海上
雲一つない青天。それを鏡のように映した海にポツンと見える小さな点。船。帆はボロボロ、船の手すりは所々無い。
甲板には数人の船乗りが談笑している。
船乗りらは釣竿を海に垂らして魚を待って、誰かが釣り上げるとワッと歓声が上がり、誰かが魚を逃してしまうとあぁ…と落胆の声が鳴る。まるで一人の人間のようだ。
船乗りたちの足元、船内に私はいる。
船内と言っても実際はひどいもので、私は身長が170センチも無いのに完全に立ち上がれず、中腰にならなければならなかった。
船内の後部には二つの部屋があった。一つは食料庫。もう一つは、人間が食料を体内で変化させたものを海へ返す部屋だ。その二部屋の間に、甲板へと続く階段が作られている。
そして大部分を占めるのが私や他の船員と生活している大部屋だ。だがその部屋はだいぶ前から休憩する場所ではなくなり、仕事部屋に近いようになっていた。
理由は側面に空いた複数の穴だ。船が波に大きく動かされるたびに海水が流れ込み船員を濡らし、船を沈めようとしている。
以前までは穴を手すりなどで埋めていたが、これ以上削ると上の船乗りが危ないと判断されて、今は人体で塞いでいる。
幸い、船体に開いた穴の多くは手のひらよりも小さかった。水面から離れた位置にある穴も多く、そこから流れ込む海水は無視できるほど少なかった。でも数日前に出来た穴は違った。
あの日も今日のような晴天で、皆、船内で一生懸命休憩に励んでいた。
その時、ズドンと大きな音と衝撃で船内全員はもちろん、甲板の船乗り達も急いで降りてきて一点を見つめた。そこには足一つ太股まで入ってしまうほどの大きな穴が空いていた。
海水が絶え間なく侵入し、船乗りたちへ這いずるように近づいてくる。最初に叫んだのは穴に一番近い男だった。海水が足元に当たって現実だと理解したのだろう。
「海水だ!」
その言葉を待っていたように船乗りたちは一斉に動き出した。
「上の手すり持って来い」
「服を詰めろ」
「そこをどけ」
その穴を塞ぐことができるほどの材木は無く、服を詰めても船内に吐き出すか船外へ連れていかれるだけだった。船内は桶などの便利な道具は残念ながら宴の際に誰かが海へ捨てたのでもうない。あの時の雰囲気は誰もがそれを行ってしまうほどの楽しさで、船乗りたちは笑うだけだった。
どうしようもないと手や口で海水を運ぼうとした時、海水は止まった。
穴を見ると一人の船乗りが足を穴に入れて塞いでいた。船乗りたちは顔を見合わせるか、中にはその男をただ見る者もいた。
そして数日後に男は死んだ。足だけを残して男を弔ったが一日も経たずに足は小さくなり海へ吸い込まれて、また新しい勇敢な船乗りが足を突っ込んだ。それからその穴に誰かが足を突っ込み、船は今日も浮かんでいる。
人間は規則がない場合、感情だけでうまくやっていけるのだろうか?仲間を救いたい気持ちで行った行為がただの延命で、必ず人は減る。怯えた船乗りは怯えた者同士で仲間を作り、やがて勇敢な行為は強要へと変わるだろう。私はうまくやっていけないと思った。
この船はあの穴が開いた瞬間からもう沈み始めているように感じている。
そして切に思った。この船を出るしかないと。




