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SACHIKO

作者: 早乙女 亮
掲載日:2026/05/31

誰の心にも、自分という人間を「定義」してしまった忘れられない誰かがいる。1991年、バブルの熱狂が冷めやらぬまま、しかし確実に何かが終わり始めていたあの頃。江東区の片隅にあるスポーツ用品倉庫で、十九歳の僕が出会ったのは、七歳年上の、あまりに眩しく、あまりに理知的な「大人の女性」だった。

日産マーチの狭い助手席、カーステレオから流れる中森明菜。彼女は僕に女性の悦ばせ方を、そして「愛し方」の模範解答を教え込んだ。

これは、年上の女性に「男」にしてもらった一人の少年の、三十年にわたる魂の軌跡。

僕は今も、彼女が遺した美しい呪縛の中で、彼女の指先をなぞるように生きている。

1991年1月、多摩経済大学経営学部第二部(夜間大学)

に在籍する19歳の松田恵一は、大手スポーツ用品メーカー「ミソノスポーツ」の倉庫でアルバイトを始めた。地元の先輩北村淳一が勤務しているアルバイト先だが、北村が大学を卒業し、就職する為に3月末に退社する為、北村が自分の後釜に恵一を誘ったのだ。当時大学生のアルバイト時給の相場が800円から900円くらい。「ミソノスポーツ」の時給は1.000円.という超破格の条件。恵一がそれまでアルバイトしていたスーパーの品出しが時給800円だったので、その時給につられて地元である江東区大島にある「ミソノスポーツ」の倉庫に勤務することになった。

 倉庫は3階建てで、1階に事務所と荷捌き場、2階、3階は倉庫でジャージや野球道具、サッカー道具、スキー道具などが備蓄されている。

 スタッフは所長の川間、副所長の盛田、恵一と同学年の正社員東山、女性事務員の吉本、配送員の上原、主婦を中心としたパートタイマーの女性が5人、学生アルバイトが北村、5月にドイツに語学留学する小久保篤、口数の少ない城島、そして恵一の4名在籍している。

 パートタイマーの中に一唯一、スレンダーて色っぽい坂口良子に似た雰囲気の若い女性がいて、一際恵一の目を引いた。

 彼女の名前は矢口幸子。恵一より7歳年上の26歳。江東区大島に住む独身女性である。恵一も北村のアシストもあり、すぐにスタッフとも打ち解けた。倉庫には本店のスタッフも多く訪れ、中でも頻度多く倉庫に現れるのが「ミソノスポーツ」の柱でもある野球用具売場のスタッフでショートカットでボーイッシュで明るく弾ける元気満々な女の子がいる。名前は間柴知子。年齢は恵一より1歳年上の20歳。恵一が大学が休みの時に、北村、東山、篤、吉本、幸子、知子、恵一でカラオケやドライブ、飲み会等よく遊びに行った。

 篤は上から目線で後輩を扱い、態度も悪く篤に嫌悪感があった。ある日の昼休みに篤、東山、恵一で食事に行った際、女性経験の話になった。篤は今でいうイケメンであり百戦錬磨感を出し、東山はソープランドで50歳くらいの太った叔母さんと初めて経験したのみ

だという。恵一は女性経験がないことを話すと、篤はバカ笑いし恵一を罵り続けた。業務中にも関わらず「おい童貞くん」「チェリーくん」と罵り続けた。時にはパートの主婦に「旦那さんとご無沙汰な人いたら

松田を男にしてあげてよ。」等バカにし続けた。

恵一は篤に嫌悪感から憎悪感に悪感情が拡大していった。

 3月に入り就職の為退社する北村の送別会が倉庫内で行われた。会費を募り、酒や食材を買い、倉庫内で飲み食いする宴が恒例のようだ。席上で篤は相変わらず恵一の「童貞いじり」を繰り返す。怒りを殺してヤケ喰いをする恵一。篤の隣には常に幸子が座っていた。恵一は異変を感じた。幸子が乱れた篤の髪の毛を堂々と触ったのだ。異性の髪の毛はよほど親しい関係でなければ触れない。恵一は篤と幸子が付き合っていると確信した。恵一の隣にら知子が座り、「松田くん、気にしないでね。小久保くん酷いね。」と励ましてくれた。その後も知子とお互い好きなプロ野球の話で盛り上がり、恵一は知子に惹かれていった。

 4月に入り恵一は大学2年生となった。篤がドイツに旅立つまであと1ヶ月。相変わらず罵り続ける篤を相手にせず、あと1ヶ月の辛抱だと自分に言い聞かせた。

篤の親は貿易会社を経営していて、ゆくゆくはその会社を継ぐ予定だという。いわゆる御曹司である。

 夏の都市対抗野球に向けて、知子が倉庫に来る頻度が増えてきた。作業の合間に恵一は知子に他愛もない話をする。その時間が恵一は楽しくて仕方なかった。

そんなある日、ギラギラした強面の中年男性が倉庫にやってきた。所長や副所長が気を遣っている。その中年は幸子を見るなり「おう!サッちゃん、今日も綺麗だね、ますます坂口良子に似てきたね。いつオレと飲みに行ってくれるんだよ」と堂々とナンパする。「もー、遠藤さん誰にでも声かけてるんでしょ?」と返す幸子。「そんなことないよ、サッちゃん一筋だよオレは。ガハハハハ」暑苦しい笑いをするオヤジ。遠藤?

幸子に「矢口さん、あの人何者ですか?」と恵一は小声で尋ねた。「あの人はね、本店の野球用具売場のマネジャーの遠藤さん。知子ちゃんの上司」と答える幸子。なるほど、所長や副所長が気を遣うのもわかる。

しばらくすると2階から遠藤の怒声が響きわたる。

こっそり2階に上がると遠藤が知子を叱り飛ばしている。この時代、ハラスメントという言葉はない。

「バカ、タコ、辞めちまえ、ボケ、カス」今では考えられない言葉で知子を叱責している。知子が泣いている。知子に業務上何らかの失敗があったようだ。散々知子を叱責すると遠藤は2階を去った。恵一は作業しているフリをして、遠藤が去ると泣いている知子のもとへ向かい「大丈夫?」とハンカチを知子に渡す恵一。ハンカチで目を覆い泣いている知子。「間柴さん、失敗は成功のもとって言うじゃない。間柴さんならすぐに成功するよ。オレなんかいつも失敗だらけ。最後に成功したのがいつか覚えてないくらい。気持ち切り替えて行こう」と知子を諭す恵一。「ありがとう」知子はそう呟き作り笑顔仕事に戻った。恵一は知子を笑顔にしたことで満足していた。

 4月も中旬にさしかかり、大学が休講で恵一が18時まで勤務した日、幸子と帰りが同じタイミングになった時、幸子に誘われて2人で食事をすることになった。食事を済ませ、一旦帰宅。姉から譲り受けた恵一の愛車のレモンイエローの日産マーチで再出動。幸子を助手席に乗せ、ディズニーランドの外周等をドライブし、ディズニーランドの花火が綺麗に見える市川港に車を止めた。徐に「松田くん、知子ちゃんのことすきでしょ?女として」と幸子が恵一に問う。狼狽えながら恵一が「何でわかったんですか?まいったなぁ」と返す。すかさず幸子が「わかりやすいもん、松田くん。彼女かわいいもんね」と微笑みを浮かべて話す。

「じゃあオレも言っちゃおうかな。」開き直ったような口調で語る恵一。「矢口さん、小久保くんと付き合ってますよね?」と逆襲する。狼狽えながら幸子が「何でわかったの?倉庫でも誰にも話してないし、そういう素振りお互いに出してないと思うのに…え、何で」パニックに陥る幸子。「だってわかりやすいもん

矢口さん」と得意気に返す恵一。自然と笑い合う2人。パパーン!20時30分にディズニーランドの花火が上がる。花火が反射する幸子の佇まいがたまらなく美しく恵一はドキドキしていた。

 花火が終わり静寂が訪れる。幸子が切り出す。

「どうしようかな。そのことで悩みがあって。でも打ち明けたら松田くん傷つけちゃう。」恵一は「言ってください。オレで良ければ。なんだかわからないけど傷つかないと思いますよ」と幸子に言う。「そう?

じゃあ言う。知子ちゃんから相談されて。篤のこと好きだって。月末の篤の送別会までに告白するらしいの。応援してって言われて。まさか、私が篤と付き合ってると思ってないでしょ。困ったなぁ。」悩む幸子。恵一はまさかそんな話だとは思ってなかったのでさすがに落胆した。自分の好きな女の子が自分の一番嫌いな奴を好きになる。これ以上ない屈辱だ。「矢口さんは自然体でいいんじゃないですか?恋愛なんてカップルは幸せだろうけど、そのカップルの男も女も片想いされてるケースもある。その人の気持ちを踏みにじらないとカップルは成立しない。幸せの裏には必ず傷つく人がいるもんなんです。だから矢口さんは堂々としてるべきです。」知子が篤に好意を持っていると知り、多少なりとも傷ついてる自分に言い聞かせるように恵一は幸子に語った。「そうだよね、決して悪いことしてるわけじゃないし。バレたらバレたで腹括るか。」と決意を固める幸子。「でも、矢口さん、もうばれてんじゃない?矢口さん、わかりやすいから」と恵一が笑う。「もう、大人をからかわないで。ありがとう。松田くんに話したらだいぶ楽になったよ。」と不安が晴れた幸子だった。

 4月下旬、配送員の上原の行きつけのスナックを貸し切って篤の送別会が行われた。カラオケで幸子は

中森明菜の曲が得意で歌い、恵一は近藤真彦の曲を得意のモノマネを交えて歌った。恵一の愛車の日産マーチのCMにも近藤真彦が出ていて、松田という苗字からも恵一はこの日を境に倉庫では「マッチ」と呼ばれるようになった。篤の隣には幸子が座っている。知子が緊張で顔がこわばっている。「間柴さん、気分でも悪いの?」と内情を知っていながら質問する恵一。少し意地が悪い。「大丈夫だよ。」とカクテルを飲む知子。篤がトイレに立った後を知子が追う。恵一と幸子は目が合った。案外早く席に戻る篤と知子。篤が「ちょっと酔ったから外の風に当たってくる」と店外に出る。「私も酔い覚ましてくるね」と篤の後を追い店を出る知子。恵一は自分も知子の動向が気になるが、幸子の隣に座り他愛もない話をして気を紛らす。5分くらいして篤が店に戻る。「小久保さん、間柴さんはどうしたんですか?」と恵一が聞くと、「知らねーよ。

何か急用とかで帰ったぞ」と幸子の傍に座る篤。

篤のふてぶてしさから見て、知子に何かが起こったに違いないと悟った恵一は、「オレ、帰ります」と宣言し知子を探しに行った。最寄りのJR亀戸駅のあたりまで走り、知子を探したが見つけることができなかった。暦が5月に変わるとすぐに篤は語学留学の為にドイツへ旅立って行った。

 ゴールデンウィーク中に恵一は、きっと篤にフラれて失意のどん底にいるであろう知子に愛を告白し、何とか励ましたいとラブレターを書き、いつでも渡せるように倉庫のロッカーに置いていた。ラブレターと言っても至ってシンプル。

「間柴知子様

 初めて会った時から 一目惚れした

 君が悲しい時、オレが笑わせて笑顔にするから。

 付き合って欲しい。よろしくお願いします。

                 松田 恵一」

と言うラブレター。ゴールデンウィークが終わり一週間が経ち、知子が倉庫に現れた。いつものように明るく元気な知子。違和感は一つだけ。幸子と話もしなければ目も合わせない。きっと篤と幸子が付き合ってたことを知ったのだろうと恵一は想像した。恵一はチャンスを見計らって知子に接近、「間柴さん、これオレの気持ち。読んで返事くれる?急いでないから。でも必ず返事は欲しい」と若干早口で話した。「えーっ?

