9.森の中での出会い
本日二話書き溜めできたので二話放流します。 二話目は23時予約。
「……なぁ、セレス。」
「何さ、ヴァリス。」
「さっきから妙な音しないか?」
「音……そういえばそうだね。」
がさり、がさりと葉を踏む音がする。
出立して3日、現在位置は森の中。
大きな都市を繋ぐ《大街道》に出るにはこの場所を抜けないと行けない場所にある。
いや、正確に言えば越えなくても良いのだが一週間近い大回りになってしまうので中を抜ける形にしたのだ。
途中で狩った小さい豚のような魔物(味も豚肉に近い、庶民の味)の死体を吊るしながら。
今日の休憩地点を探してあちこちを歩き回っている。
そんな折だった。
妙な「音」が遠巻きに聞こえ始めたのは。
「この音何か聞き覚えあるんだけど何だと思うよ。」
「んー……鉄が何かに当たる音だよね。」
「鉄?」
「うんそう、鉄。」
鉄。 森の中。
余りに不釣り合いなんだが……妙に引っ掛かる。 何だろうか。
「俺ちょっと見てくるわ。 此処野営地でいいだろ。」
「え、もう少し良い場所探さない?」
「ある程度の広さありゃいいだろ。」
「川にもう少し近いほうが良いと思うんだけどなー……。」
普通ならな。
ただ低確率で起こる【川の氾濫】ランダムイベントが起きると今対処できないから近寄りたくない。
口に出すことはないが、断固拒否だ。
現実世界である【イーリアス】でも求められる技能は然程変わんないんだし。
「じゃ、悪いがそれ解体しといてくれ。」
「はいはい。 ……僕もヴァリスも《解体》スキル欲しいよねえ。」
「経験積めば増えるって。 んじゃ行くわ。」
マントで頭を覆い、弓を片手に森の中へと潜んで歩みを進めた。
万が一危険すぎる相手なら逃げられるように、俺一人だ。
だが少し不安が残るのも事実。
流石に調理最低限できるように鍛えたんだし、食えないモノを作ることはないだろ多分。
骨から肉を外すだけなんだし。
/
近付く度に音は大きくなる。
段々と声も聞こえてくる。
この声、は――――。
『ガヒッ!』
『ギヒィ!』
『おい、追い込むぞ!』
『ヒヒッ、分かってんよ! おいゴブリン共!』
(……魔物使役者がいるのか。)
連れている魔物の格で強さが分かる、とまで言われるスキル、《魔物使役》。
確か【LUC】と【POW】に比例したテイム確率を持つ、んだったか。
それが暴れているだけなら良いのだが。
『…………ッ、ふざけなさい下衆共!』
『うっせぇ、とっとと降参すりゃ手荒く扱うのだけは勘弁してやんぜェ!?』
『その代わりに十分『奉仕』してもらうけどなァ!』
そんな中に紛れて聞こえる高い声。
他の声色はやや粗野な言動が混じった低い声。
そして聞こえる鉄の音と、駆け回るような足音。
その後に聞こえてきた微かな悲鳴と、地面に響く振動音。
成程、つまり。
「ったく、屑野郎共か……。」
正直生きて捕える理由は無くなった。
足早に移動しながら【鷹眼】を起動する。
少しばかり上がった視野を先行させ、相手の位置関係を可能な限り把握する。
走る、走る、走る――捉えた。
恐らく戦っている、というより抗っているだろう女性のはっきりとした姿は見えない。
俺の視界に入ったのは、此方に背を向けながら他の誰かを舐め付けているような山賊のような男。
そして、その男の向こう側に見える魔物に指示を出す男と、魔術師じみた格好の存在。
魔物は数体、明らかに数で圧倒している。
(オーケー……『そういう』ミッションと思わせてもらう。)
【貫通強化】。
《ポイズンマスタリー》、毒選択。
【麻痺:神経毒:呼吸器官】:重点割合【8:1:1】。
効果は体内に巡った瞬間に呼吸器官が引き攣るレベル。
【二重矢】は使えない。 万が一外した場合に致命傷になる。
故に。
「狙撃……動くなよ!」
叫んで、相手の気を一瞬此方に向ける。
そうした隙を穿つのが……射手だ。
放った矢は後ろ姿の男の肩口に命中。
急に呼吸が取れなくなり、苦しみだした所を後ろに倒れていく。
「援護する!」
「――ッ、誰だか分かりませんが助かります!」
そうして、漸く視界に入った相手は。
良く見知らぬ、扇情的な姿をした。
良く見知った、赤髪の少女だった。