2.ハトホルと依頼
その家は周囲の職人たちの家のなかのひとつだった。戸口にかけられた、金銀を主に扱う金属細工師であることを示す黄色い砂除けの布には、牛の角と太陽─────女神ハトホルを示す紋章が描かれている。
「キヤです、ただいま戻りました」
そう告げながら布をくぐって室内へと入る。玄関から居間へ、そして寝室へとキヤは進む。
ルウはキヤが家を出た時と同じように、簡素な寝台に横たわっていた。動かない首の代わりにくるりと視線が動き、キヤの姿を認めると、ルウはやわらかく微笑んだ。
「おかえり、キヤ」
「うまくいきましたよ、師匠!!カアエムウアセト様がとりなしてくださるって!!」
キヤは笑顔で枕元に駆け寄り、ぎゅっとルウの手を握りしめた。
「成功は確約できないと仰せでしたけど、これで師匠はきっと助かります!」
ルウは驚いた顔をしていたが、嬉しそうなキヤの顔を見るとまた微笑む。
そして、その手がぴくりと動いた。
「し、しょ……?」
動いたのは肘から下。思わずキヤは手を離したが、ルウの手はゆっくりと動く。
「キヤ、少しかがんで。とどかない」
「え、あ、はい……」
キヤがかがむと、ルウは肘から下を器用に動かして、キヤの頭を撫でた。
いつもよりも力ない腕だった。きっと動かすのも痛いだろう。それでもルウは必死に腕を動かして、キヤの頭を撫でたのだ。
「キヤ。ありがとう」
「……っ、はい!!」
キヤは満面の笑顔になった。
それを見て、ルウも嬉しそうに笑うと、そろりそろりと腕を寝台に戻した。それからルウはまた尋ねる。
「どういう理由でカアエムウアセト様は、キヤの話を受けてくださったんだろうね?慈をお持ちだというので有名な方ではあるが、キヤの話を受ける理由がわからなくて」
「あの、師匠。たしかに理由はあるようでしたけれど、そもそもカアエムウアセト様は師匠が“ハトホル”になる前から依頼をくださってた、超御得意様ですよ?」
ため息まじりにキヤが諭すと、ルウはぱちぱちと瞬きをし、それから思い出したように声を上げた。
「……ああ、そうか、そうだった。お客の名前はすぐ忘れるからいけないな」
「まったく、そこが本当にだめですよね、師匠は」
わざとらしくキヤが言うと、ルウは苦笑する。
「わかっているよ、キヤ。それで、話の続きは?」
「はい、師匠。それが、カアエムウアセト様は、この依頼はおかしいとおっしゃって」
「おかしい?」
ルウが眉をあげて問うと、キヤは真面目な顔でうなずいた。
「はい。なんでも、神王にお妃様は────王妃様はいらっしゃらないとかで……愛妾さえお持ちではないとか、なんとか。妹君が見つかったのかとか、そんな話が聞こえて……」
キヤが話す途中で、ルウはぱたりと目を閉じていた。平静を装ってはいるが、顎のあたりで筋肉が動いているから、歯をきつく噛み締めているのだろう。
そしてその顔がどんどん青くなっていく。
「キヤ」
細い声が聞こえた。
「まずいよ、キヤ。これはまずい。どうしようか」
「師匠、なにがまずいんです?」
「…………」
キヤの問いに、ルウは答えなかった。
ルウはきつく目をつむり、何事かを考えているようだった。
「……師匠?」
キヤがそう声をかけても、返事がない。
キヤがすこし心配になるころ、ぱちんとルウの目が開いた。
「考えないことにしよう。うん。そうするしかない。
しかし、工房を停止させてしまうわけにもいかない。キヤ、簡単な依頼を任せるよ。できるね?」
驚きのあまり、キヤはその場に弾かれたように立ち上がった。
「そんな、師匠、良いんですか……?!」
絞り出すようにキヤは問うた。
「弟子が作ると先に断れば良いし、それにわたしが作るときよりも代価は下げるつもりだ。それで良い。大丈夫、キヤの腕はけっして悪くない」
静かなルウの言葉に、キヤは再び座りこむ。