マッチからラブレターかしら?嬉しいな。わかったよ、後でじっくり読むね。ありがとう」と返す知子。

知子も恵一の気持ちには当然勘付いていた。

 一週間後、知子が倉庫に来た時に恵一に手紙を渡した。恵一はトイレの個室で手紙を読んだ。

「マッチへ

 ラブレターくれてありがとう。とても嬉しかった。

 だけどゴメンなさい。私には好きな人がいます。

 マッチを友達以上の感情で見ることはできない。

 ただわがままを許してくれるなら、いつまでも

 友達でいてください

                  間柴知子 」

ある程度想定内であったが完璧にフラれた恵一。

悔しさは微塵もないくらい、むしろ気持ちいいくらいのフラれっぷりに恵一は意外とあっさりしていた。

読み終えてトイレを出て、知子に会った際、恵一は照れ隠しなのか敬礼をして笑顔で去って行った。

 2日後、大学が休講で夜も空いてることから、夕方まで仕事をし、夜、幸子と亀戸で食事することになった。幸子に知子に告白してあっさりフラれた話をした恵一。「立派だよ、男らしいよ」と必死に励ましてくれる幸子に恵一は救われていた。幸子は幸子で、篤が旅立つ時、成田空港まで見送りに行こうと思っていたが篤に「家族と仲間が来るから」と固く断られたという。「恋人なら家族や仲間に紹介してくれてもいいのに…やっぱり身体目的の遊びの年上の女が出しゃばるなってことなんだよ」と落ち込む幸子。更にやはり篤の送別会の途中に知子が篤に告白していた。篤はあっさり知子にタイプじゃないとハッキリ伝えた上で幸子と付き合ってるの知らないのか?と知子に伝えたという。知子は篤にフラれただけでなく、幸子に裏切られたと二重のショックでそのまま去っていってしまったという。後日、幸子は知子に会い、私を応援するふりをして裏で私を嘲笑っていたのか?と責められ、知子に絶交を宣告されたという。恵一は「奴(篤)は何で人を傷つけることをためらいもなく言うんだろ?飲もう!徹底的に!」と未成年の恵一が幸子を思いやる。その後カラオケボックスに行き2人で歌いまくった。亀戸から幸子の家までは東武亀戸線の線路沿いに歩くのが近道。線路脇にラブホテルが1件ある。「矢口さん、入る?」と恵一が冗談で言うと、幸子と「いかねーわ」酔った2人はかなりの大声で話す。ホテル玄関前を千鳥足で歩く恵一。するとラブホテルから1組のカップルが出てきた。「マッチ、こっちおいで」と焦った幸子が車道側に恵一の手を引く。出てきたカップルの女性の方と目が合った恵一。酔いが一気に覚めた。知子なのだ。幸子も思わず絶句。肝心な男性の方を2人が見ると野球用具売場のマネジャーの遠藤なのだ。もちろん遠藤には妻子がいる。ラブホテルの前で2組の男女が立ち止まり絶句している。「よう、サッちゃん、マズいところ見られちゃったな。サッちゃんもこの若造とこれからホテルか?」と1人だけ冷静に振る舞う遠藤。「バカなこと言わないでください。帰り道に通っただけですよ。」気丈に反論する幸子。知子を見つめる恵一と、恵一や幸子と目を逸らす知子。「そんな怒るなよ。怒ったサッちゃんも綺麗だね。知子、終電なくなるぞ。それじゃ諸君、よい週末を!」とまだ水曜日なのにふざけた挨拶で去る遠藤と知子。

反対に恵一と幸子は黙ってしばらくその場を動けなかった。カンカンカンカン、東武亀戸線の踏切の警報音だけが響き渡っている。

 やっと歩き出した恵一と幸子。「わからん、さっぱりわからん。何で遠藤?好きな人って小久保じゃないのかよ。遠藤って…不倫じゃん」納得のいかない恵一。「遠藤さん、いつも冗談で私に言い寄ってくるけど、まさかの相手が知子ちゃんって…あるんだね、こんなこと。大丈夫?マッチ?」と恵一と気遣う幸子。

「よりによって負けた相手が妻子持ちかよ。しかも、

いつも間柴さんのことコテンパンにやっつけてた遠藤って。ギラギラしてスケベそうで、(遠藤の)どこがいいんだよ。あんなオヤジに負けたって悔やんでも悔やみきれないよ。」と荒れる恵一。寄り添う幸子。結局、幸子の家まで幸子を送り、自宅へ帰る恵一。肩を落として帰る恵一の後姿を見て、幸子はあんなにもストレートに気持ちを表現して、喜怒哀楽もハッキリしてる恵一を愛おしく思った。篤にはない姿。篤は常にカッコよくカッコつけているが本心が見えない。恵一のストレートな行動は幸子の母性に火をつけた。

 6月に入り梅雨を迎える。5月の下旬くらいから大学休講の日は夕方まで勤務し、勤務後幸子とドライブしたり食事したり、カラオケしたりするのが恵一のルーティンになっていた。

 都心の夜景を堪能しにレモンイエローのマーチで都心に繰り出す恵一と幸子。この日は雨が強く、雷を伴い激しく降っていた。マーチはお台場海浜公園に駐車していた。レインボーブリッジが建設中で近年のようなお台場とは程遠い人工の海浜公園しかないこの頃のお台場。雨足は強くリアルにザーザーという雨音をたてて降り続く。道中も他愛のない話をしていた2人。

カーステレオから流れる中森明菜のベストアルバムを聴きながら、時に2人で歌ったりもしてた。

「雨、ひどいね、明日止むかな?」幸子がつぶやく。

「どうだろ?止むといいよね。」と恵一が返す。突然恵一が「矢口さん、小久保さんが旅立って1ヶ月経つけれど、淋しくないんですか?」と幸子に問う。幸子も

首をかしげながら、「んー、淋しいような淋しくないような…でも学校休みの時、今日みたいにマッチが一緒にいてくれるから結構楽しいよ。」と返す。「ホントに?オレも矢口さんといると楽しいよ。」と恵一が返す。2人で笑い合う。恵一が幸子に尋ねる。「矢口さん、キスしようか?」幸子は耳を疑った。2人に少しの沈黙が訪れる。ザーザーと雨音だけが響き渡る。

幸子は何かを覚悟したような表情で「いいよ。」と答えると恵一の首に手を回して顔を近づけてくる。「マッチ、誰かとキスしたことあるの?」と聞く幸子。

「ないよ。」と心臓がバクバクしながら答える恵一。

するとニヤッと笑みを浮かべ目を閉じ唇を重ねてくる幸子。まるで2羽の小鳥がクチバシを突き合うようなキスを数回した後、幸子が恵一の耳元で囁く。「次は深いやつ。私の唇がマッチの唇に触れたら、舌を出して私の唇を舐めてみて。私の舌とマッチの舌が触れ合ったら絡ませるの。行くよ。」リードする幸子に対し、恵一は緊張と興奮で震えていた。互いに舌を絡ませるディープなキス。何回も何回も離れてはキスを交わす2人。何十分、何回くらいキスを交わしたのかもわからない2人。やかて恵一は自然に幸子の胸に手を差し伸ばす。すると幸子は恵一の手をブロックし「調

子に乗るな!今日はここまで」と恵一を叱った後、再び唇を重ねてきた。帰り道、幸子の自宅まで送り、車の降りぎわに「今日から彼氏と彼女だからね。矢口さんじゃなくて2人の時は幸子って呼んで。私もマッチや松田くんじゃなくて2人の時は恵一くんって呼ぶからね」と言って恵一の頬にキスして車を降りた。それから2人は決まって毎週日曜日にデートして、恵一の大学が休講の時は平日も予定のない限りデートを重ねた。そしてデートの度に唇を重ねた。恵一もキスのスキルを上げ、緩急を使ったりして、震えていた恵一の面影はなく、すっかりと幸子は魅了されていた。季節は夏を迎えていた。

9月1日は恵一の20歳の誕生日だ。毎週日曜日はほぼデートしていたが、まだ恵一が大学の夏休みであることもあり、敢えて当日は会わず、翌日の9月2日月曜日に2人で仕事を休み、東京ディズニーランドに向かった。学生が夏休みを終えたこともあり、アトラクションは空いていて普段なら混雑で2時間待ちが当たり前のアトラクションにも何度も乗れたり、一日中楽しんだ。閉園の混雑を避けて、少し早めに東京ディズニーランドを出た2人は、幸子の奢りで浦安から近い葛西のファミレスで食事をして、デザートに2人でケーキを食べて恵一の誕生日を祝った。ファミレスの駐車場でマーチに乗り込む2人。すると幸子が「誕生日プレゼント用意してるの。クイズして当たったらあげるよ。」と恵一に言う。恵一は「えっ?今からどこかに取りに行くの?」と幸子に尋ねると。「ここにあるから。」という幸子。幸子の持っているルイヴィトンのハンドバッグに入るもの…なんだろ?恵一は考えた。幸子は「制限時間はあと10秒です。」と恵一にプレッシャーをかける。「はい」と挙手する恵一は幸子に「ヒント!ヒントをください。」とリクエストする。「恵一くんが一番欲しいものだよ、きっと」と幸子が答える。そしてカウントダウンが始まった?10.9と幸子が数え8を数える前に恵一は再び挙手してこう叫んだ。「はい、幸子が欲しい、幸子のすべてが見たい!」と。沈黙があった。幸子も急に真顔になった。スベッたと恵一は発言を後悔した。瞬間、幸子が恵一の頬にキスした。

