表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィンターソルジャー  作者: 鷹雪
帰還者と盗賊達はバカ騒ぎ
10/27

エンゲージ

男達がボスの呼び出しを受けてそこに到着すると、彼等の足元にはボスの首が転がっていた。

「こ、こりゃ!?……」

 泡を食う彼等に向かって、席を立ったグリフはすぅと息を吸うと凄まじい声で怒鳴りつけた。


騒ぐなっ!!


 たったその一言だったが、その後に発せられた太った男が放つ殺気が駆け抜け男達の動きを一瞬止めてしまう。

「おい、ここでボスの次に偉い奴はどこにいる。ちょっと呼んで来い。」

 そう要求するグリフの隣にファーギーは移動しながら、あろうことか服をびりびりと破き始める。

驚いたことに、その下にはいつもの鎧姿があった。

 同時にフィンもフードを下ろす。その顔はどこか憂鬱で、何を考えているかわからない。そんな不気味さを感じさせた。


 訪問した商人の使いと言うのが実は偽物で、しかも自分と話したいと要求しているなどと聞かされ呆れかえったナンバー2の男は、さらに多くの部下を従えて面談場に現れた。

 そこで彼は、哀れな首を失ったボスの身体とそこからこぼれ落ちてしまった首を見る羽目になった。

「おお、あんたがボスの次に偉い奴かい?」

 駆けつけて顔色を変えた彼を見て察したのか、グリフが問いかける。

「そうだ、貴様等は何者だ!?」

 逆に問い返すが、それを無視して再びグリフは聞いてきた。

「そこに転がっているあんたのボスと、この部屋の隅にころがっている部下の首。あんたならいくらで買ってくれる?」

 一瞬、男はグリフが何を言っているのかわからなかったようだ。

だが、それを理解すると顔には嘲笑を浮かべつつ

「ハッ!なに言ってんだ、お前。誰がそんなことを…」

 そして多分、このあとにお前等やってしまえとでも命ずるつもりだったのだろう。

その瞬間、グリフは隣に立っていたウ-テを見た。

 たった一瞬だった。

グリフが向けた目を真正面から受けたウ-テは何も考えられなかった。だが彼が発した、たった一言「ウ-テウィン、あいつを撃て」その言葉だけはしっかりと頭に入ってきた。

 そして信じられないことに、その言葉通り、スカートに隠した弓と矢をはしたなくもウ-テは驚く速さで取り出すと無心のまま相手に撃ち込んでみせた。

 その矢は宙を切りさき、丁度後ろを向いていた相手が前に向き直って口を開けたところで、その中へと飛び込んでいった。


ドサッ


 たった一発。放たれた矢は口の中に飛び込むと正確に延髄まで深く食い込み、相手を絶命させた。ウ-テ本人ですら信じられない、そんな1発であった。

それを相手の連中に理解させる間もなく、再びグリフの言葉が彼等に炸裂する。

「おい!ここで3番目に偉い奴は誰だ?前へ出ろ。」

 命令である。

 たった4人が組織でも一目置かれているバートリー団にむかって一方的に命じているのだ。

その異様な感覚と、湧き上がる恐怖から彼等は逆に一歩下がる。すでに精神的に敗北してしまっていた。

 そんな中で、押し出されるように新しい男が前へ出てきた。

そして今度もグリフは聞いてくる。

「この部屋に転がる3つの首、あんたのボスと、その次の奴と、その部下の首をいくらで買ってくれる?ちゃーんと考えてから答えるんだぞ。」

 その言葉にファーギーは「キキキッ」と独特の笑いを浮かべ、後ろに立つフィンはおもむろに剣を抜いた。

(こんどはあいつが斬るのかよ!?)

 根拠もなくそんなことを彼等の前に立つ全員が思い始めていた。

そして、3番目の男は正しい選択を選ぶつもりらしかった。

 後ろにいる奴に何事かをつたえると、そいつは姿を消してすぐに戻ってきた。その手には重そうな金貨が入っているとおもわしき袋を持っていた。

 それを受け取ると、恐る恐るグリフ達の前へと差し出す。

「払うよ。うちにある全ての金だ。持っていってくれ。」

「いくらだ?」

 それに対してわざわざ金額を聞くグリフ。

「だいたいだが、金貨にして50枚はこえているはずだ。もっていってくれ。」

 

ドカァッ!


