20話 HOTARUの噂
遅くなりました!
ファンタジーチックなバトルマップとは打って変わって、ネオンカラーが際立つさしずめ夜の街といった雰囲気のロビー。
世界観……どっちかに合わせよう?
ともかく、丁度ゲームが終わった頃だ。ロビーはある話題で持ち切りだった。
それは亡くなったとされていた有名プレイヤーが久しぶりに、と言う程でも無いが実に3日振りに現れたという都市伝説的な何でもなさそうな話題だった。
「それだけでこんなに話題になるかね?」
と呆れながらに言うが、興味本意で話題の有名プレイヤーのHOTARUさんと仲が良いらしい[インスタント☆人類]さんに事情を聞くと、話が少し変わってきた。
普通、3日ログインしなかっただけでこんなに話題になることは無い。しかし彼はいつ誰がログインしてもどこかで見かける程やり込んだプレイヤーらしい。
俗に言う廃人なのだろうか。
珍しくそのHOTARUさんとやらがログインしなかった日。そこそこ話題にはなったらしい。だが、まだ騒ぎは大きくならなかった。
「今日HOTARUさんログインしてないのかな。珍しいな」
その日はHOTARUさんと良く話す人達がそう言っていたぐらいの話だったらしい。
[インスタント☆人類]さんに更に詳しく話を聞いてみる事にした。
「あいつがログインしなかった日は何回かやって、時間も経ったからその日はログアウトしたんだよ。そんで何となくスマホを弄って……ってそんな話はどうでもいいんだ。
夕飯時になってニュースを見ながら家族みんなと食べている時な、あるニュースが耳に入ったんだ。
それが……」
「それが交通事故のニュースですか?」
インスタントさんはアンドロイド的な、機械生命体的な、銃でも撃っていた方が似合いそうなアバターをしている。目はモノアイで、その上に球面のモニターがあり、そこから表情が分かる仕組みになっている様だ。
なんかかわいい。
「ああ」
「でもニュースじゃ事故があったって報道されただけじゃ……」
「だって可哀想だろ?最初はHOTARUさんがニュースのあの人だってことは確証も無かったんだ……今でもあるかどうか聞かれれば無いが」
椅子に座っているインスタントさんはなぜか急に立ち上がり、わざとらしく大袈裟に悲しそうな喋り方をし、ついにはモニターも俗に言うぴえん顔をしていた。
「『昨日のニュース見たか?あれ偶然か?』から『HOTARUさんが死んだって本当か?』って感じで噂に尾ひれがついたんだぜ?
しかも1日もしない内に」
思ってたのと違うがそういう事らしい。噂に尾ひれがつく事はよくあることだ。
「まあ確かに……それは可哀想ですね」
「だろ?でもアイツ生きてたし結果オーライだけどn……あっ!」
と、おもむろに隣に座り、
「な、なんですか?……」
「そういやお前今日アイツと戦ってたじゃん。どうだった?HOTARUの様子は」
思っても見なかったセリフだった。
「え?」
「え?」
目を文字通り丸くしていた。……しかしさっきからモニターだけ表情豊かだ。
「も、もしかして知らないで話聞いてたのか?」
目を文字通り丸くしたモニター以外は表情は変わらないが、機械的なボイスチェンジャーかけられたその声からも驚きが伝わってくる。
「あ、いや……はい……すみません……」
「いや、謝ること無いって。
HOTARUはさっきの試合でお前がダイブした白髪のアイツだよ」
さらに驚きの発言だった。世界はどうも狭いらしい。
「それって僕が飛び降りて切りかかろうとした女の子ですか?