「正解!プレゼントは私。大事にしてね。プレゼント渡せる場所に行こう。」と笑顔で答える幸子。恵一は葛西にあるラブホテルにマーチを走らせた。ホテルに着くと幸子は手慣れた動作で部屋を選び、カギを受け取った。恵一は人生初のラブホテルに緊張していた。

部屋に着くとベッドに横になる幸子。恵一はお湯を沸かしアメニティのお茶を飲んで緊張をほぐそうとしていた。「先にシャワー浴びるね」と幸子がバスルームに入る。恵一は初めて入ったラブホテルの室内を物色していた。やがて素肌にタオルを巻いて幸子がバスルームから出てきた。恵一は幸子をタオル姿の幸子を見て緊張が更に高まった。恵一はバスルームでシャワーを浴びる。緊張してるわりには、分身は真上を向いている。恵一は下半身だけタオルを巻いた状態で部屋に戻る。照明は少し落とし目になっていた。幸子が調整したのだろう。幸子はベッドに座りテレビを見ていた。大人の女の余裕が感じられた。恵一に気づき、幸子はテレビを消して立ち上がって、恵一の元へ。

向き合う2人。すると幸子が笑う。「えっ?何で笑うの?」と恵一が幸子に尋ねると、「だって恵一くんの下、すごい盛り上がってるんだもん。」と幸子は微笑む。「幸子のせいでこうなっちゃったんだよ。笑うならタオルいらない」タオルを外す恵一。「私のタオルも外して」と恵一に命じる幸子。タオルを外し一糸纏わぬ幸子を見た恵一。思わず「綺麗」と呟いた。「恥ずかしいから、そんなにジロジロ見ないでよ、」といい恵一に抱きつく幸子。全裸のまま抱き合いディープキスを何度も交わす。しばらくすると幸子がベッドに入り「恵一くん、おいで」と恵一を招く。恵一がベッドに入り重なり合う2人。キスを何度も交わす2人。

未経験の恵一はアダルトビデオはよく見ていたので男優のように幸子の胸を触り始めた。幸子は「恵一くん焦らないで。力入りすぎ。女の身体はデリケートだから。優しく扱って。」と恵一に言う。恵一はうなずき

再びキスを交わす。「私の言った通り動くのよ。」

キスの次は耳にキスして。左右の順番で、時折熱い息を吹きかけて」というとその通りに動く恵一。幸子は喘ぎながら「そう、優しく優しくね。上手よ」と恵一を褒める。反対の耳も同じように攻めた後、「次は首筋よ。軽く唇を這わせる程度でキスするのよ。」言われた通り首筋に唇を這わせる。幸子が喘ぐ。恵一が首筋を攻めていると、一回唇にキスした後、「次は胸。

胸は下から軽く持ち上げるように揉んで。揉みながら乳首を舌で転がしたり、唇で吸うの。優しく優しくよ。」と恵一は幸子に言われた通り胸を攻める。幸子の胸はスレンダー体系もあり、あまり大きい方ではない。しかしながら、その柔らかさと反比例に硬くなっている乳首の感触を恵一は必死に味わっていた。幸子の喘ぐ声が大きくなってきた。しばらく胸を攻め続けると幸子が下から、恵一の分身を触り始めた。分身を女性に初めて触られ、上下に摩る。恵一も思わず喘ぎ声が漏れる。「恵一くんのって大きいしカチカチに硬い。」と言ってリズミカルに恵一の分身を触る幸子。興奮する恵一。「次は女の部分。触ってみて。もう濡れてるでしょ?」という幸子。恵一が花園を触ると確かに濡れている?「割れてる上の方にボタンがあるから、それを中指の腹で上下左右に擦るの。力強くグリグリしないこと。触っているかいないかくらいの力加減で擦るの。そうすると私の中から液体がもっと出てくるから、その液体を使って中指をすべらせたり、舌でその液体を啜って。ボタンを舌で上下左右に転がしてもいいから。」恵一は顔を幸子の下腹部に下げ、花園にたどり着いた。恵一はボタンの位置を確認した。

幸子の言う通りに、中指の腹で触っているかいないかくらいの力加減で上下左右に擦った。すると幸子が体を痙攣させ大きな声で喘ぐ。ビックリして手を止めてしまった恵一に幸子は「やめないで…続けて…」と吐息交じりで言う。恵一は無我夢中で続ける。幸子は痙攣し、幸子の中から液体が溢れてきた。その液体で更に中指の滑りをよくすると幸子は大きく痙攣する。その液体を恵一は舌を幸子の花園に這わせて啜り、やがてボタンを舌で転がし、花園全体を丁寧に舐め続けた。すると幸子が「イク イク」と叫びはじめてしばらく身体を痙攣させ続けた。恵一はぐったりした幸子の元に戻り、自分の胸を枕にして幸子を抱き寄せた。

「恵一くんにイカされちゃった。教えた以上に出来過ぎね。エッチの天才だね。初めてと思えないわ。」と語る幸子。一休みした後…幸子は恵一の下半身に顔の位置をずらし、そそり立った恵一の分身を手でしごき始めた。「今度は私の番ね。」と言って、先程自分が恵一にされた行為を幸子がしてきた。恵一の唇、耳、首筋、乳首に舌を這わせて、ついには恵一の分身に舌を絡ませた。「ああ…」恵一は思わず声を漏らす。

そして幸子は恵一の分身を口一杯に頬張り舐め上げる。恵一は生まれて初めての快感に、さらに分身を膨らませる。しばらく続けた後、「もう我慢できない。入れて。」と再び下になる幸子。恵一の分身に避妊具を装着させ、自らの手で花園に導く。導かれるままに恵一は幸子の中に入った。「恵一くん、エッチなビデオみたいにパンパン激しくしないでいいからね。

ああいうの女は全然気持ちよくないからね。ゆっくり動かして深く入れるんだよ。」と幸子は恵一にレクチャーする。恵一は言われるがままに腰を動かしていく。これまた人生初の快感が恵一に押し寄せる。

自然に恵一の出し入れのリズムが早くなる。自分の腰の動きに合わせて幸子が喘ぐ。自分の腰の動きに合わせて幸子の胸が揺れる。すると先程と同様に幸子が「イク イク 恵一くんイク」と叫ぶ。幸子の身体が痙攣を繰り返すうちに、恵一も下半身に電流のようなものが走り、恵一も避妊具越しに射精した。射精後もしばらく2人は合体したまま、キスをかわして交わしていた。お互いの呼吸が整うと、再び恵一は自分の胸を枕に幸子を抱き寄せた。幸子が恵一に目を輝かせて言う。「恵一くんの初めていただいちゃった。ごちそうさまでした。私の誕生日プレゼント。キスもセックスも恵一くんの初めては私。初めての相手は世界でたった1人だもんね。恵一くんの歴史に残るね。嬉しいの。」恵一は再び幸子とキスをし、幸子は自分が上になり恵一に言う。「もう一回しよう。来週、今日レクチャーしたこと、教えなしでできるからテストするからね。不合格だったら、もうしないよ。」戸惑う恵一に笑顔を見せると再び恵一の下半身に顔を埋めた。恵一は20歳の誕生日に男になった。皮肉にも自分が童貞であることを散々バカにしてきた篤の彼女と交わり男になった。恵一の中に篤の彼女の寝取ってやったという復讐を成し遂げた優越感もこの時生まれていた。

 翌日、昨日の濃密な夜を全く感じさせず倉庫で普通に振る舞う幸子。反面かなりの同様が見られる恵一。幸子が洋服を着ているように見えない錯覚に陥いる。

幸子とは日曜日に会う約束をしている。恵一は邪念を吹き払おうと積極的に力仕事に立候補しガムシャラに働いた。月に1回のペースで篤から幸子宛にドイツからエアメールが届く。内容は主に篤のドイツでの活動報告のようなもの。空港への見送りや家族への紹介を篤に拒絶されてから、どこか篤への気持ちが冷めていた。恵一と関係を持ってから、初めて届いたエアメール。封を開ける前にエアメールを手にした時に今までになかった罪の意識を幸子は感じていた。返事を書こうとするとペンが止まり、書き始めると無駄に長くなる。身から出た錆だが、幸子なりにストレスを感じていた。そして日曜日、恵一の試験の日だ。日中はドライブを楽しみ、夕方、京葉道路市川インター付近のラブホテルに入った。先週のおさらいだ。恵一は臆することなく幸子を悦ばせた。しかも教わった技術に自身でアレンジを加えてきた。幸子は4度絶頂を迎え、恵一は2発の愛の結晶を放った。恵一の胸を枕にし恵一に抱き寄せられながらベッドで休む2人。幸子が「恵一くん、根がエッチなんだね。教えてないことまで仕掛けてきた。言うことありません、合格です。」と笑みを浮かべて語る。恵一は「よっしゃー」ガッツポーズをして返す。幸子は恵一の胸に指を這わせながら「彼からエアメールが来た。急に罪の意識が芽生えて、返事を書けていない。恵一くんは私とこうなって彼に罪の意識ある?」と尋ねた。恵一は即答した。「ないね。幸子には悪いけど、アイツ嫌いだし。散々人のことを童貞、童貞とバカにしてきた。その童貞をまさか自分の彼女が男にするなんて夢にも思ってないだろう。異国の地で幸子の裸思い出してオナニーしてんじゃねーの。笑っちゃうよ。」と鼻で笑いながら語る恵一。幸子な初めて恵一の闇を見た気がした。「そんな風に言わないであげて。」という幸子。恵一は続ける

「やっぱり遠距離恋愛の恋人同士なんだねぇ。アイツ散々言ってたよ。自分の彼女とはセックスの相性バッチリで最低でも1度に2回するとか、自分のアソコを信じられない舌使いで舐めるとか。相手の女性が誰かわからないと思ってアイツ豪語してたけど、オレは倉庫に入って比較的早く相手が誰かわかったけどね。