 次の瞬間、炸裂する音と共にテーブルの横の椅子がぺしゃんこになっていた。グリフが軽く上げた足で踏みつぶしたのである。

凄い力が、いや体重なのだろうか?

「おいおい、ボスとその右腕の首もきっちりとそろってあるってのに。金貨100枚もないってのはどういうことだ?ここはウィンター・エンドでも名前の売れたバートリー団だろうが。」

 グッと、歯を食いしばりながらも必死に相手は言い訳を試みる。

「気持ちはわかる。だけどな、それしかない。本当にそれで全部なんだ。金はもうないんだよ。」

 すると、グリフはまだ納得いかないという顔で

「金がないならそれに変わる物を出せよ。」

「わかった、美術品があるぞ。そこの壺でも絵でもなんでも持っていってくれ。」

 それを聞くと、グリフの顔が歪む

「おい、考えて話せと言ったろ?そんなもの、持ってかねーよ。そうじゃないのを出せと言ってるんだ。」

「なんのことを言っている!?教えてくれっ。」

「お前等が金に換えようと攫ってきた女達がここにいるだろう。それを全員連れてこい。もし、1人でも出し惜しみをするようなら、お前との話もそれまでだ。」

 これが最後のチャンスだと告げる相手に、男はもう抵抗する気は失せていた。



 捕えていた女達を全員連れてくると、その顔をひとしきりグリフは見た後で仲間に合図を出した。

するとフィンとファーギーが彼女等を受け取るとゆっくりと出口へと向かう。

「それでは、バートリー団様。本日は良い取引ができましたね。では、また。」

 顔はそのままで、声だけまたあの仰々しい商人の使いの声に戻って挨拶をするとグリフはさっと身をひるがえした。

堂々と立ち去る彼等の後ろ姿はどこか絵になっていて、バートリー団の面々はただそれを見送るしかなかった。

 だが、その中から1人が飛び出すとグリフに声をかける。

「あのっ、お名前を教えていただけますかね?」

 言葉こそへりくだっていたが、その目の奥には怒りの炎が吹き荒れていた。その相手を平然と見ると、グリフは

「ライバー。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のライバーだ。今日から貴族の街はうちがもらう。用がある時はいつでもくるといい。」

 そして歯を見せて笑うと

「ただし、頭を低くしてな。首が落ちては話をする時に困るだろう?」



▼▼▼▼▼



……………信じられない夜だった。

呆気にとられた門番たちの横を、女達を連れたグリフ達の一行が通り過ぎていく。

 その間にも、フィンによって助けに来たのですと説明された女達は助かった喜びに安堵してはやくも涙していた。

(このままで済むだろうか?)

 漠然とウ-テは思ったが、目の前でグリフがフィンとファーギーに女達を連れて販路を使い、上層を抜けて兵たちの居る城までむかえと指示を出している。

 そして、ウ-テの方を向くと

「ウ-テ君。君は俺と一緒だ。」

 そういって彼女達の後ろについた。

 販路を登って中層につくころには、女達はすっかり調子を戻しており。はやくも家に帰ったら、とお互いで話しあっていた。


「ちょっと、いいですか?」

 はじめてウ-テの方からグリフに声をかけた。

 声を掛けられた方は前を見たまま「ん?」とだけ声で応じた。

「あの、こんな人助けなんかやってしまって。本当にいいんですか?」

 一番きになったことがまず口から飛び出した。しかし、それをどうも違う風に受け取ったらしい。苦笑いを浮かべると

「おいおい、ひょっとしてさ。シーフギルド、只今参上。とか期待してたのかい?」

「いえ、違います。違うんです。こんな目立つことしていいのかなって。そう思って。」

 それを聞くと「ああ」と言って理解を示すと口を閉じてしまった。

 どうやらそれ以上は教えてくれるつもりはないらしい、口を開こうとしないグリフに続いて疑問をなげかけた。

「じゃ、まだまだ。あります。あるんです。

 えっと、わたし実は昨日からずっと牢に入れられてたんです。シーフギルドの。そこから出してもらった時にいわれました。貴族の元盗賊が来て、わたしのことを助けてくれたんだって。名前とか聞けなかったんですけど、誰のことなんだろうなってずっと思ってて。

