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俺、吸血鬼になります。

 血液型AB型のRhマイナス、これはおよそ2000人に一人の確率で産まれると言われている。

 俺もその希少な血液型の持ち主だ。

 数少ない同士の為に2か月に一度200mLの献血を一度も欠かさず行ってきたことが、俺の少ない自慢の一つである。

 今日はその献血を行う日だ。

 俺は駅前の献血ルームへと向かうべく自転車をこいでいた。

 うららかな午後の日差し全身に浴びながら、桜並木の下を進んでいく。


 カーブに差し掛かった時、急に目の前にボールを追いかけて幼い少女が飛び出してきた。

 あわててハンドルを切った俺は、眼前に現れたトラックを避けきれず正面からそのまま突っ込む。

 空中に大きく投げ出された俺は、痛みを感じる時間すらなくそのまま意識を失った。


 目が覚めるとそこには、まるで大雪原のど真ん中のようなただひたすらに白一色の空間が広がっていた。

 ここはどこだろう。

 上も下も見渡す限り真っ白なこの空間の中では距離感が掴めず、天井の高さどころか天井があるのかさえ分からない。

 周囲には目印となるものは何もなく、誰かいるかもと声を張り上げたが音はむなしく空間の中に飲まれるだけだった。

 進んでいけば出口があるかもしれない、そう思った俺は取りあえずひたすら前へと進むことにした。


 ……もうどれだけ歩いただろうか、出口どころか壁すらないこの空間には果てがないように思える。

 歩き疲れてその場に座り込むと、どこからか声が聞こえてきた。


「ねぇ、お兄さん。ここから出してあげましょうか?」


 透き通るようなその声は幼い少女のものに思えた。

 ここから出たい俺は、この姿の見えない少女に助けを乞う。


「お願いだ、ここから出してくれ」

「じゃあ、お兄さんの血を頂戴?」

「血くらいくれてやる。ちょうど献血に行くところだったしな」

「ふふ、ありがとう」


 少女の声が止むと白い空間に大きなヒビのような裂け目が入った。

 裂け目からはその外の様子は伺えなかったが、このままここにいても仕方がない。

 俺は裂け目へと向かい、ここから出るためにその隙間をくぐる。

 ヒビを通るときどこからか「いただきます」と先ほどの少女の声がした。

 

 空間の外に出た俺はいつの間にか暖かい床の上に大の字に横たわっている。

 眼前には赤い絨毯が広がり、もう夕方か夜なのかかなり薄暗い。

 全身が筋肉痛のように痛み、顔を起こすことすら困難だ。

 体の痛みにうなっていると頭上になにやら気配を感じる。

 痛む体を無理やり起こし視線を上げると、そこには純白の世界が広がっていた。


「キャッ!」


 鈍い痛みを頬に感じ気合いで体を起こすと、目の前には幼い少女が立っている。

 黒いワンピースを着た10歳くらいに見える黒髪の少女はスカートを抑えながら、俺を見下ろしていた。


「とんだご挨拶ね。ようこそ、吸血鬼の館へ。お兄さん」

「吸血鬼?」

「ええそうよ。トラック事故で死んでしまったお兄さんを私が吸血することで蘇らせてあげたの。お兄さんの血、おいしかったわよ」


 新手の中二病だろうか。

 可哀想な子を見る目で目の前の小さな少女を眺めていると、少女は俺の首筋を指さした。

 さされた首筋を触ってみるとそこには2つの大きな蚊に刺されたような跡がある。


「その首の吸血痕が証拠よ。ほら、牙もあるでしょう」


 少女はそう言ってニイっと口を広げて2つの牙を見せる。

 こんな時に考えるべきではないだろうが、非常にかわいい。


「かわい……じゃなくてほんとに吸血鬼なのか?」

「だからそういってるでしょう。ほら、翼を生やすこともできるわよ」


 少女の背中からコウモリのような大きな翼が現れた。

 あのワンピースのどこから出てきたのだろう。


「触ってみてもいいか?」

「仕方がないわね、優しく頼むわよ」


 少女の後ろへと回るとワンピースの後ろには翼を通す穴が開けられており、翼の付け根の辺りには肩甲骨が見える。

 きめ細やかな白い肌に触れたくなる欲求を抑え込みながら、俺は少女の翼を撫で始めた。

 短い産毛の生えた黒い翼はほのかに暖かく、それが作りものではないことを示している。

 翼の触り心地はとても心地よく、当初の確認という目的を忘れて俺はひたすら撫で回した。

 細長い骨格から柔らかな産毛の生えた皮まで、全体を優しく揉みほぐすように触れていく。


「ちょっ、やめなさいよ。あんっ、付け根はだめなのっ」


 ……極上の触り心地だった。

 15分ほど撫でまわした俺は額の汗をぬぐい、目の前で腰が抜けて倒れている少女へと最高の笑顔で話しかけた。


「君が吸血鬼だと信じるよ」

「ふぇ? もう終わ……ふふ、どうやら信じてくれたようね」


 腰を抜かしていた少女はすくっと立ち上がり、服に付いたほこりを軽く払うと俺の方に向き直る。


「ごめん、つい気持ちよくて。それで吸血鬼に噛まれた俺はどうなっちゃうんだ?」


 よくぞ聞いてくれましたと言いたげな表情をした少女は、くるりとその場で一回転すると顔の前に手をかざして決めポーズをとる。


「もちろん、吸血鬼に吸われたお兄さんも吸血鬼になるのよ。ふふふ……恐ろしさのあまり声が出ないかしら」

「……やったーー! 吸血鬼とか男の夢だろ、翼とかかっこいいし。俺、血を献血とかで吸われてばっかだったから一度吸う側になってみたかったんだよねー。童貞守っといてよかったー!」

「……え? もっと後悔したりしないの? 怪物の仲間入りなのよ」

「いやいや、かっこいいじゃん吸血鬼」


 信じられないといった表情で少女は一歩後ずさった。

 どうやら精神的だけでなく物理的にも引かれてしまったようだ。


「ところで吸血鬼生活をエンジョイするためのお約束とかないの?」

「え? ええ、あるわよ。その説明をするためにまずは私について来てちょうだい。館の案内をするわ」


*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**

自分が書きたいものを詰め込みました。

ある程度書き溜めもあるので、テンポよく更新していきます。

完結までの間、何卒よろしくお願い申し上げます。


3月17日、誤字と内容の微修正

3月23日、文章の修正(内容に変更はなし)

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