味わってみてこのことか!とか思っちゃったよ。」と

言う恵一。オレもアイツに言おうかな、幸子をいただきごちそうさまでしたって。」とさらに高笑いしながら話す恵一。幸子の中の恵一像が少し崩れた。ただの純朴な年下の男の子ではないと幸子は悟った。もしかすると篤への復讐心で自分に近づいてきたのか?幸子の心に急激に疑問が宿る。不安さが顔に残る幸子を急に抱きしめる恵一。「ちょっと言ってみただけだよ。気にしないで。幸子は悪くない。幸子を悪い女にしちゃったのはオレのせいだから。罪の意識は捨てて。オレを愛して。愛してるよ幸子。」と言ってキスを交わし、再び交わる2人。幸子もまるで依存するかのように恵一を受け入れた。

 秋が過ぎ、冬を迎えた恵一と幸子は順調に愛を育んでいた。12月に入るとクリスマスはもちろんのこと、

12月27日は幸子の誕生日もやってくる。幸子は恵一を気遣い、お金がかかるからとクリスマスは家族と過ごし、誕生日は2人で過ごしたいと恵一にリクエストしていた。恵一がクリスマスプレゼントに何が欲しい?と聞くと要らないと答える幸子。恵一がいればそれでいいと答えた。誕生日当日、仕事を終えると幸子のリクエストで近所のお好み焼屋に行った。意外に料理に自信のあった恵一は、幸子にもんじゃやお好み焼を振る舞う。無駄のない恵一の手捌きは幸子に好感を与えた。シメの焼そばもヘラを巧みに使い焼き上げた。

喫茶店で2人でケーキを食べてた。恵一がカバンからB4サイズくらいの袋を出した。「はい、誕生日プレゼント」と恵一が渡した袋。中を開けると幸子の似顔絵が入っている。元々絵心のある恵一はイラスト調だがよく幸子の特徴を捉えている。「えーっ?これ恵一くんが書いたの?」と幸子が聞く。「そうだよ。一生懸命書いてみた。幸子がオレの初めての女性になってくれた。世界でたった1人の存在になってくれたから、

オレも何か世界で一つしかない物をプレゼントできればと思ってね。金もあまりないし、貧乏くさくてゴメンね。」とさらりという恵一。幸子は嬉しかった。

恵一の思わぬ行動に完全に母性をくすぐられていた。

幸子はこれまての人生、その美貌から交際した男性からはブランド品や貴金属等それなりに高いものをプレゼントされた経験があった。恵一の直筆の絵というのは、間違いなく男性からのプレゼントの中のでは最安値である。にも関わらず幸子はとても嬉しかった。

 幸子は24時という門限があった。これまでのラブタイムも泊まりはなかった。大晦日は特別ということで

千葉県の天津小湊町(現:鴨川市)にある清澄寺に初日の出を見に行った。23:55に幸子をマーチで迎えに行き、2人きりでカウントダウン。時間が山ほどあるので一般道で房総へ向かった。休み休み向かったので

清澄寺には4時前に着いた。初日の出の絶景ポイントでスタンバイする2人。冬の明け方、冷風が寒いを通り越して痛く感じる。6時半位から空がオレンジに燃え、7時前にご来光。海から日が昇る絶景なので、なるほど自称日本一の初日の出かもしれない。人混みに紛れて軽くキスを交わす2人。幸子は初日の出を初めて生で見た。帰りにファミレスで朝食を摂り、2人ともコーンポタージュを頼んだ。身体がかなり冷えたので身体を温めた。正月は家族で過ごそうとまっすぐお互い帰宅した。

 冬から春にかけて、順調に愛を育む恵一と幸子。

4月になり恵一は大学3年生になった。就職を視野に入れて活動する時期だが、元々夜学で勤労学生の恵一は日々の生活で満足していた。バブル経済が弾け、就職氷河期のこの時期、恵一の中にはこのまま「ミソノスポーツ」に入り込めないかな…と密かな野心が蠢いていた。そんなある日、久々に倉庫に遠藤が現れた。

相変わらずギラギラして目障りなヤツだと知子との事を知ってから、恵一は一方的に嫌悪感を募らせていた。遠藤は幸子を見つけると「よー、サッちゃん、会いたかったぜ。久しぶりに見てもいい女だなぁ」と軽口を叩く。幸子は笑顔で「ありがとうございます。ホントお久しぶりですね。」と返し談笑している。

 昼休憩が近づいてくると遠藤は恵一に「おい、若造。松田って言ったっけ?昼飯付き合えよ。もちろんごちそうするよ。」と声をかけてきた。恵一は迷った。遠藤のことだ、何か魂胆があるに違いない。反面、ごちそうしてくれるならいいかという勤労学生らしい気持ちもあった。倉庫近くのファミレスに行った。好きな物を食べろと偉そうに遠藤に言われたので

ランチの中で一番金額の高いカットステーキランチをライス大盛で頼んだ。遠藤も同じ物を頼んだ。料理が来るまでの間、遠藤が「松田よー、大学何年だ?」と尋ねた。「3年になりました。」と答える恵一。するとタバコを吹かしながら、「うちの会社来るか?口利いてやってもいいぞ。」と恵一を誘う。痛いところを突くヤツだ。「何でオレに声掛けるんですか?オレの何を知ってるんですか?バイト風情が生意気ですが、

あなたの世話にはなりたくないですね。」恵一はキッパリ断ったが、内心は複雑だった?「若造、いきがるなよ。冷静に考えろ。今は就職氷河期だ。いきがってる場合じゃねーだろ?」と返す遠藤。「ひょっとして間柴さんとの関係知ってるから口止めの褒章ですか?

大丈夫ですよ。幸子としか喋りませんから。」と感情を露わに返す恵一。「おい、お前、今何て言った?」

と驚きながら尋ねる遠藤。「えっ?なんか変なこと言いましたか?」遠藤の指摘がピンと来ない恵一。「ははぁー、そういうことになってたのか…なるほどね。」とタバコの火を消す遠藤。恵一は遠藤が不気味である。「お前、今、幸子って言ったよな?自然に。

サッちゃんとデキてやがんな、小僧。やっぱりサッちゃんはいいだろ?」いやらしい笑みを浮かべる遠藤。

しまった!ついうっかり幸子と呼び捨てにしてしまった。動揺する恵一。そこに料理が運ばれてきた。「食えよ」と恵一に勧める遠藤。食事中無言の2人。完食すると食後に遠藤がコーヒーを2つ頼んだ。タバコに火をつけ吸う遠藤。対抗心からタバコに火をつけ吸う恵一。「口止めなんてしねーわ、小僧。言いふらしたければ言いふらせ。」と笑みを浮かべ強気な遠藤。

「言いふらさないですよ。遠藤さんはどうでもいいですが、間柴さんの足を引っ張るマネはしたくないので。」と答える恵一。「若造、たいしたもんだな。

立場もわきまえず偉そうにハッキリと物申すか。

腹立つの通り越して、魅力すら感じるな。オレの周りはイエスマンばっかりでつまらないからな。」と意外な返答をする遠藤。「ありがとうございます。素直に褒め言葉と受け取ります。」と礼を言う恵一。「お前、いい面構えしてるな。真剣にウチに就職しないか?」と再度恵一を誘う遠藤。「ありがとうございます。せっかくのお話ですが、ご辞退させていただきます。やはり、あなたの世話にはなりたくない。」と言い放つ恵一。内心はもったいないとも思うが、一応恋敵。そこは譲れない。「そうか。仕方ねえな。まぁせいぜいがんばれや、若造。あっ!一つだけ男の先輩として言わせてもらう。お前、サッちゃんどうする気だ?若い頃は男は年上の女に憧れるもんだ。だが、所詮は遊びや身体目的だ。一生一緒にいる気がないなら引き際考えねーとな。年上の女は重いぞ。夢を見させすぎるのは悪だと思うぜ。」と語る遠藤。「ご忠告ありがとうございます。ごちそうさまでした。」と席を立つ恵一。内心は痛かった。確かに先のことは考えていなかった。今が楽しいだけではすまないこともわかっていた。遠藤の洞察力に大人を感じる恵一だった。

 その後も恵一と幸子の恋仲は順調だった。一度でいいから大学に入ってみたいという幸子の願いを恵一は叶える。夜学は様々な年齢層の学生がいる。恵一の仲間も年齢はみな2歳上。恵一が現役で夜学に行くのが珍しいくらい。恵一の仲間には日中サラリーマンをしている仲間もいて、スーツにネクタイという出立ちで通学している。恵一は幸子を大学に連れて行き、仲間にも「彼女」として紹介していた。幸子は篤には周囲に隠したい年上の女と扱われたが、堂々と「彼女」ちして大学の友人はもちろん、地元の友人にも「彼女」として紹介する飾らない恵一への愛情を深めていった。夏休みに恵一が大学の友人と岐阜へ旅行に行く際も、出発の直前まで幸子と交わり、旅の解放感で浮気しないようにと恵一の身体中にキスマークをつける幸子。恵一もそんな幸子が可愛いと思うようになった。

 夏が過ぎ恵一の誕生日を迎えた。誕生日を避けて9月5日、6日の土日にかけて1泊2日で南房総に初めての2人だけの旅行へ行った。初日はマザー牧場で動物のショーを見たり、ジンギスカンを食べて楽しんだ。

また、プチトマト狩りや椎茸狩りを楽しんだ。宿泊場所は館山にあるコテージ。コテージを予約したので

肉や野菜、パスタなどの食材を買い込み備えつけの

ホットプレートでプチバーベキューを楽しんだ。

また、恵一はプチトマトを使いトマトソースを作りパスタを作って幸子に振舞った。2人はテンションが上がり酒量も増えてうたた寝してしまった。夜明け前に幸子が目覚める。バスルームに湯を溜め水を飲む。

起こしてもなかなか起きない恵一。恵一の下半身は朝勃ちのような状態で勃起していた。幸子のいたずら心が動いた。恵一の下半身を履いてる短パンの上から摩る。そのうち短パンとトランクスの隙間に手を入れて

