芸人は歯が命!?
ズキズキピリピリ
授業中に貧乏揺すりする俺。
「ぬーん。ど?ぬーん!」
隣で塔岸が変顔して笑わせてくる。けど、今は笑えねぇ。
いてぇんだよ!
歯が!痛い!
授業が終わり、騒がしいヤツが乱入してきた。
「おはよーさん。」
「キャー!一城ー!」「ウインクしてー!」
「せやなぁ。グレープがお願いしたらウインクでも何でもしたってええでー。」
「耳元でしゃべんな!」
毎日毎日、俺を妨害してる男。望月一城。
「グレープー。ガムあげようか?」
ガタタン!
見事にイスからひっくり返ってしまった。
「ノーセンキュー!」
「蜜柑に染まっとるで?」
「今まで私があげたお菓子断った事なかったのに!まさか!?」
やべ。バレた?別に隠してはねぇけど。
「ダイエット中?」
「ちげぇよ!」
「虫歯やな?」
「ちげぇ…くない。でも何か虫歯とは違うんだよ!奥歯が肉を破ってる感じの痛さなんだよ!」
シーン
プッ…
静まる教室の中、望月が笑った。
「親知らずやろ?グレープがボケるなんて珍しい事もあんねんな?」
「親知らずって」
「なんだよ?」
塔岸と俺はハモるように言った。
「ええか?親知らず見つけたらな奥のいらん歯をこーんなでっかいペンチで引っこ抜くんや!ミシミシ言うんやで!相当な血ぃ出るでー!」
俺と塔岸は、両手を握り合った。だってこえぇだろ!グロいだろ!
「知り合いの歯医者紹介してやるわ。」
そう言いながら、望月は携帯をかけだした。
「猿ちゃん?…ちゃうか、俺の親友がな、親知らず見つけてん……ん、今日でいいん?…よろしゅうな。」
ピッ
「てなワケで、放課後迎えに来るわ!」
いつ親友になったんだよ!とかツッコミ入れる余裕がなかった。最後にウインクして自分の教室に戻ってった望月。
「逃げよ!」
「もういい。俺はここまでだ。」
「諦めちゃだめ!」
「二人とも、授業始まってますよ?」
シスターの眉間に皺ができていた。
「じゃじゃじゃーん!救世主登場やで!」
放課後…この時が来たんだ。
「テンションたけぇな。」
「大人になれるんやで!くれぐれも…」
『失禁すんなや?』
うわぁ!神様助けて!
なんだかんだで、望月と帰るのは初めてだ。
「すぐそこやで!」
「てか、俺5千円しか持ってねぇし。ほけ」
「んなんええって!」
カランカラン…
ここに足を踏み入れれば、でっかいペンチで引っこ抜かれる!
「親知らずがやで。おもろいから俺待っとくわ!」
順番はすぐに来た。
「一城の友達なんか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「なかなかの好青年やね。じゃ、麻酔打つから口開けて。」
麻酔?
とりあえず口をあける俺。
カチッカチッ
「しみるかも知れんけど我慢しいや。」
なんだよ。このチクチクすんの!つか、腫れてる感じする。感覚おかしくなった。
「はい。うがいして待っといてな。」
なんだこれ。足がガクガクして来た!逃げたい!ペンチが来る!
約10分後。
「気分悪くない?」
「はい。」
「はい。口を開けて、ちょい閉じて、そう。」
ギシ…ギシ
「…とりにくいな。」
いや、ギシギシ言ってますけど。痛くない。麻酔ってスゲー。麻酔様感謝!
グギッグギッ
「はい取れたよ。あと三本あるから、左下はバイ菌がちょっと入っとって、抜いた後頬が腫れるかも知れんから休みの前の日に来てな。」
待合室。
「どうやった?」
「でっかいペンチなんてなかったじゃねぇか!」
「ちびったん?」
「足がガクガクしたけど悪いか?」
なにはともあれ、上手い歯科医を紹介してくれて良かった。
一様、望月に礼は言っといた。
「そういやさ、俺親友なのか?」
「ちゃうん?」
会って短いけど、微妙に嬉しくて笑ってしまった。
親知らずはお早めに抜こう!全然怖く無いぜ!