 あなたなんですよね、グリフィンさん?」

「グリフでいい。俺も君をウ-テと呼ぼう。」

 それは彼女の知りたいはっきりとした答えではなかったが、そう言われるとなんだかすがすがしい気持ちで受け入れてしまえそうだった。こんなのはいつ以来のことだろうか。

 少しばかり感じるこの不思議な感覚を下を向いてかみしめていると、「そろそろかな」と呟いてグリフが言う。


「ウ-テ、付き合ってくれ。あそこの上に行ってみよう。」


 彼が指し示したのは、なかなかのぼりがいのありそうな高い屋根のある住宅であった。



 それは信じられない、言ってしまえば悪夢のような姿と言えるかもしれない。

明らかに見た目にはっきりと体重過多であるはずの彼なのに、一瞬息こそ荒くなるがその動きは猫のように軽妙でウ-テよりも素早く屋根まで登り切ってしまった。

 肩で息をしてその隣へと追いついた時には、彼はすっかり元にもどって平然としている。

(この人間、ひょっとして化物じゃないかしら)

 そんなことを思っていると、街を見下ろしたグリフが語りだした。

「こうしてみると、ウィンター・エンドも悪くない街だ。そう思えるな。」

 まるでそうは思っていないとでも言うようなことを漏らす。なんだろうか、ひょっとして自分を口説くつもりなのか?

 そんなことを思うと、それもあながち間違ってないような気がしてきた。思えばバボの前にも人間の男達はマッカローニさんを除いて全員が下心というか、親愛の情というか、恋愛感情のようなものを匂わせていた。

 人間は恋愛ばかりする。

 それはウ-テの考える人間を観察して一番に思うことだった。

 だが、どうやら今回はそれは違ったようだ。

 突然、緊張した声でグリフが指を指しながら「あそこだ、見えるか?」といった。それがなにか、目を凝らして見た彼女はさすがに驚いた。

 そこはたった今、でてきたあのバートリー団の住処であったからだ。

「あそこから人が出てくる。動きがあるんだが、わかるか?」

「わかります、見えました。」

 実際、エルフの彼女にとって遠くの物を見るというのはそれほど苦にはならない。またたく間に、暗闇の中で武装したパートリー団の男達が駆け足で出てきたのをしっかりと目に捕えていた。

(追ってくるつもりだ)

 金と女達を取り戻すべく、人数を集めてこちらを逃がさないつもりなのだ。

戦いはまだ終わっていなかったのだ。

 唇を真一文字に結んで緊張している彼女を振りかえると、グリフはなぜか優しく笑いかけてきた。

「緊張することはない。奴等は脅威にはならない。決着はもうついているし、俺達は勝った」

 その言葉にどう反応していいのかウ-テは困った。まだ女達は上層にたどり着いていない、多分このままいけば奴等が追いつくのもそう時間はかからないだろう。それなのにこの余裕はなんなのだ?



