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ブランチオブ・ポテンシャル  作者: αラッブ
21/26

21話 勇者

遅くなりました

「流石だ、少年」

 目立つ拍手をする男が1人、コチラに向かってくる。

 しかし目立つな、あの人。服装は地味な筈なのに。やっぱりオーラというヤツだろうか。

「グラエムさん··········」

 なんと早い決着でしょうか!流石はグラエム少佐のお墨付き、新人とは思えぬスピード!と囃し立てるアナウンス。それに呼応するようにうおぉぉぉ!と地鳴りのような歓声。

 しかし少佐って異世界っぽくないなぁ。普通ナントカ公爵だとかナントカ伯爵だとかじゃないだろうか。

「――という事だ。相手の少年も素晴らしかったが、まだ戦い慣れていないようだ。少年はそれ以上にセンスがある。磨けば光る才能だ」

 そこまで言われると嬉しくなってくるな。

「興奮冷めぬ内に次の試合に移りましょう!次は某隣国で召喚された勇者サイトー!」

 と登場する斉藤とさらに盛り上がる観客。

「··········さて、始まるぞ。少年」

『おっ』『おっ』『次なのか』

 おっ、次は斉藤の試合か。某隣国ってこの前アイツが言ってた·····えーっと·····なんだっけか··········4文字ぃ····················まあいっか。とりあえず、隣国ってそこの事なのかな?

 そんな事を考えたって異世界の地名・国名は全くわからんので答えは出ない。当然そこで思考回路は閉じ、次の試合観戦に集中するとしよう。

「対する出場者は、3代目勇者の末裔とされ、新人にして戦場の華とも名高い実力のある騎士、クレア・リー・ヤクシマル」

 と反対側から登場する黄色の軽い甲冑で黒髪が美しく輝る。

『かわいい』『かわいい』『かわいい』『勇者の末裔?』『ヤクシマルって日本の苗字じゃん』

 かわいい。

 装備も剣も軽そうだしスピードタイプかな?とゲーム的思考で考えた。

『速そう』『かわいい』『おっ(^ω^)』

 今日1番の盛り上がりを見せる会場は、まるで大爆発でも起こったようだった。ついでに視界のコメントも。

 申し訳ないがうっるさっ!コメント邪魔くさっ!

 耳と目でも塞ごうかと考えていると、

「ほう、あの勇者の··········これもまた」

 顎を擦ってボソボソと呟くこえが隣から聞こえた。··········が、あいにくこの会場のうるささでは勇者の部分しか聞こえなかった。

『ん?』『おっ?』『勇者がなんだって?』

 あ、そう。勇者と言えば。さっきアナウンスが言ってた事ってどういう事だろう。

「さっき3代目とか言ってたじゃないですか。勇者って他にも居るんですか?」

 3代目の勇者とかなんとか。それが気になった。

「ああ」

 と二人を見つめながら言った。

「まず勇者は現勇者、つまり少年の友人を含めても勇者はたったの四人しか現れていない」

『意外といる』『意外といるな』『じゃああの顔立ちだとあの娘アジア系の人の子孫かな?』『←ヤクシマルとか言ってたし祖先日本人じゃね?』

「意外といるんですね」

「これまで我々人類が歩んできた時代を全て含めても、だ」

 記録に残っているだけではな、と付け足した。

『すっくな』『少な』『マジか』『やば』

「それはーー」

 少ないですね、と言おうとした瞬間、

「さて二人が揃いました!我々の時代に現れた今代勇者と先代勇者の末裔の女騎士!世紀に残る一戦、瞬きすらも惜しい!これは見逃せない!」

 観客の興奮を上手く煽るアナウンス。会場が揺れるほど耳を劈く興奮の咆哮に頭がくらつきそうだ。

「始まるぞ」

「はいー」

「それでは行きましょう!3秒前から!ご唱和ください!」

 さっきまでの歓声が嘘のように静寂へと反転する。

 だが静寂の中に興奮と緊張が感じ取れた。

「3!」

 二人も剣を抜き、まっすぐ中段に構える。二人の緊張感と殺気に近い何かが、コチラにも伝わってくる。

『ドキドキ』『ドキドキ』

「2!」

 時が流れるのが遅く感じる。二人から目が離せない。斉藤の剣はこの前ドラゴンから取れた刀ではなく、勇者っぽいかっこいい剣だった。対して女騎士の剣は細い剣、レイピアっぽいやつだった。

