雷と確率
「ねぇ、知ってる?」
薄暗いバス停の前で、一人の女が呟いた。
夕立のなか、一組の男女が雨宿りをしていた。
二人の服が薄っすらと濡れているところを見るに、突然降ってきた雨を避けるためにこのバス停に駆け込んできたのだろう。
人通りの少ない道。狭いバス停。ベンチが一つあるだけで、屋根はトタン。どこか古臭い雰囲気を醸し出すこのバス停は、少し都心から離れた郊外に位置している。
「何?」
男は聞き返す。
その間にも雨脚は強くなり、雨粒の音がトタン屋根に大きく響いた。
明るいのか暗いのか。白いのか赤いのか。そのような独特な色をした重い雲からは、ゴロゴロと音が鳴る。
――雷だ。
「人が雷に当たる確率って0.0001パーセントなんだって」
空が眩しく光る。
「お、お前なぁ……今それ言うか?」
「なんで? 雷は今鳴ってるのに」
「今鳴ってるからだよ! 不安になるようなこと言うな」
呆れた声色で喋る男。どこか慣れたような雰囲気からは、女のからかいや悪戯心はいつものことなのだと伝わる。
「家の場合は、雷が落ちる確率0.002パーセントらしい」
「おい、屋根がある場所にいる安心感消えたぞ今」
「わー大変」
どこか楽しそうな女。その姿を見ると、男も怒れないのだった。
「……」
「……」
沈黙が続いた。
お互い、視線は外の雨に向けたまま。けれど嫌な気分はしなかった。
昔からの仲。幼馴染とはこうも居心地の良いものなのだろうか。
男はぼーっとしながらそんなことを考えていた。
「……ねぇ、知ってる?」
「んだよ、またビビらせようとしてるのか?」
「違う違う」
視線を彼女に動かすと、彼女もまた、こちらを見ていた。
「あのね」
女の言葉が良く聞こえる。
「おう」
「初恋が叶う確率は8パーセントなんだって」
柔らかい唇から紡がれたのは、思ってもいない内容だった。
「へー。雷よりは高いけど、それでもやっぱり低いんだな」
漫画とか映画だと、男女どちらが主役でも初恋は叶いがちなのにな、なんて。呑気に考える男。
「でもね」
再び彼女の声で現実に戻る。
「私は……私の場合は、あなた次第で確率、高くなるんだ。不思議よね」
「え……?」
男の理解が追いつく前に、女は立ち上がった。その表情には薄く笑みが浮かんでいる。
屋根の外へ歩き始める彼女を目で追うと、雨が止んでいることに気付いた。
空も徐々に明るくなっているようで、雷の音も聞こえない。
「あ、ちょ、おい!」
自分のことなどお構いなしに歩みを進める彼女。慌ててその後を追った男の身体には、雷に打たれたような衝撃が走っていた――――。




