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第11話:【逃走中】ワイ、借金取りとメンヘラ聖女、地雷精霊の包囲網を煽りスライディングで突破www

 交易都市メテンの夜が明け、湿り気を帯びた朝日が路地裏に差し込む。ゴミ捨て場の隅、腐った木箱の陰で丸まっていた黄色いデブガエルことワイは、全身を襲う激痛と空腹そして何より記憶の底にある最悪の現実に叩き起こされた。


「……アカン、夢じゃなかったわ。ワイ、昨日のカジノで全財産溶かしたどころか、最後の一勝負で次勝ったら100倍にして返すから!とかいうなんJ民特有のガバガバ理論で街の闇金融から金を借りてた気がする……」


 黄色い手を震わせながらワイは己の懐を探る。出てきたのは空っぽの財布と血判(というかカエルの足跡)が執拗に押された借用書の控えだった。そこには利息を含めて到底返せるはずのない金額が返済期限「今すぐ」という無慈悲な文言と共に書き殴られていた。


「1,500シルバーの借金……。ポテト何個分やこれ。……いや、待てよ。冷静に考えれば、昨日のルーレットは赤が3連続で出た後やったんや。統計学的には次こそ黒が出る確率が高かったはずや。ワイの運が一時的に下振れしただけで、理論上はワイが勝ってたはずなんや……! 確率の神様がワイを煽っとるだけや……!」


 そんな惨めな屁理屈を捏ねていると路地裏の入り口から、石畳を削るようなドスドスと重い足音が響いた。


「……おい、黄色いデブ。例の貸し、いつ返すつもりだ?」


 現れたのはメテンの裏社会で回収率100%を誇る凶悪な貸金業者、鉄拳のドナルド。その後ろには山賊上がりの屈強な男たちがトゲ付きの棍棒や魔力を帯びた重厚な鎖をジャラジャラと鳴らしながら控えている。


「ヒッ……! ど、ドナルドさん! 早いですわ! まだ太陽が上がったばかりじゃないですか! せめてモーニングポテトを食べてから相談させてくださいよ!」


「カジノの借りはその日のうちに耳を揃えて返すのがこの街のルールだ。お前、昨日は竜王を倒した報酬がすぐ入る。ワイは英雄やぞとか抜かしてたが、ギルドに確認したら報酬は現在、王都の審査待ちで数ヶ月かかる。しかもあのカエルの正体が不明なので支払いは保留だって話じゃねえか。……今すぐ払えねえなら、その黄色い皮を剥いで、高級食材イエロー・フロッグの香草焼きとして王都の高級レストランに売り飛ばすぞ」


「皮剥ぐのはアカン!! ワイのチャームポイントはこの健康的な黄色い肌なんや! これ剥いだらただの不衛生な肉の塊になってまう!!」


「待ちなさい。……その汚い手で、私のあなたに触れようというの?」


 背後から氷点下の殺気を孕んだ声が響く。聖女リリィだ。彼女は血走った目でメイスを構え、借金取りたちを睨みつける。その瞳には慈愛など微塵もなく、ただ獲物をどう解体するかという計算だけが渦巻いている。その背後には宙に浮きながら「あらあらキミ、また無駄遣いしちゃったの? 本当に一人にしておけない子ね」と、呆れながらも慈愛(?)に満ちた目で加湿魔法を振りまく水の精霊カミラの姿もあった。


「リリィさん! 助けてや! この人ら、ワイを食材にしようとしとるんや!」


「安心して、あなた。……借金なんて返せなければその人たちをこの世から消去すればいいだけよ。死人に貸しを作る権利はないもの。……ねぇ、そうしましょう? 邪魔なものを全部消して、その後で二人で天国へ心中しましょう……? 永遠に借金もポテトもない静かな場所へ……」


 リリィの魔力が膨れ上がり、周囲の空気がパチパチと神聖な殺意の火花を散らす。借金取りたちも一瞬怯んだがドナルドは鼻で笑った。


「ほう、元聖女様か。だがこいつが借用書にサインしたのは事実だ。聖騎士団に通報されたくなければ、さっさと金を……」


「ねぇキミ、私の水を一滴100シルバーで売ってあげようか?」  


 カミラが割り込むように、ワイの耳元で甘く囁いた。


「それなら15滴で完済だよ。……あ、でも代わりに、一生私の水槽の中で観賞用カエルとして暮らすのが条件。毎日私が直接、君の黄色い背中を洗ってあげる。……逃げ出さないように、魔法の首輪をつけてね?」


