第25話:【朗報】ワイ、ガイガイ音頭のリズムと磨きすぎた床で七勇者を完封www
魔槍グングニルの黄金の穂先が、今まさにワイの焦げたぷりけつを貫こうとした、その瞬間だった。
地下8.5階の重厚な鉄扉が暴力的な魔力の波動によって内側へ吹き飛んだ。黄金の光を纏い、絶対的な支配者の威圧感を放ちながら現れたのは数週間前に現場を放棄して敵前逃亡したはずの女王、フジョーシ=ヤオイであった。
「……もはや、対話は不要。貴様のその腐り果てたニート根性を我が奇策で根本から再定義してやる」
女王は氷のような眼差しでワイを射抜くと、驚愕するバルデッダの前に立ちふさがった。その声にはかつての狼狽など微塵も感じられない。
「陛下、何をされている。私は今、我が槍を持って、この下劣な男を……」
「オスカルよ、焦る必要はない。このカエルが地下8.5階をこれほどまでに鏡のように美しく磨き上げた。これこそ、我が国の権威と尊さを見せつける絶好の舞台だ。ただ殺すだけではこのカエルの罪は贖えない」
女王は翻り、地下牢の全域に響き渡る魔導通信機を起動させた。
「瞬間移動魔法など、あの忌まわしきダース以外には使えぬ希少な術。ならば、民草に直接足を運ばせるまでの時間が必要だ。……全軍に通達しろ! 二日後、この地下8.5階にてデブカエルvs 七勇者バルデッダの公開処刑ショーを開催する! 王侯貴族から、最底辺の重罪人に至るまで、全階層の住人を動員しなろ!」
「二日後、ですか……」
バルデッダは不服そうに眉を寄せたが、女王の言葉は絶対の法だ。
「そうだ。二日後だ。その間、君はこのバグを逃さぬよう監視していろ。……最高にドラマチックな結末を期待している」
「……あかん、女王さん。二日間も告知期間作るとか、完全に興行師のムーブやんけ!! www 期待値、王都全土にまで拡散されとるやんけ!! www」
告知から二日間、ドラシール竜王国は未曾有の熱狂に包まれた。「魔法を完封した謎のカエルが、西の魔王の側近を屠った最強の槍に貫かれる」というニュースは、王都の隅々まで駆け巡った。
その間、ワイは監視しているバルデッダの冷たい視線を完全に無視して、さらなる床磨きに精を出していた。
「キュッ……キュッ……www 仕上げの五層コートやwww 二日後には、物理法則がバグって摩擦係数がマイナスになるでwww」
さらにワイは、食事を運んでくる囚人仲間や、隣の独房のローズに、ある歌を徹底的に教え込んだ。
「ええか、ローズさん。二日後の本番、合図したらみんなでこれを全力で歌うんや。これがワイの、……いや、なんJの魂やからなwww」
「……あんた、本当に地獄に落ちても文句言えない。でも、……面白そうだから乗ってあげる」
そして二日後。
地下8.5階は、かつてない密度の人と熱気に包まれていた。
閉鎖された空間に数千人の観客が詰め込まれたことで、音の反響はもはや暴力的なレベルに達していた。
最上段には豪華な椅子に座る王侯貴族。中段には一般市民。そして最下層のアリーナ周辺には、鎖に繋がれた数百人の重罪人たちが殺気立った様子で並んでいた。
「さあ! 時は来た! 物理の極致、武神の寵児オスカル・バルデッダよ! その魔槍でこの忌まわしきバグを塵一つ残さず粉砕せよ!」
女王の峻烈な激励と共に、バルデッダが中央へ歩み出る。
その瞬間、最下層の囚人席から異様なリズムの手拍子が地下を揺らした。
「……せーの!!」
『あそれあそれガイジが出た出たよよいのよいwあガガイのガイあそれガガイのガイあよいしょガガイのガガイのガガイのガイw』
地下空間の壁が震えるほどの爆音。脳を直接かき混ぜるようなIQゼロのリズム。
「な、……なんなのだ、この悍ましい歌は……!?」
バルデッダの武神の祝福を受けた鋭敏すぎる聴覚が、あまりの不快感に悲鳴を上げた。
『あガイジガイジガイジガイジよいしょよいしょよいしょよいしょwあっガヰ、あガヰ、あガヰガヰガヰあガガイのガイあそれガガイのガイあよいしょガガイのガガイのガガイのガガイのガイw』
