14話 HOTARU、蛍刀
遅くなりました。
精神干渉型ゲーム、通称サイコダイブ。
その技術は2、3年前に開発され、今では手を出しにくい金額ではあるものの、一般的に広まっている。
サイコダイブ用ゲームの中でそこそこの知名度を誇る[マインド・ケイブ]
日本ではそこそこの知名度だが、世界的に有名らしい。
動画共有サイト[ニヤニヤ動画]、通称ニヤ動で外国人の動画を見てみると、[マインド・ゲイブ]の動画で持ち切りだ。
そのゲームのロビースクリーンに、あるプレイヤーのキルシーンが映し出された。
「おっ、アバター見えなかったけど今の人上手いな」
「あれ居合斬りじゃね?」
「もしかしてHOTARUさんリスペクトか?」
光の渦から出てきたのは白く毛先にいく程緑がかった長髪。
生気のない白い肌の色のキャラクター。
映し出された名は・・・
ロビーは一瞬の静寂と、耳を劈く様な歓声に包まれた。
「あれって本物?」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!HOTARUさんが生きてるぅ!!」
「なんだよ!!フェイクニュースかよぉ!!」
皆それぞれの歓声を上げて騒ぐ。
一方蛍は・・・
マップの中心へと向かっていた。
「マジで、いやマジで腕落ちてなくて良かったわ」
そう言うのも実は俺が死んた事が何故か知れ渡っているらしくて、もし腕が落ちてたら今の居合切りでキルカメラに写っても本物と認めて貰えないかもしれないからだ。
そんな事を考えながら歩いていると、このゲームオリジナルの刀が落ちていた。
蛍はその刀を拾う。
このゲームは最後の1人になるまで生き残るバトルロワイヤル。
他プレイヤーをみつけ、道中にランダムで落ちている武器や物資を拾って、生き残るゲームだ。
俺が拾ったこのゲームオリジナルの刀は攻撃力・切れ味共に高いものの、使い切れない、もしくは使い方が下手だからという理由で初心者・中級者からは不評の武器である。
俺も最初は使いずらいと思っていたが、かくかくしかじか色々あって1週間刀縛り、その甲斐あって段々コツを掴んで来たので積極的に刀を使うようにしていたのだ。
そして今に至り、そこそこ使える様になったのである。
しかしこの刀、プレイヤーに不評な理由はもう1つある。
この刀、名前がクソダサいのだ。
「最強刀・・・名前はダサいけどやっぱ使い慣れたやつは手に馴染むな」
この刀は蛍と刀縛りのプレイヤー等の1部の人しか使ってないので、その中で1番名のある俺の名を取ってプレイヤーの間でその刀は蛍刀と呼ばれている。
刀を腰に差してマップの中心へと歩く。
このゲームは基本、洞窟なのでぴちゃん、ぴちゃん、という水が滴る音がするのだ。
ぴちゃん
ぴちゃん
ぴちゃん
その音が他のプレイヤーは知らないが、俺の恐怖感を煽って丁度いい緊張感が保てる。
ぴちゃっ
ぴちゃっ
ぴちゃっ
水溜りを歩く音。
道はT字路。
サッと壁に隠れ、いつでも抜刀する事が出来る様に構える。
・・・が、敵の方もこちらに気づいた様だ。
「・・・」
手持ちを確認してみる。
あるのは刀、回復薬のみ。
「えぇ・・・」
攻撃に使えるのは刀だけだ。
こちらから仕掛けようとしたが、その一歩先に動いたのは敵の方だった。
足先に何かが転がって来た。
曲がり角に投げ込まれたのはラインの入った灰色の立方体。
このゲームでいうところのラインが入った灰色の立方体とは爆弾の事である。
「・・・!!」
数メートル飛び下がる。
心臓の鼓動が聞こえそうな程、激しく胸を内から叩く音と静寂。
そして電子音。
良く見てみると、ラインの色は青。
爆弾の種類はスモーク、わかり易く言うと煙幕だ。
視界を悪くする効果があり、逃げる時や奇襲を掛ける時に煙幕を張るのだ・・・多分。
俺自身、基本スモークは使わないからその辺に疎い。
とにかく、この状況はピンチか否か。
敵が奇襲を掛けるつもりなら、俺は相手を視認していないため、不利だ・・・が、相手もこちらを視認出来ていない筈だ。
今ここで動くのは得策ではないが、煙がそろそろ鬱陶しくなってきた。
なので煙を晴らすか、ここから離れるかを決めねばならない。
「持ち合わせで晴らすのは無理か・・・」
と、手持ちを確認しながら小声で呟いた。
居合切りでも多少の風を起こす事は出来るが、風と言ってもそよ風程度だ。
「・・・走り抜けるか」
いつダメージを受けても良いように回復薬を片手に走る体制を整える。
両手を床について座り利き足を半歩下げ、カウントダウンを始める。
走り出すまで、
3
2
1で腰を上げ、地面を強く蹴って走り出した。
見様見真似で行ったそれは意外な加速を見せ、一瞬で霧を抜けた。
あれ?結構速くね?
風圧で気持ち程度晴れた様な気がする。
走る事数秒・・・
完全に霧を抜けたが、相手からの攻撃はなかった。
「ふぅ・・・よかった」
安堵のため息をつき、記憶の中の地図を頼りに中心へと歩きつづける。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに。




