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第17話:【朗報】ワイ、体臭で魔女を撃退し、辺境伯に伝説の神絵師と勘違いされて無事スカウトされるwww

「……ふあぁ。……やっと、寝られる。……これが、仕事なんだから、……文句言わないでよ……」


 茨の魔女ローズは三週間の不眠不休という地獄の行軍の果て、ようやく獲物(ワイ)を捉えた。彼女はワイをぐるぐる巻きにした茨の繭を抱き枕にする形で泥のような眠りに落ちようとしていた。


 だが、彼女は計算を誤っていた。ワイがこの数日間、村の老夫婦に甘え特産のドラコ芋をドラコの実の油で揚げた超高カロリーフライドポテトを連日連夜むさぼり食っていたことを。


 毎日風呂に入れられ、石鹸で磨き上げられていたワイの皮膚は表面上は清潔そのもの。しかし、その毛穴の奥底には摂取しすぎた古い油と酸化した汗、そしてなんJ民としてのドロドロした精神性が煮詰まったヘドロのように凝縮されていたのだ。


「……う、……ぐ。……な、……に。……これ……」


 ローズが密着した瞬間、彼女の鋭敏な五感を襲ったのは石鹸の微かな香りを瞬時にシュレッダーにかけるほどの激臭のビッグバンだった。それは真夏のネットカフェの個室を煮出し、そこに一週間放置した揚げ物の油をぶっかけたような存在そのものが生理的嫌悪を体現した香り。


「……無理。……これ、……清潔な、……臭いじゃない。……内側から、……腐ってる……。……酸化した、……脂の……暴力……」


 三週間の不眠で免疫力が底をついていたローズの脳はこの刺激を致死性の精神攻撃と誤認。防御反応として、強制的に意識をシャットダウンさせた。


「……あ、……世界が、……茶色い……。……ポテトの、……死神が、……見える……」


 パタッ


 魔女ローズ、公務中に監視対象の体臭によって気絶。さらに、彼女が編み上げた魔力の茨がワイの毛穴から滲み出るドロドロの酸化油汁に触れた瞬間、ジュウゥ……と不浄な音を立てて腐食し始めた。魔術という純粋な構成体が、なんJ民の不純な排泄物に耐えきれず自壊を起こしたのだ。


「ヒエッ!? www 風呂上がりやのに秒で気絶された!? www 茨もボロボロに溶けていくし、ワイの体、もはや歩く汚染物質バイオハザードやないか!! www」


 泡を吹いて倒れたローズをゼフさんとミラさんは「よほど疲れていたのね」と(鼻を固くつまみながら)離れに運び手厚く看病を始めた。自由の身になったワイは逃げることもできた。だが、ワイは逃げへんかった。


「……アカン。ここで逃げたら、ワイの期待値が下がるだけや。www それに、この老夫婦にこれ以上迷惑はかけられんからな。www」


 それから一ヶ月。ローズが精神的ダメージと過労のダブルパンチで爆睡し続ける間、ワイは村の生活にどっぷりと浸かっていた。毎日朝早くから畑に出て竜人族の大人たちと一緒に汗を流す。規則正しい労働。ミラさんの愛情たっぷりの飯。そして毎日の風呂。  


「おじちゃん、これ持って! 重いよ!」


「まかせとけ! ワイの脚力(ジャンプ力)があれば、こんな肥料袋、羽毛みたいなもんや!! www」


 なんJに浸っていた頃のワイからは想像もつかないほど、今のワイは健康的で有益な生き物として村に必要とされていた。


「……なんやろ。……ワイ、もしかして人生の正解を見つけてもうたんか? www ネットがなくても、ポテトと子供たちの笑顔があれば、それでええ気がしてきたわ……」


 ある日の午後。農作業の休憩時間、ワイは子供たちにせがまれて筆を執った。筆といっても、ゼフさんが作ってくれた竜の髭の筆と、植物の汁から作ったインクや。


「ええか、お前ら。……ワイは昔、2ch(伝説の掲示板)のお絵かきスレで神絵師として崇められた男やぞ。www ちょっと待っとけ、岩をキャンバスにして本物の美を教えてやるわ!!」


 ワイは村の広場の乾燥した岩にさらさらと絵を描き始めた。描いたのは、竜人族の子供たちをモデルにした超絶クオリティの萌え擬人化イラスト。竜人特有の角をチャームポイントとして強調し、大きな瞳と繊細な表情、そして絶妙なデフォルメで構成されたこの世界には存在しない可愛さの暴力。


「……わあぁっ!! これ、私!? 凄く可愛い!!」


「おじちゃん、これ魔法!? 岩に描いた絵が、生きてるみたいだよ!!」


 子供たちは大興奮。ワイは調子に乗って子供一人ひとりをアニメキャラ風にデフォルメして描いていった。それは単なる写実画ではない。見る者の脳を直接刺激し守りたいと思わせる21世紀地球の叡智――MOE(萌え)の具現化だった。


 その熱狂の最中。 村の入り口に鋼の鱗を思わせる重厚な装飾が施された、巨大な馬車が止まった。降りてきたのは鋼の鎧に豪華な毛皮のコートを羽織った、威圧感の塊のようなおっさんだった。


「……なんだ。この……胸を締め付けるような愛おしさは。……これまで王宮や戦場で見てきたどんな芸術よりも私の武人の魂を激しく揺さぶる……」


 おっさんは震える足取りでワイに近づき、じっとその黄色い顔を見つめた。


「……絵師殿。いや、マスター……。私はエドワード、この地を預かる辺境伯だ。君か。この、……救い(萌え)を描いたのは」


「ヘ、ヘンキョウ……ハク? www なんやそれ、新しい健康食品の名前か? www それとも、演歌歌手のステージ名か何かか? www」


 ワイは首を傾げた。なんJ民の知識層において封建制度の爵位など「なんか偉そう」止まり。辺境伯が王に次ぐ軍事権力を持つガチの権力者であることなど、一ミリも理解していなかった。