「いけません、あいつらは極悪人の盗賊です。あいつらに追いつかれては、女性達は守れません。」

 その言葉を聞くと、なぜだろう。グリフの顔から笑みが消え、無表情になる。

(怒らせてしまったのだろうか?)ちょっとだけそんな心配をしてしまったが、自分の言った事は間違いなどなかったはずだ。このままではまずいし、勝負はまだついていない。

 だが、そんな彼女にグリフは意外な言葉をかけてきた。

「ウ-テ。よく聞くんだ。あいつらを盗賊と言うな。あいつらは盗賊などではない。」

 固い、なにか張り詰めたような声だった。

「盗賊とはな。病める者も、健やかなる者でも、富める者も、貧する者も。誰が相手であれその財貨を、自分の持つ技術を駆使して奪い取っていく。だから盗賊なのだ。」

 そして、ついと指を指して暗闇の販路を登ってくる一団を指すと

「だが、奴等は違う。奴等は断じて盗賊などではない。

 戦士ではないが、戦士の如く暴力をふるい。男や老人を殺し、女子供を犯していく。

 魔法使いではないが、魔法が使えると人の命を弄んでいく。

 盗賊ではないが、もののついでにとその財貨と命を含めて奪っていく。

だから奴等は何者でもない。ただの賊なのだ。」

 その目に浮かぶのは冷厳とした輝きであり、その声の奏でる言葉はウ-テの心に激しくなにかを残していった。

自分に何かを語り聞かそうとしている、この一見してとてもシーフには見えない男になにかを感じていた。

「そして盗賊とは!シーフとはただ闇にまぎれてネズミの如く逃げ回る者達を言うのではない。その手には剣を握り、弓を持ち。必要ならば戦いに躊躇することはない。

 よく見ておけ、これから始まるシーフの戦い方を。」

 そのどこかおごそかな言葉にハッとして、販路をかけてくる賊の一団に再び目を向けた。


 それはまさに闇にまぎれて進む殺意の塊であった。

怒りと、屈辱の先に、報復を誓った悪党達の群れ。彼等の目の先には、すでに安心しきって喜びの声の中にいる者達がいる。再びそれを取り戻すのだ。


 ウ-テは思わず身体を震わせた。それは恐怖からだった。

あの賊の一団の事を素直に恐ろしいと感じたのだ。だが、この人は心配はいらないという。

自分は信じてもいいのだろうか?


 その瞬間は意外に早かった。

中層と下層の境目にある、頭上には少し大きめの渡り廊下がありその影が道に影を作っていた。

そこに彼等が影に入っていく形で進んだその瞬間である。「ちくしょー」「なんだ、こりゃ」などのいくつもの声が上がり、影の中で襲撃者の身に異変が起こったことを知らせた。

 そして、ウ-テには見えた。

 闇の中から姿をあらわしたシーフ達が、ある者は正確無比に矢を次々に放ち、ある者は抜いた剣を何度も相手の腹に突きたてていた。最初に見た、明りの下で立った3人の男女によって引き起こされた暴力の嵐とはまた違う。別の形をした背筋を凍らせる暴力を目に焼き付けることになった。


 そして、影からは誰も姿をあらわすことはなかった。


「終わった、言った通りだったろ。そして見えたか?」

「はい、見ました。」

 ウ-テは人を殺したことがないわけではないが、戦いがどうにも苦手であった。だからあのような暴力には不快感を感じることが多いはずなのに、なぜか今は胸に迫るものがあった。

「おやおや、来るぞ」

 楽しげにそう言うグリフの声で闇の中を抜けて、建物の上へと登ってくる何者かの姿を確認した。

 なかなかの早さで登りきったその人物は、シーフギルド製のレザーアーマーをつけ、フードでかくした顔にすこしばかり炭で汚れを出したマッカローニであった。

「なんだかみんな張り切ってたみたいじゃないか、おっさん。」

 これまた調子を変えてマッカローニに声をかけるグリフにむけて苦笑いをしながら

「お前にあんなに炊きつけられて、みんなよくやってくれたさ。これで満足か?」

「ああ、約束通り。明日からはシーフギルドから上層に人を寄こしてくれ。もしかしたらちょっかいだしてくる奴もいるかもしれんが、それくらいはまかせていいよな?」

「当然だ、ちゃんと約束は守るよ。」

 それを満足そうにうなづきながら「ならば、新しい契約は成立だ。この先も長く続きますように。」そう語るグリフの言葉を聞いてウ-テはまた新たな驚きを感じていた。

 その言葉は商人達が使う決まり文句の一つだったからだ。


「どうだ、いい経験をしただろう?」

 マッカローニはニヤニヤ笑ってウ-テに向かって聞いたきた。

「いや、色々たくさんあって。なんか、とにかく疲れてしまいました。」

 ウ-テはそれだけ言うと、力なく微笑み返した。

すると、彼女の細い背中にいささかつよい張り手をパンとしながら

「おいおい、それじゃ困る。これからシーフギルドの盗賊、ウ-テには色々やってもらわにゃならん事がいっぱいあるからな。」

「え?」

 何を言われたのかわからなかった。

体どころか頭の中まで動きが止ってしまったウ-テを見て助けてやろうとグリフが

「実はね、そういうわけでシーフギルドとはこれからも仲よくやっていきたいわけさ。それで、だれかシーフをうちに貸してくれって言ったんだけど、あのコヨーテが誰も出せる奴がいないって言ってきかないんだとさ。今いる奴でいないなら、新しい奴でも実力があるならそいつでいいだろってことになってね。」

