6.四年後
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「俺が撃ったら走れ。」
「分かった。 相手の数は?」
「少し待て。」
木の陰に、二人で小さく息を潜めた。
緑色に染められたマントで身体を覆い、視線だけを外に向ける……気付かれてはいない。
足元に置いた小さな壺に仕込んだ液体を、ゆっくりと付着させる。
とりあえずは三本。
もう少し必要かもしれないけれど、余り長続きしないのが利点であり欠点だから仕方ない。
二本を箙に戻し、静かに構えた。
(――――武技:鷹眼)
そう脳内で呟けば、己の視界がやや上空に上がるのが分かった。
ゲーム内では攻撃の命中精度増加の効果があった【技】だが、己の身の場合はこうして視界が広がる効果があるらしい。
慣れるまでに若干手間があったが、ある程度視界の位置を操作出来るコツが分かってしまえばかなり便利なので重宝している。
そのまま少し左へ。 ……見つけた、羽飾りを付けたやや茶褐色の小人。
今日の目標は亜人族、その中でも他種の女性を攫う習性を持つゴブリンの羽根付きだ。
普段はこんな場所に出てくるはずも無いのだが、今日は何処かの襲撃に向かおうとしていたのか。
配下を含めて4体。 一言で言ってしまえば好都合だ。
「羽根1、その他3。」
「分かった。」
すぅ、と一度小さく息を吸った。
貫通強化。
手元の矢が、鈍く光り。
それを合図に、一歩大きく左へと踏み込んで。
そのまま身体を90度捻り、手を離した。
「二重矢……セレスッ!」
「ああ……戦士の咆哮ッ!」
そう叫べば、自分の意志ではないように手が一本の矢を掴み。
放った矢に追従するようにもう一本が飛び放たれる。
足音で気付いたのか、或いは叫び声に反応したのか。
その差は殆ど無かったから、何方が正しいかはわからない。
それでも。
『ガッ!?』
『ギヒィ!?』
「2ヒット! そのまま抑えとけ!」
「そこまで慌てるほどじゃないってば!」
視界の奥で矢が直撃した個体は1、矢は相手の右肩を貫いてそのまま衝撃毎ゴブリンを吹き飛ばした。
その吹き飛ばされたゴブリンで視界が遮られたか、隠し矢のように放たれた矢が左肩を掠る……十分だ。
大きな悲鳴を上げた羽根付きは、反撃を期そうとするものの動きが極端に遅い。
一秒、二秒。
そんな秒を刻む間に配下は命を散らしていくのに、矢が当たった二体は動かない。
いや――――動けない。
「悪いな。」
だからこそ、その生きた人形の頭蓋を貫くのは極めて簡単な作業だった。
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「んー、やっぱ麻痺毒強めだと行動止められるのは大きいんだがなぁ。」
「その分フォローが必要……とは言っても、僕なら余裕だけど。」
「おう、何だ自慢かお前。」
討伐証明、羽根付きの羽根とゴブリンの耳を削ぎ取る。
残酷な感じがするが、もう4年も同じことをしているのだ。
いい加減慣れる。
それより、俺にとって大事なのは毒の成分調整の事だった。
相手によって効く毒、効かない毒があるのは前述の通り。
だから可能なら相手に汎用的に効く毒があればいいが、そうしたら事故れば味方も毒になる。
つまり、何を重視するかは仲間と相談せざるを得ない、というのは気付かなかったデメリットだった。
全てをゲーム基準で考えると失敗する、という意味では失敗する前に気付けてよかったとも言えるけど。
「実際毒殺すると素材の品質下がったりするしね……。」
「毒抜きの魔法早く覚えろよ。」
「使える人がいないんだって……何処で覚えようと思ってるかは解ってるんだろ?」
「まあな……。」
既に、俺達は14歳。
……入学の為に、出発する日はもう間近だった。
【名前】ヴァリス=ローランド
【性別】男
【年齢】14
《能力》
【STR】12
【DEX】13
【SPD】12
【CON】10
【POW】12
【LUC】10
《スキル》
【ポイズンマスタリー:Lv2】
【調合:Lv2】
【弓術:Lv2】
【瞑想:Lv1】
《武技・魔法》
《弓術》
【鷹眼】
【貫通強化】
【二重矢】