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6.再来の魔物

 授業を惰性的に受けているといつの間にか――いや、中々長い時間に感じたが放課後になり、俺は正面玄関へと向かっていた。一平はと言うと、「俺は今日、二度の恋に破れた。だから三度目はある。つまり、わかるだろう? 次は確定大当たりサヨナラ満塁ホームランでハットトリックってなわけだ。再び裏切ることを許せ友よ! さらばっ!」とか長々しく言ってどっかの教室へと向かっていった。止めてやるのが優しさだったのかも知れない。そのチャレンジャー精神に俺はたまに感服することがあるのはここだけの秘密だ。というか二度目はいつの話だ。


 今から見慣れて飽き飽きしそうな校門を越え、校舎外に出る。そこにはせまっくるしく敷き詰められてるブロック塀だらけのこの景色。学校出て見れる風景がこれってのはまた空しいというか、雅さが足りないというか。住宅事情って奴だろうか。それでも公園付近など少年少女の遊び場近くは広くて自然溢れる場所が多いのは悪くないと思う。極端すぎるとは思うが。

 歩きながら携帯を開く。現在十六時二十分ちょい。さぁ帰って怠惰の時間だ。宿題とか言う怠惰の妨害を蹴散らした後に圧倒的自堕落を開始するぞ。などと悦に入ろうとすると、携帯が震えだす。悦すら妨害してくる着信バイブレーション。相手は――うわっ。


「……とりたくねー」


 思わず声を出してしまう。嫌な予感しかしない。スルーしてもいいんだが、後々に面倒ごとになるパターンの話だと困るんで取っておこう。というわけで通話ボタンスイッチオン。


『こんにちは先輩。今日も異端に出会ったんですってね。やっぱり先輩はそういう星の元、世の中を脅かすモノと戦う運命にあるんですよやはり』


 爽やかな声が携帯電話から発される。電話の相手は異端関係で知り合いになった爽やか能力者男、遠神深炎。声については女子が聞いたら殺虫剤を放たれた虫のようにころりと落ちてしまいそうとの知人の弁。同性からすればそんな魅力は皆無だが。


「誰から聞いたんだイケメンタラシ。まさかのストーカーか?」

『まさか。たまたまです、同じ組織の人から偶然先輩が異端と遭遇したと報告で聞きました』


 組織。ああ、似非正義の味方団体だっけ。俺のイメージじゃ正義のヒーローは遅れてやってくるというが、遅すぎて事件解決してるパターンの多い本末転倒組織。


「こういう時だけは情報早いのな。だったらいつももっと早く駆けつけてくれよ修復者さん」


 組織の名称は不明。しかし、能力者のみで構成されている世界平和維持を目指す組織の一つ。その組織で動く者のことを、修復者という。らしい。

 詳しいことはよくわからないが、とりあえず能力者版ヒーローな感じだと思う。そもそも能力者って詳しくはなんなのかは知らない。突発的に使えるようになったとか、人工的に改造されてとかその家系的なものとか前に聞いた気がするが覚えてない。多分全部ひっくるめてる可能性は高い。節操ない世界だな全く。


『あはは、先輩の運の悪さは最早奇跡の産物ですからね。組織の知り合いも将来有望な修復者候補として頑張って欲しいって言ってますよ』

「勘弁願うねそんな就職先」


 命がいくつあっても足りる気がしない。というか修復者さんはもう見過ごしてるんじゃないか俺だけ。どうなってんだ正義の味方団体。


『まぁ、組織と言いましてもこの町にだけ凝り固まってる訳じゃないですからね。全国と言いますか、世界と言いますか。この付近管轄の僕もちゃんと先輩を助けに行ってやりたい気持ちはあるんですが、他の一般人に比べてしまいますと優先順位がガクンと下がってしまうと言いますか』

「嘘付けこのやろー」

『ほんとですって。これは逆に言えば先輩の実力を、修復者としての僕が認めているからということでもあるんですよ。何せ、先輩は今日まで様々な異端との戦いを潜り抜けてきた一級品の実力者。それを助けに行くなんておこがましいことをしてしまえば、むしろ先輩に怒られてしまうのでは? とも思ってまして』

「何を適当なことをいけしゃあしゃあと……」


 一級品どころか切れかけの電池レベルの粗品だ俺は。不幸の中で幸運に出会えてるからこそ今を生きていれるだけだ。いくら母さんに身を守る術を教えてもらったとはいえ、所詮は一般人。修復者みたいな戦闘人間には酷く劣る存在だってのに。そもそも物騒な奴らが他にこの付近で出る可能性なんてあるのかよ。


『泣き言を言わせてもらいますと、警察が悪事を何でも見つけることが出来ないように僕達もまた、異端が現れたら即探知して撃退説得捕獲抹殺なんてことは出来ないってことですよ。魔法使いであれ、能力者であれ、特異者であれ、幻想体であれ』

