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2 気になったので外に出る決意をしました。(外に出るとは言ってない)


 「はぁ~…ごくらく……」


 勇者との死闘(勇者だけ)を終え私はいま魔王城の浴場で一息ついていた。


 魔王城の浴場は本来の魔王の意向により大きな浴場を一人だけで使うのではなく、大衆浴場のように大人数で使うように作られている。理由は、そっちのほうが面白いじゃん?というものだった。


 ……もちろん男女に分かれているよ?


 「ご主人様~お背中流しましょうか~?」


 「うん~……。おねがい~…」


 そういって鏡の前に座って結局侵入してきたミナモに洗ってもらいながらうとうとしているとふとあいつに連絡しようと思い魔法を使う。


 「我は万象に望む~、万象よ彼の者の姿を映し~、我が声を彼の者へ届けたまえ~、『幻像音声(コールファントム)』」


 「相変わらず面倒な魔法ばかり使いますねぇ~」


 「これじゃないとあいつに届かないしね~」


 洗われているのが気持ちよくてつい間延びしてふざけたような詠唱になったが魔法を発動した。


 この魔法は通信魔法と呼ばれるものの一種で、本来『通信(コール)』という魔法で、少し遠くにいる人間に声を届けるということしかできない魔法だったのだが、魔王との共同開発、というか共同魔改造して音声・映像・文章の三つを距離に関係なく送れるようになっている。

 それに普通の通信魔法では通信距離に制限かかったり相手の位置を特定しないと使えないなどの制限が存在するが、この魔法には通信する相手を思い浮かべればつなげることができ、通信距離や環境、現在位置の特定に関する制限が存在しない。そのため今どこをほっつき歩いてるかわからない魔王に連絡を付けようとするとこうするしかないのだ。


 魔法を使い少し待つと鏡の中にぼんやりと人影が浮かび上がってくる。


 「よう、久しぶり、相変わらずちっさいな」


 大体見えるくらいに浮かび上がると鏡の中の魔王が話しかけてくる。


 魔王は相変わらず私の中にある記憶と変わらない。


 豪華なローブのようなものを羽織り、その上からでもわかるスラリと伸び引き締まった手足、凛としている整った顔立ち、肩のあたりで切りそろえられた真っ赤な髪と、同じく真紅に染まった強い意志を秘めた瞳、そしてこれでもかと主張している胸を持つ美女、それこそが本来の魔王『スカト=スカイ』だ。

 そう魔王は女だ、よく魔王は男という誤解があるが、いまの魔王は女だ。


 腰まである黒髪と、けだるげに半眼にしている黒目、絶壁を持つ十歳前後の少女の姿をしている私とは見事なまでに正反対だ。

 見てると恩人ではあるが劣等感を刺激されるのであまり話したくないのだがこの際仕方ない。

 ちっさいと言われたことに対して多少むかついたが特に何を言うでもなく挨拶をする。


 「久しぶりスカト、今何してたの?」


 「なんだ?ソッコー本題に入らないなんて珍しいな」


 「別になんとなく気になっただけだよ?」


 「ふーん、珍しいこともあるもんだ」


 魔王の言うとうり普段私は世間話とかあまり挟まずに聞きたいことを端的に聞くのだが、急いでいるわけでもないし、魔王城の管理を押し付けて魔王が今何をしているのか気になったのだ。


 「別にいいじゃん、気になっただけだよ」


 「ま、そりゃそうか、長いこと空けてるからなぁ……。で、今何してるかだったな、今は『枯渇遺跡』でちょい調べものをな」


 「『枯渇遺跡』?なんでまたそんなところに」


 「お前、今属性がいくつあるか知ってるよな?」


 「そりゃね、七属性でしょ?」


 魔法には火、水、土、風、光、闇、無属性の七属性が存在する。存在するといっても分類上そうなっているだけであり魔法を使う際の魔力に属性があるわけじゃない。魔法を使う際の詠唱に『火よ』とか『水よ』とか入れることで魔法に属性を加えるということができ、この加えることのできる属性が七つの属性ということだ。

