5.ポイズンマスタリー
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「という訳で、これ証明になりますよね?」
「おい、マジかよ……。」
「約束は守ってくださいね?」
街の外れ、外壁から徒歩30秒くらい。
あばら家、と言ってしまっていい一軒の小屋の中。
絶句している初老の男性一人と俺。
机の上には大量のゴブリンの鼻。
こんなものは買い取ってくれる場所も、証明部位でも無い以上はただのゴミ。
要するに、【自分で狩らなければ手に入る確率は相当低い】物品。
だからこそ、彼……【弓聖】レインはその上にあるものを要求した。
俺に《弓術》スキルを学ぶ条件として、【一週間以内にゴブリンの鼻を50個】を要求したのだ。
(この世界、一週が6日で全5週、一月が30日と前世と然程変わらなかったりする)
(そもそも何でこんな場所に【弓聖】がいるんだよ!)
遡ること一週間前。
両親に「弓術を学びたい」旨を告げた所、最初は少し反対された。
理由としては単純、弓は騎士が扱うものではない、とされているためだ。
前世だったら東海道一の弓取り、と言われた人物がいるように弓は武士としての一般技能であり、武器だった。
それに対し、【イーリアス】では騎士は長剣や槍、メイスなどの直接的な攻撃手段か魔法による属性攻撃が普通とされている。
剣と魔法、という概念が生きているためか。
或いは単純に過去の英雄が剣を使っていたからかは分からない。
ゲームでもこの辺りは微妙に表現されており、最強クラスの弓の入手手段は自作のみだった。
……あの為だけに木工制作まで派生させたんだよなぁ。
それはさておき。
なんとか説得した所、「この都市で一番弓が上手い人物に紹介だけはする」という形で教えてもらったのだ。
「友人と一緒でしたけど規定数きっちり。 弓は変な癖がつくと嫌なので握ってません。」
「うぬぅ……。」
その相手が眼の前にいる【弓聖】だ。
ゲームの時ではこの称号を持つ人物は森の中の森妖精の男性だった。
だが、この世界では違っているのか。
或いは彼から別人に移動するのか、その辺りは要検証と言ったところだろう。
何しろ、【ユニーク称号は対象が死亡した際に別人に移動する】というのはゲームでもあった法則の一つなのだから。
「……一応聞かせろ。 何のために弓を持つ?」
「一番、俺のスキルと相性がいいからでしょうか。」
「スキル?」
「ええ、まあ詳しくはまだ教えられませんけど。」
そして弓。
【義賊王】のメイン武器でもあったこの武器の一番の特徴は、【矢を使い捨てる】点だろう。
他の武器ならばメンテナンスを続ければ最低でも二月程度は持つ。
それに対して、矢はほぼ毎日作る必要がある。
兎に角金が掛かるし、勿体無い……のだが、そこで俺の《ポイズンマスタリー》との連携が生きる。
《ポイズンマスタリー》で行える効果は二つ。
【毒の比率調整】が可能になることと、【毒の効能が増加】する常駐効果。
ゲーム時代、毒なんかの状態異常は無駄に種類が多かった。
毒、猛毒、劇毒、神経毒、自然毒、化合物etc...。
麻痺、石化、病気、呪い、混乱etc...。
【調合】スキルで毒自体を作成可能にはなるものの、その内容はほぼ複合毒のみ。
例えば【麻痺:神経毒:時間継続】の重点割合が4:3:3とか。
そして、嫌な所は【装備品などでの無効効果は内容の何かが引っ掛かれば全て無効化される】仕様にある。
故に序盤は毒で暴れまわれるが、後半は耐性を持っていれば何とでもなるし、相手に対してもほぼほぼ意味がなくなる。
但し、《ポイズンマスタリー》……つまりは【義賊王】相手を除いては、だ。
彼は自分で成分を調整してくる。
その上、効能が増加した部分は耐性や無効を貫通してくる仕様を持つ。
つまり、ナメて掛かると初見殺しと言わんばかりにハメ殺しを容易に行ってくる相手だったのだ。
先手を打って殺そうにも相手は《隠密》スキルや《罠》スキルにも長けた稀代の達人。
俺が目指そうとしているのもつまりそれ。 NPCでの彼が行っていた内容の上位互換に当たる。
鏃に毒を塗り付け、罠を張り、身を隠して、動きが取れなくなった所を狩る。
毒の効果を倍増させる一般的にはゴミと言われるスキルを用い、相手を更に苦しめる。
万が一近接戦闘になった際を考え、緊急離脱や魔法系スキルを取って撤退を前提にする。
まともに戦う気何かない。 勝ったものが正義何だ、と言った理論だ。
当然騎士何かなれるはずもない。
だが――――死にたくはないのだから。
「色々、弓の技とかも教えて下さいよ”師匠”。」
「まだ認めてねえよ。」
まずは、この頑固者を説き伏せることから始めよう。
……長い修業の始まりだ。