キヤはしばらくルウを見つめ、そしてうつむいた。
「……あたしで、つとまりますか?」
「つとまるよ。だから言っているんだ。
わたしが動けない間、キヤにここを頼んでいいかな?」
はい、とキヤは笑った。ルウも応えて笑った。よろしく、というルウの言葉をきいて、キヤはルウの火傷まみれの手をしっかりと握った。
その三日後のことだった。どんな手段を使ったのか、カアエムウアセトはもう神王への謁見を終えたらしく、工房に使者をよこした。
報告は、納品の期限が半年後に伸びたという話だった。
ただ、代償として、ハトホルの工房の主と、師の危機に神殿まで出て行ったというその娘には、工房の主の状態が安定し次第、神王の宮殿にまで、出頭が命じられた。
話は二日前にさかのぼる。
カアエムウアセトは、イウネトから北に船を漕がせていた。行き先はワセト近郊の、神王の座す宮殿である。
カアエムウアセトは現在の神王の従兄弟叔父にあたる。それゆえに、神官としては案外目通りが叶いやすい。先んじて鳩を飛ばし、今日の午後に目通りしたいとは申し出てある。
その一方で。
────神王はなにを考えているのだろうか。
船上のカアエムウアセトの頭を占めているのはそんなことだった。
まず、現在の神王に妃はいない。このケメトの『上の国』と『下の国』の二つの地域に、ただの一人もだ。
愛妾くらいあてがわれていても良いものだろうが、少なくとも、現在まで寵愛をされている者はいない。せいぜいが欲の処理と、万が一妃が見つからなかった場合のための代替品のためだろう。
そして、現王────即位名をアンクケペルウラーという神王は、彼の父のわがままにより、生まれた時から、だれと婚姻するかを定められて生まれてきた王だった。
いや、これは正確ではないだろう。もっと正確に述べるなら、先王ウセルマアトラーは王家の血の薄い、神官の娘を見初めて妃とした。それゆえに、これ以上血を薄めないよう、現王は生まれる前から姉妹と結婚することが決まっていた。
先王ウセルマアトラーの妃イシスは、まず現王アンクケペルウラーを産んだ。そして、もう一人、娘を産み、そして娘と共に失踪した。
つまりその娘以外に、現王の妃となりうる女性は、現在この国には存在していない。
ゆえに、神王は未だに独身なのである。
だが、いかに神王の妹とはいえ、彼女が現在まで生きているかどうかは、はっきり言ってわからない。だが、生きていたのだとしたら。
「…………サトアメン王女が、ご存命だったということだろうか」
カアエムウアセトは、船上でぽつりと呟いた。
無論、答える声はなく、また結論もなかった。カアエムウアセトが思い悩むうち、一行はワセトの船着き場に到着していた。
船着き場から宮殿の前まで、カアエムウアセトは輿に揺られて進む。灼熱の太陽のもと、時に水を飲みながら進んだ。
宮殿の前で、輿を降りる。ここから先は、神王とその近親者くらいしか輿に乗ることは許されない区域だ。
いつも通りの手順をたどり、ある一室に案内される。一応は謁見の間の一つではあるが、ここは非公式なものであり、だいぶ砕けた一室だった。実際、神王と臣下の位置が近く、神王も、それなりに気安く信頼の置ける者を通すための場所だ。
しばらく待てば、神王はすこし離れた上座に姿を現した。
「良い、気楽にせよ、カアエムウアセト」
跪こうとしたカアエムウアセトに、神王は気さくに声をかけた。
「お心遣い痛み入ります、神王よ」
若き神王は椅子にすとんと腰をおろすと、カアエムウアセトにも椅子を進めた。
「そなたも座れ。そなたの年では立ったままというのも辛かろう」
カアエムウアセトが礼を述べて着席すると、神王は早速だが、と前置きして尋ねた。
「ハトホルの工房の件で話があるということだったが、そなたがわざわざ訪ねてくるとは、なかなか尋常ではないようだな」
