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10.橋居家ファミリーズ

「へー、レイリアさんはお兄ちゃんのお友達なんだね!」

「うん、今日知り合ったばかりだけどチョウマが野犬から助けてくれてね。それで知り合ったの」

「ほんとに!? お兄ちゃん凄い! 流石お兄ちゃん!」


 アレからまたも数分後。公園に逃走しようとした俺であったが妹の強引な家宅引きずりハンドによって見事に赤い屋根の我が家にレイリアを入れてしまった。ちなみに我が妹、互いに自己紹介してすごくはしゃぎ中。ちなみに魔物と言う名の野犬はこの人自分で追っ払ってましたよ妹。

 木造のテーブルに座る俺は向かいに座る妹とレイリアを見ながら、冷蔵庫から取り出した麦茶を飲みながら考え中。さて、どうするか……悪い奴じゃないってのは分かるのだが、一応怪物を家に入れるというのは自分でもまずいと思ってはいる。しかし――こう、我が末っ子ウミちゃんが凄く楽しそうにレイリアと話しているのを見ると今から出て行くのもなんというか……いや、やっぱ割り切るべきだな。やっぱり危険な奴を家族の傍に居させる訳にはいかない。

 椅子から立ち上がり、口を開こうとしたときだった。


「はい、あんまり大したもの出せないんだけれどこれでもどうぞ」


 コトリ、とテーブルの上に市販の色んなお菓子の詰め合わせセットの中だけを皿に入れたようなものを横から現れた手が置いた。


「わーいっ! お母さんありがとう!」


 妹、よろこぶ。


「わぁっ! ありがとうございますお姉さん!」


 レイリア、頬の近くに手を合わせながら妹以上に喜ぶ。目がすっごく輝いてらっしゃる。

 

「あらやだ、お姉さんじゃなくて私はこのひねくれ息子と可愛い娘のお母さんよ」

「そ、そうなんですか!? てっきりお姉さんかと……」

「あらまぁ、お世辞がお上手ねお嬢さん」


 見た目だけなら二十代と言っても過言ではない童顔な我が母――橋居はしい 亥子いのこは、レイリアの発言に照れたかのようにそんな返答をした。実際は四十代のババアさんではあるが。


「んー? なんか文句ありますのかしら我が息子ちゃん」


 ……そして俺の心理を見抜くかのように笑顔で猫被って発言するマイマザー。恐ろしい。


「うわーっ! 美味しいねウミちゃん!」

「うん! 甘くて美味しいね!」


 嬉しそうに妹とチョコレートを食べるレイリア。実は同学年と言っても信じる。今から言っても信じる。


「……んで、あの子は何者なの?」


 二人を見ていると、突然母さんが耳打ちして小声で聞いてくる。流石は母であり教えの師。レイリアの正体にすぐさま気付いたようだ。


「何と言われたら……えーっと、吸甘鬼って言う怪物らしい」

「……アンタ、怪物の友達作り始めたの?」


 顔を上げて、俺を見下ろしながら呆れるような声――つうか表情も呆れながら母さんは言った。呆れられるのも仕方ない、小学生の頃に異端ムカつくぶっ倒す発言した俺が何をトチ狂ったのか怪物少女を連れてきたのだから。


「成り行きだよ。心配しなくてもすぐに連れ出す」

「大丈夫じゃない? アレはそう邪気もないし、ウミも喜んでるし。可愛いし」

「……え、いいのかよ」


 俺のやや後ろで両手を組んで立つ母さんに、次は俺が呆れた声を出す。理由が適当すぎないですかマイマザー。


「つうかね、危ないと思うなら意地でも連れて来ないでしょ普通。鳥馬も心のどっかで大丈夫だろとか思ったから、こうやって連れて来てんでしょ」

「………………」


 まぁ、そう言われるとそうなのかも知れない。性格自体もちょっと変なだけでそんな悪い奴じゃないし、何よりも早朝といい、さっきといい二度も命を救われたことも安心させる要因なのだろう。


「どーせアンタはなあなあな流れでウミに引っ張られて連れて来たとかそんなんだろうけどね」


 そしてどこまでも心理を読んでくる母上。思わず苦笑い。実はこの人心を読む魔法とか使えるんじゃないだろうか。


「んで、最近買った制服がボロボロになってるのは一体どうしてかな鳥馬?」


 ワンコとの戦いで言い訳の余地のなくボロボロになった服を見て追い討ちをかけてくる母。その表情は笑顔そのもの、しかし、魔力が漏れているとか言われても信用できる何かを発している母さんからは思わず目を逸らさずには要られない。