恵一の分身を摩りしごく。恵一は起きない。幸子の手の動きに比例して恵一の分身は更に硬く大きくなっていく。さらに幸子のいたずら心が動く。恵一の履いている短パンとトランクスを脱がし、下半身丸出しの状態にする幸子。まるで赤ちゃんのオムツを替える母親のようだ。それでも起きない恵一。まっすぐ上を向いている恵一の分身に顔を近づける幸子。分身を上下にしごきながら舌を這わせる。少ししてシャツを脱ぎ、下着姿になり髪の毛をゴムで束ねる幸子。再び恵一のまっすぐ上を向いている分身に顔を近づけると、恵一の分身を頬張り口で奉仕する幸子。そこまでされても恵一は起きない。幸子の口での奉仕が加速してきたその時恵一は目覚めた。現実を知るのに少し間があったがすぐに快感が体を走る。「起きた?おはよう。」と微笑む幸子。恵一も「おはよう。どうしたの?」と幸子に尋ねる。「初めて2人で夜を過ごすのにお互い飲み過ぎて寝ちゃったね。目が覚めてお風呂溜めるの待ってたら退屈しちゃって。寝ている恵一くん見てたら下が大きくなってたから、ちょっかい出したくなっちゃって。」と微笑む幸子。「もう少しでお風呂溜まるから一緒に入ろう。それまでね…」と言いながら再び恵一の分身を頬張り、口での奉仕を再開する幸子。

やがて恵一が絶頂を迎え、「幸子、出ちゃうよ」と恵一が囁くと「このまま出して」と囁き更に激しい口での奉仕を続ける幸子。恵一は幸子の口内に白濁を放出した。ティッシュに白濁を吐き出して恵一に見せる幸子。「いっぱい出たね。エッチなんだから。」と微笑む幸子。その後、初めて2人で入浴し、互いの身体を洗い合ったりして楽しんだ。恵一はバスルームで幸子を求めるが、幸子に「お風呂出てから」と拒まれ我慢する恵一。風呂から出てベッドで幸子を待つ恵一。幸子が何やら慌てている。「どうしたの?」と恵一が尋ねると「忘れちゃった、ゴム。恵一くん、生でして

外に出せる?」と聞く幸子。幸子が調達してくるはずだった避妊具を自宅に忘れてきたという。恵一は「大丈夫」と力強く返事をして、幸子をお姫様抱っこをしてベッドに寝かせ身体を重ねた。フィニッシュも失敗するこてなく幸子の腹上に射精した。初めての避妊具なしでの行為に興奮したのか、いつもよりも早くフィニッシュを迎えた。2人はもう一眠りしたあと再び交わった。2日目はフラワーラインを経由しては鴨川シーワールドでシャチやイルカ、アシカのショーを見た。南房総を満喫した2人で過ごす2回目の恵一の誕生日だった。

 12月、今度は幸子の誕生日。幸子にあらかじめ欲しい物を聞く恵一。幸子は2人の愛の証に指輪をリクエスト。12月27日の幸子の誕生日は日曜日だったので

2人でアメ横に指輪を買いに行った。何件か宝石店を周り、最終的には12月の誕生石のトルコ石の指輪を恵一は幸子にプレゼントした。店から指輪を付けて子供のようにはしゃぐ幸子を恵一は素直にかわいいと思った。この頃になるとどちらが7歳上なのかわからないくらい幸子は女の子になり、恵一は男になっていった。

 年が明け、恵一と幸子は順風満帆の日々を過ごしていた。恵一は大学4年生になり、就職活動に勤しむ日々であり、幸子は篤の帰国が近づき不安な気持ちでいた。4月に入った日曜日、いつものようにデートして2人で愛を確かめあった後、恵一の腕枕で横たわる幸子が恵一に「篤がGWに留学を終え帰国するの。ゴメン、恵一くん。篤に会わなければいけない。何度もドイツからエアメール来て、早く会いたいって。私、どうしよう」とつぶやいた。起き上がりタバコに火をつける恵一。「もう、そんな時か。2人一緒にいるのが当たり前過ぎて忘れてたよ。どうしようって…オレたちのこと篤に言えるの?篤に会うだけで済む?向こうは相当溜まってるだろうに。ま、普通に考えたらするわな。仕方ないんじゃね、オレ浮気相手だもんね。」

とタバコの煙を吐きながら話す恵一。「そんな浮気相手だなんて…言わないでよ。この日常がなくなるのが嫌なの。怖いの。」と悲しげに言う幸子。「仕方ないじゃん。篤と幸子は別れたわけじゃないんだし、遠距離恋愛の隙間に勝手にオレが入っただけじゃん。だって篤に会わないって誓えるの?できないでしょ?幸子と付き合うのは篤が帰国するまでって自分で決めてたし、オレは覚悟してたから。就活も忙しいし、今までみたいに会える時間も少なくなる。淋しくないかと言えば淋しいよ。でも浮気相手には浮気相手の美学もあるんだよ。今日で終わりにしよう。」と淡々と語る恵一。「大人なんだね。何でそんなにあっさり言えるの?」と必死に恵一に訴える幸子。「だって篤に会わないっていう選択肢ないんでしょ?浮気相手が何言ってんだと思うかもしれないが、オレは二股は嫌だ。

篤などいなくても平気と幸子が言わせられないのは、篤にオレが負けたって証拠じゃない?所詮、浮気相手なんだってば、オレは。幸子がカスタマイズした歌って踊れて車も運転できる大人のオモチャなんだよ、オレは。本物が帰ってくるんだから、大人のオモチャなんかいらないだろ?」と冷静に答える恵一。その余裕がたまらなく許せない幸子。「わかった。今日でやめよう逢うの。私が大人にならなきゃいけないんだね。だからお願い、最後にもう一度だけ抱いて」と恵一の股間を弄る幸子。「しょうがない人だなぁ」起き上がって交わる2人。これが最後の交わりと覚悟して激しく愛し合った。幸子の自宅まで車で送り、「じゃあね

今までありがとう」と爽やかに挨拶する恵一に対して、涙を流し「ごめんね。倉庫では普通にしていてね。」と言うと車を降りた。眩しかった恵一と幸子の季節は終わりを告げた。

 5月に入ると恵一は午前中アルバイト、午後就職活動、夜は大学と忙しい日々を送っていた。幸子とは倉庫で日常会話程度しかしないので、篤の帰国もその後の2人がどうなったのかも知る由もなく、気にもならなかった。倉庫のパート主婦の間では「最近、マッチがいい男になってきた。」とか「マッチ、色っぽくなってきた。」と恵一の評価が爆上がりしていた。その会話に幸子も加わっているが、愛想笑いするのが精一杯だった。恵一は車を使う仕事及び物流に携わる企業を中心に活動していた。恵一の父親は長距離便のトラック運転手を務めた後、小さな運送会社の役員として勤務し、既に亡くなっている祖父は個人タクシーの運転手だった。恵一も自然と車を取り扱う仕事をしたいという思いがあった。しかしバブル崩壊後の就職活動は狭き門であり、10社面接を受けていきなり3連敗。

7月に入り、4社目の面接で第一志望であった大手タクシー会社の帝国自動車から内定をもらい、就職先に決めた。その後の6社は3勝3敗。合格した会社には辞退を告げ将来の道筋を決めた。バイト先の川間所長に就職内定を報告し、3月まで目一杯働くことを誓った。7月下旬の日曜日恵一の就職祝いにと社員の吉本の提案で千葉マリンスタジアムのデーゲームを吉本の友人一同と観戦に行くことになり、恵一と幸子が誘われた。もちろん、吉本は恵一と幸子の関係性を知らない。

2ヶ月ぶりに日曜日、幸子の自宅に車で迎えに来た恵一。13時プレーボールなので11時に幸子の自宅に迎えだったが、10分前に着いてしまうと幸子は既に外に立っていた。車に乗り込む幸子。「おはよう。早いね。」と恵一が話しかける。「何だかワクワクしちゃって。久しぶりだもんね、こうして会うの。」と笑顔で答える幸子。幸子が長めの紙袋を差し出し、「就職祝い。おめでとう。」と言って恵一に渡す。「ありがとう。中見ていい?」と恵一が尋ねると幸子はうなづく。ブルーとシルバーのレジュメンタルのネクタイだった。「好きな色合いのネクタイだよ。ありがとう。大事にするね。」と返す恵一。「ドイツ帰りの愛しのダーリンとは順調なの?」と恵一が尋ねると、表情が一変し、顔をこわばらせて「なんでそういうこと言うの?せっかく2人で久々に会ったんだよ?そう言う話はしないで。わざわざそんな話しないでよ!」と幸子に叱られる恵一。「ゴメン」と謝り千葉マリンスタジアムに向かう2人。会話のない重い空気が車内に流れる。運転している恵一も幕張までの道のりが長く感じたが、助手席の幸子はもっと長く感じていた。早く千葉マリンスタジアムに着きたい、第三者がいてくれないと厳しいと思う2人だった。実際に千葉マリンスタジアムに着いてからは吉本たちのおかげで楽しい雰囲気になった。当時の千葉ロッテマリーンズは、川崎から千葉に本拠地を移したばかりで、マリンスタジアムのライトスタンドはかなりの観客で賑わっていた。伊良部投手が全盛期で158km/hのストレートで観客を魅了していたが、幸子が応援するのは愛甲選手。恵一は世代の差を感じた。相手は当時黄金時代真っ盛りの西武ライオンズ。清原選手が本塁打を放ち、鹿取投手、潮崎投手らの継投もハマり、西武ライオンズの勝利。最後の打者はふぬ愛甲選手だった。試合が終わり、千葉市内のファミレスで吉本らと食事をした2人。席を外す幸子。どうやら公衆電話で誰かと電話しているようだ。ファミレスで解散し、帰途に向かう2人。幸子が唐突に言う。「悪いんだけど国府台駅近くで降ろして欲しいの。」国府台?市川市にある京成電鉄の駅だ。確か篤の最寄駅だ。「あのー、国府台って篤の最寄駅だよね?これからデート?浮気相手だったオレに送らせるかね?あまりにデリカシーないんじゃない?」と皮肉げに言う恵一。「いいから、送って…送って!」と鬼気迫る表情で言う幸子。恵一も尋常じゃない幸子の雰囲気に圧倒され承諾した。道中、特に会話はなく嫌な沈黙が続いた。千葉市内から40分くらいの走行で国府台駅に着いた。そこから幸子が道案内をしカラオケボックスに辿りついた。駐車場に入ると見覚えのある三菱ギャランが駐車している。車内から篤が降りてきた。運転席の窓を開けると「久しぶりだなぁ、恵一。」と笑顔で話す篤。「久しぶり。じゃあオレは帰るから。」と言う恵一に「お前も来るか?どーせ暇だろ?あ、そういう訳にもいかないか。悪いな幸子を送ってもらって。」いちいち腹の立つ奴だとイラッとする恵一。すると幸子が「恵一くん、来て一緒に。」と言い出した。「えっ?嫌だよ。何でこのカップルの中にオレが入らないといけないんだよ。おかしいだろ?」と言い返す恵一。何かを決意したような表情で改めて恵一に「来て、一緒に。」と再び誘う幸子。

