ニワトリさんの落し物
「知ってる? ニワトリって空中で首動かさないで、固定するんだって」
カイトは得意げに隣に座っていたニワトリを掲げた。
「え、やってみてよ」
カイトがニワトリの胴体をフリフリと左右に振る。
するとどうだろう。胴体はメトロノームのように揺れているのに、頭だけは空間の一点にピン留めされたかのようにピタッと止まっている。
「ホントだ! すごい、やってみていい?」
ハルはワクワクしながらニワトリを受け取った。
「すごい……! 本当に動かない。
……ねえ、これ体を後ろにグーッと
下げたらどうなるんだろう?」
「やってみて」
カイトの軽い促しに、ハルは「よーし」と気合を入れて、ニワトリの胴体を後ろに引いた。
バキッ。
まるで瑞々しいキャベツを握りつぶすような音がした。
「すごい! 首がちぎれた!」
ハルは手の中の胴体を見て、目を輝かせた。
「あ、見て。首落ちてる」
カイトが足元を指差すと、そこには垂直に落ちた頭が転がっていた。
「ほんとだ! ……えっ、ていうか、なんで首固定するって嘘ついたの?」
ハルは不思議そうに聞いた。
固定されるって言ったのに、落ちちゃったじゃないか。
「あ、ごめん」
「なんだよー、期待しちゃったじゃん」
二人がそんな反省会をしていると、ハルの腕の中から「それどころじゃない」と言わんばかりに胴体が飛び出した。
首がないのも構わずに、トトトトッと軽快な足取りで広場を走り回っている。
「あ、そんなことより胴体が勝手に動いてるよ!」
ハルが指をさして笑う。
「あはは、本当だ。
やっぱりニワトリってばかだね」
「そうだね、行先もわからないのにね」
二人は顔を見合わせて、おかしくてたまらないといった様子で笑った。
春の穏やかな日差しの中、
首のないニワトリは元気にどこまでも走っていった。