カアエムウアセトはひとつうなずき、畏れながら、と答えた。
「ハトホルの工房の者と、先日会いました。師が肩を負傷し、腕もろともまともに動かないそうで、賜った御依頼が完遂できない、と。ゆえに完成が遅れることをお許しいただきたいとのことでした。
しかしその者、気になることを申したのです。神王より、王妃様の首飾りの御依頼を賜った、と。
ただ、わたくしは、神王には未だお妃様はいらっしゃらなかったと記憶しておりましたので、なにやらおかしいと思ったのです」
「……それで、余のところへ聞きに参ったというわけか」
「はい。その通りでございます」
神王はまっすぐにカアエムウアセトを見つめていた。
神王はやはりいつも通り、ネメス頭巾ではなく、黒く長い髪の鬘をし、さらにはその髪をゆるく結わせせていた。
アイラインがくっきりと黒いこと、目元のアイシャドウが淡い黄色なのはまだ普通と言えるだろう。しかしうっすら施された顔の化粧も男性的な橙や赤褐色ではなく、どちらかといえば女のように黄味が強い。
ひとつ間違えば女装趣味にも取られそうな出で立ちだが、服装は前垂れのある腰布だ。ゆえに女装趣味と取られたことはない。
神王曰く、この顔にしておくと、鏡や水面を覗きこんだとき、妹の顔がそこにあるように感じるのだとか。同時に、もしどこかで生きているのなら、こうしておいた方が近かろうから、だれかが見覚えがあると言い出さないかという期待だそうだ。
神王は、顔さえ覚えていない妹をひどく慕っている。近しい血縁であると同時に許嫁でもあるのだから、当然と言えば当然だが。
その神王はふむ、とひとつうなずき、再び口を開いた。
「カアエムウアセト。ひとまず期限を半年後に伸ばす。それでもまだ足りぬのであれば申せと伝えよ。ついでに、その娘ら、連れて参れ」
「は、承りました。……ところで、わたくしは先ほど娘だとお伝えしましたか……?」
カアエムウアセトは首をかしげた。彼の頭のなかに、工房の下働きが女、しかもまだ娘と形容できる年齢のものだと伝えた記憶はなかった。
そう言えば、神王はからからと笑った。
「ああいや、知っておっただけのことよ。
そうさな、あれは娘のなりはしておらぬやもしれぬが……とりあえず、負傷したという工房の主人がまともに歩けるようになってからで良いか。工房の主人と、そのそなたの前に現れたという娘、その二人で良いから連れて参れ」
にんまりと神王は笑う。
カアエムウアセトには神王の狙いは測りかねたが、カアエムウアセトはおとなしくその命令を賜り、そして神王の御前を辞した。
────神王はなにを考えているのだろうか。
やはり、カアエムウアセトの頭を占めているのはそのことだった。
時は戻り、ルウの工房でのことだった。
ようやく、長く座っていられるほどには回復したルウは、キヤの作った細工物を見ていた。
「うん、よく出来てる。ただ、ここの縁は、もうすこしだけ叩く力を弱くしてもよかったかな。これだとちょっと潰しすぎて、線が硬くなるから」
もうすこし柔らかな線でも良いと思う、とルウは首の曲がらない自分の目の前に差し出された、キヤの細工にひとつの留意点を告げた。
「わかりました……気をつけます。やっぱり難しいですね」
キヤはそうこぼすが、それでも出来は良い。ルウの要求が細かすぎるのだ。
キヤが作っていたのは、金の台座に紅玉髄を嵌め込んだ髪飾りだった。これは、キヤとも面識のある、葡萄酒の工房の奥方の注文だ。弟子が作るという話を聞いても、それでも“ハトホル”が認めた弟子なのだからと依頼を出してくれたのである。
「うん、まあでも十分だよ。奥方のところに届けておいで」
ルウはそう言って笑った。
葡萄酒の工房の奥方は、キヤがただの下働きではなく、金銀細工の“ハトホル”の工房の弟子だと知っている数少ない人間だった。