貴族たちは顔を引き攣らせ、市民は困惑し、女王ですら「……何だ、この下劣な調べは」と不快そうに眉根を寄せた。だが、ワイは最高にノリノリで床を滑り始める。
「バルデッダさん!! www これがなんJ伝統の『ガイガイ音頭』や!! www お前の精密な戦士スキル、この不快なリズムでガタガタやろ!! www」
「……黙れ! 邪音など、我が槍の速度で断ち切るのみ! 穿て、グングニル!」
精神をかき乱されたオスカルは、半ば強引に戦技【縮地・瞬貫】を発動した。
刹那、彼女の肉体は光速の物理弾と化し、ワイの眉間を目指して一直線に突き進んだ。
だが、最強の槍使いはこの二日間でワイが完成させた摩擦係数ゼロの地平を甘く見ていた。
「はっ……!」
踏み込んだ右足。
本来なら石畳を砕き、強固なグリップを生むはずのその足が、何の手応えもなく……真横に滑った。
「…………え?」
神速のベクトルが、床の滑りによって完全に狂う。
前傾姿勢で突っ込んでいたバルデッダの肉体は、そのまま慣性の法則に従い、時速100キロを超えるスピードで人間カーリングのごとく滑り出した。
「あっ、……あ、……ぁぁぁぁぁぁ!!」
――ドゴォォォォォン!!
壁に激突した凄まじい衝撃音。
オスカル・バルデッダは、ワイを通り越し、反対側の壁に後頭部から激突した。
「……カハッ……」
脳震盪。武神の祝福も、後頭部からのノーガード衝撃には対応しきれなかった。
「……バ、バルデッダ様!?」
観客席から悲鳴が上がる。
「ははは!! www 最強の槍が壁に刺さっとるやんけ!! www 期待値ゼロのバカ受けやぞこれ!! www」
バルデッダは、ふらふらと立ち上がろうとした。
後頭部を強打し、視界が歪んでいる。
「……く、……は……。武の、……神よ……。私は、……まだ……」
彼女は戦士のプライドをかけ、魔槍を杖代わりにして立ち上がった。
だが、一歩踏み出した瞬間――。
「ヒッ!!」
再び右足が、そして左足が、バラバラの方向に滑る。
彼女は生まれたての小鹿のように、無様に、あまりにも滑稽に開脚した。
――ベチャッ!!
今度は、無防備な顔面から床に叩きつけられた。
ピカピカに磨き上げられた床に、真っ赤な鼻血が飛び散り、鮮やかなコントラストを形成する。
「……ぶふっ……。……が、……がは……っ」
最強の女勇者が、鼻血を撒き散らしながらプルプルと足を震わせて床に這いつくばっている。
その背後では、数百人の「ガイガイ音頭」が最大ボリュームで反響し続ける。
『あガイジガイジガイジガイジよいしょよいしょよいしょよいしょwww』
「……あかん、これwww 腹筋崩壊するわwww」
ワイは、カエルの特性であるぬめりを使い、スケートのプロのごとく、つるつるの床を自由自在に滑り始めた。
「おいおい、お姉さん!! 何回床に挨拶してんねん!! www そんなにワイに謝りたいんか!? 鼻血で床を汚すなや、せっかく磨いたのに!! www」
「……貴、……様……っ!!」
オスカル・バルデッダ。
ドラシール竜王国最強の戦士の心が、物理的な痛みとなんJ民の容赦ない煽りによって、メキメキと音を立てて折れ始めていた。
地下8.5階。静まり返る観客席と、対照的に爆音で響き続ける囚人たちの「ガイガイ音頭」。
鼻血を垂らし、四つん這いでプルプルと震えるオスカル・バルデッダの周囲をワイはカエル特有のぬめりを最大限に発揮してアイススケートさながらの超高速旋回で挑発し続けていた。
「おーい、お姉さーん! www さっきまでの威勢はどうしたんや? www 槍持ったまま開脚ダンスとか、新しい大道芸か何かか? www 期待値、今のでストップ安確定やぞ!! www」
「……お、……のれ……っ!!」
オスカルは屈辱に顔を真っ赤に染め、再び魔槍グングニルを床に突き立てて立ち上がろうとした。武神の加護が彼女の肉体を強化しようとする。だが、ここは物理法則が死んだ摩擦係数ゼロの戦場だ。
「……あ、……ぁぁぁッ!!」
踏ん張ろうとした足が、ワイの塗りたくった特濃ワックスに裏切られ、再び外側へとスライドする。
ベチャッ!!
