とある帰り道
偶然。
とは分かっていても、耐えきれない状況ってのはあるもんで。
前を歩く男女の嬉しそうな声の掛け合い。と思いきや、後ろからキャッキャと腕を組むカップル。
そう。俺はカップルに挟まれていた。しかも細い塀に挟まれた一本道で。
「やん。こんなとこじゃだめだよぅ。」
「大丈夫だって。」
後ろから、大丈夫じゃねぇ会話が聞こえて来た。こんな時ってのは、振り返ってしまうのが人の性ってんで。俺もバレない程度(後ろで何してるかギリギリ視界に入るくらい)に横を向く。
目の端に入ったのは、残念ながらキスシーンでも×××なシーンでもなく。携帯で●クロスしてた。なんで分かったかって?耳がいいんだよ。
一先ず後ろのカップルは害がねぇっぽい。
カップルが気になるのは、ヘナ男だからとかソコはまぁ、何とも言えねぇけど。なんかさ、俺一人で歩いてたら寂しいじゃん。
「おら、転ぶぞ。」
彼女の腕を掴む肉食系彼氏。
「もう。転ばないから。…でも、ありがと。」
ツンデレ!?今の声のトーンの変わり方何!最初は冷たく感情を込めない声で、「ありがと」はこう、恥ずかしそうに。
「はいカーット!今のはもう少し『転ばないから』を突き放す様に行こう。」
「うん。でも私でいいの?」
「イメージに合うのはキミしかいないんだ!」
目の前で、なんか演技指導してる。カップルじゃねぇのかよ。と拍子抜けした俺は、そいつらを通り過ぎた。
「すいませーん!」
後ろから、演技指導の男が俺に話しかけてきた。シカトここうか迷ったけど、しぶしぶ顔だけ後ろに向けた。
「俺すか?」
「ジャストミート!キミを探してたんだよ!」
おいおい。ジャストミートって、意味違くね?ザッツライトだろ。女の子は、恥ずかしそうにうつ向いていた。ショートのよく似合う中性的な顔をしてる。一方演技男は、ハーフっぽい女性的な顔をしていた。
「もしかして、演技の脇役にピッタリとか言いませんよね。」
「ノンノン。観客になってくれ。」
「俺帰ります。」
「あの、…ちょっと待ちなさいよあんた!」
いきなり、女の子が叫んだから転けそうになった。
「じゃあ始めよう。」
俺は気付いていた。
変人ってこういう奴らのことだな…と。
だけど、引き返す自分がいた。
「はぁ?じゃあ君もさっき声をかけられたのかよ。」
にしては、ハマってたな。
「うん。鷺沼さんって説得力が凄いから、なんかついて来たの。」
彼女は、「加藤さん」って言うらしく、みんな苗字しか言ってないみたいだった。
「てか、そのサギは何処行ったんだ?」
近くにタイミング良く空き地みたいなところがあって、そこについたとたんサギは消えた。
「サギってあだ名はやめたら?かわいそう。」
「へこたれるタイプじゃねぇって。」
「クスっ。確かに。」
と噂をしてたら、サギが重そうな荷物を持って走って来た。
「ソーリー!いてくれて良かった。昨日なんか、警官に代わってたんだよ。はははっ!」
「そこ笑っていいのかよ。」
隣を見ると、加藤さんは笑っていた。なんか、ちょっと…かわいいかも、なんて。
「さっき加藤とやってたのが『ツンデレ彼女vs肉食系男子』だ!」
「あのさ、俺『ツンデレ』ってのがあんまピンと来ねぇし。演技とかも…なぁ。」
「それでいいんだ!素人から見た評価が知りたい!」
ムカッ。素人って言葉好きじゃねぇな。
こうして、よく分からないこだわりの演劇…俺から見たらコント…を2時間見せられた。
バカバカしくて、今の行き詰まった俺には調度良かった。