「……まあ、よく分からんけど、落書きしてすんませんでした!! www 今すぐ消します!! www」


「消すなどと、とんでもない!!」  


 エドワード(健康食品)は、ワイの両手を少し鼻をすすりながら力強く握りしめた。


「我が娘、シルフィは竜人としての責務に押し潰され、もう一年も自室から出てこぬ。……だが、君のこの自由で、愛らしく、魂を解放するような絵を見れば彼女の心に再び希望が灯るかもしれん! ……頼む。抱え絵師として、我が館へ来てくれないか? 娘にこの……新時代の芸術を伝授してほしいのだ!」


「……え、……抱え絵師? www つまり、ワイが描く萌え絵を認めてくれるんか!? www 報酬は!? 報酬は、揚げたてのポテトが出るんか!? www」


「ポテト? ああ、そんなもので良ければ蔵が溢れるほど用意しよう!」


「……お、……期待値、……銀河の彼方まで突き抜けたあああ!! www 行くで、エドワードさんの家!! www 蔵いっぱいのポテト、ワイが全部食い尽くしてやるわ!! www」


 一ヶ月間眠り続ける魔女のことなど、ワイの脳内からは完全に消去されていた。「ヘンキョウハク」という響きの良さに惹かれていた。







「……ゼフさん、ミラさん。本当にお世話になったわ。www」


 辺境伯の豪華な馬車が村の入り口に到着した翌日の朝。ワイは、自分の背丈ほどもある大きな袋を抱えて、老夫婦の前に立った。中に入っているのは、この一ヶ月、農業で泥まみれになって得た給金と辺境伯から契約金として前借りした金貨、そしてワイが夜な夜な描き上げた村の日常の絵や。


「おやおや、こんなに沢山の金貨……。お前さん、無理をしたんじゃないか?」


「ええんや。www 命を救ってもらった期待値に比べたら、こんなもん端金やからな!! www ミラさん、この絵は飾っといてや。村の皆が笑っとる一番ええ瞬間を描いといたから」


 ワイは、自分をバグでも怪物でもなくカエルさんとして扱ってくれた二人の節くれだった温かい手を握った。


「……じゃあな。ワイ、もっと偉くなって、この村にポテトの工場建てに来るからな!! www 雇用創出して、村おこしや!! www」


 ミラさんは目元を拭い、ゼフさんは無言でワイの背中を叩いた。離れで爆睡しているローズの枕元には「残業頑張れよw」という煽りメモと冷めても美味い特製ポテトを置いて、ワイは馬車に乗り込んだ。


 馬車は雪の残る街道を、辺境伯の居城へと向かって進む。向かいに座るのは鋼の意志を感じさせる眼光のエドワード辺境伯。


「……改めて礼を言う、マスター。我が領地、そして我が家系にとって君のような異才はまさに天の配剤だ」


「いやいや、エドワードさん。www あんたも景気ええな。この馬車、サスペンション効きすぎやろ。www さすがはヘンキョウハクやな。やっぱ、健康食品は儲かるんか?」


「……ケンコウショクヒン? いや、私は北の守護を任されている身だ。民の健やかな暮らしを願うという意味では間違ってはいないが……」


 エドワードは辺境伯を北の防波堤となる最強の軍事官職として語り、ワイはそれを北の大地でサプリメントとか売ってる会社の社長として解釈してしまった。


「なるほど、北の守護マーケットシェアか。www 競合他社とか大変そうやな。www」


「……ああ。奴らは容赦なく境界を侵してくる。だからこそ私は娘に竜人の誇りを教えようとしたのだが……それが逆にあの子を追い詰めてしまった」


「おっちゃん、それはマネジメントの失敗や。www 誇り(ノルマ)ばっかり押し付けても、社員(娘)はメンタルやられるだけやぞ。www これからはワイの萌え(福利厚生)の時代や!!」


「……萌え(ふくりこうせい)……。そうか。マスター、君の言葉は難解だが本質を突いている気がするな」


 エドワード辺境伯はワイの適当な発言を深淵なる芸術家の哲学と脳内変換し、尊敬の念を深めていった。


 到着したのは、岩山を削り出して作られた巨大な城。ワイは「本社ビル、デカすぎやろwww」と驚きながら最上階の開かずの間へ。


「シルフィ、父だ。……今日は、カミエシもといマスターを連れてきたぞ」


「……帰って。……私は、……竜人の誇りに応えられない、……失敗作なんだから……」


 

 



 一方その頃。村の離れで、一ヶ月ぶりに異臭ショックから回復したローズがゆっくりと目を開けた。


「……はっ。……私、……何してたんだっけ。……そうだ、……あのカエル。……監視……」


 彼女は慌てて飛び起き、枕元にあるワイの書き置きを見た。


『ローズさんへ。ワイは健康食品さんの家で絵師になることにしました。www 隣のポテト、ミラさんに作ってもらったから食えよ。仕事(残業)頑張れ。www』


「………………は?」


 ローズは冷めたポテトを一本口に運び、そのあまりの美味さと自分を置いて玉の輿に乗ったなんJ民への怒りでボロボロと涙を流した。


「……ふあふけるなふぉ……!!(ふざけるなよ) ……私が、……どれだけ苦労して、ここまで来たと思ってるの……!! ……スカウト? ……絵師? ……ふざけるな。……仕事(監視)は、……まだ終わってないんだよぉぉぉ!!」


 ローズは巨大なハサミを背負い、怒りによって赤黒く変色した茨をなぎ倒しながら辺境伯の館へと向かって走り出した。

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