三度目の顔面強打。今度は鼻血だけでなく、その凛々しかった頬が磨き上げられた床に情けなく張り付いた。
「無様やなぁ、バルデッダさんwww 西の魔王の側近を倒した神速の突きはどこ行ったんや? www 今のお前、ただの床の汚れを確認してるお掃除おばさんにしか見えへんぞ!! www」
ワイは、彼女の目の前でピタッとスライディングを止め、しゃがみ込んでその顔を覗き込んだ。
「なぁ、お姉さん。お前さ、武に音など関係ないとかカッコいいこと言ってたよな? www でも実際どうや? www このガイガイ音頭のリズム一つで、お前の自慢の呼吸は乱れ、このワックス一つで自慢の脚力はゴミになってもうたやんwww」
「…………」
「結局、お前の武なんて、整えられた環境でしか通用せへん温室育ちの盆栽やったわけやwww 魔法が効かへんワイを世界のバグとか呼んでたけど、お前こそ摩擦がある世界っていうバグに甘えてただけなんちゃうか? www」
オスカルの瞳から、戦士の光が消えていく。
「お前がこれまで貫いてきた敵は、お前のルールに付き合ってくれたお行儀の良い奴らだけやwww ワイみたいに、ルール無用で床を磨き続け、ケツを焼かれても煽り続ける本物のクズの前ではお前の槍なんてただの重たい棒なんやでwww」
「……私は、……私は……武神の……祝福を……」
「祝福ぅ? www 今の自分、鏡で見てみーやwww 鼻血だらけで、カエルに煽られて床に這いつくばって……。神様も今頃、チャンネル変えとるわ!! www 期待値マイナス女を、誰が応援すんねん!! www」
その時、バルデッダの中で何かが弾けた。
これまで七勇者として、孤独に、厳格に自分を律し続けてきた糸がなんJ民のあまりにも低俗で、しかし否定しようのない正論(?)によって断ち切られたのだ。
「……う、……ううっ……。……うわあああああああああああああん!!」
地下8.5階に、子供のような泣き声が響き渡った。
最強の槍使い、オスカル・バルデッダが観客数千人の前で、鼻水と涙をボロボロと流しながら号泣し始めたのだ。
「もう嫌だあああ!! 何なんだこのカエル!! 物理が効かないとか、床が滑るとか、歌がうるさいとか……もう、意味わかんない!! お家に帰る!! 田舎に帰って、お父さんと牛の世話をするうううう!!」
彼女は魔槍グングニルを、文字通り「ポイッ」と放り投げた。
そして、四つん這いのまま、つるつるの床を泳ぐようにして出口へと必死に這いずって逃げていった。
「…………」
観客席は、もはや静まり返ることすら忘れ、唖然としていた。
王侯貴族は口を開けたまま固まり、囚人たちは「あ、ガガイのガイ……」と歌うのを止めた。
そして、玉座に座っていた女王フジョーシ=ヤオイは。
「……ありえない……。童の……童の完璧な『最強女戦士が下品なカエルを勇敢に始末する』という筋書きが……。ただの『メンタル崩壊した小鹿の脱走劇』に書き換えられるなんて……」
女王は、絶望のあまり頭を抱え、その場に膝をついた。
「……対話は不要とか言ったけど、……もはや、……理解不能だ……。このカエル……本当に、……この世界の理を破壊する気なのか……?」
ワイは、逃げていったバルデッダの後ろ姿を見送りながら、彼女が放り投げた魔槍グングニルを拾い上げた。
「おーい、お姉さーん! www 忘れ物やぞ! www これ、孫の手代わりにするからな!! www 期待値MAXのプレゼント、サンキューやで!! www」
ワイは、ピカピカに磨き上げられた床の上で鼻血を拭った雑巾を掲げ、静まり返る観客たちに向かって、最高に醜悪なドヤ顔を晒した。
「見たか!! これがなんJの、……いや、ワイの無双や!! www 次、ワイを煽りたい奴は、まず床を100万回磨いてから来いやあああ!! www」
地下8.5階。
最強の崩壊と共に、なんJ民のクズの覇道は、さらなる深淵へと突き進んでいくことになった。