基本的に金銀細工にもとめられるのは、忍耐力と繊細な指遣い、力の入れ方だ。だから決して男性の占有する職ではない。
それでも職人の女は基本、パンを作れない。ゆえに嫁入り先もそうそうないため、あまり良いとされないわけだが───それでもこの奥方は、自分が葡萄酒造りを手伝っているだけあってか、キヤのことを知っても、万が一嫁ぎ先がないなら探すのを手伝うとさえ言ってくれた人であった。
そうした女性らしい気遣いのできる人でもあるためか、キヤも懐いている。ゆえにか今回は余計に気合を入れていたキヤは、ルウの言葉にすこししょげた。
「……やりなおしは、だめですか……?」
しょげるキヤを見つめて、ルウはくすりと笑った。
「だめ。これ以上やり直したら、代価をもうちょっと貰わなくてはいけなくなるよ」
確かに、ルウほど上手くはない。だが、キヤの細工は、下手をすればそこいらの工房の主人よりもうまいのだ。女の子らしい指の細さと、繊細な感性と、それから器用さがキヤの武器だった。
「代価を増やす、って……」
「キヤ。あの代価で、この作品だよ。お得意様とはいえ、十分お買い得だ。だからもう、いちど火と槌と金銀から離れなさい」
「…………」
キヤはちょっと恥ずかしそうに目を伏せた。思わぬ角度から褒められたのを、ようやく悟ったらしい。
「この二日、わたしの世話と細工で、ここに籠りっぱなしだろう?汗で落ちた化粧も直して、気晴らしにすこし出歩いておいで。葡萄酒の工房まで、すこし距離もあることだから」
ルウがそう諭すと、キヤは気恥ずかしげにうなずいた。
「わかりました、いってきます。……あっでも、師匠のお世話は私が好きでしていることですから、そこは誤解しないでくださいね?」
「わかった。ありがとう」
ルウの微笑みにキヤも笑い返し、キヤはぱたぱたと寝室に姿を消し、早速出かける用意をはじめた。
久しぶりに外を楽しみ、ついでに弟子としての評判も上げつつ、葡萄酒の工房の奥方にはその出来栄えから色をつけてもらいさえして、キヤは工房に帰ってきた。
「こんなにパンをもらえるなんて思ってませんでしたから、嬉しいです」
パンをちぎってルウの口まで運びながら、キヤは嬉しそうだった。
「キヤ、自分で食べられるから良いよ」
「ダメですよ、師匠そう言って昨日こぼしたじゃないですか。それにこんなことで肩に負担をかけて悪化でもしたら、笑いごとにもならないんですからね?」
キヤの言葉に、ルウは大人しくキヤが口元によせたパンを食べた。さらにキヤは笑顔で豆の煮付けをルウの口元に差し出す。ルウはやはりおとなしく食べた。
「ねぇ、キヤ。明日はどうする?」
キヤはすこし笑って答えた。
「明日も細工をします。銀の腕輪の依頼も来てますし」
「うん、キヤ、それは四日後の納品のはずだよ。基礎もできてるし、キヤの腕ならそうかからないはずだね。だから休みなさい。火傷にもきちんと薬を塗って治して、痛みにわずらわされないようになってから、次をやろうか」
いつも外さない外套の下から、ルウの腕が伸びた。火傷の増えたキヤの手に、そっと、それと同じか、それ以上に火傷まみれのルウの手が重なる。
たしなめるように、それでいて安堵させるように、ルウが微笑する。
「わたしもそうやって技を覚えた。技のために肉体をおろそかにするなと、わたしもなんども叱られたよ。
今ならわたしにも、ああしてわたしを叱る師の気持ちがわかる気がする。綺麗だった手が火傷だらけになっていくのは、忍びない」
「はい…………」
キヤはそれでもまだ納得しきれない様子だった。ルウはキヤの手を、とんとん、とたたく。
「キヤ。休むこと、休んで細工の意匠をじっくり考えること。これは決して悪いことではなく、むしろ必要なことだよ」
「あたし……休むべき、なんでしょうか……」