幸子に圧倒された恵一は車のエンジンを切り幸子に従うことにした。受付を済ませ広めの部屋に入った3人。篤が「なんだよ、大事な話って。大事な話するのにコイツ(恵一)がいてもいいのかよ?」と言う篤。

店員が飲み物を運んできた。店員が出ると幸子が口を開いた。「篤、私ね篤が留学している間、恵一くんと付き合っていたの。ずっとずっと一緒にいたの。篤が

帰国する間際に恵一くんと別れたの」。これに篤が被せて「マジかよ?でもそれはメシ食ったり、飲みに行ったりするだけだろ?いわば友達の延長だろ?」と鼻で笑うように話す篤。「もちろん、食事したり、飲みに行ったりもした。それだけじゃないの。キスもしたしその先もしたよ。」と話す幸子。「何?どういうことだよ。恵一、ホントか今の話は?」と恵一に攻め寄る篤。恵一も腹を括ったように「ああ、ホントだよ。」と答える。「どっちから誘ったんだ?お前か恵一!」激高する篤。「オレだよ、もちろん。何キレてんだよ?テメェ散々オレが童貞だってバカにしてたよな?だからお前の彼女に男にしてもらっただけだよ。

ごちそうさまでした。ま、魚釣って魚拓とって戻すようないわばキャッチ&リリースみたいなもんだよ。」

と薄笑いを浮かべて答える恵一。「テメェ、ふざけんじゃねぇ」と恵一に襲いかかる篤。腕っぷしには多少自信のあった恵一が応戦し、篤をかわし、篤の後ろ手をとり、「みっともねーな、色男さん。バカにしてた男に彼女取られて暴力か?情けねーヤローだな。このまま続けるか?その人をバカにした口、利けなくなるようにしてやろうか?どーなんだよ!」と詰め寄る恵一。幸子は「2人ともやめて」と言い泣き出す。

恵一は手を離し篤を席に戻す。お互い席に戻り飲み物を口にする恵一と篤。2人の熱気が落ち着いた頃、幸子が語り始めた。「篤の帰国が決まって恵一くんと別れた。とにかく淋しくて辛かった。篤が帰国して2か月付き合ったけど、2人でいても恵一くんのことばかり考えていた。篤に帰国後抱かれた時違和感があった。濡れないの。でも篤はお構いなしで攻めてくる。痛いだけでちっとも気持ち良くなかった。でも結果的に篤を裏切ってしまったからその罰だと自分に言い聞かせて我慢してずっと演技していた。篤は気づいていた?さも気持ちいいだろと言わんばかりに攻めてくるだけだったよね?我慢も限界なの。」と涙ながらに篤に語る幸子。「オレは幸子が好きなんだよ。幸子と会うのが楽しみだった。手紙もいっぱい書いたじゃないか?幸子も返事くれてたじゃないか?それなのにどうしてコイツ(恵一)なんかと…」と涙を浮かべて語る篤。「篤がドイツに行く時、私、空港まで見送りも許されなかったんだよ?人前に出したくなかったんでしょ、年上の女?恵一くんは友達、いっぱい会わせてくれたよ。オレの彼女だって堂々と。そんな恵一くんが心底好きになったの。終わろう、篤」と幸子が篤を諭すように言う。少しの沈黙の後、篤が立ち上がった。恵一を睨みつけ、「恵一、お前の気持ちはどうなんだよ?教えろよ、オレには聞く権利がある。」と言い放つ。「好きだよ、大好きだよ。お前の気持ちなんか比べようもないくらいだよ。」と恵一は冷静に答えた。

「こんなババア、お前にくれてやるよ。人をコケにしやがって、一生お前ら許さねーからな」とカラオケボックスを出る篤。篤を追う幸子。恵一は席に座り飲み物を飲みタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。修羅場だった。数分後、幸子は部屋に戻ってきた。恵一はタバコを消し、立ち上がり幸子を強く抱きしめた。熱く濃厚なキスも交わした。唇を離した幸子が「恵一くん、苦しいよ。タバコ臭いし」と言う。そして再び幸子から唇を重ねてきた。「行こうか?」と恵一が言うと、幸子は頷き手をつないだ。具体的にはわからないがとある施設で何をしようとしているかはわかっていた。料金を精算し車に乗り込んだ2人は、国府台から近い2人が初めて結ばれたラブホテルに向かった。

ホテルの部屋に入ると再び抱き合いキスを交わす2人。恵一は幸子の衣服を剥ぎ取った。篤と交わる際に濡れなかった幸子の花園からは愛液が流れ太腿まで濡れていた。すかさず恵一も全裸になり、前戯もないまま、避妊具も着けないまま2人は合体した。幸子は激しく喘ぎ、身体全体で恵一を感じた。5分も経たないうちに幸子は絶頂を迎え身体を震わせた。恵一も気持ちが昂っていたのか、直後に幸子の腹の上に白濁を放った。放った白濁は勢いよく、幸子の首筋まで達していた。少し休憩した後、2人でゆっくり入浴し、再び愛を確かめ合った。篤という存在が消えて真の恋人同士になった2人であった。

 夏が終わりを告げ9月になると恵一は22歳の誕生日を迎えた。幸子からはZIPPOのライターをプレゼントされた。今まで100円ライターしか使っていなかった恵一は素直に喜んだ。数日後、事件は起きた。いつものようにデートを重ねていた2人。ルーティンのように交わる2人。恵一は避妊具をつけて幸子の中に入っていた。2人が絶頂を迎えて幸子が身体を震わせ、恵一も身体に電流が走り白濁を放った。すると幸子が

「熱い、何か熱いの感じた」と慌てる。幸子の中から自分の分身を引き抜いた恵一は絶句した。避妊具が破れており完全に幸子の膣内に射精をしてしまったのだ。幸子は慌ててバスルームに走り、自身の花園を洗った。恵一はタバコを吸うも落ち着かない。バスルームから出てきた幸子は「どうしよう、前回の生理から数えて結構ヤバイ日なんだ。赤ちゃん出来ちゃったら

どうしよう…」と不安を声に出す。ホテルを出て車に乗っても会話は弾まない。気まずいムードの中で幸子を自宅まで送り帰宅した。その後、倉庫で会っても元気がない恵一。それを見て苦しくなる幸子。日曜日、いつも通り2人で会ったが会話は弾まない。ハンバーガーのセットを買って、木場公園内でレジャーシートを敷き食べる2人。「恵一くん、この間のことは気にしないで。もし赤ちゃん出来ていたら、私1人で育てるから。恵一くんに迷惑かけないから。」という幸子。

恵一の心は晴れない。社会人1年目の安月給で責任をとって幸子と結婚して子供と3人で暮らす…これも考えられない。かといって自分の子供を幸子1人で育てる…自分は何をする?何ができる?八方塞がりだ。恵一は自分の力のなさを嘆いた。「恵一くん、多分2週間後くらいが生理日なの。でも私、生理不順なの。きっと出来てないから。大丈夫だよ。だから普通にして」と気丈に振る舞う幸子。女はいざとなると強いと恵一は感じた。根拠はないが恵一も幸子に生理が来る!そんな気がしてきた。表面上、徐々に普段の恵一を取り戻していった。その日から10日後、幸子は生理になった。

2人の心配は一気に消えた。それ以降、2人で交わる時は避妊具をつけた上で膣外射精をすることにした。

妊娠騒動後、初めて交わった後、恵一の胸を枕にする幸子が徐に言った。「私も真剣に考えないといけないね。赤ちゃん出来ても大丈夫な人と付き合わないとね。いくら待っても恵一くんは私の歳に追いつかない。7年の差はどうあがいても埋まらない。私、恵一くんを卒業しなきゃね。恵一くんも私を卒業しなきゃね」恵一は自分に生活力がなく、幸子にそんなことを言わせる自分が情けなかった。反面恵一は社会人デビュー間近。希望もあれば夢もある。妊娠騒動は2人の燃え上がる恋をクールダウンさせ、2人に現実を直視させる結果となった。2人で話し合い、12月27日の幸子の29歳の誕生日を卒業式にしようと決めた。

 秋が過ぎ冬を迎えた。2人の卒業式を華やかにする為、12月27日が月曜日の為、12月25日の土曜日から一泊でかつて初めて2人で旅行した南房総を訪れた。

初日は九十九里から海岸線ひた走り、勝浦海中公園を歩いた。前回はペンションだったが、今回は鴨川にある温泉付のホテルに泊まった。新鮮な魚介類をたらふく食べて温泉に浸かる。今日でホントに2人は終わるのか?そんな空気は微塵も感じない。そして2人は布団へ。互いに一糸纏わぬ状態で抱き合う2人。一つになってすぐに恵一はこの感触を味わうのが最後になる、この角度から幸子の悶える表情を見るのも最後、

いろんな思いが交錯し込み上げてきた。すると今まで一回もなかったいわゆる「中折れ」状態になってしまった。「恵一くん、どうしたの?大丈夫?少し休む?」と幸子が寄り添う。恵一は仰向けに横になり幸子も隣に横たわる。恵一の前髪をかきあげながら幸子

が言う。「もー、かわいいんだから。いろいろ考えちゃったのかな?」と母親が小さな子供に接するようにふるまう幸子。「なんかいろいろ込み上げてきちゃって。やっぱり幸子と離れるのイヤだよ。結婚しよう。」と突然プロポーズする恵一。「コラッ!セックスしたいからってそんな大事なこと、あっさり言うな!」と笑顔で返す幸子。「恵一くんはこれからの人。社会でいろんな人に会って、いろんな経験するんだから。もちろん女の子だってそう。いつか私はあなたの重荷になってしまう。だからお互い卒業なの。

