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第23話:【絶望】洗脳魔法を完封された女王、あまりの屈辱に敵前逃亡ww 西の魔王の側近を退けた最強の槍使いに「あのカエルのケツを貫いて!」と泣きつき、地下8.5階での決戦が数週間後に決定へww

 ドラシール地下牢、地下8.5階。そこは女王フジョーシ=ヤオイが異端者を矯正し、自らのBL創作の考証係として強制労働させるための地獄のはずだった。だがそこに放り込まれたワイは女王の想定を遥かに超えるバグを露呈していた。


「……ふぅ。ええ感じに光ってきたな。期待値爆上がりやwww」


 ワイは女王から渡された新作BLのプロット案が書かれた原稿用紙をあろうことか雑巾代わりに使い、地下コロシアムの床をキュッキュと磨き上げていた。


「おい、クズ。……貴様、何をしている?」


 審判席から見下ろす女王の声が怒りで震えている。


「いやー、女王さん。ワイ、ニートやから仕事とか一番嫌いなんやwww でも床磨きはええぞ。無心になれるし、何よりやってる感だけは出るからな!! www 見てーや、この反射。あんたのガチムチ教典も映り込みそうやで!! www」


「……貴様に与えたのは我が国の存亡をかけた筋肉と愛の整合性を証明する聖なる任務だぞ!? それを、床掃除の道具にだと……!?」


 隣の独房で吊るされているローズが、力なくツッコむ。


「……やめなさいよ、……カエル……。女王様の……逆鱗……、マジで……死ぬ……」


「……もはや、対話は不要。貴様のその腐り果てた精神を我が魔術で根本から再定義してやる」


 女王フジョーシ=ヤオイが立ち上がり、双角の間にどす黒い紫色の魔力を凝縮させた。それは竜王家のみに伝わる最悪の精神操作魔法。対象の脳内にある性的嗜好・価値観・性癖をすべて書き換え、女王が定義する至高のBLのみを渇望する廃人へと変える禁断の術式である。


「……喰らえ!! 竜の魔法ドラゴンズマジック――【性的志向変換(BLパラダイス)】ッ!!」


 ドラシール地下牢、地下8.5階。竜王フジョーシ=ヤオイの双角から放たれた極大の精神操作魔術が轟音と共にワイを飲み込んだ。空を舞う紫色の雷撃、脳内に直接ガチムチ騎士たちの熱い抱擁を叩き込む視覚汚染。常人ならば一瞬で「筋肉……筋肉こそ我が命!!」と絶叫し、女王の忠実な同人作家へと成り下がるはずの禁忌の奔流。


 だが、魔力の嵐が過ぎ去った後。そこには眉ひとつ動かさず、再び四つん這いになって床に原稿用紙を押し当てるワイの姿があった。


「……キュッ、キュッ、キュ……www お、ここの汚れ、落ちにくいな。期待値低いぞwww」


「…………なっ!?(絶句)」


「………………ん? www 今、なんか風吹いた? www」


 ワイは鼻をほじりながら、ピカピカに磨き上げた床に座り込んでいた。


「…………なっ!? 」


「……女王さん。なんか紫の光すごかったけど、演出か? www それより、この床のワックス、もうちょっとええやつ用意してーや。期待値低すぎて滑らへんわwww」


「……馬鹿な。……ありえん!! 童の魔力が、……効いていない……!? 」


 女王は審判席から身を乗り出し震える手で鑑定の魔術を放った。そこで判明した事実はこの世界のコトワリを根底から覆すものだった。


「……このカエル、……魔力が一ミリも存在しないだと……!?」


 そう。この世界の魔法は対象の持つ魔力回路パスを通じて精神や肉体に干渉する。だがなんJ民という異世界のゴミであるワイには、魔法を受け入れるための最低限の魔力すら備わっていなかった。電波を受け取るアンテナがないテレビにどれだけ強力な電波を送り込んでも何も映らないのと同じ。ワイはこの世界の最強魔法を物理的にスルーする、存在そのものがバグの塊だった。


「……魔力がないから、精神操作も、性癖変換も、……すべて無効化される……。……そんな、……そんな無が存在していいはずがない……!!」


「……ヒエッ、女王さん、顔真っ青やんけ。www 大丈夫か? 無理な残業(魔力消費)は体に毒やで!! www」


「……童の最高位魔法が、……ただの掃除のBGM扱いだと……!?」


「あ、女王さん、今の光綺麗やったでwww 掃除のテンション上がるわwww それより、この攻め様が受け様の広背筋を愛でるシーンが書かれた紙、インクの吸いが良くてワックスがよお伸びるわ!! www ほら見てーや、鏡面仕上げやで!! www」


 ワイは魔法が効かなかったことを気にする素振りも見せず、当然のように床磨きの作業に戻った。このニートの鋼の精神と魔力ゼロの無敵体質の前に、女王のプライドは完膚なきまでに叩き潰された。


「……っ!! ……ひ、……ひぃっ!!」


 女王は思わず一歩後ずさった。自分の誇り、自分の信仰、そして自分のBL王権が一匹のカエルの掃除という極めて矮小な行為によって、無価値なガラクタへと書き換えられていく。このカエルは悪意ですらなく、ただの日常として自分の聖域を侵食している。その底知れぬ虚無に、最強の竜王は本能的な恐怖を覚えた。