『斉藤の剣かっこいい』『は?かっこよ』『かわいい』

「1!スターーート!」

 二人が駆け、距離が一気に近くなる。キンキン、という二本の線が重なり合う音が会場に響く。1本は鋭く細い一直線、1本は弧を描く様な曲線。二つが重なり弧が線を弾き、瞬き程の暇もなく新たに二つの円を描いて重なり、合計2回打ち合った。これまでほんの一瞬である。

『はっや』『は・・・速い』

 ギチギチと鍔迫り合いが互いを押し押されんとする。勇者っぽい剣に比べて細いレイピアが細い分、押されているように見えなくもない。細い剣が頼りなく見えるのかもしれない。

『勇者の子孫ちゃん押されてね?』『くれあちゃんがんばえー』『かわいい』

 女騎士は剣を外に受け流して飛び退き、距離をとった。

『かしこい』『おお!』『かわいい』

 しかし逃がすものかと斉藤がそれを追い、追撃を掛けた。

「ほんとに新人かよあの人達」

『マジでそれな』『かわいい』

 と言うと、

「ああ、動きは流石だと褒めておこう。·····だがまだまだ判断が甘いな」

「···············え?」

『厳しスギィ!』『厳し杉内?』

 いやいやいやいや、あれで!?あの動きで!?·········まさかこの男、口だけとかじゃないだろうな·····疑ったってしょうがないけど。

「だが、さっき言った通り動きは素晴らしい。

 ·····フフッ·····少年、君と同じく今後に期待だな」

 と試合から目を離しているとうおぉぉぉぉ!という歓声が響いた。

『おっ』『お?』『お?』

「·····驚いたな、相打ちとは·····フフ」

 グラエムは驚いて目をかっ開き、不敵に笑った。

 良く笑う人だな、と思いながら試合を見ると、レイピアは斉藤の心臓まであと一歩かと言うところで制止し、斉藤のかっこいい剣は女騎士の首筋で制止していた。

『大人気ない』『かわいそう』『かわいい』

「これまたなんと早い決着でしょうか!なんと引き分け!再試合となります!両者定位置に戻って構えてください!」

 と言われ、最初の位置に戻り、構え直す二人。

 しかしさっきと違う事が二つ。

 ひとつは斉藤がぶらりと自然な状態で構えていること。あれは本当に構えているのだろうか。

 もうひとつは女騎士が最初とは打って変わって肩の高さで剣を手前に引き、地面と水平に構えて空いた手を相手に向けていた。この構えはアニメでも見たことがある。この構えだとだいたい高速連続突き技だとか、超高速の突き技というイメージがある。

『かっこよ』『かわいい』

「ほう·····2人とも最初の一撃で決める気だな」

 と顎を擦りながら呟いた。

「女の子の方はわかるんですけど、斉藤もですか?」

 と率直な意見を言った。それはそうだ。二人とも最初は普通の中段の構えだった。

 なのに片方は手をぶらんと垂らして、まるで諦めたみたいに見えるのが当たり前ではなかろうか。

「ああ、勇者の彼は中段構えよりも、こう自然体の方が身に合っている様に見える」

『はえー』『なるほどね』

「·····へぇ」

 ··········そういうものだろうか。

「それでは行きましょう!3秒前から!ご唱和ください!」

 アナウンスが流れるとざわめきが止まり、視線は二人へと集まって、緊張感と興奮は高まった。

「3!」

『3』『3』『3!』

 会場中から3!という声だけが響く

 女騎士は腰を落として重心を下げた。

「2!」

『2』『2』『2!』

 2!と地鳴りのような音が興奮を煽る。

「1!スターーート!」

『スタート!』『おおおおお』『始まった!』

 会場中の興奮と緊張感は最高潮へと達していた。それどころか、留まることを知らなかった。

 スタートという合図で女騎士の重心は一瞬前に傾いたかと思えば、次の瞬間には斉藤の目の前に迫っていた。··········え?

