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今日からス王!

 館に着いたのは夕食の時間になる頃だった。

 フェリシーに馬車で送ってもらった俺たちは、送迎のお礼として彼女を夕食へ誘うと喜んで参加してくれた。

 館の扉をリーナさんが開けると、今日の夕食当番のアナちゃんがエプロンを付けて出迎えてくれる。


「ただいまー!」

「おかえりなさい……」


 キッチンの方からはおいしそうな匂いが玄関まで漂ってきており、たくさん買い物をしてすっかり腹ペコな俺たちは早足で食堂へと向かう。

 食堂にはすでにローラが座って待っていて、こちらを見るとニコニコしながら手を振った。


「おかえりなさい、今日はフェリシーも一緒なのね」

「ローラ! 久しぶり!」


 フェリシーはこの館の住人達とすでに知り合いらしく、すっかり打ち解けた雰囲気になっている。

 俺たちは食事ができるまでの間、みんなで談笑して待つことにした。


「皆はフェリシーとはどういう関係なんだ?」

「ああ言ってなかったかい? おいらはここの庭の手入れをしたり、さっきみたいに馬車の御者をしているんだ」

「ええ、彼女とは雇用関係にあるわね。それ以上にお友達の一人なんだけどね」


 俺はここを出るときに見た、美しい庭を思い出す。


「でもあの庭は一人で手入れするのには広すぎないか?」

「ふふーん、人間の基準で考えちゃだめだよ少年。ダンピールの作業効率は人間が重機を使ってやるのよりも何倍も凄いのさ」

「そんなに違うのか」

「うんにゃ、あのくらいの庭だったら数時間でお手入れ出来ちゃうね。でも吸血鬼とのハーフのおいらでそれなんだから、純粋な吸血鬼の君たちの方がもっと早くできるはずだよ」

「え? そんな感じはないけど……」

「それはまだお兄さんは吸血鬼成り立てで力のほとんどを使えてないからよ。これから練習すれば力を使いこなせるようになるはずだわ」


 ローラにそう言われて、俺はさっき買い物した時に人間には持ちきれない量の荷物を軽々と持てたことを思い出した。

 ニーナさんは練習すれば飛ぶことも魔法を使うこともできるって言ってたし、しばらくはトレーニングをする必要があるな。

 

 そうして話していると、キッチンから夕食を抱えたアナちゃんが出てきた。

 今日の夕食はおいしそうな魚料理とスープ、それにサラダとパンだ。

 相変わらず美味しい食事に舌鼓したつづみを打ち、腹ペコの俺たちはあっという間に全て平らげた。


「ごちそうさま、おいしかったよアナちゃん」

「えへへ……」


 食事を終えた俺は自室に戻って、今日買った荷物の整理を始める。

 洋服やカバンなどはタンスに綺麗に分けてしまい、机の上には日光がなくても育つという観葉植物の設置。

 1時間ほどかけてお部屋の改造をすると、個性がなかった部屋はまるで爽やかな好青年が暮らしていそうな見た目になった。

 青々とした観葉植物になんかおしゃれな掛け時計、ワインレッドのカーテンに合わせて置かれたいくつかの小物達。

 このまま某イケメン俳優のご自宅です、と夜のバラエティ番組で流しても違和感はなさそうだ。

 我ながら完璧なコーディネートセンスに満足した俺は、ベッドに腰掛けるとしばし休憩を取る。

 

 10分ほどたった時、部屋のドアが誰かにノックされた。


「お兄さん、起きてる?」

「ローラか。入っていいぞ」


 このどことなく幼さの残る声はローラのものだ。

 俺はだらしなく休んでいた姿勢を戻すと、扉の方へ向き直る。


「失礼するわ、あら? いい感じにリメイクされてるじゃない」

「だろ? 自信作なんだ」


 黒髪の幼い見た目をした少女はベッドに腰掛けてる俺の隣へと座った。

 ストンという軽い音とともに、ローラの体の重みが布団を通して俺に伝わってくる。


「どう? 館での生活は慣れてきたかしら?」

「慣れないことも多いが、なんとか楽しくやってるぜ」

「それならよかったわ」


 かわいい白色のロングスカートをはいた少女は足を組み替え、ベッドの上に手を着きこちらを見る。

 ちょっと手を伸ばせば触れそうな距離にいる彼女は、俺の顔をじっと見つめながら話を続けた。


「さっき食堂で話し合ったのだけれど、明日から交代で毎日あなたに吸血鬼の力の使い方を教えることにしたの」

「それはありがたい。俺も早くこの力を使いこなしたかったんだ」

「それで一つお願いがあるのだけれど……」


 ローラは言いにくそうな顔をして足をもう一度組み替える。


「お願いってなんだ?」

「昨日、家賃代わりにお兄さんに吸血してもいいか聞いたわよね」

「ああ、それなら了承したはずだぜ」

「その吸血する権利を、その日あなたのコーチを務めた人が得ることにしたの」

「なるほどな……ってちょっと待てよ、練習は毎日やるんだよな。そんなに吸って大丈夫なのか」

「その点は吸血鬼の体力で大丈夫だわ。でも、たまに吸わせてって約束だったのに毎日になっちゃったから申し訳なくて」


 目の前の少女はバツが悪そうな顔をして、俺の顔色をうかがう。

 まるで宿題を忘れた子供が教師の顔をビクつきながら見るようなローラの顔に思わず笑いが漏れてしまう。


「ははは、まさかその程度のことでそんなにビクビクしていたのかよ」

「その程度って、明日から毎日血を吸われるのよ」

「献血のプロと言っても過言ではない俺からしたら、二か月に一回の注射の頻度が60倍になったくらいの差だよ。まったく問題ない」

「60倍ってかなり大きな差だと思うんだけれど……」


 俺はローラを安心させるためにわざと大げさに振る舞う。


「吸血鬼の体力があれば大丈夫なんだろ? なら平気さ、なんなら今日から吸ってもらっても大丈夫だぜ」

「それは本当かい!」


 いつから居たのだろうか、扉の外で聞き耳を立てていたフェリシー含めた3人が部屋の中になだれ込んできた。

 

「おいお前ら、いつからそこに!?」

「そんなことは今は問題じゃないさ、少年。ニーナ達から君の血の美味しさについて散々語られてね、おいらも吸ってみたかったのさ」


 フェリシーはそう言うと、俺に体をぐいっと寄せる。

 この館のメンバーの中では断トツの巨乳であろう彼女の胸が、俺の目と鼻の先で揺れている。


「明日になったら町に帰らなきゃいけなかったからさ、今日の内に吸っときたかったんだよね」

「ちょっ、フェリシー落ち着けって」


 フェリシーはベッドの上に俺を押し倒すと、その上に馬乗りになった。


「ニシシ、じゃあいただきます」

たくさんの閲覧ありがとうございます!

次話は3月24日の投稿予定です。

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