第95話:赤いウインナー(懐かしいお弁当の味)
カラン……と鳴るドアの鈴。
深夜の雨が止み、湿った空気がふっと入り込む。
「……まだ、やってますか」
現れたのは、スーツ姿の男。少し疲れた表情。ネクタイは緩み、手には安いコンビニの袋がぶら下がっている。
「やってるよ」
無骨な声で迎える板前・マサ。
静かに湯呑みを差し出したのは、和装姿のおかみ・しのぶ。
「……赤いウインナーって、できます?」
しばしの沈黙のあと、マサが返す。
「タコにするか?」
男は、思わず笑った。
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調理描写:マサ、昭和の弁当を再現する
マサは冷蔵庫から、あの赤いウインナーを取り出す。
半分に切って、包丁で脚を八本に切り分ける。そう、タコさんウインナー。
「昔のは、パリッともしねぇ、ふにゃふにゃだったな」
小さな鉄鍋に少しだけ油をひき、じゅう…と焼き始める。
足がくるんと反り返ってきたら、いいタイミング。
最後にほんの少し醤油を垂らすのが、マサ流。
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「はいよ、タコさんウインナー」
皿には、焦げ目のついた赤いウインナーが5匹。
付け合わせは千切りキャベツと卵焼き、そして白ごはん。
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男の名は、川島 昭二
川島はウインナーをひとつ摘んで、口に運んだ。
ふにっとした食感と、油と醤油の香ばしさ。
「……あの頃と、変わらねぇな」
ぽつりとつぶやいた。
「親父がさ。毎朝5時に起きて、弁当作ってくれてたんだよ。
卵焼きは甘すぎて、飯と合わなかったけど……このウインナーだけは、うまかった」
しのぶが、やさしくお茶を注ぎ直す。
「最近、親父が施設に入ってね。会いに行ったら、開口一番、『弁当持ってきたか』ってさ」
川島は、笑った。けれど、その目は少し赤かった。
「この味、忘れないうちに食っとこうと思ってさ」
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赤いウインナー(タコさんVer)レシピ
材料(2人分)
赤いウインナー(魚肉タイプ)……4~6本
サラダ油……少量
醤油……少々
作り方
1. ウインナーは半分に切り、切り口から包丁で8本の足になるように十字に切り込みを入れる。
2. 小鍋またはフライパンに油を少量ひき、切ったウインナーを焼く。
3. 足が反り返ったら、醤油をひと垂らしして香りをつける。
4. 焼き目がついたら完成。
※お好みで、マヨネーズ添えやケチャップもOK。
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マサの一言アドバイス:
「手間なんか、かかっちゃいない。でも、そこに心がこもるんだよ。タコの足一本分な」
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『深夜食堂 しのぶ。』。
懐かしい味は、いつだって心の奥に灯っている。
一皿のタコさんが、記憶をやさしく呼び戻す夜もある。