おずおずと問いかけるキヤに、ルウはちょっと笑いかけた。
「もし食事とかのことを心配しているなら、そこは気にしないで。ある程度の出来栄えでしかないけれど、わたしの昔の作品もある。長く食べるには足りないが、数日はそれでも余裕で持つはずだ」
キヤはそれを聞きながらだんだんとうつむいてしまった。ルウはすこし悲しげに愁眉を寄せる。
「不満……?」
「いいえ、いいえ……そうではないんです」
キヤは力なく首を振った。
「師匠は、親を亡くして孤児になったあたしを拾って、衣食住を与えて、細工師の仕事を教えてくださいました。でもあたし、なんの恩返しもできてないから……」
ルウはしばらくぽかんとしていたが、しばらくするとくすりと笑った。
「いい?キヤ。わたしがもし一人でここにいたとしようか。そうしたらあの日、わたしは医院から帰ることすらままならなかったよ。いまだって、ひとりでは生活できていないしね」
事故から一週間とすこし、ルウの腕はすこしずつ動くようになっていたが、まだまだ力が入らず、日常生活には支障をきたしている。キヤの献身的な介護がなければ、こんなふうにまともに生活できていたりはしないだろう。
「それにね、キヤ。確かにわたしはそこそこ恵まれて生まれた。……話したことはなかったけれど、わたしは幼い頃は結構広い屋敷で育った」
キヤは弾かれたように顔を上げた。
ルウはなんでもないことのように、初めて自分の過去を口にした。だが、キヤが拾われてから三年になるが、それ以前の話をルウはこれまでにいちどもしたことがなく、キヤはなにひとつ知らなかったのだ。
「ずいぶん早くに出てきてしまったけれど、この工房もここの家具も、祖父がくれたと言っていい。そのぶん、わたしは切羽詰まっていたりはしなかった。
だけどね、キヤ。わたしがキヤを拾ったことに、なんの下心もないとは言わないよ」
「下心、って……」
キヤはほんのりと頬を染め、ルウは苦笑した。
「だって、ひとりはさびしいじゃないか」
目を細めてそんなことを言って、あぁそうだ、とルウは楽しそうに茶目っ気たっぷりの声をあげた。
「なにひとつ恩返しができてないとか、そんなことを気にするなら、いっそキヤはわたしの奥さんにでもなる?」
「え……えっ?!」
カァァ…とキヤが今度こそ真っ赤になった。
「えっちょ、あの、ししょ、えっと」
「キヤが十三でわたしが十七だから年回りはそこまで悪くないし、わたしもこういうことさえなければそこそこ稼げるつもりだよ。だから、キヤがもうちょっと大きくなったら良いんじゃないかな……なんてね。
心配しなくても、キヤが嫌がるのに無理強いしたりはしないから大丈夫、ほとんど冗談だから」
ルウはそう言っておきながら、茶化すようなことはしなかった。まっすぐ、いつも通りのやわらかい微笑みでキヤを見つめていた。
「………っ、し、しょう、あの」
真っ赤になったキヤはしどろもどろになりながらうつむく。
「なに?」
やわらかな口調をくずさないルウの問いかけに、キヤは耳まで真っ赤になった。
「なっ、なんでもない、です…!!」
「そう?ならいいけど……」
ルウはほんのすこしだけ、首をかしげるような仕草をした。
「まぁ、話をまとめるとね、キヤ。キヤが気にすることはなにもないということだよ」
「はい……」
耳まで赤いキヤはつぶやくように返した。
ルウは手を動かしかけたが、ルウの身体はまだ、キヤを抱きしめることはできない。
キヤはふと思った。ここケメトでは、家を建てたら結婚したとみなされる。だから、共に暮らしているルウとキヤも、実際に結婚しているか、それに近い状態だと思われていることが多い。
ルウはそのことを知っているのだろうか。そう考えたら、また頰が熱くなった。
言い忘れていましたが、五話程度で完結するはずです。
次は明日の朝に出します。小出しにする。