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世界最弱/最強の少年  作者: うずまきさん
学園の異端児 前編
4/19

3 『コード:榴』

 更新がかなり遅くなりました……

 あの男子生徒との一件から数十分の時間が経った。陣夏は舞花と大智とともに帰路についていた。あの後、明日のことを奈乃果に訊いてみると、明日は召喚する武具の術式を強制的に模擬戦闘武具に書き換える『非殺傷武具変換術式』の張られている実習館で、7組と合同、3人1組で模擬戦を行うらしい。

 これは陣夏にとって冗談でも笑えない話だった。

 模擬戦、しかも買ケンカを売られたという負けられない状態。今の陣夏にあの男子生徒を、この学園の生徒を倒せるかは分からない。

 陣夏は2人のカバンを一瞥する。すると、彼らのカバンは陣夏の物よりも圧倒的に大きく膨れていた。何かを詰めていると思われるが、そんなことは 入学する前に貰った案内書には記載されてはいなかった。

「2人とも、何を持ってきてるんだ?」

 陣夏が尋ねると、2人の表情はあり得ない、とでも言いたそうな形になっていた。陣夏は2人の表情に訝しいものを覚える。

「何だ?」

「……瀬々嶋は普段、武具を携行しないのか?」

 陣夏の顔の形が変わる。

「なんだ、そのシステム?」

 大智は大きく溜息をつき、陣夏を視界から逸らす。

「知らないの?」

 舞花からも呆れたような口調で言われる陣夏。今すぐにでも逃げたいようなものを覚える。

「だから何を?」

「だから、『武具携行システム』だよ!」

 陣夏はその単語に覚えがあったように感じられた。

 『武具携行システム』とは、その名の通り、常時武具を召喚した状態で持ち運んでも良い、と言うシステムで、これは非常時でもすぐに対応できるようにと導入されたシステムだ。このシステムは拳銃クラスの武具までなら許可される。これのおかげで学園内ではケンカの発生件数が格段に増えたらしい、と大智は語る。

 今日はその申請日だったらしく、誰も携行してなかった。それ故に陣夏は気付かなかったらしい。因みにこのことは案内書にちゃんと記載されていたようだ。

 彼らはその申請を終えたので召喚したままで持ち帰っているという訳であった。

「そんなシステム、無かったんじゃないのか?」

「いつの情報だよ、それ」

 大智の呆れたようにその言葉を吐き、舞花がそれに付け加える。

「2年前に大きな戦闘が起こってから導入されたんですよ」

 陣夏は息が詰まるような感覚を覚えた。

「因みにその時の被害は酷かったらしくて、あの学園の生徒も、戦闘に巻き込まれたらしいです」

 舞花は他人事のように語る。大智もまた然り。

「それで、1人亡くなったらしい……」

 大智の声はここだけ小さかった。

「……そう……なのか」

 陣夏は声の大きさは変えなかったものの、その声は硬質で、息を一気に吐き出すように言った。ここだけは3人とも他人事のようにはできなかった。その中でも陣夏の声は最も張りがあった。そこには冷気のみが吹き溜まり、4月とは思えない空気だった。

 この日は4月でも類を見ない最低気温を記録し、その記録を更新した。



 暗闇で地上を照らす空。4月にもかかわらず体を襲う冷気。ただぬけていく静寂。地面に這いつくばっている桜の花びら。その花びらを気にすることもなく靴底で踏みつける1人の人物。今日は月が出ておらず、寒い上に暗い。

 その人物は生まれつきなのか、それとも染めたのかは分からないが、明らかに茶髪で、その服は今時のファッションを感じさせる。その顔は暗闇に紛れて見えないが、スタイルはとその雰囲気は人気のありそうな役者に似ている。

 呆れたことに、その人物は自身をイケメンである、と謳っている。

「おっせぇな……、時間は過ぎちまってるぞ……!」

 その人物はある者と待ち合わせをしていた。その者は午後10時にいつもの場所で、と塙ヶ咲学園からかなり離れた森の入り口付近を指定し、その人物、コード:榴は待ち合わせ相手を今か今かと待ちわびていた。

 榴が帰ろうかと思った、

その時だった。

「やぁ」

 暗闇が軽い声を発した。後輩にでも話しかけるかのような口調だった。流れるようにその場から掻き消え、再び静寂は訪れる。

 冷たい冷気が籠るその空気は再び振動を開始した。

「やぁ、じゃないでしょう。いくら会長でも時間を守ることぐらいはしなければならないと思いますが」

 榴の放った台詞が会長と呼ばれた人物の耳に響く。冷気は振動を停止し、そのまま刹那のような時間を過ごす。

 会長といぇばれた人物はニコニコとした顔で、初見の人にはいい印象を刻み付けるようなもので、服もカジュアルだ。

 だが、その裏では何か企んでいるという感覚を感じさせる。

「こちらにもいろいろあるんだよ。下っ端の君は黙って言うことを聞いていればいい」

 その人物は榴を追い払うような口調で榴の台詞に応戦する。依然として顔の笑みは消えない。彼の顔からは笑顔が消えないのか、と榴は出会った頃からの悩みの種だったりする。

「今日は入学式だったそうじゃないか」

 会長は不意にその話題をきり出す。確かに塙ヶ咲学園は今日が入学式だった。そのとき、榴は学園内にいた。もちろん、合法的な理由をもって。

 今年の新入生も皆、健全そうな顔つきだった。彼らは術式の本当の怖さを知らない。それ故にこの学園に入り、召喚術や呪術を己の物にしようとする。

「そうですよ」

 榴がゆっくりと答える。

「その中で使えそうな者はいたのかい?」

 会長が笑顔で、冷たく言い放つ。榴は今までその顔の形を嫌と言うほど見てきた。彼の質問の時の顔は、いつもその形なのだ。なので質問するときだけ行動が読める。

 榴は今日の出来事を脳内でスクロールする。その中でも興味があったのが1件ほど。

「たったの1件か……。まぁ、良しとするか」

 会長は少し口を尖らせたが、すぐに弧を描いた形に変わった。その瞬間、肌を凍らせるように冷たい風がそばを吹き抜けた。会長はそのまま数回、首を小さく縦に振った後、柳の方に正面を戻した。

「で、どんな奴だい?その使いそうな奴は」

 榴は黙り込んだまま、脳内で詠唱を開始した。そして、会長の目の前に2枚の写真を出現させる。そして、会長は最初の1枚目に視線を流す。

 そこには2人の男子生徒と1人の女子生徒が写っていた。1人の男子生徒は女子生徒に腕を伸ばしていた。もう1人の男子生徒は女子生徒の後方に控えていた。

 2枚目の写真には2人の男子生徒が向かい合っている。それも1枚目では女子生徒の後方に控えていた男子生徒がもう1人の男子生徒の腕を掴みながらである。会長は口を噤んだ様子でその写真を眺めていた。会長の顔には黙り込んだかわりにここに写っている1人の男子生徒に目が止まっていた。

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