第6話:【悲報】ワイ、メンヘラ聖女の「自傷アタック」と地雷精霊の「監禁ハラスメント」で無事死亡www
聖地の泉をなんJの海へと変貌させ、環境破壊の責任を取る形で水の精霊カミラを仲間に(拉致)した翌朝。ワイは岩場にでっぷりとした腹を預け、ツヤツヤになった手を眺めていた。
「……ねぇ。……あなた。……私のこと、もう飽きちゃった……? ……さっき、空を飛ぶ鳥を寂しそうに見てたでしょ……? ……いいの。……あなたが自由になりたいなら、今ここで私の首にこのメイスを落として……あなたの目の前で、ただの肉の塊になってあげるから……」
リリィが、巨大な十字架メイスを震える手で抱きしめながら、涙目でワイを見つめてきた。
「重いわ! 誰も飽きたなんて言うてへん! ただの野鳥や、美味そうやなって思ってただけや!」
「……本当……? ……あぁ、よかった……。……なら交易都市メテンへ行きましょう。……あそこは、大陸中のあらゆる贅沢品と……そして、家族の証明が買える街なの」
「家族の証明……? なんでそんなもんが必要なんや」
「……あなたを、私の半身として登録するの……。……そうすれば、あなたがどこへ逃げても、世界中があなたを私のもとへ連れ戻してくれるわ……。……もし、登録してくれないなら……私、街の広場で自分の胸を突き刺して、あなたの名を叫びながら死ぬから……ね?」
リリィの瞳は、絶望的なまでの依存でドロドロに潤んでいた。心中宣告で街を目指す奴がおるか!
だが都会なら美味い飯があるだろうし、何よりこのメンヘラ女を落ち着かせるための文明が必要や。情報の宝庫やし、行く価値はある。そこへ、不敵な笑みを浮かべたカミラが割り込んできた。
「ふふ、メテンね。いいわよ。あそこの大広場には巨大な噴水があるの。私の魔力でその水を全部キミ専用の愛の沼に変えて、四六時中浸らせてあげる……逃げられないように、水の鎖で縛り上げてね。くふふ、傑作だわ」
「ぽまいら全員ワイを監禁することしか考えてへんのかwww」
メテンへ行くには、目の前に立ちはだかるリュウタロ山地を越えるのが最短らしい。しかし、地図も登山靴もないワイは断固として拒否した。
「却下や! 登山なんて労力パフォーマンス最悪や! 地図もないのに山に入ったら遭難確定やろがい! ワイのこの美しい三段腹を見ろ。これが岩場を登れる体に見えるか? 迂回や! 山の裾野をグルーっと回るんや!!」
「……ええ、そうね。……あなたが滑落して死んじゃったら、私、自分の心臓をえぐり出してあなたの口に詰め込んで追いかけるもの……。……地図なんていらないわ。……私の愛が、あなたへと続く道だけを照らしてくれればいいの……」
「愛でナビゲートするな! 街の方向を向け!」
こうして、一行は地図もキャンプ道具もないまま、山地を大きく北へ迂回する強行軍を開始した。
2日目。周囲は腰の高さまである草原に変わり、道という概念が消失した。地図がないため太陽の位置だけを頼りに進むが、リリィの情緒が不安定すぎて一向にペースが上がらない。
「……ねぇ、あなた。……今、足元に咲いた花を見て笑ったでしょ……? ……私以外のものを見て楽しそうにするなんて……。……そんなにその花がいいなら、私、自分の顔をその花と同じ形に削いでくるわ……」
「被害妄想が飛躍しすぎやろ! ただ虫が顔に当たっただけや!」
リリィがメイスを引きずりながら泣き出す。そのたびに地面が陥没し、物理的な障害物が増えていく。一方でカミラは、水蒸気を操って自分の周囲だけを快適な湿度に保ち、ワイを小馬鹿にするように眺めていた。
「くふふ、キミ、顔が乾燥してカピカピじゃない。私の水が恋しいんじゃないかしら? ほら、跪いて頼めば少しだけ浴びせてあげてもいいわよ?」
「性格悪い精霊やな! 誰が跪くかボケ!」
3日目。一行は日差しを遮るもののない焦熱の平原に突入した。キャンプ道具がないため、直射日光をまともに食らう。ワイのカエル肌は限界を迎え、手が熱せられたフライパンの上のように「チリチリ」と音を立て始めた。
「ハァ……ハァ……。アカン……これ、完全に遭難や……。カミラ、水……頼む……」
「……お待たせ! 私の真骨頂、四大精霊の恵みをその汚い体で味わいなさい!」
カミラが指を鳴らす。
「さあ、私の全てを飲み込みなさい! 神霊の激流!!」
「ブフォォォォォォォ!!!」