年明け成人の日、私お見合いするの。前から親に勧められてて。来年30歳だしね。」お見合い?もう?恵一の中で怒りにも似た闘争心が沸いた。すると恵一の分身が上を向き始めてきた。幸子も異変に気づき、手と口を使い恵一に奉仕した。「おーっ、元気になったね。来て、私の中に。」と幸子が誘う。恵一も「今晩寝かさないぞ。メチャクチャにしてやるから。」と宣言し再び合体。2人は夜に2回、朝目覚めてから1回、

チェックアウトする前にもう1回と4度も愛し合った。

帰りは野島崎灯台に行き、館山を経由して富津岬を経由して帰京した。帰り際幸子の自宅マンション前で車を停めると「卒業だね。今までありがとう。倉庫では

普通にしててね。」車を降りようとする幸子の腕を引いた恵一は幸子に強引にキスをした。「痛いよ、恵一くん」と笑う幸子。「オレ、男を磨く。もっともっと社会で力をつける。力つけたら幸子を迎えに行くから。絶対迎えに行くから。」と涙を浮かべ幸子に訴える恵一。「私、待ってないよ。いい男と出会ったら結婚しちゃうもん。気持ちだけ受け取っておくね。じゃあね」と幸子は車から降りた。幸子は恵一の車を見送った。恵一の頬を涙が伝った。幸子は恵一の車が見えなくなると路上にしゃがみ込み号泣した。恵一より大人な自分はこの卒業に関して涙を見せないと決めていたのだ。恵一が「結婚しよう」や「力をつけて迎えに行く」という言葉に涙が込み上げるのを必死に我慢していたが、やっと泣ける状況になったのだ。こうして

2人の1993年は幕を閉じた。

 年明け、バイト先で顔を合わせる恵一と幸子は普通に振る舞っていた。お互い正月休みに多少リフレッシュしたのだろう。あっという間に3月を迎え、恵一の出勤最終日が来た。勤務終了後、倉庫で社員やパートの主婦たちが送別会を開いてくれることになっていた。17時、幸子の退勤時刻。幸子は「マッチ、ちょっといい?」と恵一を外に連れ出す。「ごめんね、今日送別会出ないから。冷静に見送る自身ないし、今も気を抜いたら号泣しそうだから。これ読んでね。」と封筒を渡された。「お見合いどうだったの?」恵一が徐に幸子に尋ねた。「内緒。恵一くんには教えないよ。

時間だね。今までホントにありがとう。もっともっといい男になってね。バイバイ。」と幸子は倉庫を去った。恵一は18時に退勤すると倉庫内で送別会が始まった。パートの主婦が調達したオードブルセットや宅配ピザ、コンビニにで買った酒類がテーブルに並び、3年間世話になった仲間との最後の宴が始まった。談笑していると、副所長の盛田が恵一のそばに来た。恵一は盛田のストイックな仕事ぶりを尊敬していた。

「マッチ、おつかれさん。一応社会人として通用するレベルまで育てたつもりだ。明るく楽しく職場を盛り上げてくれたな。お前、オレと一緒で喜怒哀楽が顔に出やすいタイプだから。社会に出るとやっつけられるぞ。オレも散々やられたわ。でもなブレるなよ。そこから学ぶことも多いからな。」と語る盛田。恵一は、

「オレ、将来盛田さんみたいな男になりたいです。

もっともっと力をつけたいです。ある人の為にも」

と盛田に返した。すると盛田は「ある人?矢口か?」と聞き返してきたので、「えっ?なんでわかったんですか?」っと驚く恵一。「アホか!お前ら内緒で付き合ってるつもりだったんだろうが、バレバレだよ。パートさん含めてほとんどの人知ってるぞ。」と返す盛田。2人でタバコを吸い出した。「若いうちはな、年上の女に憧れるもんだ。オレにもそんな経験あるよ。特にお前みたいなヤンチャなガキは、年上の女の母性を擽るんだよ。いつだっけかな、去年の秋くらいに矢口と飲んだんだよ。アイツ変わってるよ。結婚する前から離婚しそうだって言ったりな。今は生活力のない年下の男と付き合ってると。日に日にそのガキが好きになってしまうけど、いつか重荷になったり若い彼女が出来て捨てられたりするんじゃないか不安だって。

お前のことだなと思ったよ。オレは言ったよ。大人としてある時期がきたら、お前からそのガキを振ってやれって。ガキは若いからいくらでも立ち上がれる。矢口は深追いしたら立ち直れなくなるって。それがガキを夢中にさせた?いやお前が夢中になったガキにしてやる大人の振る舞いだってな。」盛田は深くタバコを吸った。「きちんと振られたのか?」盛田が恵一に聞いた。恵一もタバコを深く吸った後、「はい。見事にきっちり振られました。前に遠藤さんにも同じようななこと言われました。」と答えた。盛田は「いい経験したな。矢口の決意だ。堂々と受け止めてやれ。」

盛田と恵一は紙コップに入ったウーロンハイで乾杯した。談笑が続いていると誰かが倉庫に入ってきた。

知子だ。「間に合ってよかった。マッチ、今日までおつかれさま。」と花束をもらった。「ありがとう、知子ちゃん。まさか来てくれるとは思わなかった。」久しぶりの再会であった。しばらく飲み食いした後、恵一が倉庫の外でタバコを吸っていると知子がやってきた。「おつかれさま。サッちゃん、何で来ないの?付き合ってたんでしょ、マッチと」と恵一に尋ねる知子。「年末にオレ振られちゃってね。それからは2人で会ってなかったんだ。ずっと納得してなかったんだけど、今日あの人の思いやりだったってわかったんだ。会ってる時はどっちが大人かわからないくらいなんだけど、実際はオレが7歳年下。現実は厳しいみたい。知子ちゃんは?遠藤さんとどうなの?」逆に知子に尋ねる恵一。「終わった…というか終わらせられたのかな。」とためらいながら答える知子。不思議そうな顔をする恵一。「社内で彼と付き合ってたの私だけじゃなかったの。別の付き合ってた社内の女性と揉めてその人が上層部に彼を告発しちゃったの。その後私に追求の手が回らないように別れを切り出されて。受けるしかなかったんだ。当然奥さんにもバレて。遠藤さん、4月から北海道支社に役職取られて異動になるみたい。奥さんとも弁護士通じて離婚の話し合いが始まっているみたい。」と語る知子。「あら、遠藤さんやらかしちゃったね。調子こいてたもんね、あの人。

一回、メシ奢ってもらったことがある。恋敵だったからね、ずっとムカついてて素直になれなかったんだけど、幸子との結末を予兆するようなこと言ってた。好きか嫌いかで言ったら当然嫌いだけど、魅力ある面白い人だったね。」としみじみ語る恵一。「私はしばらく恋愛はノーサンキューかな。恵一くんは?サッちゃんに未練ありありかな?」と微笑む知子。「そりゃまぁね。素敵な人だったからね。倉庫での3年間で知子ちゃんにも幸子にも振られたんだね、オレ」と苦笑いする恵一。「私はともかく、サッちゃんとはいっぱい思い出作ったんでしょ?いいじゃないそれで。お互い釣り合わない年上の相手から、変な意味じゃなくていろいろ教わったね。」と恵一を諭す知子。「でもありがとう。もう会うこともないかなと思ってたから。

知子ちゃん好きになって、振られて幸子に甘えてってのがオレたちのはじまりだったから。知子ちゃんなくして幸子と恋することはなかったわけで。」と微笑む恵一。「久しぶりにサッちゃんに連絡してみようと思うの。篤くんの件で私からサッちゃん絶縁しちゃったから謝りたい。今なら淋しい者同士、きっと仲良くなれるような気がして」と前向きに語る知子。「いいと思う。きっと幸子も喜ぶんじゃないかな。知子ちゃん、幸せになれよ。」と手を差し出す恵一。「うん。恵一くんもね。私、恵一くんと付き合った方がよかったのかな?」と語る知子。「遅えわ、今頃」と返す恵一。2人で大笑いした。

 宴も終わり帰宅した恵一。リビングで幸子の手紙を読んだ。

「 恵一くんへ

  今日は送別会欠席してごめんなさい。

  自分の気持ちに鍵をかけられなくなっちゃう

  から


  今までホントにありがとう

  好きだと言ってくれてありがとう

  愛してくれてありがとう


  恵一くんと一緒に過ごした時間一緒に見た景色

  は私にとって貴重な財産です。

  恵一くんを愛すれば愛するほど7歳の年齢差が

  重くのしかかってきました。

  このまま一緒にいれば、いつか私は恵一くんの

  重荷になってしまう…そう考えると不安になり

  心苦しくなってしまいました。

  そして自分から恵一くんに卒業を提案しました。

  卒業旅行は絶対に泣かないと決めていましたが

  途中何度も泣きそうになりました。


  ずっと恵一くんの側にいたかった。

  でもそれが現実的じゃないこともわかっていた。

  私は幸運にも恵一くんの初めての女性になれた。

  私は自分が楽しむ為に恵一くんを自分色にカスタ

  マイズしました。これから恵一くんが誰かと愛し  合う時、きっと私の教えた通りに女性を悦ばせよ

  うとするはず。そう、必ず私をなぞるのです。

  そう思うと私をいつまでも愛してもらえる気が

  します。それは私にとって最も光栄なことです。

 

  だから恵一くんは、自分を磨いてもっともっと

  いい男になって、たくさん恋をして欲しいと思

  います。私も夢見るような恋ではなく、現実的

  な恋をしていきます。ちょっと時間かかりそう   だけど…


  恵一くんと出会えてよかった。

  大好きでした。ありがとう。

  恵一くんが社会で活躍すること、陰ながら応援

  しています。

 

                 1994年3月

                 矢口 幸子



手紙を読み終えた恵一の目から涙が頬を伝った。

自分に力がなかっただけなのに、幸子の自分への母性

が愛おしい。幸子の言う通り、もっと自分を磨いていい男になるぞ、そう決意して恵一は社会へと旅立った。


それから3年の月日が流れた。恵一は就職した帝国自動車でハイヤー部門の日本橋営業所に配属され、若手ながらトップセールスマンとして活躍していた。

ハイヤーの営業とは、一部上場企業の役員の足として

黒塗りのセダンをチャーター契約してもらう業務や、車両は御得意先が用意し、お抱え運転手としてハイヤー乗務員のみを派遣する業務を担当していた。後輩も従えて毎日が充実していた。恋愛は半年前から職場の

