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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説

我は熊、友はリス

作者: きらと

熊が森で過ごす出来事を書いてみた。

 針葉樹が鬱蒼と生い茂る樹海。木々が頭上を覆い昼間でも薄暗い。そんな森の中を、子熊のセルゲイは姿勢を屈めゆっくりと前へ進んでいました。お母さんに教わった歩行の真似だそうです。

 しばらくすると赤、青、黄色と色とりどりな花畑が視界に入りました。

「お花さん、こんにちは」

 セルゲイの言葉に花達は左右に揺れながら答えました。

「子熊さん、こんにちは」

 熊は花を食べません。だから彼女達は臆する事なく挨拶を返しました。

「この先は地雷原だから気を付けてね」

「ありがとう」

 セルゲイはお礼を言うと花を踏み荒らさない様、迂回して先を進みました。すると細長い胴体にしっぽを持った小動物が目の前に現れました!

「いたちさん、こんにちは」

 いたちと呼ばれた小動物は辺りをキョロキョロ見回しました。自分以外に話しかけて来た相手が居るだけです。自分の事だと理解すると返事を返しました。

「ぼくはイタチじゃないよ。リスだよ」

 おや、違ったようです。

「リスさん?」

 セルゲイはまじまじとリスを観察します。リスを見るのは初めてです。

「そうさ。この尻尾を見てごらん。気品に溢れているだろう」

 リスは尻尾をフリフリしてセルゲイに見せました。毛並みは良く整えられています。

「そうだね。とっても綺麗だよ」

 セルゲイがそう答えると、リスは機嫌良く喉の奥で笑いました。

「ぼくは茂吉。君は?」

「セルゲイ」

 茂吉は熊を知っていましたが、実際に遭った事がありませんでした。人が自分を人間と自己紹介しないように熊も熊とは自己紹介しません。

 茂吉と別れたセルゲイは新しい知り合いに心を弾ませ先を進みます。

 どれくらい歩いたでしょうか。鼻をヒクヒクさせるセルゲイ。

「何だろう、この匂い?」

 匂いの元をたどれば開けた場所にケシ畑があり、その真ん中にポツンと小屋が建っていました。

「これ何かな」

 初めて見る小屋。匂いを嗅いだ後、前足で壁をコリコリと削りました。

 すると、外からの物音に反応して窓から男が顔を出しました。中肉中背、歳は30代半ばと言った所でしょうか。顔は人生の深みを感じさせる厳しい表情でした。

「何だ、熊か」

 じろりとセルゲイを睨み付ける男に物怖じせず挨拶をしました!

「こんにちは、おさるさん。ぼくはセルゲイ」

「誰がおさるさんだ!」

 間髪いれず怒鳴り返す男にセルゲイはたじたじとなります。

「おさるさんじゃない?」

 人を見るのも初めてです。

「私は白、世界を統べる偉大な人種だ」

 言ってる事の意味が理解出来ません。セルゲイにとって世界はこの森だけですから。

「へぇ、凄いんだねぇ」

 何となくそう言わなくてはいけない気分になり、そう言いました。

「低脳な熊には偉大な民族を理解出来ないか」

 薄い反応に白は機嫌を損ねます。

「それでペプシさんは、ここでなにをしているの?」

 最初のペしか合ってませんが白さんは気付いていません。

「畑の……って何を言わせるんだ、この熊は! いいから帰れ、帰れ!」

 白はしっしっと追い払います。白の仕事は、非合法の麻薬製造を精製工場の警備と監視でした。この小屋の地下にちょっとした施設があります。

 セルゲイは訝しげに感じながらも素直に帰る事にしました。

「またね」

 お家に帰るとお父さんが獲物を採って来て、毛繕いをしていました。

「ただいま」

「お帰り。今日はごちそうだぞ。ラドゥレスクと狼を狩って来たんだ」

 ラドゥレスクはセルゲイの叔父で、隣の山で暮らしています。セルゲイもいつかは両親の元を離れる日が来ます。今はまだ甘えたい時期です。

「ぼく、狼大好き!」

 セルゲイの言葉にお父さんは笑顔を深め、お母さんも優しく微笑んでいます。

 その日の夕食は賑やかに進みました。




 セルゲイが茂吉や白と出会って三年が過ぎました。三年と言えば大人になるには十分な月日で、セルゲイも茂吉が食物連鎖の下に居ると知りました。ですがよき友人関係を維持しています。

