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世界最弱/最強の少年  作者: うずまきさん
学園の異端児 前編
6/19

5 模擬戦1 ライカvs伊山

 この模擬戦は3時間を通して、2組ずつ、10分で行われる。その間の休み時間もこの模擬戦のために使用されるため、昼休みまでは休みがない。通常、この模擬戦は実習をするクラスが1日に2組あるのだが、それだけでは『術者育成科』の本質的な術者の育成ができない、術者の育成のスピードが遅すぎる、との卒業生の声を聞き、今年からは一般棟の地下に実習施設が開放されている。因みにいうと、実習施設の大きさは圧倒的に地下の方が大きい。今まではその実習施設は優秀な生徒にのみ使用を認めていたらしいが。

 故に今はその地下実習施設で別の1年生が実習を行っていることであろう。陣夏たちのクラスは地上のある実習館で模擬戦を行うのでそんなことはどうでもいいのだが。

 地下の実習施設はこの実習館よりも圧倒的に大きいとはいえ、この実習館の大きさはかなりのものだ。通常の体育館よりも大きく、その大きさは2倍以上あるだろう。そう考えると、地下の実習施設の大きさなど想像もつかない。

 そして全ての実習施設には『非殺傷武具変換術式』が張られているため、人を傷つけることなく思う存分戦いことが可能だ。もちろん、『人を殺さない』というのがその術式の基本的なコンセプトにあたるところなので、けが人などはどうしても出てしまうのだが。

 それらのことから血の気の多い連中が多く入学してくるといった結果となってしまったわけである。

 それを証明するかのように陣夏たちの目の前で激しい模擬戦が行われている。模擬戦の流れ弾で被害を受けないように、強化防弾ガラスにどんな呪術でも破壊されない術式を練り込まれた素材で造られている別室、(待機ルームと教員は呼んでいた)から複数のモニターを介して模擬戦を見ていた。

重々しい破裂音に『召喚術』や『収納術式』を行使した時に生じる眩しい刹那の光、生徒が挑発などで上げた怒声などが入り乱れていた。

「クソッ! なんで当たらないんだ……!」

「当たれぇぇぇええ!!」

「お前は敵の後ろに回れ! 私は正面から!」

「手榴弾を投下する! みんな下がれ!」

 行動が煩雑でエリート校生にはとても見えないような雰囲気が醸し出されていた。まぁ、即席でトリオを組んで完璧に統率のとれた戦闘行動をしろ、と言う方が無理のある話ではあるのだが。

 授業が開始されてから今までで約60分ほどが経った。ちょうど今、12組のトリオの模擬戦が終わったところだった。

 次に並んでいたトリオはライカがいるトリオ2人の女子生徒に1人の男子生徒のチームで、その相手は男子3人で構成されている力押しが得意と見えそうなトリオだった。

 そのライカの相手を見て舞花の顔がピクリと動く。

「どうしたんだ?」

 陣夏は訝しい表情で彼女に尋ねる。

「ライカの相手の1人に伊山いやま 隆平りゅうへいさんがいました」

「そいつがどうかしたのか?」

「今年の入学試験でトップだった人だと思います。もちろん、推薦組は除いて」

 陣夏は顎を若干上にあげ、ふーん、とでも言いたそうな表情を作った。陣夏が再び顔を正面に戻すと、全員が身構えていた。

「始まるみたいだな」

 大智が呟くように言うと、けたたましいブザー音とともに全員が行動を開始した。

 まずはライカ側のチームの男子生徒が胴の幅と同じくらいの大きさを持つサブマシンガンを召喚した。因みにこのサブマシンガンにはペイント弾が装填されている。

 『非殺傷武具変換術式』の張られているところでは自動的に、実弾を装填して召喚した物でも、その実弾が脳内で強制的にペイント弾に変換される。故に普通通りに召喚すればいい。

 ライカはサブマシンガンを召喚した2人の生徒の後方に下がり、両手を胸の前で絡ませる。ライカは『祈り』を開始したようだ。

『頼むぞ! 原さん。』

『援護を期待してるわよ!』

『まっかせなさい!』

 戦闘行動中にしてはなかなか呑気な会話だな、と内心で感じながら意識を再びモニターに戻す。

 ライカたちに対し、相手側、伊山と呼ばれた生徒がいるチームは既に3人ともが両手にサブマシンガンを持った状態だった。

「おい、見ろよ!」

 大智が打ち付けに声を上げた。それによって陣夏の意識は大智に向く。

「なんだ?」

「いや、あいつの武器、アサルトライフルだぜ!」

「そこまで凄いのか?」

「俺にとってはな……」

 大智が少し悲しそうな顔をしながらその正面を斜め下に逸らす。どうやらアサルトライフルぐらいならどんなやつでも少し努力すれば召喚できるみたいだ。

 アサルトライフルはライフル用の銃弾の火薬を少なくし、中距離で連射できるようにしたものだ。ライフル用の銃弾は、長距離の狙撃でも目標に当たるように火薬が多いわけだが、その火薬の量では中距離では多すぎる。その上、ただでさえ反動の強いライフルの銃弾をそのままで連射すれば、使用する者の体がもたない。なので、火薬の量を少なくする。