「……こ、来ないで!! このバグめ!! 汚れ物を見るような目で私を見るなぁぁぁ!! www」


 女王は玉座を蹴り飛ばし背中の翼を無理やり展開させると、天井の出口に向かって猛烈な勢いで飛び上がった。


「えっ、女王さん!? www どこ行くんや!! まだ半分も終わってへんで!! www」


「……うるさい!! 貴様など、……貴様などもう物理で破壊してやる!! 覚えていろぉぉぉぉ!! 」


 竜の咆哮のような捨て台詞を残し女王は一瞬で姿を消した。後に残されたのは鏡のように磨かれた床と、呆然と吊るされているローズ、そして「なんやったんや、今の演出はw」と首を傾げるワイだけであった。






 王都のメインストリート。黄金の光を撒き散らしながら、一人の小柄なドラゴン(人間型)が地を這うような勢いで全力疾走していた。市民たちは「竜王陛下がジョギング!?」「何かのパレードか!?」と騒然となったが女王の顔はパレードどころか借金取りに追われるギャンブラーのような必死さに満ちていた。


 彼女が向かったのは王都の顔とも言える巨大な建物。冒険者組合ギルドである。


 バタンッ!! と、装飾の施された大扉が女王の蹴撃(魔力込み)によって跳ね飛ばされた。


「……オスカル!! オスカル・バルデッダはおるかぁぁぁ!! 」


 受付の職員たちが「ヒエッ、陛下!?」と椅子から転げ落ちる中訓練場の奥から、一人の長身の女戦士がゆっくりと姿を現した。





 王都の冒険者組合ギルド。そこは血気盛んな冒険者たちの溜まり場だが、その一角、訓練場だけは静謐な殺気に包まれていた。


「腰が入ってないぞ!! それで魔物を貫けると思っているのか!!」


 凛とした声が響く。声の主は、赤髪をポニーテールにまとめ、竜人族特有の鋭い双眸を光らせる女戦士、オスカル・バルデッダ。彼女はかつて、西の魔王が王都制圧のために派遣した最精鋭の側近三人を、魔槍グングニルの一振りで纏めて串刺しにし、撤退させたという伝説を持つ七勇者の一人。今は新兵の育成に励む生ける伝説である。


 そこへ、息を切らした女王が転がり込んできた。


「……オスカル!! オスカルはおるかぁぁぁ!! 」


「……陛下? 扉を壊すのは新人でもやりませんよ。それで、何の用です。私は今、次世代の槍使いの育成で一分一秒を惜しんでいるのですが」


 女王はオスカルの鎧の裾を掴み今にも泣き出しそうな形相で懇願した。


「……頼む!! 力を貸してくれ!! いますぐ地下にいる不衛生なカエルをその魔槍で消滅させてくれ!! 」


「……陛下。またBLのプロットが詰まったのですか? でしたら私は専門外……」


「違う!! 奴は魔法が効かぬのだ!! 私の性的志向変換を無視して我が聖なるBL原稿で床を磨き続けている!! あの虚無のケツはもはや貴様のグングニルで物理的に貫くしか止められんのだ!! 」


 オスカルは溜息をつき、背負った黄金の魔槍をトントンと叩いた。


「……魔法が効かない? 陛下、それは冗談が過ぎます。陛下の魔術レベルをカエルが無視するなど……」


「事実なのだ!!奴には魔力がない!! 魔力がないから精神を書き換えることもできん!! 奴は床を磨きながら私の渾身の物語を『期待値低いw』と一蹴したのだぞ!? こんな屈辱、ドラシール建国以来の汚点だ!!」


 オスカルの瞳が、わずかに細まった。西の魔王の側近すら屠った彼女の直感。女王がここまで取り乱すということはそのカエルとやらはただの生物ではない。……おそらくは、世界の理の外側に座す異端。


「……わかりました。そこまで仰るなら、私がそのカエルを槍の錆びにして差し上げましょう」


「おおっ!! さすがオスカル!! すぐに、すぐにやってくれ!!」


「……ですが、今は新米たちの昇級試験の準備があります。……私が地下へ向かえるのは数週間後になります。……それでよろしいですね?」


「……数週間、か……。……長いが確実な死をあいつに与えられるなら、……私は待とう!!」


 女王は、ようやく不敵な笑みを浮かべた。


「……フフフ、なんJ民よ。……お前の命もあと数週間だ。……西の魔王の側近を屠った最強の物理、魔槍グングニルの前にその磨き上げた床と共に串刺しにしてやる……!!」








 一方、そんな国家規模の物理討伐が決定したとも知らず。地下8.5階では、ワイがピカピカに磨き上がった床の上に寝そべり天井を見上げていた。


「……ふぅ。女王さん、えらい慌てて帰っていったなwww ま、定時退社はホワイト企業の基本やからなwww」


 隣の独房で絶望に顔を染めたローズが震える声で言う。


「……あんた、……逃げるなら今。……女王様が、……あんな必死な顔で……誰かを呼びに行った。……おそらく……ドラシール竜王国最強の戦士、オスカル・バルデッダ……。……数週間後に……西の魔王の側近を瞬殺した槍が……ここに来る……」


「ローズさん、考えすぎや。www それより、数週間暇になったし、……この広大な床を使ってなんか遊びでも考えよかwww」


 ワイはピカピカの床を指先で弾いた。


「……お。これ、野球盤の要領でなんかできるんちゃうか? www 期待値、……新たなステージに突入しそうやな……www」


 地下8.5階。最強の槍使いオスカル・バルデッダの襲来まであと数週間。この鏡の国と化した闘技場でなんJ民の新たなバグが芽吹こうとしていた。

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