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まんじゅう自衛隊--こめでいーー

作者: 名無佑馬

 わたしの目の前に居るのは狐。

「おい、これはどういうことだ、そら」

「わたしが聞きたいんだけど、クウヤ」

 この狐、喋るし、口調でその中身はわかる。冬に出会った変質者、一応のこと恩人。この暑苦しい日々の中、涼しい家で過しているのだから会いたくない。

「おい、待て、お前、ひどいこと思ってねーか」

「事実だけしか思ってないよ」

「だよねー。この変態」

 にらみ合っていたわたしたちを見下ろす女性が現れる。彼女も同じ時に出会ったウミさん。以前とは違って、夏に合う白いワンピース。

「て、待て、なんで俺だけ獣化してんだ。ここはお前もだろウミ」

「可愛い女の子はちゃんと顔見せないとねー」

「ねー」

 私とウミさんは目で相槌を打つ。

「あーでも、どうしてもって言うなら。えい」

「おい、こら」

 ウミさんの頭からネコの耳が出てくる。それを過剰にクウヤは反応する。

「わー、可愛いね。ウミさん」

「ありがとう」

 ウミさんの腰あたりからしっぽがぶんぶん振られている。

 クウヤは相変わらず仏頂面だ。な兄がそんなに気に食わないのか。

「だいたいこれはどういうことだよ。俺がなんで完全に狐になっているんだよ」

 器用に二本脚になって、クウヤは前足を振っている。

 うん、可愛い。

「それはねー、作者編集長の気分でー、ハチャメチャで明るいのを作りたいからだよー。女尊男卑だし、むさ苦しい男は居てほしくないしー。愛でるなら女の(ロリ)、女の(ナイスバディ),可愛い子犬ちゃんじゃない?」

「あああああああああ、もういろいろとツッコませろよ!」

 クウヤは小さい体を宙に浮かして暴れまわる。

 うん、かわいい。

「この作者何考えてんだよ。オイ、てか、編集長ってなんだよ作者なのか編集なのかどっちだよ! 女尊男卑ってなんだよ。作者も男だろ。そらもまだロリって年じゃねーよ、手を出したらペドフェリアで、豚箱行きじゃい! てか、ウミ、お前の何処がナイスバディだ! まな板」

 ウミさんはクウヤの顔を鷲掴みし、持ち上げる。

「ん? なにか言った」

「いえ、ナイスダイナマイトバディのお姉さんについてはなにも」

「うん、よろしい」

 突如に開かれた手からクウヤは落ちる。落ちた狐は受け身をとらず、素直に倒れ込む。顔色は良しとは言えないが、自業自得。

「まあ、わたしは作者の意思を代弁しただけだし」

「わたしもクウヤが聞いたこと知りたい」

「ん? ああ、編集長はあだ名だし。まあ、落ち込んだ時には無暗にテンションを上げればいいでしょ」

 わたしは苦笑で返事をしておく。よく作者とか、編集長とかわからないけど、まあ、この状況を楽しめばいいんだね。

 ウミさんの手には買い物袋があった。

「何かって来たの? ウミさん」

「ああ、これからねおまんじゅう作ろうと思って、小麦粉とか、白玉粉とか、小豆とか買って来たの」

 クウヤの耳が激しくバタつく。ウミさんの料理に何かあるのか?