カミラの指先から、高圧水流がワイの顔面に直撃し指先から射出されたのは、消火活動に使うレベルの高圧水流。ワイの身体は十メートルほど吹き飛び、地面をバウンドしながら水分を(物理的に)吸収した。
「ンゴォォォォォ!? 鼻に! 鼻に全部入っとる!」
「あら、ごめんなさい。キミの内側を早く私で満たしたくて、つい最大出力になっちゃったわ。……ふふ、苦しむ顔も瑞々しくて素敵よ」
水浸しになって道端でひっくり返るワイ。そこに、リリィが震える手で怪しい小瓶を持って近づいてきた。
「……ねぇ。……カミラさん。……私のあなたに、そんな乱暴しないで。……さあ、これ、私がさっきの魔物の生き血を自分の涙で薄めた、愛の特製スムージーなの。……飲んでくれないと、私、今ここで自分の舌を噛み切って死ぬわよ……?」
「スムージーのレシピが地獄すぎるんよ! 死ぬ死ぬ詐欺で飲ませようとするな!」
4日目の夜。テントも寝袋もないため、むき出しの岩場で野宿することになった。深夜、冷たい地面の上で、左右から不気味な気配が迫る。
「……ねぇ。……あなた。……寂しいの。……一人は嫌。……一緒じゃないなら、このまま私の髪の毛であなたの首を絞めて、一緒に果てましょう……? ……さあ、こっちを見て……見てくれないなら、自分の指を一本ずつ折って、その音をあなたの耳に届け続けるわ……」
「リリィさん! 自傷行為で脅すのやめて! 怖い、怖すぎるわ!」
「……ふふ。私の水は、温度調整も自在よ。……キミの寝首に、私の水を這わせて……脳まで私で満たしてあげる。キミの寝顔、ずっと瞬きもせずに観察しているからね。逃げようなんて考えないことね」
「お前ら、二十四時間体制でワイの精神を削りにくるのやめろwww」
5日目。空腹と疲労がピークに達した頃、巨大なハサミを持ったデザート・シザー・スコーピオンの群れが現れた。本来ならパーティーで挑む強敵らしい。
「おっ、魔物やんけ! カミラ、お前の水の力で追い払え!」
「ふふ、いいわよ。私のお気に入りのおもちゃに手を出そうとした不敬な虫ケラども……。全身の水分を吸い出して、干物に変えてあげるわ」
カミラが優雅に腕を振り上げた――その瞬間。
ドグシャァァァァァァッ!!!
巨大な十字架メイスが、新幹線のような速度でサソリの群れを肉片に変えた。
リリィが、返り血で顔を真っ赤に染め、泣き腫らした顔でワイに向けた。
「……精霊の魔法なんて、待つ必要ないわ。……ねぇ、あなた。……私のこと、頼りないって思ってるの……? ……だからその女に頼んだの……? ……ねぇ、答えて……答えないなら、このメイスで自分の頭を叩き割るわ……」
「やってへんて! 効率を考えただけや! お前、情緒不安定すぎて物理攻撃力がインフレしとるんよ!」
「……ふん。相変わらず重たい女ね。キミ、あんな面倒な女より、私の水で全てを洗い流して楽になりなさいよ」
「どっちも面倒やわボケ!」
6日目。食料も尽き、ワイは空腹と精神疲労で限界を迎えていた。
「……アカン、空にマクドの看板が見える……。揚げたてのポテトがLサイズで踊っとる……。ワイ、もうあっち側の世界に帰るわ……」
「……ダメよ。……勝手に死なせない。……死ぬときは、私の腕の中でって決めたでしょ……? ……ほら、私の指、噛んでもいいわよ……? ……私の肉で、あなたを満たして……」
リリィが恍惚とした表情で指を差し出してきた。
「怖いわ! お前の指がポテトに見えるわけないやろ! 街は!? 街はまだか!」
「キミ、うるさいわね。ほら、私の水で作った特製かき氷(魔力100%)でも食べて黙りなさい」
「味がしねえんだよ! 魔力じゃ腹は膨れんのや!」
そして7日目の朝。満身創痍のワイの目の前に、地平線の彼方からようやく交易都市メテンの巨大な城壁が見えてきた。
「……よっしゃ、街や……! 自由を……!」
ワイは歓喜の声を上げたが、隣に立つ二人の視線は、城壁よりもワイの背後に注がれていた。
「……ふふ。やっと着いたわね。……さあ、あなた。入街審査の前に、私とあなたが運命の二人であることを証明する書類を書きに行きましょうね……? ……書かないなら、街の入り口で私、首を吊るから……」
「……私は、キミの全身を私の聖水で満たせるような、巨大な水槽を注文しておくわ! 逃げようなんて考えないことね。くふふ」
「闇が深すぎて草」
1週間の死闘を乗り越えたワイを待っていたのは、安らぎではなく法的な家族(心中)登録と水槽での監禁という、さらに逃げ場のない行政手続き(物理)だった。




