勝手に通訳志望
「オイは、せからしかっちゅっとる!」
訛りの酷いクラスメートの石井。の後ろには、必ず通訳の堀河がいる。
「『僕は、うるさいと言っている!』って言ってるぜ!」
「そげな事言っとらん!」
「『そんな事言って無い!』だって。言ってんじゃんね?」
軽い。通訳志望なのに軽すぎる。ちなみに、今から学級委員を決めるらしい。
「はーい!」
「塔岸さんどうぞ。」
シスターがにこやかに蜜柑を差した。
「学級委員長は、ドルドルドルドル…ドドン!グレープがいいです!」
「中途半端なドラムの音やめろ!ってか、俺には無理だし!」
「そげんこと無か!」「『そんな事はない。』ってよー。」
「るせぇな!通訳は黙ってろ!」
はい。八つ当たりしました。
「あー!私が副委員長でお願いしまーす!」
「塔岸さん、確か学年首席よね。…頭が痛いわ。」
「え。学年首席は一城じゃん。」
ざわめくクラス。
「二人とも、満点だったの。あら、プライバシーだったわね。」
「私はおバカキャラに憧れてたんです!先生のバカ!」
「なんですって?」
「すいませんでした!」
素早く席に着く蜜柑。
「他に希望はありませんか?」
「はい!」
「堀河くんどうぞ。」
「俺、通訳志望です!」
バカじゃねぇのー。と教室で野次が飛ぶ。
「そうですね。通訳ではなく、解説者つまり書記はどうですか?」
いや、無理矢理だから。蜜柑とか頷きすぎだし。バカだろ。
「はい!俺、書記になる!」
「と言うワケで、学級委員長の諸越くんと、副委員長の塔岸さん、そして、書記の堀河くんで決定しました。」
「ちょっ!俺は嫌だから!」
「グレープ行こ!」
黒板の前で自己紹介と言う事に。
「どうにか教室をまとめます。よろしく。」
笑いが起こる。俺普通に話しただけだよな。
「はいはいはーい!私、オレンジはグレープの右足になりまーす!よろしくね!」
『右腕だし!』
クラス中が綺麗にハモった。
「俺は通訳志望なんで、いつも通り石井の通訳をしまーす。」
…お前書記だろ。
とは誰もツッコめないでいた。
そんなこんなで昼休み。
「グループ!」「紫庵くーん!」
押し合いながら、一城と薔薇色の恋先輩が教室に乗り込んで来た。いや、マジで乗り込んで来た感じだから。
「ちょっとー。私を忘れないでよね!」
「蜜柑はええねん。ライバルおらへんもん。グレープ。俺も学級委員長になったんや。仲間やなぁ。」
頭を撫でられる俺。男に撫でられても嬉しいワケがねぇ!
「キモい!撫でんな!」
「紫庵くん!薔薇色弁当作って来たの。受け取って下さい!」
さすが告白女。前弁当開けたら、薔薇の花びらがマジで入ってたから!いや、食えねぇから!
「あー、有難いんすけど、俺もう食ってるから。」
「こんな質素なお弁当、紫庵くんには似合わないよ!」
「はぁ…疲れる。」
この先輩の頭、マジ薔薇色で付いてけねぇ。可愛いのにマジ勿体ねぇ。
「はい。薔薇色おにぎりあーん。」
「げ!…う。あーん?」
バリッ…
バリッつったし。てかてかてか。
「なんすか。この緑の…。」
「クンクンクン。トゲの部分やな。」
俺は直ぐ様トイレに走った。
「俺もトイレー。」
自称通訳の堀河がついてきたし。
「ねぇ、グレープって色原先輩の事好きなのか?」
「はぁ?…ごくん。げ。棘飲んじまった。保健室!」
堀河の鋭い目に、怖じけずいた俺は情けなく逃げてしまった。所詮はガリベンのナヨり族。人間はすぐには変わらねんだよ。