 いやいやいや··········はっや·····すっげぇ速ぇ。アレホントに新人か?っていうか人間か?

『はっや』

 だが斉藤はまだ動かない。剣先がすぐそこにまで迫っている。それも一瞬にも満たない速度で、である。だが斉藤は動かない。

 刃は斉藤の心臓を貫いた····················と、彼女は一瞬錯覚した筈だ。

 斉藤は彼女の腕の外側に避けていた。··········アイツあんな動きができたのか。流石は勇者。

 女騎士はその光景に驚きつつも、機敏に反応し、1歩離れてながらもう一撃食らわそうと一息の内に剣を引いた。

 対して斉藤も剣を振るう。

 彼女がそれを突き出そうとしたその瞬間ーーーーかっこいい剣が喉元に軽く触れていた。

 そう、女騎士よりも一瞬早く。アイツらホントに新人か?

 決着はさっきよりも早くついた。

「あの人らホントに新人ですかねぇ··········ここ新人ナントカカントカ大会ですけど?」

『おまいう』『おまいう』『お前が言うなし』

 と俺がふざけ半分に言うと、

「ハハハ!··········それは少年にも言えるぞ?

 敢えて言うなら·····この会場中で1番普通ではないのは少年だと言っても過言ではないな」

「え?」

『え?』『え?』『は?』

 ··········マジ?

「いやいやいやいや。流石にないd··········」

『まあゾンビだしね』『そういやそうだった』『←そうだったわ』

 視界のコメントがそう言った。

 ·····それはそうだ。斉藤もこの世界にゾンビが居ない、って言ってたしね。さっすが俺、記憶力が良いね。

 ··········ゾンビはあんまり居ない、だっけ?どっちでもいいや。だとすればそりゃ普通じゃないわ。

「どうやら心当たりがある様だ」

「あなた心でも読めるんですか?」

 色んな意味で変態だ。変人だと言ってもいい。

「フフ··········どうかな」

 この男は意味深に笑って見せた。この人がそう言うと、妙に現実味があるんだよな。それともそんな技術があるのか?

 勇者の子孫のクレアちゃんとやらは反対側の門ににズカズカと悔しそうに歩いて行った。プライドの高そうな娘だ。勇者の希少性と勇者の子孫である事とか考えるとそりゃ良くも悪くもプライドが高くなるわな。

 と考えていると、試合が終わった斎藤が手を振りながら小走りで向かってくる。

「お前ホントに新人か?」

 と言ってハイタッチをすると、うっ、と聞こえた。

 うっ?

「さ、さあ·····そうなんじゃ··········ないかな?」

 と何故か間の悪い答え方をする斉藤。

『?』『ワケありか?』『?』『?』

「ワケありか?·····まあ、追求はしないでおく」

 アニメとかそういう界隈でよく聞くカッコいい大人の漢のセリフを言ってみる。まあ、斉藤がこっちに来たのは大体一週間前の筈だからな。どう考えても新人だろう。そう言われると··········っていうか言って何だが気になってきた··········い、言った以上はそうするけどな!!!

 と心の中で葛藤していた。

「あ、ありがとう·····」

「か、貸しだからな!!!」

 とビシィ!と人差し指を斉藤に向けて言った。

『ツンデレかな?』『草』『草』『それは草』『www』

 やっば··········俺、ツンデレかもしれない。


ここまで読んで下さってありがとうございます!

次回もお楽しみに!

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