「ほんとに泣き言だな。まっ、それぐらいわかってるよ。さっきのは嫌味だ」

『ええっ? 趣味が悪いですね先輩は。けれど嫌味に反論出来ないのが今の僕の状況なので、どう返事をすればいいものか考えてしまいます』

「あー、そうですかよ。それで、そんな世間話の為だけに電話をしてきたのかお前」

『いえ、そんなことはありません。一応、注意として連絡しました』


 注意として? どういうことだそれ。なんてこと思ってると爽やか声は更に言葉を発していく。


『先輩が倒したと思われる黒い犬型の怪物についてなんですが、実は最近僕もそれと同種の奴を倒しておりまして』

「へぇ、似たような怪物が出没したってことか」

『はい。けれど、僕の同僚も同じ風貌の生物を倒したといっておりまして』

「え、マジですかそりゃ」


 おいおい、あんなのが何匹も存在してるとか勘弁だぜ。今更都市伝説なんて流行らないぞこんにゃろう。誰か平安時代から陰陽師タイムスリップさせて退散させてくれねーかな。ああ、悪霊じゃないから無理か。


「えーっと、つまりまだいるかも知れないから気をつけろってことでおけー?」

『はい、そのとおりです。まぁ、でも先輩はやっぱり大丈夫だとは思ってますけどね。なにせ、先輩も立派な戦闘術を持ってるんですし――魔力、という名の戦闘力を』

「魔力、ね」


 携帯を持つ手と逆の手を俺は見つめる。


 ――魔力。それは無から有を生み出す力であり、魔法使いって連中にとっては持ち得なければならない非常識の力。

 生命力と呼ばれる、人間の命を支えていくために体内に存在する力を外部で扱うために上手く変換したものの一つを魔力と現在の魔法使いと呼ばれる連中からは言われているらしく、超能力もその延長だとか言ってるらしい。

 んで、ウチの母さんは魔法に携わる機会があったらしく、生命力を魔力にする術を持っていた。そして、小学生の時に俺は僅かながらにそれを体得。母さんが魔法を使える人間だったんで、恐らく血縁的な才能のおかげだったんだろう。

 けれど、俺自身はあくまで魔法なんてもんは使えない。強いて言うのであれば、外部で魔力を扱うぐらいしか出来ないので魔力使いと言ったとこである。なんという半端。


『そうですよ。その力で例え新種の邪犬の一匹や二匹、いや千匹ほどが先輩に襲いかかろうとも先輩は生還して僕ら修復者のメンバーになる決意を持って帰ってくると!』

「いやそれはねーって」


 あのワンワンちゃん千匹とか肉片どころか骨も衣服も残る気しないっての。下手すりゃ携帯まで食われそうだ。というか大変そうで命飛びかねないトンデモ似非ヒーロー組織なんかに誰が入るか。


「ていうかお前らの組織、能力者以外は嫌いなんじゃないのか?」

『そういう人もいますね。でも大丈夫ですよ、先輩なら魔力と言う能力としてあっさりと修復者なれますって!』

「なんだその屁理屈。どちらにせよ入る気無しだ、自分から非日常突っ込む気は全く無し」

『はぁ……それは残念です。あ、それじゃあすみません、行かないといけないのでそろそろ切りますね』

「ああ、わかった。大変だな修復者ってのも」

『あ、いえ。修復者は関係なく、今から昨日道でぶつかった女性と成り行きで買い物するこ』


 ぶつっ。通話終了。聞かなかったことにする。怪人とか能力者以上の非日常を聞くはめになるところだった。

 それにしても邪犬か。遠神もレイリアみたいに新種と評してたな。俺からすれば襲ってくる怪物は全部新種みたいなもんだからぶっちゃけ変わりないんだけれど、怪物も虫や動物みたく形態を変えていくということなのか。


 などと歩いているうちに、小さな路地の十字路が見えてくる。ここを真っ直ぐいけば後は家。右に行けば朝寄り道した公園。左は商店街方面。勿論、寄り道せずに帰る予定なんで何も考えずに真っ直ぐ直進しようとした時、十字路の真ん中に何かが存在していることに気付く。


 ――それを見てすぐにわかった。思わず顔が引きつる。ふざけんなって、見知らぬ誰かに言い吐いてやりたくなる。


 深紅色の光を纏う黒色の犬。

 おぞましさを感じさせる冷徹なサファイアブルー。

 まるで豹を思わせるようにしなやかで、百獣の王を思わせるような巨体。そんで――獲物に借りを返さんと言わんばかりの、殺気混じりの鋭い視線。



 黒き邪犬が、そこに存在していた。

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