)を観たせいで忘れかけてたけどここはゲームだからというか··········そういえばこのゲーム、戦闘以外は割と設定適当だから表情筋がたまに食い違うことが割と結構な頻度で起こるんだった。
表情筋を信じてはいけない··········!という事はキレている可能性も十二分にある·····!こわい!
とまた長考しかけるとサクラが口を開いた。
「あ、あの··········いや··········い、いえ··········なんでもないです··········」
明らかに言うの諦めたぁーーー。と間違えても口に出さないようにツッコんだ。なんて言おうとしたのか、とても気になる··········。今彼女が言おうとした事を聞き出そうとするのは明らかに失礼だよなぁ··········。バレないようにサクラをチラッと見てみると、··········鬼の形相をしていた。
···································こっっっっっっわ!
いやいやいやいやいやいや。俺が何をしたと!?あれか?今までずっと俺が口に出さないように言ってたヤツはホントは全部口に出ていたとか?だったら謝るからゆるして!
今までにないスピードで思考回路を回転させ、ある結論に至った。それは····················
「すみませんでしたぁ!!!」
土下座だ。二人っきりの牢獄の中で土下座をした。俺は土下座童貞をサクラに、いや、サクラさんに捧げた。··········人生初の土下座をこんなカタチで、ゲーム内で迎える事になるとは。人生とは分からないものだ。
土下座の格好で分不相応にもしみじみと感傷に浸っていると、
「え?··········えぇ?」
という困惑が聞いて取れた。予想外の声に恐る恐るサクラさんの顔を覗き込むと、めちゃくちゃ困惑していた。あれ?
「?」
おろおろしている大男が1人。
それと怒ったロボットが1人。
あれ?
「で、何をしてたんだ?HOTARU」
ログアウトしたはずのインスタントが帰ってきていた。何故に今なんだ···············間の悪い奴め。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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次回もお楽しみに!