「待った、この子を享年九にしたいのか」

「それはどういうことかなー」

 狐はまた狩られる。クウヤは学習能力が無い。

「いえ、何でもありません才色兼備のウミさま」

「まあ、クウヤに任せるつもりだったけどね」

 今度はきちんと足から落ちる。

「お仕置きは狐鍋で済ますから」

「俺死ぬんじゃねーかよ」

 笑顔で告げるウミさんにクウヤは毛を逆立てる。

「でも、ウミさんの料理になにかあったの?」

 わたしの疑問にクウヤは招き寄せで答える。

「俺とこいつは腐れ縁だから、こいつが作ったの食ったことがあるけどよ」

「まずいの?」

「いや、普通の料理はいいんだ、ただ」

 狐なのに表情万化、少ない筋肉を使い過ぎだ。息切れし始めている。

 もしかしたら、他の要因が有るかもしれないが。

「菓子作りになると、何故か毒物が出来上がるんだよ」

「どんな現象?」

「女の子としては致命的だよね」

 それ以前に人間として致命的だ。ウミさんはバレンタインのときに何で勝負するのか。

「ホント、地獄のバレンタイデイだった」

「だから、知ってるんだ」

 なお、その後数日、クウヤはベッドの上にいたと。

 震えあがるクウヤを置いてウミさんはまんじゅう作りの準備を進める。

「じゃあ、後はクウヤお願いね」

 ウミさんは語尾に音符が跳ねそうな声で告げる。

「はい?」

「だから、お願い」

 クウヤは疑問の声をあげる。

ウミさんは事前に言ったから不思議に思うこともないはずだ。

「任されるのはいい」

 ストンとわたしの隣で座るウミさん。

 それを呆れた声でクウヤは問い正さんとしている。

「俺を元通りにしろよ、この手で出来るかよ」

 狐姿のままだから、クウヤが見せようとする手は両方とも上下に宙を切る。

 うん、カワイイ。

 確かに狐では料理はできない。

「えー、かわいいから。いいじゃない」

「何も解決しませんが」

 やる気なくウミさんは足を広げる。

「そもそも、今、クウヤは全裸だし」

 場が凍る。

 よく考えれば、基本的には動物は服を着ないのだから当たり前だ。当たり前だが、体が人になるとするなら別だ。

 それを求めると言うことは、

「やっぱり変質者」

「どこでそうなった」

「まあ、わたしには出来ないけどね。作者の趣味だし」

 わたしの言葉は当たり前だと、ウミさんは無視する。

「まて、ケモナーだったとは初耳だが」

「え? 男は全滅しろとか昔からたまに思ってただけだよ」

「あったま、大丈夫かよ作者!」

 意味は分からないけど、大丈夫じゃない。

「まあ、どうにかできるけど、そらちゃん、おいで」

 ウミさんはわたしに手招きする。

 近くに来たわたしへウミさんは耳元へささやく。その方法でクウヤをヒトに戻せるらしいけど、いいのそれで?

「じゃあ、あっちね。せーの」

 ウミさんは天井の一点を指す。何もないけど言われた通りに動いてみる。

「お願いします」

 わたしとウミさんは口元で手を合わせて、懇願の一言。

「ちょろいな、作者」

「小学校時代に女の子から机を離されたのがきっかけで免疫ないって」

「言っていいの? 黒歴史じゃないか?」

 クウヤを見守るとすぐに変化があった。

 ヒトの手と足をクウヤは持っている。

「て、胴体と顔!」

「黒歴史を暴露したバツだって」

 うん、キモイ。

 狐の顔と胴体に人の手足が生えている、元のサイズも違うから余計におかしな状態だ。

「俺にかよ」

「まあ、わたしだしね、言ったのは」

 ウミさんの一言で再びクウヤは変わっていく。人の形になっていた。

「今度は、服は!」

 わたしとウミさんの目の前に全裸の男が立つ。

「大事なところは隠してあるだろって」

「この闇だけ?」

「うん、キモイ」

 クウヤの股周辺で黒い雲掛かっている。

 やっぱり変質者だ。クウヤを通報しないと。

「俺の責任皆無だろ」

「あれ? 気づいた?」

 クウヤは手で隠そうと手を素早く動かし、風を起こす。わたし自身、目をつぶっているけど。

「女の子といちゃつく機会があったお前にはわからんだろうって」

「逆恨みかよ! 俺もそんな機会なかったての」

 クウヤは大分興奮している。いろいろと大丈夫かな?

「てか、ガン見するな、ウミ! 襲うぞ」

 うん、大丈夫じゃないし、キモイ。

「クウヤなにしようとしているの」

「なにもする気ねーよ」

 わたしが注意するために見開いた映像には裸体の男はいなかった。

「作者に感謝だね。いい身体見られてわたしはよかったし」

「感謝していいのかは疑問だけどな。どっちが変態だか」

 ぶつくさ言いながら、クウヤは台所へ入っていく。

 以前と同じ服装にハート型のエプロンが掛かっているだけ。青いチェックのシャツにジーパン姿なのにそれが似合うのだか。

 それからはウミさんと平和な世間話が続く。

「おい、出来たぞ」

 数時間経った頃にクウヤから声がする。

目の前に現れたのはキレイな楕円形のまんじゅう。そういえば、どうしてウミさんはわたしにまんじゅうを用意しようとしたのか。

「とりあえず、食えよ」

 いつの間にか狐に戻ったクウヤが勧める。

「もういいだろって、また作者に狐にされた」

 涙が流れ続けるクウヤを苦笑で労ってから、わたしはまんじゅうを手にする。

 店の商品並みとはいかないがおいしかった。

「どう、そらちゃん?」

「あ、はい、おいしいです」

「そっか、はい、おいしいー」

 ウミさんの何故かある鈴の音に反応してか、わたしの周りが闇に包まれる。

 数秒の後に光が戻ってきたが、不安を残す。

「そらちゃんこっちに来て」

 ウミさんが誘ってきた先には茶色い動物がいる。見間違えるはずがない、見間違いたくない子だ。

「コロン?」

「わふっ」

 死んだはずのコロンがわたしの下へ走ってくる。

「今日は盆だろ。死後一、二年くらいなら、たまに遊びに来るんだよ」

「クウヤのまんじゅうを食べると見えたりするんだよね、なぜか」

 もうツッコミどころが多すぎるから、理由はどうでもよかった。

 ただ、わたしはちゃんとコロンに別れを告げる。

END


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