まさかそのHOTARUさんが女の子だったとは……」
「いやいやいや。アイツは男だよ。声聞いてない?女の子じゃなくてれっきとした男の娘。多分あれはリアルも男」
更に驚きの発言だ。まさかあの子が男だったなんて。別に悔しがってないけど。
「……驚きました……ってそんな事よりHOTARUさんの様子でしたね。あの時は焦りすぎて良く覚えていないんですが、別におかしな所はありませんでしたよ」
それを聞いたインスタントさんは安堵の声をあげた。実際は声色はずっと一緒だが。
「そうか、それは良かった」
と、その時、聞き覚えのある様な声が聞こえた。
「あれ?インスタントさんじゃん。こんな所で何を……」
HOTARUさんだ。よく見たら体型とか仕草とか男だわ……
彼は驚いた表情でこちらを見ていた。
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ゲームが終わってすぐ。俺は見知ったプレイヤーの人達に囲まれていた。
「「HOTARUさん、アンタ死んだんじゃ……」」
と一言一句同じ言葉を皆一様に言ってくる。
『バレて草』
マジでそうだよ。何で知ってんだろ?異世界であっちの俺に会ったやつが居んのか?ドッツェか?それともドッツェと一緒に居たあの女の子か?それともあのギルドに居た誰かか?……いや、流石にそれはないか。
普通にニュースか何かで言ってたんだろう。おれもHOTARUは本名だって言ったしな。それが妥当だろう。
だけど「異世界行ったんだぜ(キリッ)」とか言ったらイタイ奴と思われかねないからな。実際言ってみたがやっぱり笑われたしな。
……色んな意味で。やっぱり安直に「フェイクニュースじゃないっスかね?」と言うのが正解だったか。
プレイヤーの包囲からやっとの思いで抜け出し、バーに向かった。バーと言っても見かけだけだけどな。あそこは見かけだけとはいえ雰囲気が好きで、めっちゃ落ち着くんだ。
メインロビーから謎にちょっと離れた場所。裏路地に入り、よく分からん文字が書かれた看板の所にそのバーはある。
扉をあけてバーにはいると、見知ったプレイヤーに会った。プレイヤーネームは[インスタント☆人類]。アンドロイド的な見た目と表情の差のギャップがかわいいプレイヤーだ。ちなみに恐らく男だ。
「あれ?インスタントさんじゃん。こんな所で何を……」
とインスタントに話しかけた瞬間。あるガタイの良いアバターが目に入った。見覚えが……
「最後くらいで会った人じゃん」
と言うと、その人は
「は、始めまして、HOTARUさん。ぼ、僕はゴッド・サクラって言います」
この緊張しきった言い方につられて挨拶をする。
「あ、どうも。ほ、HOTARUです」
つられてしまった。
「ハハハ!なんだよHOTA……あっ……なんでもない、なんでもない。さ、サクラさんとはさっき会ったばっかりだよ。名前もいまさっき知ったしね」
インスタントは赤面していた。
「なんだよインスタント。頭が真っ赤だぞ?」
からかいインスタントの肩を引き寄せると、
「う、うるせーよ。バカ。それで?HOTARUはなんでここに来たんだ?」
インスタントは赤面していた。かわいいかよ。今更だけどもしかしてコイツ、リアルは女だったりする?そう思ったら俺まで恥ずかしくなって来たじゃん。考えるのはやめておこう。
「なんでって……何となく?」
サクラはポカンとしていた。
「どうした?」
「いえ。こんな……あ、いや、こんなって言っちゃアレですけど、こんな知る人ぞ知る、みたいなところを知ってる人も居るんだ、と思いまして」
もっともな事を言われた。正直言うと何の捻りも無いただの偶然なのだ。偶然見つけた以上になんの理由も無い。どう言ったものかと考えていると、
「なんかかっこいい理由があれば良かったんだけどね。ごめんね、なんか」
とインスタントの頭には申し訳なさそうな顔文字が表示された。
「い、いえ!気になっただけですから」
とサクラはサクラでその巨躯であわあわしていた。なんかかわいいなこの人。
3人で世間話をし、一通り話し終えて視界の端の時計を見ると、12時を指していた。
「もう12時じゃん!俺もう落ちるわ。ごめんね」
と、明日もログインする?やら、いえいえありがとうございました。やら色々言われて適当に返事をし、ログアウトボタンを押した。
見慣れた天井、現在進行形の異世界の俺の記憶。何故か俺の所に来た俺の魂。あっちでもっと調べて貰わなければ……俺が。
「いやいや俺じゃないけど」
とか独り言を言っている間に、更に不可解な事が起きた。俺に。いや俺じゃないけど。その不可解な出来事とは、
……俺がログアウトしていない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次回もお楽しみに!