 アサルトライフルの召喚自体はそこまで難しくはない。しかし、それは術式の基本がわかっていたら、の話だ。術式について本格的に学ぶのは高等学校からなので、高校1年生の段階で召喚できる者は少ない。なので、この段階で召喚できる者は将来を嘱望される。

 故に1年生は、このアサルトライフルを召喚できるようにするのがこの1年間でのノルマである。

 それを伊山はやってのけたのだ。さすがは新入生の一般試験でのトップ合格者。

「アサルトライフルかぁ~……俺も召喚できるようになりてぇ~!」

「大智さん、うるさいです」

 舞花の冷たい指摘に思わず吐こうとしていた息を呑んだ大智。彼女は顔に笑みを浮かべているものの、その雰囲気は冷たく、この部屋の温度が1度くらい下がったように感じられた。

 ライカ側のチームの男女2人はサブマシンガンを両手で持ち、おもむろに前進していた。

 ステージは森林。いくら召喚した物だからと言っても、このオブジェクトは本物と同じなのだ。朝方に立ちこもる霧が体中に纏わりついて視界が遮られ、足場も悪い。

何より、どこから敵が来るのかわからない。

『……居た!』

 傍受される無線から聞いたことのある声が飛び出したかと思うと、ほかの声が混じった。チーム名との声だろう、発見した物の座標を求めていた。

『敵は北に40メートル……、ほかは北西と北東にそれぞれ200メートル……。』

 陣夏はライカの声を聞いた瞬間、別のモニターに視線を移した。そこには片膝をつき、反動を抑えて命中率を上げるような姿勢をとっている生徒がいた。あれが伊山側のチームの男子生徒なのだろう。それも、ライカの言う通りなら彼らに最も近い、北に40メートル。

「ライカさん、呪術師だったんですね」

 舞花がライカの発言に対し、そう言った。

「なんで分かるんだ?」

「ライカさんは敵の位置を発見したみたいですが、これは『召喚術』では知るところではありません。なので消去法と確率的に考えて、これが1番の答えかと」

「なるほどな」

 陣夏が納得してもとのモニターに視線を戻したその刹那、

 別のモニターで銃口が火を噴き、連続した発砲音が音響器具から放たれた。敵チームはライカたちを発見し、攻撃行動に移行したのだ。恐らく今の銃声で場所が割り出されてしまっただろう。敵の男子生徒はサブマシンガンを構えなおし、すぐに立ち上がって移動を開始した。

『逃がすかっ!』

 間を入れずにライカ側の生徒がサブマシンガンのトリガーを絞る。ペイント弾が間も無く発射され、そのまま銃口の先へ向かって前進する。若干の反動がくるが、許容範囲内だろうと、陣夏は無駄な推測をしたのだった。



「呪術師か……。強いな、お前」

 模擬戦は終盤に差し掛かり、恐らく1番緊張がはしってもいい場面にライカは遭遇していた。

 隆平(伊山)がアサルトライフルのグリップを右手で握り、ライカに話しかけながらおもむろに近づく。ライカはそんな隆平を睨みつける。ライカの手には1丁のマガジンから銃弾が消え去ったと思わしき自動拳銃。

 現在、ライカ側、伊山側ともに1人だけだ。残り時間はもう2分もない。ライカは焦っている様子だったが、隆平は自分の持っていたアサルトライフルの銃身をゆっくりと持ち上げ、その銃口を彼女に向けた。ライカの顔には残念無念の文字が窺えた。

「終わりだな」

 隆平がトリガーに力を籠め、そのままトリガーを引く。

 はずだった。

 隆平は未だにトリガーを引けずにいた。

「――――!?」

「かかったわね!」

 ライカが嘲るように顔に笑みを浮かべた。ライカが隆平にしたことは呪術の技による『一時的な対象の判断能力停止』である。この呪術の仕組みは、強い『祈り』の波動によって人の思考を掻き乱し、正常な行動をできなくするという物だ。