一年先輩西口文明の妹めぐみと交際を開始した。西口は今で言うイケメンで女性にもモテたが、とある御得意先の役員秘書と婚約間近であった。冴えない同僚の矢部昌幸に西口の妹を紹介する飲み会があり、恵一用には西口が彼女の友人を用意することになっていた。

西口、西口の彼女、彼女の友人、妹のめぐみ、恵一、矢部の3vs3の飲み会であった。会場の店に着くと彼女の友人が体調不良でドタキャン。恵一の相手はいなくなってしまった。同期の矢部の為に恵一はサポート役に徹していた。数日後、西口より「松田、妹がお前に一目惚れしちゃったんだよ。彼女いないなら付き合ってやってくれないか?」と打診された。世の中は無情である。セッティングした矢部ではなく、無欲の恵一をめぐみが選ぶとは。めぐみは恵一と同い年の25歳。めぐみとデートを重ねた恵一はめぐみを受け入れ付き合うことになった。めぐみは美容師であり、青山の美容院に勤務しワンランク上のスキルを身につけようと頑張っていた。美容師ということもあり、基本的に火曜日が休みで土日休みの恵一とはわずかな時間しか会えない。付き合い始めて1ヶ月弱。恵一とめぐみは身体を重ねた。恵一は幸子以来女性を抱いていない。めぐみを悦ばせようとすると頭の中で「次はこうしてこうするんだ、その次はこうして

こうするんだ」と幸子の予言通り、幸子に教わった手法をなぞっていた。めぐみは何度も身体を痙攣させ、大きな声で喘いだ。「オレは幸子に作られた作品なんだ。」と自らを悟る恵一。ゴールを迎えた後ベッドで横たわる2人。めぐみは「恵一、エッチ上手いんだね?遊んでた?前の彼氏とは比べようもないくらい

大人のテクニックだったよ。こんなに感じたの初めて。」と恵一につぶやく。「遊んでないよ。センスがいいんだ。」とごまかす恵一。内心は改めて幸子をリスペクトしていた。

 恵一がめぐみと付き合ってから3ヶ月が経過し、めぐみの兄文明は、帝国自動車を退職し、友人と起業する為山梨へ旅立った。そんな中、めぐみは美容師の修行が忙しく恵一も仕事が忙しく、元々休日も違うことからどんどん会う機会が減っていき、会ってもホテル直行で身体を重ねるだけ。すれ違いも多く、会っても正直面白くない。ある日、めぐみから手紙が届き、恵一はめぐみから別れを告げられた。不思議と恵一には悔しさも悲しさもなかった。 

 恵一の仕事は当直業務があり、週に一回ペースで当直していた。当直明けは午前中で勤務終了。午後からは非番となる。めぐみと別れて初の当直明け。恵一は17時すぎに江東区大島の路地に立っていた。幸子が倉庫を17時に退勤し帰宅する際必ず通る路地だ。待つことすぐに幸子が歩いてきた。「恵一くん?どうしたの?」と驚く幸子。「幸子を待ってたんだ。言わなかったっけ?力をつけて幸子を迎えに行くって。力ついたから迎えに来た。メシでも食わない?」と幸子を誘う恵一。幸子は困惑した表情で「行かない。恵一くん、私は待ってないって言ったよね?恵一くん、何にもわかってない。もう来ないで。2度と私の前に姿を現さないで。」と恵一の横を通り過ぎていく幸子。「待てよ、なんでそんな感じなの?」と恵一が幸子を追う。「わからないの?とにかく帰って。もう私を苦しめないで。」冷ややかな表情で少し早歩きで去っていく幸子。恵一は言葉が出なかった。ただただ立ち去る幸子を見送るだけだった。帰り道、恵一は自分の身勝手な行動を悔やんだ。めぐみと別れて淋しかったのかもしれない。だからといって幸子に甘えようとした恵一。それは既に次なるステージに進んでいるかもしれない幸子に大変失礼なふるまいである。恵一は自らの軽率な行動を悔やみ反省した。幸子は恵一をとっくに卒業していたのに、恵一は幸子を卒業できていなかった。恵一はその後もずっと引きずっていた。翌週の当直明けの日、恵一は幸子と再会した路地で幸子の退勤時間に合わせて待っていた。幸子が現れた。幸子は恵一に気づき表情を曇らせた。恵一は「すぐ帰るから少し時間をくれ。この間、軽率に会いに来たこと謝りに来た。申し訳なかった。深く反省している。」と深々と幸子に頭を下げた。幸子は恵一に配慮し「少し歩かない?」と提案し「私も言いすぎたかもね。突然恵一くんが出てきたからパニくっちゃって。ゴメンね、大人気なかったね。」と謝る幸子。大島七丁目公園のベンチに2人で座った。「仕事は順調なの?」と幸子が恵一に聞いた。恵一な頷き「結構頑張ってる。やり甲斐もあるよ。」と爽やかに答えた。「彼女出来た?」と幸子が尋ねる。「出来た。この間別れた。」と答える恵一。「ははぁ…それで私に会いに来たのか?甘ったれ坊主が」と微笑む幸子。「幸子は?彼氏できた?」と恵一が尋ねる。幸子はためらいながらも「うん。大人の人。」と答える幸子。恵一は「大人の人」という幸子の言葉が心に刺さっていた。幸子は目を潤ませ「妊娠してるの、私」と答えた。恵一はすかさず

「結婚したのか?結婚したのか?」2回聞いた。「そのうちするよ。」と涙が一粒頬を伝いながら答える幸子。恵一も胸に熱いものが込み上げてきた。恵一はグッと堪え笑顔で「おめでとう」と幸子を祝福した。

幸子は号泣し、「私頑張ったの。恵一くんと別れて必死で幸せになろうと頑張ったの。赤ちゃん出来ても大丈夫な大人の人と幸せになろうと頑張ったの。だから

恵一くんも幸せになって欲しいの。後戻りしちゃダメだよ。もう私になんか会いに来ちゃダメだよ。」と涙ながらに微笑む幸子。恵一はベンチから立ち上がった。遅れて幸子も立ち上がった。向き合う2人。「幸せにしてあげられなくてゴメン。オレ、スベッてるよね。幸せになってね。」と幸子に握手を求める恵一。

握手の手を交わし恵一にもたれかかる幸子。恵一は幸子を抱きしめた?「少し、こうしていて。」と涙ながらに恵一に抱かれる幸子。どれくらいの時間だろうか、2人がハグしていた時間は。やがてハグを自然に解くと「じゃあね、もっともっといい男になるんだよ。」と涙交じりに微笑む幸子。恵一の頬にも涙が伝う。幸子は自宅へ向けて歩き出した。振り返ることはなかった。恵一はいつまでも幸子の後姿を見ていた。幸子の後姿が見えなくなると恵一はタバコに火をつけ深く吸った。恵一の中で青春という長い季節が終わりを告げた。


それから28年の月日が経っていた。54歳の恵一は帝国自動車ハイヤー部の有楽町営業所長として忙しい日々を送っていた。私生活では33歳の時に仕事で知り合った一つ年上の通訳の女性と結婚し、女児、男児と子宝にも恵まれたが、嫁姑問題に端を発し互いの信頼関係も損ない7年半で結婚生活は終わった。子供たちとは養育費を支払い、結構な数会っている。恵一の中では父親という部分を1番大事にして生きてきた。恵一は結婚してすぐに亀戸にマンションを買った。もちろんローンだ。そのマンションは妻の希望が強く偶然にも

幸子が住んでいたマンションの近所であった。生活道路として幸子の住んでいたマンションの前を車で走行することもしばしあった。最初の頃は意識したがいつの間にか無意識に走行していた。幸子との決別後も恵一は比較的女性にはモテた。結婚前には3年同棲していたり、離婚後も複数名の女性と交際してきた。

やはり、妻を含めて女性と愛し合う時は、頭の中で無意識にここはこうして、次はこうしてと幸子の教えをなぞっていた。48歳の時に交際していた恋人を膵臓がんで亡くしてから、女性よりもゴルフに熱心に打ち込み、恋人はゴルフと女性との交際は卒業宣言している。元妻は離婚後、新たなパートナーと子供たちと暮らしている。2025年に入ると就職した娘と同居している。恵一は娘には甘い父親であり、同居してくれたことに結構喜んでいる。恵一は毎週日曜日にゴルフスクールに通っている。ゴルフスクールに通う時はいつも幸子の住んでいたマンションの前を通る。ある日、いつもの通りゴルフスクールに向かう際に幸子の住んでいたマンションの前を通ると、馴染みのあるシースルーのシャツに、大きめの帽子を被る初老の女性と、20〜30歳くらいの男女が歩いていた。側方を通過する時女性を見ると、「幸子?」と恵一は車内で声を出した。恵一はバックミラー越しにその女性を見た。

ハッキリ幸子とわかったわけではないが、勝手に幸子と子供たちであると認識した。2人のうちどちらかが

最後に会った時幸子のお腹にいた子なんだろうと勝手に想像していた。恵一は幸せな気分になった。恵一は笑っていた。



  



  

  

  


本作を最後までお読みいただき、ありがとうございます。物語の終盤、大島七丁目公園で幸子が恵一に告げた「妊娠」。彼女はそれを理由に恵一の前から姿を消し、のちに子供産んだことになっています。しかし、筆者には一つの仮説があります。

あの夜、幸子が告げた「妊娠」は、優しい嘘だったのではないか。

幸子は聡明な女性です。恵一のまっすぐすぎる情熱が、いずれ彼自身の将来を縛り、彼の人生を歪めてしまうことを誰よりも理解していました。恵一が7歳年上の女の人生を背負うには、社会はあまりに現実的で、残酷です。

彼女は、恵一に自分を「嫌い」にさせることはできませんでした。ならばせめて、彼が「立ち入れない領域」を作ることで、強制的に卒業させるしかなかった。それが、別の男との子を宿したという残酷な幕引きだったのではないでしょうか。

やがて結婚し、本当に母となった幸子。しかし、ラストシーンで恵一がバックミラー越しに見つけた彼女の微笑みは、あの嘘から始まった彼女の人生が、それでも「正解」であったことを物語っています。

恵一の心に永遠に刻まれた「なぞるべき指先」。

その記憶こそが、彼が激動の平成を生き抜き、今日を笑って過ごすための、彼女からの真の贈り物だったのだと信じています。

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