 いつもの様に二匹は並んで木の実を食べていました。何だかんだと言いながら親切な白さんがくれたドングリです。

「セルゲイ。ぼくはいずれリス界の頂点に立つつもりだ。その時は君にも協力してほしい」

 頬っぺたを一杯にしながらコリコリとドングリをかじる茂吉。

「勿論さ」

 そう答えるセルゲイでしたが、あまり理解をしていません。

 茂吉には兄弟が居ました。田吾作、与作、喜作、権蔵、兵治。

 権力の掌握に際して邪魔な政敵です。(セルゲイ)と言う圧倒的武力を背景に茂吉は一族を束ねようとしていました。

 セルゲイがいつもの様に白さんの畑にやって来ると大勢の男達が作業していました。

「うわっ、熊だ!」

「死んだふりしろ」

 パニックになりながらも銃を向けようとする仲間に白さんは言いました。

「あれは大丈夫だ。番犬代わりに餌付けしているんだ」

 その言葉に落ち着くが、怯えた態度と視線は変わりません。

「白さん、こんにちは。今日はお客さんが一杯、居るんだね」

「今日は出荷があるからな。悪いが相手はできないぞ」

 あまり歓迎されてない。その空気が感じ取れました。

「うん。邪魔しちゃ悪いし帰るね」

「ああ」

 居心地の悪さを感じてセルゲイは挨拶だけして、その日は家に帰りました。




 ある夜、茂吉と彼に従うリスの若者達が決起しました。リス大記念碑が建つリス広場に決起軍司令部が置かれました。セルゲイも眠たい所を我慢して茂吉に協力しています。

「労働党本部を制圧、中央委員会総書記を逮捕に成功。抵抗は軽微、損害はありません」

 中央委員会総書記は次兄の与作が勤めていました。身柄が確保出来たのは幸先が良いです。

「議事堂を制圧。最高リス会議議長は抵抗した為、殺害……」

 四男の喜作は社交的で内政に向いている事から政治を任されていました。茂吉にしても協力して欲しかったのですが、抵抗されれば仕方ありません。

 地面に置かれた石やドングリ、葉っぱは地図です。

「今のところは、予定通りか」

「伝令! ムーニー卿より報告、国防委員長の捕縛に失敗。頑強な敵の抵抗により損害が出ており、応援願います!」

 ムーニー卿は長男田吾作の巣穴を襲いました。ですが、何と言う事でしょう! 周囲には田吾作の親衛隊が詰めていました。

「さすがは兄さん。長男だけの事はある」

 セルゲイの出番です。

 虎の子の切り札として田吾作の巣穴を急襲しました。

 飛びかかる敵のリス達をバッタバッタと薙ぎ倒し、噛み砕くセルゲイはこの時、初めてリスの血の甘さを知りました。

(あれ? これ美味しい。もしかして……タベラレルノ?)

 茂吉の同族と言う事でセルゲイはこれまでリスに手出しをして来ませんでした。

 熊だけどセルゲイはリスを襲わない。その事で茂吉が権力を掌握すると特別顧問として厚遇されました。

「茂吉の独裁を認める訳にはいかない!」

 クーデターによる権力の奪取は不満が残りました。不満分子は虎視眈々と追い落とす機会を狙っており、時には暗殺を計画しました。しかし防諜体制はしっかりしており、対敵諜報機関が情報を集めて粛清が行われました。

「セルゲイ、処理は任せるよ」

 体のいい死体処理場としてもセルゲイは利用されました。餌付けとも言えます。

(茂吉は友だちだ。でも……)

 でもセルゲイから見て一番美味しそうなリスは茂吉でした。




「白さん。茂吉を見てると食べたくなる時があるんだ。どうしたら良い?」

 阿片を持ち逃げしようとした脱走者を捕まえたセルゲイは、白を手伝って死体の解体作業を行っていました。

「お前さんが食べたいと思うなら食べれば良い。だが、その行動に責任も伴う事を忘れるな」

 ブロックになった肉の入ったビニール袋を差し出しながら白は、そんな風にアドバイスをしてくれました。

「うん」

 ビニール袋を受け取り家に帰ったセルゲイは、茂吉の事を考えました。

(ぼくは茂吉の事が好きだ)

 食べてしまえば友だちはもう会えない。それは寂しい事です。

 考え込んでいるうちにいつの間にか眠り、そして次の日になっていました。

「お腹空いたな~」

 外に顔を洗いに出かけると茂吉に出会いました。

「おはようセルゲイ」

「おはよう」

 眠けを感じながらぼんやりとしていると、口の中に甘美な味が広がってきました。

(何これ。むっちゃ美味しい)

 夢中で咀嚼するセルゲイ。気がつくと口の周りが汚れていました。

 顔を洗う途中だった事を思い出し洗います。

(あれ、そう言えば茂吉は?)

 さっぱりして目を覚ますと友人の姿が見えない事に気付きました。

(いつの間にか帰ったのかな。それとも、ぼくは寝てたのかな)

 今日も森は平和です。

童話を書いていたはずなのにこんなのが出来たよ!

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