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第18話:【朗報】ワイ、辺境伯の令嬢に禁断の魔導書(BL)を布教するwwwww

「……さて、健康食品さんの本社ビル、もといお城に着いたのはええけど……。www」


 ワイはエドワード辺境伯に案内され、城の最上階にある巨大な黒い扉の前に立っていた。そこは愛娘シルフィが一年もの間、一度も外に出ることなく引きこもり続けているという開かずの間。周囲には重苦しい静寂が漂い、騎士たちが遠巻きに心配そうな視線を送っている。


「シルフィ、父だ。……伝説のカミエシ、マスターを連れてきた。一度、話を聞いてはくれないか?」


 辺境伯の切実な訴えに対し、扉の向こうからは冷たい沈黙だけが返ってくる。


「……帰って。父様の期待に応えられない……角の折れ曲がった私なんて、誰にも見られたくないの……。……竜人としての誇りも、……強さも、……私には何もないから……」


 その消え入りそうな声を聞いて、ワイはなんJ民としての余計なお節介が臨界点を超えた。


 このお嬢ちゃん、真面目すぎるんや。竜人としての誇りとか、高潔な男女の道とか、そういう既存の固定概念に縛られて、自分で自分の首を絞めとる。


「……エドワードさん。www ちょっと筆と紙、あるだけ持ってきて。www あ、あとインクもダースで頼むわ。www」


「筆と紙だと? ……それで何をする気だ?」


「決まっとるやろ。www 既存の価値観で壊れた心はな……もっと強烈な新しい概念(げいじゅつ)で上書きしてやるのが一番なんや!! www」


 ワイは扉の前の廊下に机を運び込み、そこから一歩も動かずに執筆を開始した。描き始めたのはただの美少女イラストではない。2chの創作板や同人板で磨き上げた、人間の性癖の深淵を抉り出す究極の劇薬――「BLボーイズ・ラブ」や!!


「……フフフ。www お嬢ちゃん、お前の知ってる世界は狭すぎるんや。www 恋愛は男女がするもの? 騎士は強くなければならない? ……そんなもん、全部ワイが描く男同士の熱き絆(物理)でぶち壊してやるわ!! www」


 タイトルは……そうやな、「北壁の守護者:薔薇の刻印 ~冷徹王子の愛の教育(ちょうきょう)(仮)~」。


第一章:冷徹なイケメン第一王子(ドS)と、薄幸の辺境貴族(ドM)の最悪の出会い。


第二章:戦場での共闘。背中を預け合ううちに芽生える「友情」を超えた何か。


第三章:雨降る野営地。傷ついた貴族の胸元のボタンを、王子がゆっくりと外すシーン(描き込み200%)。


 ワイは一睡もせず(実際はたまに寝たけど)、辺境伯の館で出される豪華な食事(という名の福利厚生)をポテト感覚で貪りながら一心不乱に筆を走らせた。竜の髭で作られた特製の筆が紙の上でダンスを踊る。背景には網掛け(トーン)を使い分け、男たちの筋骨隆々とした肉体とそれにそぐわぬ乙女のような潤んだ瞳を完璧なバランスで融合させていく。


「……あ、マスター。……もう二週間もそこに座り込んで、大丈夫なのか?」


 エドワード辺境伯が心配して声をかけるがワイの目にはすでに脱稿(かんせい)の文字しか見えてへん。


「……完成や。www 全100ページ超え……。ワイの、……いや、なんJ民の全魂を込めた薄い本の完成やあああ!! www」


 ワイは山積みになった原稿を丁寧にまとめるとそれを一冊の分厚い本のように綴じた。そして、シルフィの部屋の扉の下にあるわずかな隙間の前に膝をつく。


「……おい、お嬢ちゃん。……聞こえとるか? www」


「……何……? まだ、いたの……?」


「これ、読んでみ。www お前さんの信じてる普通の世界がいかにちっぽけか、……この本が教えてくれるわ!! www」


 シュッ……。  


 一ページ目から順に、ワイは魂の原稿を扉の隙間から滑り込ませた。100ページを超える原稿が次々と部屋の中へと吸い込まれていく。最初は無反応だった扉の向こう側でやがて「カサッ……」と紙をめくる音が聞こえ始めた。


 一分、五分、十分……。沈黙が支配する廊下。エドワード辺境伯も固唾を呑んで見守っている。

 そして。


「……えっ……? ……うそ……。……えっ、えぇぇぇぇ……!? 」


 扉の向こうからシルフィの聞いたこともないような叫び声が響いた。それは悲鳴ではない。理解を超えた衝撃とそして……抑えきれない未知への興奮が混じった、歓喜の絶叫だった。


「……どういう、こと……。……男の人と、男の人が、……こんな……こんなに、……綺麗なの……!? 」


「せや。www 強い男が自分の弱さをさらけ出して、さらに強い男に屈服する……。お嬢ちゃん、これこそが究極の自己解放や!! www 角が曲がっとる? そんなもん、左から受け攻め(ポジション)を決めるための目印にすぎんわ!! www」


 ガチャン!!  