 ワイは本能的に察した。借金取りに捕まれば食材にされる。リリィに頼れば心中させられる。カミラに頼れば一生水槽のペットにされる。


「アカン……!! 全部期待値マイナスや!! ワイの人生、ボーナス確定演出かと思ったら全部ハズレフラグやったんか!!」


 ワイは咆哮した。といっても悲鳴のような声だ。だがその瞬間、ワイは全身の黄色い皮膚から分泌されるストレス性のヌメリを最大化した。


「どけえええ! 判定の弱いモブどもがああああ!!」


 ワイは地面を蹴るのではなく、滑った。ドナルドの股下をまるでオイルを塗ったボウリングの玉のように滑り抜ける。


「なっ!? 滑っただと!? お前ら、捕まえろ!」


「おい、ドナルド! お前のその指示、初動が遅すぎて草www 指導者の器スライム以下やんけ!! www」


 滑りながら放つ渾身の煽り。ドナルドの顔が屈辱で真っ赤に染まり、冷静な判断力が霧散した。その隙にワイはゴミ捨て場のバリケードを弾丸のように突破し、メテンの目抜き通りへと躍り出た。


 目抜き通りには、朝市を準備する商人たちが溢れていた。そこを黄色い物体が時速40キロで爆走していく。


「退け退け! 英雄様のお通りや! www 邪魔する奴はワイと一緒にリリィさんのメイスで粉砕される権利をやるぞ!!」


「逃がさない……逃がさないわ、あなた!! 障害物はすべて神の御名において排除する!!」


 背後で轟音が響く。リリィがワイを追うために邪魔な屋台や借金取りをメイスの一振りで文字通り消滅させながら突進してくる。さらに上空からはカミラが「キミ、お肌が乾燥してるわよ?」と言いながら、巨大な水の弾丸を雨あられと降らせてくる。当たれば最後、水牢に閉じ込められて一巻の終わりだ。


「ヒエエエエ!! 聖女様のやってることが魔王より凶悪で草www カミラさんも加湿が物理攻撃になってるんよ!! www」


 ワイは並んでいる果物カゴをジャンプ台にし、空中で一回転しながら追いすがってきた借金取りの顔面に黄色い尻を叩きつけた。


「お前、その棍棒の振り、大振りすぎて見てられへんわ! www 予備動作でワイに昼寝する時間与えてどうするんや! www」


「ぐ、ぐわあああ! このカエル口が……口がうるせえええ!!」


 地上はリリィとカミラに支配されていると判断したワイは通気口からメテンの広大な地下水路へと飛び込んだ。暗闇と悪臭。しかし、ワイにとっては黄色い体を隠す絶好の場所……のはずだった。


「……ふふ、ワイ君。水路なら、私の独壇場だって忘れたの?」


 水路の壁から、カミラが染み出すように現れる。


「ここなら誰にも邪魔されずに、君をじっくりと……」


「アカン、精霊さんはチートやんけ!! www」


 ワイは必死に汚水の中を泳いだ。すると、水路の先から「あなたぁぁ……どこ……? 暗いところは、心中にはもってこいね……」というリリィの声が反響してくる。


「前はカミラ、後ろはリリィ、下はドブ……。ワイの人生詰みのバリエーションが豊富すぎて涙出るわ!! www」


 ワイは水路の天井にある古い配管を見つけると、そこに黄色い手でしがみつき逆さまになったまま移動を開始した。


「おい、そこにおるカミラさんの分身! お前のその水の表現、解像度が低くて偽物臭いぞ! www 本物の精霊ならもっとキラキラしてみせろや! www」


「……なんですって? 私の美しさにケチをつけるなんて……!」


 プライドを刺激されたカミラが一瞬動きを止めた隙に、ワイは非常口のハシゴを駆け上がった。


 地上に出た場所は、メテンの西門付近だった。門番たちは突然現れた全身泥まみれで真っ黄色なデブカエルを見て硬直している。


「おい、何だお前は!」


「ワイは伝説のンゴンゴ・キラーや!! www お前のその槍、錆びすぎてて竜の皮どころか豆腐も刺せんやろ!! www さっさと門を開けろ。後ろからガチの魔女が来とるんや!!」


 門番が怒りで顔を真っ赤にした瞬間、背後の建物がリリィの神聖爆発で吹き飛んだ。


「見ぃぃぃぃつけたぁぁぁぁ!! あなたぁぁぁ!!」


「ヒッ!! きたああああ!!」


 ワイは城門の跳ね橋が上がる寸前、その先端まで一気に駆け上がった。背後には借金取りたちの叫び声、リリィの狂気に満ちた叫び、そしてカミラの水の咆哮が渦巻いている。


「あばよ、メテン! www ワイは自由な荒野へ羽ばたくんや!! 期待値は常に逃げた先にあるんやああああ!!」


 ワイは黄色い体を弾丸のように丸め、城壁の外へとダイブした。それは英雄の帰還でもなければ、聖女の救済でもない。ただの一匹のクズカエルが借金と責任から全力で逃げ出した。あまりにも惨めで、あまりにも必死な奇跡の瞬間だった。


「……待って……! 待ってよ、あなたぁぁぁ!!」


 荒野に響き渡るリリィの絶叫を背に、ワイは転がるようにして藪の中へと消えていった。


「ハァ……ハァ……。逃げ切った……。ワイは勝ったんや……。借金1,500シルバーからワイのプライドを守り抜いたんや……!! www」


 だがその手には一銭もなく、目の前には食料もない。ワイの本当の地獄はここから始まるのであった。

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