ノーロリータ・ノーライフ
俺が今立っている場所は館の廊下のようだ。
床には赤い絨毯が敷かれており、壁は古い学校のような木の板張り。
廊下にはゲームのラスボス部屋のような木製の大きい立派な扉と、これまた木製のシンプルな扉がある。
少女はまず初めに俺を一番近くにある立派な扉へと案内した。
部屋の中はシャンデリアが掲げられており、絨毯から置いてある家具一つ一つまでどれも高級そうなアンティークで統一されている。
高級そうなワインレッド色の分厚いカーテンは固く閉ざされており、部屋の灯りはシャンデリアの差すキラキラとした光だけだ。
「ここは、館の当主の部屋よ」
「ボスの部屋か」
「まあ、そんな感じよ」
「ちなみに誰がボスなんだ?」
俺が質問をすると、少女は待ってましたとばかりに片手を大きく横に広げポーズをとる。
美しい黒髪が風になびき、黒いワンピースの裾がヒラリと揺れた。
「この館の当主、それはこの私! ローラ・ファヴァール様よ!」
「おお! ローラちゃんがボスなのか。ちっちゃいのに偉いな」
「失礼な! こう見えても私、今年で130歳になるのよ。あなたより年上なの」
「まじかよ、ロリババアじゃん。だがそれがいい」
「ロリバ……? とにかく私の事は当主様もしくはローラ様と呼びなさい」
「分かったよ、ローラちゃん」
「ぐぬぬ、失礼な子ね。まあいいわ、後で絶対その生意気な口を直してあげるんだから」
腰に両手を置き、プンプンと頬を膨らませながらローラはそう言う。
ローラは感情表現が態度に大きく表れる子らしく、見てて面白い。
目の前のロリ吸血鬼は当主室を後にすると、その隣のシンプルな扉をノックした。
「アナ? まだ寝ているの?」
「うぅぅ……ローラ? 今開ける」
部屋の中から眠たそうな少女の声が聞こえると、ドタドタと物音がしてから扉が開く。
開いた扉の中からは鮮やかな金髪をしたローラよりも幼そうな少女が現れた。
アナと呼ばれた少女はボタンの開いたダボダボのワイシャツ一枚しか身に着けていなく非常に目のやり所に困る。
アナはだるそうな顔をしながら、下から見上げるようにして俺の顔をまじまじと覗き込む。
ワイシャツの隙間から少女のまだ未発達な胸が見えそうになり、俺は思わず目をそらす。
「アナはまたこんな格好をして! 着替えてきなさい。新しい住人よ」
「うぃ」
ローラが叱るとアナは寝ぼけ眼をこすりながらその場でワイシャツを脱ぎだした。
こいつには羞恥心というものがないのだろうか、それとも俺が男として見られていないのか。
あわや美しい少女の白い肌が露わになるといった所で、ローラはアナの部屋の扉を勢いよく閉めた。
「まったくアナはいつもこうなんだから」
「今の子も吸血鬼なのか?」
「そうよ、といっても彼女は新入りでまだ50と少ししか生きてないわ」
「それでも俺からしたら十分年取ってるけどな」
「その常識も今日から変わると思うわよ。なにせ吸血鬼の寿命は先が長いんだから」
ローラと会話していると、アナの部屋の扉が開いた。
扉から出てきたアナは白い大きなTシャツのみを着ており、さっきと比べても露出度にさほど差はないように思える。
「ちょっと、全然着てないじゃない」
「今度は……履いてる」
そう言うと彼女はTシャツをたくし上げ、中に履いたピンク色のかわいらしいパンティを見せた。
確かに履いているがそういう問題じゃない。
だが、ローラは履いていることに満足したらしい。
「ならよし」と軽く頷きながら答えると俺の方を指さした。
「履いてるならいいわ。アナ、彼が例の新入りの子よ。自己紹介なさい」
「うん。私の名前は……アナ。今後とも……よろしくです」
「ああ、よろしく」
例の新入り?
俺は事故にあって急にここに来たというのに、彼女たちは事前に俺が来る事を知っていたかのような表現をした。
俺が首をかしげていると、自己紹介に満足したのかアナちゃんは大きくあくびをし天蓋付きのベットへとトテトテと戻っていった。
「まあ、彼女は見ての通りマイペースな子よ。初めて男の人が入ってきたからパンツは履くようになったわね」
「ん? 初めて男が?」
「あら、言ってなかったかしら? この館に男はあなた一人だけよ」
「ええ!?」
さらっと告げられた衝撃の事実に俺は今日一番驚かされた。
アレなゲームとか薄い本とかではよくある展開だが、いざこうして自分がその状況になってみると非常に焦る。
「なにを唖然としているの? 次の部屋に行くわよ。次で最後の住人だから」
その場に棒立ちしている俺を引っ張る形で、ローラは下の階へと俺を連れて行った。
下の階も先ほどまでのフロアと同じく2つ扉があり、形は両方ともアナちゃんの部屋と同じものだ。
ローラが一番手前の部屋をノックしたが、返事はなかった。
「あら? ニーナはお風呂かしら?」
そう呟くと、今度はその隣の部屋へと俺を案内する。
「ここが今日からあなたの部屋よ」
「おお、マイルームか」
扉を開けると、そこにはローラの部屋と同様にアンティークで統一された一人部屋には大きすぎる部屋が用意されていた。
部屋には書き物机と椅子、そしてタンスと本棚とベッドがあり、どれも木製で美しい細工が施してある。
天蓋付きのベッドはダブルベッドほどの大きさがあり、その上にはフカフカの白いシーツと羽毛布団がかかっていた。
床に敷かれた絨毯もフカフカで、窓にはローラの部屋と同じワインレッドのカーテンがかけられている。
「マジかよ。すげー豪華じゃん」
「ふふ、気に入ってくれたかしら?」
「ありがとうございます、ローラ様」
高級ホテルのスイートルームのような部屋に感動した俺は、初めて館の当主であるローラを尊敬した。
「部屋は自由に使いなさい。狭くなったら物置も貸してあげるわ」
「本当にありがとうございます。ローラ様」
ものすごい勢いで俺に感謝されたローラは上機嫌になり軽くスキップを踏みながら、下の階へと俺をいざなった。
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次話は3月19日に更新する予定です。