「ウ-テ、今日からお前は正式にシーフギルドの一員だ。と、いってもな。コヨーテは相変わらずうるさいだろうし、お前の活動の場はあんまり変わらんかもしれんが。」

「いえ!嬉しいです、がんばりますっ!」

 複雑な表情で語るマッカローニの顔を見て、感激したウ-テは必死に訴えた。

「そうか、そう思ってもらえるとうれしい。とりあえず、お前に盗賊の装備を後で渡すからギルドに顔を出してくれ。それでこれからはお前がライバーとギルドを結ぶ橋渡し役になる。よろしくたのむぞ。」

「はいっ」

 嬉しかった、まさかこんな事になるとは思って見なかった。

感激している彼女をほほえましそうに見ている2人だったが、グリフの方が「あっ」と声を上げるとちょっと困った顔をして

「あのね、だね。それで、ひとつあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか」

 元気に答えるウ-テにすまなさそうに近づくと

「まぁね。これは略式ってことで。我がライバー家に迎える新たな仲間への礼儀、というか儀式。みたいなものなんだけど………いいかな?」

「え、はい。それはかまいませんけど。」

 戸惑いつつ答えたその時だった。

 満面に笑顔を浮かべると、グリフは素早くウ-テの身体を引き寄せ軽く抱擁すると、右と左の頬に続けてキスをした。

 まさかそんなふしだらな事をされるとは思っていなくて、再び頭の中がショートしてしまったウ-テを前にして。グリフは気取った風に

「これはね、西にあるロゥドロックという国の宮中ではやっているという挨拶なんだそうだ。これを変わりにってことで。」

「えっと、あのー」

「それじゃ、うちへの挨拶はまた改めてってことで。今日明日はギルドも忙しいかもしれないし、うちにはその後で顔を出すだけでいいからさ。」

「はァ」

 どうやら、この人が言うにはいまのも人間の挨拶であるらしかった。ならば自分が言うことはないのだろう、きっと。

「わかるか、あそこに待たせている連中がいる。先に行ってあいつらの所で待っててくれ。」

マッカローニが指差す方向を見て「わかりました」とうなづくとウ-テは静かに歩きだした。



 離れていくエルフの少女の背中を見ながら、なにかおかしそうにマッカローニは口を開いた。

「ロゥドロックの宮中だとぉ?あんな岩だらけの国でそんなしゃれた挨拶があるとは知らなかったよ。」

 それを涼しい顔で受け止めながらグリフは

「自分が大好きなエルフが。人間の国なんて言われても普通はわからないさ。それも流行ならなおさらね。あれはくだらないものだ。でも、なかなか洒落た挨拶だとは思わないか?」

「そいつは賛成だ。」

 たまらず噴き出してしまう。一方で、グリフは顎でさきほど待っている連中がいると指差された方向を指し示すと

「彼らにも見えたよな?」

 と聞いた。

「ああ、ばっちりさ。あいつらここからみてもわかるくらい、全員が目を丸くしていたよ。」

「ウ-テの賭けは俺の勝ちだ、あの連中にちゃんと伝えてくれ。集めた金は彼女に持たせてうちまで届けてくれってね。」

「おいおい、ヒドイ奴だな。お前はそれをどうするつもりだ?」

「そんなことは決まっている。」

 盗賊達に背を向けると、グリフは大分先を歩くフィン達の後ろ姿を見つけた。

「当分はうちからでる彼女の給料になる。誰も文句は言わないさ、彼女ですらね。」

 そう言ってその場を立ち去って行った。



▼▼▼▼▼


とりあえず、私の物語はここでいったんピリオドを打ちたいと思う。

本当を言うと、この事件にはドギツイ顛末がいくつか残っているんだけれどそれをわざわざ私の物語に加える必要はないと思うのだ。

 だから、ここまででいい。

 私はエルフ。

盗賊ギルドのシーフ、エルフのウ-テウィング。

帰る場所が新しく2つも出来た。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