 一年間、誰も開けられなかった重厚な扉が勢いよく開け放たれた。


 そこに立っていたのは髪を振り乱し、両手にワイの原稿を抱きしめ、瞳を血走らせたシルフィだった。

 彼女は、目の前の黄色いカエル(ワイ)を見下ろし、震える声でこう言った。


「……あなたが、……これを描いたの……? ……この、尊さの極致を……?」


「せやで。www ワイはマスター。……いや、絵の世界の案内人や。www」


 シルフィはその場に跪き、ワイの手を(少し顔を背けながらも)両手で握りしめた。


「……師匠……!! 私を、……私を弟子にしてください!! ……この……この薔薇の道の続きを……私も描きたいんです!!」


 エドワード辺境伯は、娘のあまりの変貌ぶりに顎が外れそうになっていた。


「……し、シルフィ!? ……お前、部屋から出られたのか! ……よかった、本当によかった! ……が、……その紙に描いてある……上半身裸の男たちが絡み合っている絵は一体……」


「父様! 邪魔しないで!! ……今、私は人生で一番大切な真理(BL)に出会ったの!!」


 期待値、天井突破www  

 なんJ民のバグった才能が北の大地の令嬢を腐女子へと作り替えてしまった。ワイの宮廷絵師(?)としての生活は、ここから制御不能な領域へと突入していく。







「……いいか、シルフィ。筆を動かすんじゃない、……妄想を具現化するんや!! www」


 扉が開かれたあの日から辺境伯の館の空気は一変した。一年前まで死んだような顔をしていたシルフィは今やワイのことを師匠と呼び、一日18時間の執筆作業をこなす重度の腐の求道者へと変貌を遂げていた。


「師匠! 見てください! 門番のガルドさんと若手騎士のルカ君が訓練中に視線を交わすシーン……。ここに切なさのハイライトを追加しました!! 」


「……お、おぉ。www シルフィ、お前才能ありすぎやろ。www 特にこのガルドさんの厚い胸板の描き込み……。お前、竜人族の誇り(筋肉)を理解しすぎやろ!! www」


 ワイはかつてなんJで絵師(自称)として培った、あらゆる性癖をデフォルメし物語に昇華させる技術を惜しみなく伝授した。シルフィはそれを人生の真理として吸収。彼女の部屋はもはや開かずの間ではなく、世界最先端の同人誌制作スタジオへと進化していた。





 一方、娘を救ってもらったはずのエドワード辺境伯(健康食品の社長)は深刻な悩みに直面していた。


「……マスター。……聞きたいことがある。……最近、我が騎士団の者たちが、……妙に背後うしろを気にして歩いているのだが……」


「あぁ。www それはシルフィが、彼らの日常的な動作をスケッチしとるからや。www 筋肉の動きとか、汗の飛び散り方とか……。芸術の探究には犠牲モデルが必要なんやで!! www」


「……だが。……壁に貼られたあの絵……。我が最強の部下二人が、……服を脱ぎ捨てて抱き合っているのは……。あれも北の守護に必要な工程なのか?」


「当たり前やろ!! www 精神的なホモが深まってこそ、最強の連携コンボが生まれるんや!! www エドワードさん、あんたも一枚描いてみるか? www」


「……い、いや。私は遠慮しておこう……。しかし、娘がこれほど活き活きとしているのは、……奇跡……奇跡なのだ……。……うむ、……良しとしよう……!!」


 辺境伯は、娘の笑顔と引き換えに、自らの館が腐のオーラに浸食されていくのを黙認するという、究極の親バカ(マネジメント放棄)を選択した。






「……はぁ、はぁ。……やっと、着いた。……あの、カエル……絶対に、逃がさない……」


 茨の魔女ローズは三週間の強行軍と一ヶ月の昏睡を経てついにエドワード辺境伯の館の正門へと辿り着いた。だが、そこには彼女の魔女としての常識を根底から覆す絶望が待っていた。