 その術を行使したまま殴ったりすればいいのでは、と思うかもしれないが、この呪術は『相手の思考を一時的に掻き乱すために自分の思考も一時的に極端に低下する』ので、長い時間を継続して行使し続けることはできない。

ライカはその隙に新たなマガジンを召喚し、マガジンを交換する。そしてそのままその銃口を隆平の鼻先に突き付けた。隆平が正常な思考に戻ったころにはそのような光景が目に前に広がっていた。

「形勢逆転ってやつかしら?」

「…………」

 隆平はアサルトライフルのグリップからゆっくりと手を離した。アサルトライフルは眩しい光を放って『術式』として隆平の脳内に収納された。

 ライカは完全な勝利を確信し、顔からは笑みが消えない。

 隆平は観念したかのように両手を上げる。

 教員もその様子を見て勝敗を付けようとしたその時、隆平がピクリと動く。

「動かないで」

 冷たく吐き捨てる。ライカは銃を構えなおし、トリガーに力を絞る。

 残り時間は30秒を切った。

 教員は終了の合図を送る準備をする。

 その刹那、

 眩しい光がライカを襲い、半歩後ずさり、怯む。

 隆平の両手を包む光。その光を振り切るように隆平がステップを踏み、少し後退する。その様子を少し目を開けて見たころには2メートルほどの間隔があいていた。

 陣夏のいる待機ルームで流れているモニターに映っている残り時間は20秒ジャスト。

 光が収まり、目をおもむろに開いたライカの視界には、両手に黒いものを装着した姿の隆平が仁王立ちしていた。その身に纏う空気は冷たく、肌を直接刺すようにものだった。

「……やってくれたわね……!」

 ライカが半ばの焦りを混ぜて言い放つ。残り時間が少なくなってきていることが分かった隆平も少し焦りの色が見えている。

「もう残り時間も少ないだろう。そろそろ決着といこう。」

 隆平は両手の拳を力強く握りしめ、体重を左側にのせて右手を置くに引く、空手をするかのような構えをとる。

 隆平の両手には現在、硬度の高い金属で造られた『籠手こて』が装備されている。その硬度はダイヤモンドには劣るが、まず銃弾では破壊できないほどだ。

通常、籠手とは剣道などで使われている指や手首を保護するための器具だが、隆平の持つ籠手は攻撃用にオーダーメードされたものだった。ここでは『非殺傷武具変換術式』によって硬度が落されている。

とは言え、銃弾では破壊できない。刀では真っ二つにするところだが、籠手では叩き潰す、という表現が妥当なところか。

室内なので風が吹かない、ことはなく、通常の自然のように冷たく、周りに纏わりつくような湿った風が肌に不快感を残して駆けてゆく。

 ライカがトリガーに力を籠めると同時に隆平が進撃を開始する。

 左足を蹴る、その刹那、そこに銃弾が通過する。刹那の時間だが、隆平はジグザグに弾道を読みながらリズムにのってステップを踏む。

 ことごとく外される弾道。少し軽くなってきたマガジンに思わず舌打ちをするライカ。隆平はそのままライカのもとへ直線を描いて突っ込む。

 ライカはここぞとばかりにトリガーを絞った。

 隆平はそれを読み、トリガーが引かれるよりも先に左足をサイドに蹴った。弾道は標的から逸れ、そのまま通過した。

 が、その刹那、

 耳の鼓膜を劈くような激しい音とともに、その銃弾は突如爆散した。

 ライカの頬は緩み、隆平もまた緩めた。

 ライカの呪術の技、『飛翔体爆破ミサイル』。自分が放とうとしている物体に予め『祈り』を掛けておき、爆破したいときに大きな『祈り』を捧げると、対象に籠っていた『祈り』が増幅、対象はその形を維持できずに破裂する。また、『祈り』の大きさが大きければ爆破をさせることの可能。高位な呪術師ならば、自分に向かってくる対象に使用することも可能だ。

 ライカは大量の『祈り』を銃弾の中に籠め、それを先ほどの原理を用いて爆破させた。

 これには耐えられまい、と笑みを零したとき、爆発した煙塵の中から煙をきって黒い拳が飛び出した。それはライカの腹部にめり込み、激しくも鈍い痛みを感じさせる。彼女の口からは思わず唾液が吐き出された。

 間を空けずにもう1発の拳が腹にめり込み、手の中から拳銃が零れ落ちた。ライカはそのままその場で膝をつき、顔を顰めていた。

 模擬戦終了を告げるブザーが、拳銃が落ちると同時に響いてその硬い音が実習館内に木霊させた。

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