第六話:淡雪
彼は自嘲気味に小さく笑うと、ゆっくりと私の方へ視線を向けて
「きみにうちの学校に来てもらいたいのには、理由があるんだ」
と、話し出した。
「理由?」
「そう。うちの学校は、幼稚園からのエスカレーター式の学校で、外部入学は基本認めていない。何故だか分かるか?」
真っ直ぐに見つめられ、首を横に振ると
「政財界や大手企業のご令嬢やご子息が通う学校だ。一般人や、よからぬ目的で、分不相応な人間が入り込まない為だ」
そう言われて、私はぽかんとする。
いやいやいやいや!
私、超一般人。
地方公務員の父親に、専業主婦の母親。
2つ年下の公立中学校に通う弟という、まさにThe庶民です。
そんなThe庶民の私が、通う学校じゃないですよね?
必死に顔には出さないように冷静を装いつつ、心の中で突っ込みを入れていると
「じゃあ、なんで一般人の私が?って顔をしていますね……」
と、図星を指された。
驚いてイケメンの顔を見ると、クスクスと笑い出して
「美夜は……本当に変わらないよな。
思った事、全部顔に書いてある」
そう言われて慌てて顔を窓に写すと、イケメンがその様子を見て吹き出して笑い出した。
「お前……本当に……」
そう言って笑う顔は、さっきまでの澄ましたいけ好かないキラキライケメンでは無く、自分とそんなに変わらない普通の男の子だった。
ひとしきり笑うと
「お前は忘れてても、俺をこんなに笑わせる奴はお前くらいだよ」
そう呟いて、イケメンが優しい笑顔を浮かべて私を見つめ返した。
頬が熱くなり、胸が苦しくなる。
ドキドキと心臓が高鳴り、
あの日の思い出と共に
心の中で警戒警報が鳴り響く。
(モウ……アンナオモイハ、シタクナイダロウ)
中学の制服
卒業証書
遠ざかる後ろ姿
『先輩!待って!』
追い掛けても追い掛けても、遠ざかる背中。
『江波』
私を見つけると、微笑んでくれた笑顔
『本当にお前は……』
そう言いながら、頭を撫でてくれた優しい手
ずっとずっと好きだった、2つ上の先輩。
あの日から、私の時は止まったまま。
あの日の私が、まだ泣いている。
もう……誰も好きになれないと思うくらい、
夢中になった初恋。
まだ、胸の奥が鈍く疼いていた。