 例えば、勇者たちを無力化(惨殺ともいう)したときに使った無属性魔法『魔力弾(マナバレット)』だが、あの時は無詠唱で放ったが本来は『我は万象に願う 魔力よ 敵を討て』という詠唱がいる。この詠唱の時『魔力よ』を『火よ』に変えると『ファイアーボール』という魔法になる。

 この魔法に属性を加えるという工程のとき、人によっては加えやすい属性と加えにくい属性があり、それを『魔法適正』と呼んでいる。

 『魔法適正』が存在する理由は「魂魄的及び根源的適正により脳内の演算領域内の魔力回路が~」みたいな小難しい理由があるのだが、面倒なので人によってイメージしやすいものが違うと思っておけば問題ない。

 また『魔法適正』を調べる方法は簡単だ、『魔力よ』と詠唱すればいい。そうすれば一定以上の魔力を持っていれば得意な属性の現象が現れる。(火なら陽炎、水なら霧、土なら砂ぼこり、風なら弱い風、光なら発光、闇なら暗くなる、無なら魔力そのものの活性化)

 あと蛇足だが、ミナモの得意な時空魔法と私がさっき使った通信魔法は無属性に分類される。


 「そう、七属性だ。でもな、八つ目……いや正確には新たな『無属性』を見つけたんだ」


 「新しい『無属性』?」


 「ああ、ま、見つけたといっても定義も検証もできてないがな」


 『枯渇遺跡』というのは世界にある魔力の存在しない場所のことであり、『ウロン砂漠』『マテ荒野』『センの塔』『廃都アッサム』『シッキム大渓谷』『プアル大洞窟』『ラぺ古戦場』の七か所の総称である。それぞれの場所の共通点としてその場所で魔法を使うことができないということが挙げられる。正確には魔法を発動するために体外に魔力を放出すると即座に魔力が消滅するために魔法が使えないのだ。そのため『枯渇遺跡』には魔力が存在することができないと言われていたのだが、そこで魔力を見つけた、それも新しい属性となれば歴史的な大発見だ。


 「へ~、じゃ、定義できるの待ってるよスカト」


 「ああ、楽しみ待っててくれ。それで? なんの用なんだ?」


 「あ、忘れてた」


 「おい」


  ごめんごめん、と軽く謝りながら先ほど勇者が来たことと、勇者の言っていた魔王のせいで国民が苦しんでいる。ということに関して何かしたのか聞いてみる。


 「いや、私は何もしていないぞ、というかどこの勇者だ?帝国は昔から魔境、正確には魔境からとれる資源を欲しているし、法国は魔物をこの世界から駆逐しようとしている。この二つの国に属しているのなら、その勇者が騙されているんだろう、あいつらはそのくらい平気でするぞ?」


 「あ、聞き忘れてた」


 「おい」


 「ごめんごめん、しょっちゅう来るから面倒くさくてね」


 「だったら気にしなくていいんじゃないか?お前にとっては関係のない話だろ?」


 「そうだけどなんか気になったんだよ、スカトが何もしてないなら魔物の暴走ってことになる。……魔物の暴走なんて『アレ』がかかわってるとしか思えないんだよね」


 「『アレ』か……。確かにな、その可能性は高い、あの時から結構な時間も過ぎた。そろそろ次の『器』も生まれるころあいだな」


 「だよね」


 「ならお前もそこから出てくるべきだな、もういいだろ?」


 「うん、『アレ』は滅ぼすって決めてるからね、蘇ったら次はないよ」


 勇者の言っていたこと、スカトの魔物に命令を出してないこと、それを考えると、私がここに居続ける羽目になった原因、それの復活が近い可能性が高いと思う。復活すればわかるのでまだ復活はしていないということはわかる。

 あれの復活が近い、そう思うと楽しく思えてくる。『アレ』に次はない、確実に……。

 まぁ、楽しく思えてくのはほかにも理由があるからなのだが。


 「それに……」


 「ん?」

 

 「千年もひきこもるのはさすがにダメだと思う。外に出たい」


 「ハハッ!それもそうだ!」


 その日私は外に出る決意を決めた。

ひきこもり外に出る(ボソッ

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