MGICAL GIRL 2
「そういえばあんた料理できるの?」
レジ袋に人参とじゃがいも、豚肉を入れる。今日はカレーの気分だ。
「・・・・・・ま、まあどうしてもって言うならヤブサカではないよ」
肩にかけた鞄の中から小さな声でプルトが答える。
「今日からあんたに作ってもらうからね」
「い、いきなりかい?」
「当たり前でしょ。契約忘れたの?」
店を出て、ユイは50メートルほど先にある書店に向かった。
特に目的はないが買い物に訪れた時にはいつも寄っている。
中に入ると可愛らしい衣装を身に着けた少女の絵が描かれているポスターが目に飛び込んでくる。
大流行中の魔法少女アニメと、それを基にしたメディアミックスの宣伝だ。
今までは特に意識もせずに通り過ぎていたが、ユイ自身が妖精と契約を交わしたとあって少しポスターに見入ってしまう。
「私も変身したらこんな感じなの?」
「もちろん!顔も含めてガラッと変わるよ」
「顔も?」
「顔も体格もね。これには正体をばれないようにするって目的もあるんだけど、システム的な問題が一番かな」
「システムって?」
少女漫画コーナーを物色しながら尋ねる。
「それはちょっと専門的な話になるからまた今度にしよう。ところでユイはこういう本が好きなの?部屋にもたくさんあったけど」
「悪かったわね、少女漫画好きで」
ユイは少女漫画、とりわけ恋愛を扱った漫画が好きだった。小学生の頃からいつか自分もこんな恋をと思い続け、しかしいまだにロマンスはやってこない。
今となっては仕事が恋人、というありさまなのだ。
この漫画の主人公のように、自分にも素敵な男性が現れないだろうかと時々思う。
「虚しくないのかい?」
「仕事で充実してるからいいの!」
プルトの言葉から逃げるように少女漫画コーナーを抜ける。
「そういうのは『家と職場の往復だけの乾いた生活』っていうんじゃないの?」
「乾いてなんかないわよ!」
『生活に潤いのないあなたへ』という本が目に入り、本にまで哀れまれているように感じてムッとする。
ユイが余計なお世話だと心の中で思いながらも棚に手を伸ばすと、横から手が伸びてきてぶつかった。
「あっ、すみません」
ほぼ同時に謝る。
顔を隣に向けると、ユイと同い年くらいの男性だった。
「あれ」
男性が不思議そうな表情でユイの顔を見つめる。
「どうかしましたか?」
ユイも思わず彼の顔を見つめ返す。端正な、気品のある顔立ちをしている。素敵な人だな、とユイは思う。
「いや、どこかでお会いしたことがあるような気がして」
そう聞いて、ユイは昔の知り合いの顔を一人一人思い浮かべる。
学生時代の友人、先輩、同じマンションの住人、様々な顔が浮かぶが目の前の男性の顔はその中にはなかった。
しかし、なぜか引っかかる。全くの初対面ではないような気がする。
「すみません、変なこと言ってしまって。それにしても、あなたもこの本を?」
「少し目障り、じゃなくて、気になって。家と職場だけの乾いた生活だってついさっき言われたところで」
「乾いた生活ですか、僕もですよ。これといって趣味もないですし」
どことなく哀しげな表情で男性は言う。
「あの、私はちょっと気になっただけなので、この本お譲りしますよ?」
「いいんですか?」
「いいですいいです。この本もより必要とされてる人の買われる方がうれしいでしょうし。それに実は私、趣味的なものができたというか」
鞄をチラリと見る。そう、趣味と言えるかは別としても今日から自分は魔法少女なのだ。
「だから、どうぞ。生活が潤うといいですね」
「ありがとうございます!またどこかでお会いできたらいいですね」
そう礼を言い、彼は本を手に嬉しそうにレジへと去っていった。