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第1話 侵攻





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「残念だがお前に召喚士の才能はない。何か他の道を見つけるんだ。」



怒号と悲鳴が飛び交う戦場のど真ん中で俺が思い出したのは、最も尊敬する父親からの最も聞きたくない言葉だった。


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召喚王国レメゲドニア、かつて召喚王が建てたとされる国の北方にある湖のほとりで俺は育った。

召喚王都といってもかつていた優秀な召喚士たちはもうすでにこの世にはおらず、召喚という行為自体が困難とされる現在、実力のあるものたちは数えるほどもいなかった。そんな中、俺の父親と母親は優秀な召喚士で、これまでにも幾度となく国の危機を救ってきた英雄だった。


召喚とは、多次元、または同次元の離れた場所から対象を呼び出し、使役する力のことで、優秀な召喚士はどの国でも最重要の役職についていたという。


「大きな土地で自然と戯れ、まずは草の、水の声を聞くところから召喚士は始まるんだ。お前にもいずれ聞こえるだろう。なんたって俺の息子なんだからな!」

と親父はよく笑っていた。



湖のほとりでそっと目を閉じる。

……………

…………………

…………………………


あたりからは何も聞こえない。

それも当然だ。もうこの行動は10年以上もしている。

それらしいことが聞こえたことはない。


「…聞こえるわけないよな…」

ため息を吐きながら湖畔に腰掛けようとした時、後ろから大きな声がかかる。


「コ〜ル〜!!ご飯じゃぞ〜〜!!」


振り返るといつもの少女が仁王立ちしている。

少女というより幼女で、薄紫色のロングヘアーをなびかせ、自信満々な立ち振る舞いは自身が可愛いということを自覚しているようだ。


「ムゥ!今行く!」


俺はムゥのもとまで小走りで向かう。


この幼女は俺が生まれる前からいて父親曰く、「召喚された存在」らしい。俺の家は代々の召喚士の家系で、彼女はその頃の誰かが契約したと考えている。

本人に聞いても、「かようなことを“れでぃ”に聞くなぞ、失礼ぞ」とちっとも答えてくれない。

何歳なんだ...



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「コールよ、お主は午後からは何をする予定なのだ?」

自分で作ったスープを口いっぱいに頬張りながらムゥが質問してくる。


「そーだなぁ、明日は学院の卒業式だからあんまり遠くに行くのもなぁ...まぁ、いつものように修行かな」


「むっ!修行か!わしも付き合うぞ!そもそも修行というのはだな...1人で行うよりも...うんたら」


また始まった。


この幼女はよくうんちくを垂れる。歴代の誰かの知識を吸収しているのだろうが意味のないものも多く、ほぼ環境音のような感じで聞き流している。

実際修行と言っても湖からすこし離れた森の中でゴブリンやらコボルトやらの最下級の魔物を適当にあしらう程度のもので、特筆するようなこともない。


それに明日は魔法学院の卒業式だ。あまり無理をして支障をきたすわけにもいかない。





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「ふぅ、まぁこんなもんかな」

しばらく森で修行を行った後、得た素材を町にある紹介ギルドまで運び、金銭と交換した。


「何だかんだ結構疲れたなぁ〜。今日はもう帰るか」

「あいわかった!ならば今日の夕飯もわしが作ってやろう!ムゥ様特製イボイノのボタン焼きじゃ!卒業祝いじゃぞ〜!」

「おぉ〜それは美味そう!胃もたれしない程度にいっぱい食うぞ!!」



ギルドを出て歩きながら二人でそんな会話をしていると、突如としてサイレンが鳴る。




『緊急!緊急!王都の西方にて魔族の大進攻を感知!住民の皆様は避難の準備を!冒険者ならびに兵士の皆様は戦闘の準備を!繰り返します。王都のーー』





しばらくしてあたりから喧騒が巻き起こる。


「オイオイオイオイ!まじかよ!大侵攻だって!?」

「この間侵攻してきたばかりじゃない!!どうなってるのよ!!」

「大丈夫だ!きっとまた冒険者や兵士のみんなが撃退してくれるさ!!」

「王都の中央に逃げろおおおおおお!」


俺は西に向かって小走りで移動しているスキンヘッドのいかついおっさんに話しかける。


「あの、さっき放送であった大侵攻って、、」

「おお坊主!魔族だよ!あいつら、この間来てこっぴどくやられたくせに懲りずにまた来やがった!だがな、安心しろ!何度だって俺らが追い返してやるさ!」


おっさんはそう言うと俺の頭をガシガシ撫でて走っていった。見た目に反してとても良い人だな。


「魔族がまた攻めて来たのか...半年も経ってないんじゃないか?」

「世知辛い世の中になったもんじゃのう」




魔族による侵攻---



魔王と呼ばれる存在が10年ほど前に復活してから、約1年の周期で魔族による領土侵攻が始まった。と言っても魔王が復活した際の大侵攻より9年間は、ごく少数の魔族がまばらに攻めてくるだけだったので、冒険者ギルドの力だけで追い払うことができていた。魔法学院や騎士学院の学生は非戦闘員として避難を強制されているので、魔族と戦闘するということはなかった。




「魔法学院に行こう、みんなもう集まってるかもしれない。ムゥ、行くぞ!」

「あいわかった!主はわしが守るゆえ、安心して行動するがよい!」


内心びびりまくっていたが目の前の幼女に守ると言われ、プライドを守るためにあえて自信満々に振る舞う。


「あぁ!ありがとう。でも本当に危なくなったらお前は逃げるんだぞ!戦う力を持たないお前に危ない目を合わせたくない。いざという時は元の世界に帰るんだ。」

「おぉ、小僧が言うようになったではないか!では安心して守られるとするかのう。もし本当に必要になったらわしに力を求めよ。役に立つぞ!」

「ああ!」


召喚されたムゥという存在に対して、詳しいことはわからないが、魔法も使えないようだし、身体能力も見た目相応の子供くらいの力しかない。

いざという時は守ってやらないと。



と、お互い守る守る言いながら走っていると、学院に着いた。魔法実技の広場に人だかりが見える。




「おーい!コール、こっちだ!」

「ムゥちゃんも!こっちこっち!」

その人だかりから少し離れたところにいる二人の男女から声がかかる。

「アルカ!ジューザス!無事だったか」

「心配したのはこっちの方だぜ!なぁアルカ」

茶髪で体躯の良いジューザスが問いかける。

「そうよ!コールの家遠いじゃない?だから誰も伝えに行けないんじゃないかって」

水色のポニーテールを揺らしながらアルカがため息を吐く。

この二人は所謂幼馴染だ。何だかんだいつも一緒にいる気のいい友人でもある。


「それが運良く商会ギルドによっててさ、今から帰るぞって時に放送を聞いたんだ。」

「それはギリギリセーフってとこだな!もうすぐ先公から発表があるぜ」

「また私たちは後方待機かしらね、早いとこ実戦を積んで一人前にならないとね」

「あれ、先生が来たな。隣にいるのは第二騎士団長か...」


『あー、あー、お集まりの学生諸君、重大な発表がある。心して聞くように。団長、お願い致します。』


『第二騎士団長ロズウェルである。事態は非常に深刻だ。魔族の数は例年の10倍、約15000と推定される。諸君らの力を貸して欲しい。後方待機ではなく、実際に支援に参加してもらう。状況、配置については移動中に説明する。時間がない。ただちに移動開始!』



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