「止まれ! この先は辺境伯閣下の令嬢・シルフィ様が管理する聖域だ。……入城を希望するならば、……これを書け」


 門番の騎士(なぜか制服のボタンが三つほど外されている)が、ローズに一枚の紙を突きつけた。


「……何、これ。……入城申請書、じゃないの……?」


 ローズが震える手で受け取った紙には、こう記されていた。


【問一:あなたは『受け』派ですか? 『攻め』派ですか? その理由を400字以内で述べよ】


「…………は?」


「答えろ! 貴殿の属性が我が館の風紀……いや、創作の調和を乱さぬものか厳しくチェックさせてもらう!」


「……知らない、そんなの!! 私は魔女! 公務で来てるの!! どいて!! 」


 ローズが力ずくで突破しようと茨を繰り出すが、騎士たちは動じない。


「……無駄だ。この館の壁には今、お嬢様が考案した『禁断のカップリング結界』が張られている。……尊さを理解せぬ者の魔力は、すべて中和されるのだ!!」


「……嘘。……魔術が、……萌え(?)に負けるなんて、……そんなの……始末書、書けないじゃない!! 」


 ローズは結局、門の前で三時間もの間騎士たちからいかに男同士の絆が美しいかという洗脳(レクチャー)を強制的に受け、魂が半分抜けかかった状態でようやく入城を許された。





 館の廊下を進むローズの瞳には、もはやハイライトは残っていなかった。


「……何、これ。……この館、……呪われてるの……?」


 廊下の壁一面に貼られた精緻なデッサン。そこには、筋骨隆々とした竜人騎士たちが互いの首筋に顔を寄せたり、涙を流しながら抱き合ったり、……中にはそれは構造的に可能なのか?と問いたくなるような、情熱的な絡みのイラストが、延々と続いていたのだ。


「……嘘。……魔女の私ですら、……こんな、……冒唆的な魔導書、見たことない……。……何なの、……この、……湿度の高い、……不気味な情熱は……!?」


 一方、館の中庭。そこでは、シルフィが陣頭指揮を執り騎士たちにポーズを指定していた。  


「ガルドさん! もっとルカ君の手を強く握って! 瞳に宿る秘めた愛を表現するんです!! 」


「は、はあ……。お嬢様、こうですか……?」


「そう! それです!! 師匠! 今です、この角度からシャッター(スケッチ)を切ってください!! 」


 ワイは、一段高い椅子にふんぞり返り、ふんふんと鼻歌を歌いながらペンを走らせていた。


「最高や、シルフィ。www これ、次号の辺境薔薇通信(同人誌)の表紙確定やな!! www 期待値、もはや宇宙レベルやあああ!! www」


「………………見つけた」


 背後から、凍りつくような怨念が漂ってきた。ワイが恐る恐る振り返ると、そこにはあまりの光景の異常さに白目を剥いて震えているローズが立っていた。


「……あんた。……何、……させてるの。……この、……北の大地の、……高潔な騎士たちに。……そして、……この、……純粋そうな、……女の子に……!!」


「ヒエッ!? www ローズさん、生きてたんか!! www ちょ、落ち着け!! www これ、教育(福利厚生)や!! www 芸術の多様性を教えてるだけやから!! www」


「…………無理。……理解不能。……こんな、……バグ、……世界から、……消去しないと……。……私の脳が、……腐っちゃう……!!」


 ローズが、巨大なハサミを「ガシャン!」と構えた。  

 だが、その瞬間。


「……師匠に、指一本触れさせません」


 シルフィが鋭い目つきでローズの前に立ちはだかった。その手には、ワイから授かった黄金の羽ペンが握られていた。


「……この方は、私の魂の救済者。……そして、この館を聖域へと変えた神です。……貴女のような、……男同士の絆を理解できない野蛮な魔女は、……今すぐ去りなさい!!」


「………………はぁ!? www」


 社畜魔女ローズ、かつてない強敵(重度の腐女子令嬢)と対峙。ワイを巡る監視という名の残業はいつの間にか芸術の解釈違いを巡る、地獄の全面戦争へと発展しようとしていた。


「……もう、嫌。……帰りたい。……でも、……このカエルだけは、……絶対に、……連れて帰る……!!」


 北の館に、魔女の絶叫と、令嬢の「尊い……」という溜息が響き渡った。

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