第9話「焼きトウモロコシと、とうもろこしご飯」
夜の帳が落ちた頃、「深夜食堂しのぶ」の暖簾がゆらりと揺れる。
カランコロン――。
「いらっしゃい」
カウンターの向こう、無口な板前マサさんが軽くうなずく。
隣では、おかみさんの忍さんが笑顔で迎えてくれた。
「お好きな席へ。今日は、とうもろこしが甘いのよ」
そう言って、忍さんが見せてくれたのは、朝採れのとうもろこし。
その瑞々しさと甘い香りに、思わずゴクリと喉が鳴った。
「焼いてもらえますか?」
「焼きとうもろこし、ですね」
マサさんが、とうもろこしの皮を丁寧に剥く。
炭火にのせられた穂軸が、パチパチと音を立ててはぜた。
醤油を塗ると、一気に香ばしい匂いが広がる。
その香りにつられて、もうひとり常連が入ってきた。
「……その匂い、ヤバいね」
「とうもろこしご飯もあるわよ」
鍋からふわっと立ちのぼる湯気。
白米の中に、たっぷりと粒を外したとうもろこしが混ざっている。
そして、塩とほんの少しのバターが香りを引き立てる。
「いただきます……」
焼きトウモロコシにかぶりつくと、香ばしさと甘みが広がる。
芯まで熱が通っていて、噛むたびにじゅわっと広がる自然の甘さ。
とうもろこしご飯は、口に入れるとふわっとほどけて、夏の香りがした。
「……夏って、いいですね」
誰かがぽつりとつぶやいた。
「ね。短いけど、思い出に残るものよ」
忍さんが、とうもろこしの芯を包んでくれながら、そっと微笑んだ。
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本日のレシピ:
焼きとうもろこし
材料:とうもろこし1本、醤油、みりん(1:1)
作り方:
1. 皮を剥いて軽く水にくぐらせる。
2. 焼き網や魚焼きグリルで中火でじっくり焼く。
3. 香ばしい焼き目がついたら、醤油+みりんを塗りながら焼く。
とうもろこしご飯
材料:米2合、とうもろこし1本、塩小さじ1/2、バター10g(仕上げ用)
作り方:
1. 米をとぎ、水加減を調整。
2. とうもろこしは包丁で実を外し、芯ごと一緒に炊飯器に。
3. 塩を加えて炊飯。
4. 炊き上がったら、芯を取り出し、バターを加えて混ぜる。
ポイント: ・とうもろこしの芯を一緒に炊くと、甘みがグッと引き立ちます。 ・おにぎりにして冷やしても美味しいです。