 と思ったら母さんは溜め息をついて、物凄い迫力も成りをひそめた。


「見たとこ、あの子だけじゃなく別の異端にもあったってとこか。まー、アンタが無事だってだけで良しとしましょうか」

「はは……恩に着ますよ母上殿」


 苦笑いしながら返答。ていうか他に返答のしようがないしなぁ。


「ところで、犬虎と姉ちゃんは?」

「巳辰は今日は部屋で勉強。犬虎は、多分友達と遊んでるんじゃないの?」

「ミタツとイヌトラ?」


 普通に話し始めた俺と母さんの会話に、レイリアが割り込んで会話に加わってくる。ウミもせんべいを食べながらこちらに目線を向けている。


「俺の姉ちゃんと弟のことだよ。橋居巳辰と橋居犬虎」

「へぇ、チョウマの兄弟ってウミちゃん以外にも沢山いるのね」

「うん! お姉ちゃんはお兄ちゃん達より頭も良いよ! トラお兄ちゃんはいっつもギラギラしてるの!」


 自分のことのように姉ちゃんと犬虎のことをレイリアへ話していくウミ。それにしても、俺を気に入ったから普通に話しているのかと思えばレイリアはウミともちゃんと話せている。元々人間が嫌いじゃないのかもしれないな、初対面で俺のこと微妙人間とか言ってくれてたが。

 ふと母さんの方を見ると、レイリアとウミが喋ってるのを見て口元を緩ませている。なぜだか、嬉しそうだ。とか思ってると突然俺の頭の上に手を置いてくる。なんなんだよ全く。


「アンタの運も、今回は良かったみたいね」

「どこがだよ。異端と会う時点でろくでもねーよ、例えレイリアであったとしてもな」

「そうでもないわよ、可愛い無害な子なら全然アリでしょーが。さっ、母さんは買い物にでも行って来るから、アンタはウミとレイリアさんと仲良くやってなさい」


 母さんは悪戯小僧のような笑顔で子憎たらしく笑いながら、背筋を伸ばして部屋に財布を取りにいった。仲良くったって携帯の使い方教えるだけだし。

 とりあえず、二人が喋ってるうちはのんびりと麦茶でも飲んで観察しておくか……と思ったが、ウミはこちらを見ていた。


「どうかしたか、ウミ?」

「えっとね、気になっていたんだけど……もしかして、レイリアさんはお兄ちゃんの彼女なの?」


 好奇心を持って聞いてくるウミ。だが俺はその質問に思わず呆れてしまう。兄の何を見てきたのかと。


「何言ってんだウミ。今日会ったばっかで彼女とか、どこかのイケメン野郎しか不可能だよ」


 さっき電話していたイケメン能力者であるということは言うまでもないが。


「じゃあじゃあ! 今からは可能性あるんだよね!」


 期待するような視線を向ける我が妹。やっぱり女子ということもあって恋愛関係とかに興味津々なのだろう。だが。


「そんな甘ったるいものを兄に期待するなウミ。第一そんなこと言われたらレイリアも困るだろ。なぁレイリア」

「そ、そうよウミちゃん! わ、私はチョウマなんてただ気に入っただけで全く眼中にないんだから!」


 その照れ隠しするような感じの反論はこっちがちょっと恥ずかしくなるんで止めてくれないですかねレイリアさん。けれど、ウミは表面でなく言葉でちゃんと受け取ってくれたのか、しょんぼりとした表情をする。


「そうなんだー、年頃の男性が家に女性連れてきたらほぼ彼女ってハネちゃん言ってたのに。それでなんか部屋の中でー……えーっと、なんだっけ?」

「ウミ、思い出さなくていい。せめて中学校あたりで思い出せ。ていうか忘却しろ」


 何を教えようとしてんだそのハネちゃんと言うのは。最近の小学生ってマセガキ多いのか。いや、そもそも普通はどれぐらいで知り始めるのか。なんにせよ、今は知らずともいいことには違いあるまい。


「チョウマはウミちゃんの言おうとしたことに心当たりあるの?」


 そしてその話題を追求してくるレイリア。ウミと全く同じような疑問の表情を見せている。うわっ、何これ、俺だけ俗世にまみれた汚い人間みたいじゃないか。


「……あー、えっとな。まぁ、こう……夢に溢れてるというか、世界を支えていくためのものというか」


 思わず二人から顔を逸らしながら呟くように言ってしまう。こんな下世話なこと、真正面から言えるはずもない。ていうかわざわざなんで遠まわしに説明してしまってるんだよ俺は、適当にあしらえばいいってのに。


「お兄ちゃん何言ってるかわかんないよー」

「けど、なんか素敵そうなことなのね。今も出来ることなの?」


 おいおい、もう追求すんな。これ喋ってる方も恥ずかしいから。というわけで。


「その話は精神的にオーバーヒートするんで強制閉会。携帯の使い方教えてやるから、その話は終了」


 無理矢理打ち切ると、ウミはなんか釈然としない顔で、えー、とか言ってる。しかしレイリアはそれを思い出したような顔をする。


「ああ、そうだったわね。じゃあ教えなさい、沢山教えていいわよチョウマ。全部覚えてもっとも携帯を扱えた存在として名を馳せるわ」

「えらそーだなー。まぁ、そんなんで名を馳せるかはわからんが教えるよ」

「あっ! 私も教えてお兄ちゃん! 私もいつか携帯電話持つようになるから!」


 ウミはさっきの話などどこかに忘れたかのように興味を移してくれた。何にも楽しいことじゃないと思うんだけどな。でも、こっちなら問題なく話せるし楽だしいいか。

 そんなわけで、一介の高校生が持つふつーの携帯電話講座を開始することにした。

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